うらぶれ神殿の司祭剣士 ――転生したら辺境の神殿を復興させます――

33 大広間終焉の扉

 握りしめた拳が震え爪が掌に突き刺さる。  仲間を失った。  俺たち水の神殿奉賛会のメンバーではない。しかし、過去にも任務を共有し、今もともに戦ってきた『仲間』である。  キリウスたちもがっくりと膝をつき、項垂れている。 「行きましょう。パクストンが作ってくれた時間を無駄にはできません」  セベスが顔を上げた。  たしかにその通りだ。もしも橋が崩落していなければ、ゴブリンの大群に追われ続けていたのだろうから。  それにしても、あの爆発は何だったのだろう。おそらくパクストンが意図した行為なのだろうが、どうも魔法によるものというより前世で動画などを見て知った爆弾の爆発に近い印象だった。  誰もが何も言わない。ただ黙々と歩き続ける。ここへ来てから怯えていたパクストン。しかし、カーバンクルのいた台座の間などを経る間に次第に調子を取り戻しつつあったように感じた矢先だった。  以前、バッタクールへの道すがら、軽口を叩いては自分たちが持っていた粗末な糧食ではなく、俺が『収納』から取り出した料理をせしめようとしたときのことが思い出される。 「悪い奴ではなかった」  キリウスたちから少し前に距離を置いて歩いていた俺の横にカーリナが並ぶと、ぽつりと呟いた。  歩き始めて数分すると、また壁の巣穴からゴブリンが現れた。しかし、先ほどの群れに比べれば比較にならない程度の数に過ぎない。ウル、カリマンタン、麦、そして俺が前衛として四方を守りつつユリアの魔法で間もなく片がついた。  そんな散発的な襲撃が何度か続いた。 「なんとか撃退できたな」 「この程度の数なら問題ないわ」  数度目かのゴブリンの襲来を退け、ため息をついているとユリアがドヤ顔で胸を張った。今も彼女の範囲攻撃魔法で敵の大半を殲滅していたのだ。  一息ついて装備を改める。キリウスたちも予備の拳銃に銃弾を装填している。何しろどんな事態が待ち受けているか予断を許さないのだ。 「ユリア、MPを全快しておこう」  MP回復薬を服用しておく。麦にも勧めたが首を横に振って断られた。こいつの能力は底が知れないな。カリマンタンやテレスは物理攻撃型なので、MP自体がほとんど減っていない。カーリナも同様だ。  ケイブギガースと戦って以来の小休止のおかげで、いくらか気力を取り戻すことができた。落ち着いて準備が整えられたのも大きい。 「さあ、出発しよう」  俺たちはまた、どこまで続くか予想もつかない暗がりに向けて歩みを進めた。 「ラウリ兄、広間の幅が少しずつ狭まってきている」  先頭を行くカーリナが言った。その言葉に左右を見回すと、今まで並行だった壁が前方に向かってすぼまりつつあるようだ。  ようやくこの広大な大広間の終わりが近づいているのかもしれない。  やがて前方の闇から巨大な扉が浮かび上がった。高さは十メートルもあろうかという頂点がアーチ状になった石の扉だ。その両脇には二体の銅像が佇んでいる。 「後ろからゴブリンが来るわ」  ユリアが叫んだ。  ここまで来たら、先に進んで扉を背にして戦ったほうが有利だ。今は魔力も銃弾も節約しなければならない。いくらかでも地形を利用して戦えるのならばそれにしくはない。 「扉の所まで走れ」  俺の言葉に全員が走り出した。扉まであとわずかというところで振り返り、臨戦態勢をとる。ところがゴブリンは俺達から一定の距離を置いて襲い掛かってくる様子を見せない。 「どうしたっていうんだ」  ゴブリンは顔を歪めて歯をむき出しにし、俺達への敵意を示している。しかし、その眼はときに宙を泳ぎ、次第に怯えの色を帯び始めた。 『グギャギャッ』  中央にいたひときわ大きなゴブリンが一声叫ぶと、ゴブリンの群れは踵を返して走り去っていった。 「何なの? あいつら」  ユリアが不安げに眉を寄せて言った。 「あたいらの強さがやっと分かってきて怖気づいたんじゃねえのかい」  ウルの能天気な物言いに、思わず苦笑いが浮かぶ。そうあってくれればいいんだが。 「ラウリ兄、危ない!」  カーリナの叫びに反射的にその場から飛びのいた。金属が激しく石の床を叩く音がした。振り返ると鋭い槍の穂先が深く足元の石を穿っていた。  敵? どこにいた?  その槍を突き出した相手に目をやる。なるほど敵性生物の気配を感じ取れなかったわけだ。槍を手にしていたのはまるで門番のように扉の両脇に控えていた銅像のうちの一体だった。  空虚だった銅像の目には、今や燃えるような光が宿っている。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


