クロスウィル 渇望のディエンド

第十一話、投稿しました。 今回も、皆様に楽しく読んでいただけると幸いです。

第十一話 覚悟

 暗い樹海の中を、止まることなく颯爽と駆ける二つの影があった。  先頭を走る大輝は、立ち止まることなく慣れたように樹海を走る。  決して見失わない様、火ノ国は必死に大輝の後を追いかけた。  木々の隙間から零れる月明りが微かに樹海内を照らしているが、数メートル先は完全な闇。  もし、一度でも見失えば合流は難しいだろう。  何より、先頭を行く大輝が足手まといの自分を待つ訳がない――――そう思い、火ノ国は真剣に走り続ける。  大輝は、一度も後ろを振り返ること無く最速最短の道を通り続け、危険区域へと急ぐ。  闇の中を走り続けた二人は、危険区域の前へと到着した。  火ノ国は汗は掻いてるものの、息はそこまで乱れてはいない。  大輝は、火ノ国の様子を確認すると直ぐに行動を開始する。 「火ノ国、ここから危険区域だ。だが、俺はペースを落とすつもりはない。このままの速度で、水源を探す。途中、戦闘にもなるだろうが警戒を怠るなよ」  鬼気迫る大輝の様子に、火ノ国は思わず息を呑む。  大輝の見せる眼光は学園に居た頃よりも、何倍も鋭く冷たい、まるで獣の様な印象を思わせた。  額を流れる汗が、嫌に冷たく感じ――――火ノ国は、何とか声を絞り出す。 「お、おう」  その返事から、火ノ国の様子は容易に理解できたが――――大輝は、何も言わずに危険区域へと踏み出した。 「一つだけアドバイスだ。死なないことだけ、考えてろ」  冷たく吐き捨てると、大輝は着いてこいと言わんばかりに走り出す。  火ノ国は悔しそうな表情で、大輝の後を再び追う。  危険区域へと足を踏み入れた瞬間、身の毛がよだつような感覚に襲われる。  足が自然と止まりそうになり、大輝との距離が少し空く。  火ノ国は自身が、本能的に怯えてることを気づいた。  気合を入れ直すかのように、自身の両頬を思いっきり引っ叩く。  パチンッと音が鳴り響いたと思うと、足は元通り動き出す。  火ノ国は、遅れた分を取り戻すように足を速め大輝との距離を縮める。 「クソッ、ビビってる場合かよ!」  自分がビビっていたことに苛立ちを覚え、火ノ国は悔しそうに吐き捨てた。  そして、しばらく走り続けていると――――。  大輝が急に立ち止まり、火ノ国へ止まるように合図する。  それに気づいた火ノ国は、大輝の指示に従い静かに止まった。  すると、大輝は地面に耳を付け地面を伝わる音だけに集中する。  傍で見ていた火ノ国は、その研ぎ澄まされていく集中力に息を呑む。 「何か居るな。それも数体・・・・・・足音からして、ウルフか? 数は・・・・・・三匹、いや――――五匹か」  地面を伝わる音から、大輝はウルフの正確な数と居場所を把握する。 「避けて通れねぇのか?」  確認のために火ノ国は聞いてみたが、返ってきたのは予想通りの言葉だった。  大輝は、冷静に事実だけを伝える。 「まぁ、出来ないことは無いが・・・・・・遠回りすることになる」  正面戦闘は分が悪いと考えた火ノ国は、戦わずに進むために大輝を説得する方法を模索した。 「だが、夜行性かもしれない生物を相手に正面から挑むのは危険すぎる。大輝、ここは体力を温存するためにも遠回りしよう」  効率を重視する大輝は、理論さえ通っていれば基本的に否定することは無い。  大輝は思うところがあるのか、考え込むように黙りこんだ。  暫くして大輝は、納得した様子で口を開いた。 「まあ、一理あるな。わざわざ無駄な体力を使う必要も、時間もない。とりあえず、足音を極限まで殺して進むぞ」  大輝はそう言い、耳を地面から離そうとしたとき――――。  