うらぶれ神殿の司祭剣士 ――転生したら辺境の神殿を復興させます――

勢いイチバンで書き始めたこの話も、気づけば50話になっておりました。 これも読者の皆様がお読みくださるおかげでございます。ありがとうございます。 作者の楽しみ本意で書き綴っておりますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

16 オークキャプテン

『鑑定』  オークキャプテン:鬼系魔物  オークの中級種。中規模の集落の長。下級種よりも膂力、知力、残虐性共に高い。  能力:槌術、統率、威圧、怪力、####、異種交雑  酷く邪な雰囲気を漂わせるオークはオークキャプテンだった。  チーフクラスを超えた存在。その異様なまでの迫力にはスキル『威圧』の影響もあるのだろう。オークキャプテンは低く唸りながら、一歩また一歩と歩みを進める。 「このままではちょいとばかり分が悪かろう。『尊き御霊の湧き出でる権能をもちて彼の者に再生の力を』」  ニボンザ師が呪文を唱えると、青白い光がユリアを包み込んだ。単体完全回復の上級魔法だ。HP、MPが全回復する上に肉体的な疲労を癒し、一時的に自然治癒をも与えるという途方もない魔法だ。 「こりゃ、いつまで臥せっておるか。まだお主の仕事は終わっておらん」  杖先で小突かれたユリアが起き上がり、きょとんとした顔で首を傾げている。 「な、何なの? 力が湧き上がってくるんですけど」  そういう魔法をかけられたんだよ。よかったのかどうかは知らんが。  とにかく敵は実質一体だ。最初から全力で行くしかない。 「ユリア、全力で攻撃だ。カーリナも投擲。ダリオ、ステイ」 「わ、分かったわ。放て、炎熱火球:三点射(スリーラウンドバースト)」  火球が激突し、オークが爆炎に包まれる。俺も手持ちの風魔法を放ち、カーリナの手からも手裏剣が飛んだ。 『グオオオオオオッ』  炎を掻き分けてオークキャプテンが突進してきた。冒険者から奪ったらしい革鎧が焼け焦げ崩れ落ちているだけで、たいしたダメージは入っていないように見える。 「散開」  直前まで俺が立っていた場所に戦槌が唸りをあげて振り下ろされた。巨大なハンマーが地響きをたて、砂礫が飛び散る。  二メートル近いポールの先に一抱えもありそうな鉄の槌頭がついた見るからに凶悪極まりない得物だ。頭の片側は普通のハンマーだが反対側は鋭いピックになっている。まともに食らえば分厚いプレートメイルを着込んでいてもひとたまりもないだろう。 「距離を取って戦え。ダメージを蓄積させるんだ」 「はあああああっ」  ユリアが足止めを狙って泥沼の混合魔法を発動する。膝あたりまで土に埋もれたオークキャプテンだったが、力任せに足を引き抜きやがった。 「泥沼が効かないなんて」  ユリアが顔をゆがめてMP回復薬を口にする。 「おい、なんか妙だぞ」  よく見るとオークキャプテンが体に受けた焼け焦げやかすり傷が小さくなっている。 「気をつけろ、ヤツは自然治癒もちじゃからな」  入り口脇の石の上に腰を下ろしたニボンザ師が言った。  あのパワーと硬さに加えて自然治癒だと? 『鑑定』できなかったスキルは自然治癒だったのか。一撃で沈めるような攻撃が絶対必要になるじゃないか。魔纏斬剣なら――しかし、あのリーチのある戦槌をかいくぐって溜めの必要な技を出せるか? 次に火力があるユリアの魔法攻撃は効果を発揮していないし。  魔纏斬剣に使うMPを二度に分けて一回目で足止め、二回目でトドメなら……ただでさえ困難な攻撃を二度? もし耐えられたらただの戦力の分散だ。  どうする……。 「ラウリ! アレ(・・)しかないわ」 「いや、アレ(・・)はまだヤバくて――」 「やるしかないの!」  ユリアとともに研究してきた魔法があるのだが、制御が難しく暴走の危険性があるのだ。ユリアへの負担も大きい。 「お願い、しばらく時間を稼いで」  ユリアの目を見て決断する。今は迷っている時間がない。 「カーリナは手裏剣で目を、ダリオはヒットアンドアウェイで足の関節を狙え。攪乱と時間稼ぎが目的だ」  指示を下すと、俺もオークキャプテンに向けて突撃する。接近戦がダリオだけでは荷が重い。ダリオとのコンビネーションで敵の攪乱に専念する。互いに挟撃の位置取りを確保しつつの攻撃。以前ネーサンポーク相手にダリオがやった回避優先で有効打を狙わない戦法だ。  大振りの戦槌を躱し、接近してちくりと攻撃を加えては間合いを取る。ダメージはたちまち自然治癒で回復されてしまうが仕方ない。この戦法を最大限に活かすのが、目や関節への集中攻撃だ。