クロスウィル/渇望のディエンド

第十四話、投稿しました。 皆様に楽しく読んでいただけると、作者として嬉しい限りです。

第十四話 危険な二人

 総勢五百人をも超える集団が、樹海を進む姿はさながら軍隊の如く壮大だった。  学園で行われる団体行動は、全校生徒を対象としたものは朝礼や集会、または避難訓練が主となっていた。  その団体行動を真面目に行う生徒の数は、良く言っても稀な存在である。  つまり、現状を真剣に考えている者達は希少価値だということだ。  だからこそ、大輝は目の前で楽しそうに笑い合い話し合う彼らを、冷めた目で見つめている。  現状を理解せず楽しそうにしている彼らの姿が、大輝には遠足に行く子供の様に見えて仕方がない。  彼らを眺めながら、大輝は独り口の端を吊り上げ不敵に笑う。  まるで、蜘蛛の巣に掛かった蝶を見つめるように――――。 (・・・・・・俺は白夢の作戦に協力する。だが、その過程であいつらが()()に死んで行くのは仕方がないよな。別に事故死を装うつもりはないが、このままなら確実に死者が出る)  冷たい笑みで彼らの様子を眺めながら、大輝は安全区域を進んでいく。  その頃、大輝とは真逆の位置にて火ノ国は護衛対象である生徒の集団を遠くから見ていた。  楽しそうに談笑している彼らを見ていると、火ノ国は不安しか湧いてこない。  幾ら大輝の勘が冴えていようが、生物と絶対に出くわさないなんてことは不可能だ。  火ノ国は、生物と遭遇したときの生徒達が慌てふためく光景が容易に想像できてしまう。  そして、死者が出れば責任を擦り付けられるのは大輝だという事も予測できる。 (そんな事には、絶対にさせやしない。あいつの居場所は、俺が守る)  その決意を胸に、火ノ国は安全区域を進む。  学園を出発して、二時間が経過した頃――――。  生徒達による集団は、危険区域の前にまで辿り着いた。 『それでは、ここで一度だけ休憩を取ります。足を休めたら、三十分後には再び進行を開始します。ここから先には、この世界の生物などが確認されており非常に危険です。ですので、今は少しでも足を休めることに専念してください』  拡声器から聞こえる白夢の声を合図に、生徒達はその場に座り込んだ。  現在、生徒達は列を崩さぬよう休憩を取っている。  飲み水などは無く、生徒達は目に見えて疲労していた。  ある者は、近くの木にもたれかかり。  ある者は、疲れたと愚痴を零す。  そんな姿を大輝が見たなら、無様だな――――と鼻で笑って小馬鹿にしていたであろう。  だが、大輝はそんなことを知る由も無かった。  数分前の出来事だった――――。  集団が休憩を取るのを確認した大輝は、星来にサインを出し単独で危険区域へと向かう。  そのサインを受け取った星来が、すかさず火ノ国へとサインを飛ばす。  火ノ国は、サインを確認すると一目散に危険区域へと走り出した。  星来と火ノ国の二人の間には幾つかの共通サインがあり、その一つが――――。 『大輝君が、一人で危険区域に向かったよ』  ――――というような、大輝の単独行動を伝えるものである。  火ノ国は危険区域に入ったあと、真剣な表情で大輝の後を追い全力で駆けた。  その結果、現在大輝と火ノ国は肩を並べ合うように並走している。 「あの距離で、よく追いつけたな」 「おう、全力で走ってきたからな」  大輝は感心するように告げると、火ノ国は自慢げに言葉を返す。  笑いながら返事をする火ノ国に、大輝は呆れたように笑う。 「フッ、護衛前に疲れるぞ」 「どうってことねぇよ。それよりも、進行ルートの確認をするつもりなんだろ?」  