火ノ国の返事に紛れて、幾つかの足音が聞こえた気がする。  その瞬間、大輝の背筋を悪寒が走った。 「おう」  無事に説得できたことで、火ノ国は思わず安堵の息を漏らすが――――。  そんな火ノ国を他所に、大輝は慌てたように再び地面へと耳を付け意識を深く集中させる。 「ッ!? ちょっと待て、火ノ国。奴らの動きが――――まさか!?」  大輝は、漸く地面を伝わる足音の数が増えていることに気が付く。  そして、自分たちの置かれた状況を一早く理解した。 「どうしたんだよ! 黒金!?」  何が何だか分からず、火ノ国は慌てたように大輝へ声を掛ける。 「クソッ・・・・・・奴ら、俺を待ってやがった」  大輝は、ウルフ達の執念に思わず愚痴るように言葉を吐き捨てた。  火ノ国は、心配そうに大輝を見るが――――大輝の纏う雰囲気が一瞬でガラリと変わったのを感じる。 「火ノ国。俺は、ここで奴らと殺り合う。お前は隠れていても良いし、逃げても構わねぇ。だが、もし戦うつもりなら――――足手まといは許さねぇ」  大輝が見せる殺意に、火ノ国は身が竦みそうなほどの恐怖を覚え、思わず足がすくむ。  話している間も、大輝は思考フルに働かせ、ウルフ達をどう仕留めるかを思案していく。 「おう。分かってる」  その殺意に満ちた大輝の姿を見て、火ノ国は恐怖を振り払うかのように頭を横へと振るう。  ゆっくりと呼吸を整え、拳を強く握りしめることで、火ノ国は集中力を上げていく。 (数は足音からして八匹・・・・・・いや、十二匹か。非力な人間を一人殺すのに、大層な数用意しやがって。火ノ国なら、自分の身を守ることくらいは出来るだろう。後は――――)  ぶつぶつと独り言を呟きながら、大輝は耳を地面から離す。  大輝の思考は、集中力が増すにつれてどんどん加速していく。  凄まじい集中力と殺意の宿った大輝の瞳を見て、火ノ国の体に緊張が走る。  それを、見透かしたように大輝は火ノ国へ声を掛けた。  「この暗闇で、俺達は相手の動きが正確に分からねぇ。更には相手の数が多い上に待ち伏せにあってる。確かに不利な状況だが、絶体絶命のピンチじゃない。だから、もっと力を抜け」  その言葉のお陰か、火ノ国はスッと体の強張りが取れていくのを感じる。  火ノ国は深く息を吐き、落ち着いた様子で状況を確認し直す。 「俺達は、この暗闇で二メートルほど先しか視認できない。そう考えると、どうしても後手に回っちまうな」  火ノ国が落ち着いたのを確認し、大輝は()()をウルフ達へと向ける。  辺りを見渡しながら、大輝はウルフの居場所を把握していく。 「確かに、現状は圧倒的に俺達が不利だ。だが、少なからず打開策はある。俺の服には昼間に殺したウルフの血液が付着している。俺が飛び出せば、十中八九、あいつらは俺に攻撃してくるだろう。だから、その仲間意識の高さを利用する。火ノ国、お前は俺が奴らの連携が途絶えさせた瞬間に攻撃しろ。それまでは、身を隠してろ」  冷酷の眼差しで大輝は不敵に笑う。  その姿を、火ノ国は息を呑むように見ていた。  「分かった」  火ノ国は、真剣な眼差しを大輝へと向けて返事を返す。  大輝は、火ノ国に戦う意思があることを感じ取ると、安心して走り出した。 「待ってるぞ」  そう言い残し、大輝は闇の中を駆けてウルフ達の元まで走る。  ウルフ達は、大輝が飛び出してきたことに気が付き雄叫びを上げ始めた。  雄叫びを合図に、ウルフ達は大輝を囲う様に素早く走り回る。  次第に大輝を囲む範囲は狭くなっていく。 (昼間と同じ陣形か。だが、あの時は三匹だったからどうにか耐えられたが――――十二匹に攻撃されれば確実に死ぬだろうな。