カーリナの手裏剣が顔に飛ぶのをオークキャプテンは煩わしそうに振り払う。足を攻めるダリオに対して、俺は腕の関節を目標にする。少しでも攻撃を遅らせ、精度を落とすことができればめっけものだ。  間合いをとり、ユリアを窺う。ユリアの周囲に魔力の光が漂い、いくつもの石礫が浮いていた。その数は次第に増えていく。  よし、成形の段階に入りつつあるな。もう一息だ。 「おっと」  ユリアに気を取られ過ぎたようだ。体を躱した目の前を戦槌がかすめていく。 「カーリナ、ダリオ、あと少しだ。頑張れ」  戦槌を振り切ったオークキャプテンの肘に斬りつけながら叫んだ。  武器の特質ゆえか、カーリナとダリオの存在ゆえか、二刀流のオークチーフほどに技術的な脅威は感じない。ただ、一撃貰えば怪我どころでは済まないだろう。ほぼ確実に戦闘不能だ。一瞬も油断できないことには変わりはない。 「キャッ」  戦槌の一撃を避けたカーリナが足を滑らせた。ヤバい。倒れかかるカーリナに駆け寄り、抱きとめて横ざまに飛びのく。直後に戦槌が地響きとともに叩きつけられる。間一髪だ。 「ゴメン、ラウリ兄」 「気にするな」  俺は即座に攻撃に転じる。本来スカウトの役割は索敵や罠の解除、開錠などの非戦闘任務なのだ。本人は戦力として不十分だと気にしているようだが、現状では陽動役として十二分の活躍をしてくれている。  カーリナを助けている間にダリオはオークキャプテンに肉薄し、その足や脇腹に幾筋もの刀傷を与えていた。小柄ながら機動力を活かしてよく助けてくれている。ヴィクトルさんやニボンザ師の訓練の賜物か、以前に比べて段違いに技のキレがよくなっている。  この仲間たちと何が何でもこいつを倒してみせる。 「ラウリ! いいわ!」 「散開!」  ユリアの叫びに応じてカーリナとダリオに命じる。  ユリアの周囲を百にも及ぼうかという石礫が舞っている。そのすべてが人間の指ほどに成形され、先端は鋭く研ぎ澄まされていた。 「灼熱炎!」  ユリアが岩塊に炎を纏わせる。 「混合魔法、灼岩徹甲魔弾:掃射(マグマブリット・フルオート)!」  赤熱した弾丸が轟音とともに凄まじい勢いで連射された。  薄暗い洞窟を深紅の射線が照らし、そのすべてがオークキャプテンに集中した。 「ブキィイイイッ」  オークキャプテンの右肩から左脇腹にかけて着弾した高熱を帯びた岩の弾丸は、分厚い筋肉を一瞬にしてずたずたに引き裂いた。ずしりと膝をつくオークキャプテン。 「トドメだ!」  オーラを纏わせたデュランダルを振り抜いた。オークキャプテンの頭を高々と刎ね飛ばし、振り向くと頭のない胴体に剣を向けて残心を示す。同時に力を使い果たしたユリアが崩れ落ちた。  気絶していた最後の一匹へのトドメはダリオに任せる。 「ユリア」  心配して駆け寄る俺に、ユリアは疲れ果てた笑顔でサムズアップしてみせた。 『混合魔法、灼岩徹甲魔弾掃射(マグマブリット・フルオート)』  まだ広範囲魔法を会得していないユリアが開発した火と土の混合魔法だ。単体魔法の掃射により威力を確保する目的で考案されたもので、莫大なMPを消費するが広範囲魔法に匹敵する破壊力をもつ。開発には前世での機銃掃射のイメージも一役買っている。  今まで魔力の制御に成功したことがなかった技だが、ここ一番でユリアはやり遂げてくれた。 「よくやった」  ユリアのもとに集まった俺たちを暖かい光が包み込む。ニボンザ師が全体回復魔法を使ってくれたのだ。 「戦いの中でよくぞ技量を磨き上げていった。感心感心」 「あ、ありがとうございます」 「さて、どうやら思わぬ拾いものがあるようじゃぞ」  ニボンザ師は倒れたオークたちの中の一匹を指し示した。跪いて首を垂れたヤツがいるではないか。おお、使い魔にできるようだ。 「我に従え。さもなくば死を」  歩み寄った俺はデュランダルを突きつける。 「(あるじ)ノ御命令ノママニ」  野太い声が応じる。どうやら人語を操ることができるらしい。しかし、トドメを刺さなかったヤツがいたんだな。混戦で気づかなかった。  俺は回復魔法をかけてやる。 「伝説では失った器官(・・・・・)を再生する回復魔法もあるようじゃが、儂にもまだ扱えん……じゃが、そのほうがいい場合もあるのかもしれんな」  ニボンザ師が微妙な笑みを浮かべている。何だろう。  跪いていたオークが立ち上がると、俺に近づき顔を寄せてきた。 「主ッテバ、ス・テ・キ」  ああっ! ダリオが『ナッツクラッカー』を食らわせたあいつか!

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