火ノ国は余裕と言わんばかりに大輝へとまだまだ元気だとアピールする。  大輝はそれを一瞥すると、いつもの調子で淡々と話し始めた。 「まあな。全てが勘だよりじゃ、何れ限界が来る。少なからず、今日の樹海の状態などの情報は集めておいた方が良い。それに、危険区域(ここ)は集中力を上げるには丁度良い緊張感だからな。生温い連中と居るよりは、実に有効的だ」 「それもそうだな」  大輝の言葉を肯定するように、火ノ国は呟く。  その時見せた、火ノ国の冷めたような眼から大輝は何かあったのかと思い問いかける。 「いやに、辛辣だな。あれから、連中と何かあったのか?」 「何もねぇよ。ただ、移動中のあいつらを見ているとな。守るほどの価値があるのかって・・・・・・思えてきちまって」  悩まし気に話す火ノ国に、大輝は頷くこともしなければ諭すような言葉を言うつもりも無かった。  大輝にとって、彼らを守る必要性も無ければ、守ってやる責任も無い。  それでも、大輝が護衛を引き受けたのは単に、白夢に頼まれたからである。  もし白夢が、早い段階で生徒を見捨てていれば、大輝は迷わず生徒達を切り捨てていったであろう。  だからこそ、大輝は火ノ国の言葉を肯定することも無ければ否定しようとも思わない。 「白夢からの頼みだ。俺達は、あいつらの為に守ってる訳じゃない――――白夢の願いの為に守ってる。理由なんて、それだけでいいだろ」 「ああ、分かった」  それから、二人は黙々と樹海内を駆けまわり続けた。  だが、研ぎ澄まされた大輝の予感は、生物との遭遇を難なく避けさせる。 「黒金、今日もバリバリ冴えてんな」 「ああ」  二人は他愛も無い会話を交わしながら、護衛へと戻るため安全区域へと向かう。  樹海内を颯爽と駆け抜け、ものの数十分で大輝と火ノ国は指定の配置へと戻っていた。  それに気づいた白夢と星来は、堪らず安堵の息を漏らす。 『それでは、休憩を終了します。では、これより危険区域への進行を開始します「。くれぐれも、団体行動を乱さず前の人に遅れないよう歩いてください。それでは、進行開始』  白夢の合図に合わせ、生徒達の集団は危険区域へと足を踏み入れた。  大輝は、星来に向かってグーのサインを出す。  そのサインに星来は首を縦に振り、白夢へと進路を伝える。  それに従い集団、ゆっくりとは北へと向かい進む。  先程よりも進行速度が落ちており、生徒達の顔には一様に不安が芽生えていた。  雰囲気の違いを感じ取ったのか、怯えるように進む彼らの歩みは非常に遅い。  その光景を遠目で眺める大輝は、もはや呆れを通り越して笑う。 「無様な奴ら」  大輝は吐き捨てるように呟くと、周囲に意識を傾けた。 (嫌な予感は、特にしないか)  近くに生物の気配や臭いがしないため、大輝は暫く安全だと思い星来へともう一度グーのサインを出す。  星来は小さく頷くと、素早く白夢へとサインを伝える。  そうして、生徒達は生物に出会わないまま――――二時間が経過した。  安全区域の休憩後、一切休憩を取らずに歩き続けた結果。  生徒達は、湖までの距離を三分の一ほど進んでいた。  白夢は、生徒達の様子をこまめに確認しつつ進行を継続させる。  生徒達の表情には疲れが見え始めているが、生徒達は一刻も早くこの樹海から抜けたい一心で歩き続けていた。  その裏で、大輝と火ノ国は作戦を変更し護衛対象を中心とした半径三十メートル以内の敵を排除しようと行動を始める。  だが、大輝がウルフであろう臭いのする方へ向かうと、彼らは一目散に逃げだすのであった。  大輝は、その行動を不思議に思いつつも黙々と樹海内を駆ける。  一方、火ノ国の方でも似たような状況が起こっていた。  