だが、昼間と同じ陣形なら攻撃してくるタイミングは身をもって知っている。覚悟しろよ・・・・・・狩られる側がどちらなのか、お前らに教えてやるよ)  ウルフを見据える大輝の視線は、冷たく鋭い。  大輝の鼻を獣特有の臭いが襲う。 (臭せぇ・・・・・・だが、臭いの動きがある程度分かる。暗闇でこいつらの姿は見えないが、動きが分かれば問題ない。後は、タイミングに合わせるだけだ)  鼻に衝く様な獣臭に大輝は、顔を顰めるが――――鼻を塞ぐことはせず、目を閉じ足音と臭いにだけ意識を集中させる。  地面を蹴る音、臭いの動き、それらをひたすら追いかけ続けた。  そして、大輝を囲むウルフ達が一斉に飛び掛かる瞬間――――大輝は懐からフォークを二本取りだす。 (来るッ!)  飛び掛かったウルフ達の動きを臭いで把握している大輝は、関心すると共に尊敬すら覚えた。  ウルフ達が攻撃する前に、大輝はウルフ達の攻撃を完全に避けられないと悟る。 (凄ぇな・・・・・・完全に動きがシンクロしてやがる。多方向からの完全同時攻撃――――回避は、無理だな) 「だったら――――」  飛び掛かるウルフは次々と大輝の体を爪や牙で切り刻み抉っていく。  それを、昼間と同じように急所だけを外し、大輝は静かに反撃するタイミングを窺っている。  ウルフ達は攻撃の手を緩めることなく、絶やさず攻撃を行う。  大輝は、全身から大量の血が流れ出ているが――――片時も集中力を乱さない。  数分ほど怒涛の連続攻撃が続く中、大輝が耐え続けていると一匹の動きが僅かにズレた。  思わず笑みが零れる。 (見つけた・・・・・・)  不敵に笑みを浮かべながら、大輝は待った。  疲弊したウルフを嗅ぎ分け、そのウルフが飛び掛かるのを待ち続ける。  ウルフは、尚も攻撃の手を緩めようとはせず大輝へと攻撃を仕掛け続けていた。  そして、疲弊した一匹のウルフが完全に集団の動きからズレて飛び出した瞬間――――。  ――――大輝は動いた。  右手にフォークを持ち、弓の様に右腕を引く。  足も、弓を引く時の様に右足を下げみだり半身を前にする半身の構え。  大輝は記憶を頼りに理想の攻撃をイメージする。 (イメージは、剣術の平突きにコークスクリューブローを組み合わせるような感じだ。全身の動きを滞りなく伝えるのがポイント。踏み込みを強く、そして下半身の力を余すことなく上半身に伝え、全身を伝わる力に捻る力を加えつつ、突きを放つ!!)  その思い浮かべたイメージに沿う様、大輝は体を動かした。    刹那――――。  引き絞られた弓が解き放たれたかの様に、大輝の肉体は爆発的な加速を見せたかと思うと――――。 「ぐぎぇ・・・・・・」  断末魔を上げる間もなく、大輝の一撃はウルフAの眼球を容易く貫き脳までをも穿つ。  それを見たウルフ達は、攻撃の手を止めてしまう。  完全に生命活動を停止したウルフは、もはや微動だにしない。  だが、それと同時にパキンッ――――という、金属音が鳴る。  フォークは、大輝の放った一撃に耐え切れず、根元から折れていた。  大輝は折れたことを悟ると、フォークをウルフAから引き抜くのを諦める。  新しいフォークを取り出すと、その死体を近くのウルフBへと投げつけ走りこむ。  投げられた仲間の死体に反応できず、ぶつかった衝撃でウルフBは倒れこんだ。  その隙を逃すことなく、ウルフBへ乗しかかるとフォークを両目に突き刺す。  痛みに叫びを挙げるウルフBを助けようと、中mのウルフ達が動こうとした瞬間――――。  バキッ!  ――――と、まるで木でも折れたような音が鳴り響く。  すると、大輝の近くにウルフの死体が転がってくる。  それを見て、ウルフ達は一瞬だが怯んでしまう。  