読者のおすすめ作品

もっと見る

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 嘗て誅戮の限りを尽くした者の異世界冒険譚

    ♡1,500

    〇0

    異世界ファンタジー・連載中・62話・302,168字 鳥びゅーと

    2020年10月27日更新

    『殺戮の執行者』と呼ばれ、ネットやワイドショーを大いに騒がせた、悪人のみを狙って思うがままに殺戮の限りを尽くしていた人物がいた。 誰にも知られることはなかったが、彼は二重人格でそれぞれの得意分野を活かしながら殺人を繰り返していた。 だが、そんな彼はある日、異世界への転生を果たす。それも、それぞれの人格を分離した別々の一つの存在となって。 転生した彼らは近くにあった街に向かうが、そこでひょんなことから街でも有数な人物であるルミナと出会う。 そして、二人はそこから様々な人物と出会い、自分達のことを受け入れてくれた者達と活動を共にしながら、その世界のことを学んでいく。 だが、転生前から用いていた戦闘技能や暗殺技能はあるが、魔力が存在していて魔法がある異世界は、それだけでどうにかなるようなものではなかった。 転生直後は魔法の知識も無いので、異世界で生きて行くには不安な状態だったが、二人は魔法や魔力を用いた戦闘方法について学んで、着実に実力を付けていく。 これは不条理を嫌い、世界さえも嫌っていた二人の異世界冒険譚。 ※一話当たり4000~7000文字ぐらいです(普通にそれを超えることもあります)。 元々は小説家になろうのみで連載していましたが、こちらでも連載することにしました。 それに際して掲載している分の改稿作業を行い、それが済んだ部分から順次掲載していきます。 そのため、改稿作業が最新部分に追い付くまでは更新量は不定になります。 小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 【小説家になろう】 https://ncode.syosetu.com/n3566fk/ 【カクヨム】 https://kakuyomu.jp/works/1177354054934583938

  • シスコン超人高校生が帰るために頑張るお話

    ♡31,200

    〇0

    異世界ファンタジー・連載中・74話・338,626字 イミティ

    2020年10月27日更新

    ある日、何の変哲もない日常から、突然異世界に勇者として召喚されてしまう高校生、夜栄刀哉と、そのクラスメイト。 彼らは召喚した国の王族に魔王を倒して欲しいと頼まれ、それを『自分達の身の安全、人権、尊厳』を保証してもらうことを条件に受け入れ、そうして勇者として力をつけるための訓練が始まる。 だが刀哉は、天才的な才能を持っており、すぐにその圧倒的な実力を周囲へとみせていくことになるが、ある日城が強大な力を持つ魔族に襲われ……。 圧倒的な強さと、異常とも言っていい膨大な知識量。 異世界での新たな出会いに、彼が何よりも大切にしていた、家族との再会。 時には支え、時には支えられる、大事な親友達との、強まる絆。 そして顕になる、夜栄刀哉という人間の特異性。 それらが果たして、刀哉にどのような影響を与え、どのような運命を見出させるのか。 ───これは、夜栄刀哉という人間の終着点までを描く、バトルファンタジーである。 ※既存作のリメイク作品です。