大輝はその隙に、ウルフBの眼球を滅多刺しにしていく。  何度も、何度も、返り血を浴びながらも刺し続け、ウルフBはピタリと動かなくなった。  死んだことを確認し、大輝は立ち上がる。 「オラァァ!!」  火ノ国の声が聞こえたかと思うと――――。  ゴキッ!  ――――という鈍い音と共に、ウルフの死体が吹っ飛んでくる。  すると、闇の中から火ノ国が姿を現す。 「出来たのか? 生命を奪う、覚悟が・・・・・・」  大輝は、試すように問いかけるが――――。  纏う雰囲気からも、火ノ国が決心していることは十分に感じ取れていた。  だが、大輝は敢えて言葉にさせる。  殺す覚悟だけじゃ、人はいつか壊れてしまう。  だから大輝は、火ノ国自身の想いが知りたかった。   「おう、お陰様でな。俺は、生きるために彼らを殺す・・・・・・でも、殺した後は弔ってもいいか?」  その答えに、思わず笑みが零れる。  大輝は、火ノ国らしいその答えを心底気に入った。 「ふっ・・・・・・好きにしたらいいさ」  笑みを浮かべながら、火ノ国へ言葉を返す。  火ノ国は満足そうで、どこか悲しそうな表情を見せた。 「ああ、そうするわ」  大輝と火ノ国は、互いにそれ以上の事は話さず、目の前のウルフ達に視線を戻す。 「残り八匹だ。やれるか?」 「ああ、任せてくれ」  互いにウルフ達から目を逸らさす事無く言葉を交わし、微かに笑みを浮かべる。 「頼もしい奴」 「黒金もな」  最後にそれだけ言うと、互いにウルフ達へと走りこんでいく。  ウルフ達は陣形を整え、大輝と火ノ国を囲むようにと跳び回る。 「チッ、暗闇のせいで見えねぇってのに・・・・・・」  火ノ国は、吐き捨てるように呟くと眼を閉じた。  自身の周りの微かな気配にだけ意識を集中する。  包囲網は次第に縮まっていき、連続攻撃が始まろうとしたとき――――。  バキッ!!  火ノ国が、自身の間合いに入ったウルフを蹴り上げた。  ウルフの体は、くの字にへし折れ吹き飛ばされる。 (一匹でも途中で居なくなれば――――陣形には穴が生まれ、休む間も無い連続攻撃に少しばかりのインターバルが生まれる。そうすると、反撃するだけの余裕が出来るんだよ)  陣形の崩れた隙を見逃さず、大輝は飛び掛かってきたウルフの攻撃を避け腹部へと膝蹴りを入れた。  堪らずウルフは息を吐き出し、体を地面に打ち付ける。  更に襲い来るウルフの眼球へフォークを突き立てた。  ウルフは、飛び掛かってきた勢いで自分からフォークへと刺さってしまい、叫びを上げる。  その光景を見て、うるさいと言わんばかりに突き刺さったフォークを押し込んだ。  最後まで悲痛な叫びを上げながら、ウルフは生命活動を停止した。 「・・・・・・悪いな」  大輝はそう吐き捨てると、膝蹴りを受け弱っているウルフへと近づく。  ウルフは必死に反撃するが――――大輝は、ウルフの動きを完全に把握しているように難なく避ける。  そして、痺れを切らしたウルフは大輝へと全力で飛び掛かった。  喉元を喰らいちぎろうと、大きく口を開くが――――。  大輝は、それを簡単に避けると、慣れたようにフォークを眼球へと突き刺した。  悲鳴を上げる暇も与えず、フォークを奥へと押し込み生命活動を停止させる。  糸が切れたように動かなくなるウルフを、大輝は冷たく見下ろした。   「黒金、そっちは後何体だ?」  未だ戦ってるであろう火ノ国から、声が掛かる。  大輝は目の前で、唸り声を発しながら自分を睨みつける二匹に視線を向けた。 「後、二匹だ。直ぐに終わる」 「こっちも、後二匹だ。さっさと・・・・・・終わらせようぜ」  その悲痛そうな声に、大輝は一瞬だが表情を曇らせる。 「ああ・・・・・・そうだな」  大輝は、脳裏を過ぎった考えを振り払うかのように呟いた。 (敵は、殺す。それだけだ・・・・・・)  そんな思考を切り捨て、ウルフへ向かって歩みを進める。  ウルフ達は、唸り声をあげ大輝へと一斉に飛び掛かった。 「死ね」  大輝は、素早くフォークを二本取り出すと―――二匹の眼球へ的確に突き刺す。  ウルフ達は、痛みのあまり堪らず叫びを上げる。  大輝はそれを鬱陶しいと言わんばかりに、フォークを深々と押し込んでいきウルフの息の根を止めた。 「黙って死んでろ」  その声は、自分でも嫌になるほど冷たく低い。  気が抜けたせいか途端に凄まじい眩暈が大輝を襲う。 (チッ・・・・・・昨日の今日で、血を流し過ぎだな)  大輝は仕方ないと言わんばかりに、倒れるウルフ達へ視線を向けた。  流し過ぎた血を補うには、何かを食べる必要がある。  それは大輝も理解しているが、あの時の痛みが脳裏を過ぎり食べるのを戸惑わせた。  襲い来る眩暈に耐えながら、大輝は目の前のウルフ()を眺めながら考える。 (次、食べたら死ぬかもしれねぇんだよな。だが――――食わねぇと、圧倒的に血が足りない。そうなると、遅かれ早かれ俺は死ぬ。だったら――――)  大輝は、意を決したようにウルフへと近づく。 「黒金、こっちも終わったぞ。――――って、何してんだよ!?」  火ノ国は、大輝がウルフを引きずっているのを見て、驚いたような声を出す。 「何って・・・・・・決まってんだろうが、食うんだよ」 「なっ、食うって!? お前、確か――――」 「ああ、死にかけたな」 「だったら、何で食べようとしてんだよ!?」 「食わなくても、遅かれ早かれ死ぬからだ。この出血量だ・・・・・・放置しておけば血が足りなくなるのは、一目瞭然。俺が生き残るには、死を覚悟してでも食うしかないんだ」 「黒金、すまねぇ。俺が、もっと早くに――――」 「何言ってんだ。お前が共に戦ってくれたから、この程度の傷で生き残れてるんだ」 「黒金・・・・・・」 「一つ頼みがあるんだが。俺が肩を叩くまでは、耳を塞いで俺の方を見ないようにしてくれ」 「・・・・・・分かった」  火ノ国はそう言うと、大輝に背を向けて耳を塞いだ。  大輝は、それを確認すると適当な木々を集めてライターで火を点ける。  ウルフの毛をむしり、カッターを使ってどうにか皮を剥いでいく。  下処理をどうにか終わらせ、大輝はウルフを焼き始める。  暫くして、火が通ったのを確認し大輝はそれを口元へと運ぶ。  大輝は焼けた肉を見つめて、生唾を飲んだ。 「・・・・・・いただきます」  手を合わせた後、大輝は勢いよく肉を喰らい始める。  痛みがやって来る前に、全ての肉を口へと放り込み必死に飲み込んでいく。  すると、全てが胃に収まったかと思うと――――。  内側から焼けるような痛みが、大輝の全身を襲う。 「ッァァァァァァァァ!!」  その絶え間ない痛みから、大輝は堪らず地面をのたうちまわった。  声にもならない叫びを上げ、身体中の血管が浮き上がり、肉体の形が異様に変化していく。  口からは大量の血を吐き出し、今にも意識が吹き飛びそうな激痛を紛らわせるために地面を力一杯に叩き続ける。 「死んで・・・・・・たまるか・・・・・・」  大輝は亀のように身体を丸めると、必死に激痛を耐えようと意識を強く持つ。  それから一時間、大輝はひたすら激痛に耐え続ける。  痛みが治まる頃には、大輝の意識はしっかりと覚醒していた。  大輝は自身が生きていることを確認すると、火ノ国の肩を叩く。 「大丈夫だったのか?」  心配そうな表情で、大輝を見る火ノ国。  それに気づいた大輝は、いつもの調子で言葉を返す。 「ああ。長い時間、待たせて悪かったな。さっさと、水源を見つけて帰るか」  その様子に、火ノ国は安堵の表情を見せるが――――火ノ国の不安は消えることはなかった。 「そ、そうだな・・・・・・あんま、無理すんなよ」 「大丈夫だ。それに、安心しろ。水源なら、直ぐに見つけられそうな気がするんだ」  見つけられる気がする――――そう口にする大輝の表情は、どこか余裕に満ちている。  実際、大輝は先程から水源のありそうな気がする方向へと向かっていた。  だが、死の食事を乗り越えた後から、その予感は確信にも近いものへと変わり始めている。  それを、火ノ国は不思議そうに尋ねた。 「予感ってやつか?」  大輝は可笑しそうに笑うと、それを肯定しゆっくりと歩みだす。 「ああ、ただの予感だ。だが、俺には確信がある。水源を見つけられるって、確信が――――行くぞ」 「お、おう。分かった」  迷いなく歩みだす大輝に、火ノ国は戸惑いながらも安心した思いで後をついていく。  しばらく歩み続けると、二人は初めて樹海から開けた場所へと抜けた。  そこには、巨大な湖があり、周囲の樹々には美味しそうな木の実などが生っている。  一際目を引くのが、湖の中心に存在する神々しい大樹だった。  その大樹は神秘的な雰囲気を纏っており、思わず二人は目を奪われる。  どれくらいの時が経っただろうか――――。  二人はこの時、互いに世界が止まったように感じていた。  一瞬が永遠であるような、そんな錯覚を覚える。  漸く我に返った時には、大輝と火ノ国は長い年月を過ごしたかのような感覚に襲われた。 「火ノ国、俺達が来てからどれくらい時間が経ったか分かるか?」 「・・・・・・数分だ」  火ノ国が大輝へと、自身の腕時計を見せる。  その時刻が示す事実に、二人は驚愕した。  だが、二人は時間が経っていないことに安堵の息を漏らす。  それほどまでに、不思議な感覚で未知なる体験だった。 「黒金、ここは生物とか出んのかな?」  火ノ国が周囲を見渡し、大輝に尋ねると――――。  大輝は、考えることなく言葉を返す。 「いや、ここには出なさそうだ。なんて言うか、樹海とは違った場所な気がするんだ」  そう、大輝は何故だかこの場所に安心感を覚えていた。  まるで、優しい陽の光に包まれているような感覚に、大輝は心が安らぐのを感じる。 「そうか。黒金がそう言うなら、きっとそうなんだな」  火ノ国は、あっけらかんとした様子で簡単に納得した。   大輝は、そんな火ノ国に思わず狼狽える。 「おい、幾ら何でも信用しすぎじゃないか? あくまで、予感だぞ?」  どこに信じる要素があるのかと――――問いただすように火ノ国へと詰め寄った。 「そうかもな。でも、黒金の言う事ってさ――――なんでか知らねぇけど、信じて見たくなるんだよ」  そう言い、楽しそうに笑う火ノ国の姿に大輝は肩の力が抜ける。 「なんだそれ」  思わず零れた言葉は、そんな他愛もないもの。  でも、大輝はそんな他愛もない会話が心地良いと感じる。 「なんでだろうな? 俺にもよく分かんねぇ」  分からんと答え――――それでも楽しそうに笑う火ノ国の姿に、大輝も()()()()()何も考える事無く自然と笑い始めた。  この時の、大輝の表情は子供の様に幼く無邪気なもので満ち溢れていた――――。

読んでいただきありがとうございます。 次回も楽しみにして頂くことが出来れば、作者として嬉しい限りです。

この作品をシェア

Twitterでシェア Facebookでシェア このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。