ウルフを見つけて走り出せば、気づいたウルフは脱兎の如く逃げていく。  そんな状況を何度も繰り返せば、自ずと答えは見えてくる。  この時、二人は同じ答えに辿り着いた。 ((もしかして、俺・・・・・・怯えられてる?))  二人は、まさか――――と思い、自嘲気味に笑う。  そして、二人は別々の位置にもかかわらず同時にウルフを見つけ、その瞬間――――。  目にも留まらぬ速度で走り出し、ウルフへと近寄っていく。  すると、ウルフは怯えたようにその場を全力で離脱しようと走り出す。  それを見て二人は、次第に足を止める。  二人は何とも言えない複雑な表情を浮かべ、黙って踵を返した。  学園を後にして、六時間が経った頃。  生徒達は誰一人駆けることなく、無事に湖へと辿り着いた。  淀みのない広大で美しい湖と、その中心に存在する大樹が魅せる神秘的な光景。  生徒達は、皆一様に目を奪われ静寂が世界を包み込む。  星来や白夢も同様、その光景に目を奪われ見惚れていた。  そうして、総勢五百名弱の引っ越しは完了する。  皆が我に返った後――――。  生徒達は、生徒会と教職員指導の下でテントや簡易トイレの設置を行い始めた。  火ノ国や星来も、白夢の手伝いとして作業に参加している。  生徒達は、六時間の移動を終えた後にもかかわらず楽しそうに作業をこなしていた。  このまま順調に作業が進むと思いきや、ある男子生徒が周囲に響くほどの怒号を上げる。 「てめぇも、少しは手伝ったらどうなんだよ! ああ?」  声のした方へ、自然と皆の注目が集まっていく。  火ノ国や星来も、何事かと思いそちらへ目を向けると――――。  体格の良い男子生徒に胸倉を掴まれながらも、男を冷たく見据える大輝の姿があった。  二人は直ぐに助けに向かおうとするが、大輝が右手でグーを作り自身の右肩を左手で触ったのが見える。 「夕凪・・・・・・」 「待機だって」  二人は足を止め、事の顛末を見守ることに決めた。  大輝は遠目から、星来と火ノ国にサインが伝わったことを確認すると目の前の男子生徒に視線を移す。  男子生徒は、大輝の態度が気に入らないのか胸倉を更に強く締め上げる。  身長差のせいもあり、大輝の体は簡単に中へ浮く。 「おい、何とか言ったらどうだ! それとも、ビビって声も出ねぇか?」  そんな声にも動じず、大輝は男を黙って見据え続ける。  大輝の態度に、怒りが頂点に達した男子生徒は胸倉を掴んだまま、大輝を高く持ち上げた。 「何だ、その眼は? どうやら、自分の今の状況が分かってねぇようだな。今のお前は、俺に自由を奪われているんだ。お前をどうするかは、俺次第なんだよ!! 死にたくなかったら、今すぐその舐め腐った顔を地面に俺擦りつけながら俺達全員に土下座しやがれ! この、クソちびが!」  チビと言われた瞬間、大輝は僅かだが表情を歪ませる。  それに気づいた男は、身長が大輝のコンプレックスだと思い更に言葉を続けた。 「あ? 何だ、お前チビって言われて悔しいのかよ!? 俺の様に身長が百八十超えの男が、さぞ羨ましいだろ! お前はたかが百六十ちょいの豆粒だもんな。悪かった、直ぐに下ろしてやるからよぉぉ! アッハッハッハッハッハッハ!!」  顔を俯かせる大輝に勝ち誇ったように高笑いを上げる男は、次の瞬間――――。 「グボギャッッッ!?」  叫びとも言えない、奇声を上げて宙を舞っていた。  宙を舞い落ちた衝撃と共に、男は自身が横たわっていることに気が付く。  口からは血が零れ、腕は力なくダラりと垂れている。  それを認識した男は、遅れてやってきた痛みに泣き叫ぶ。 「ッガァァァァ!? ッァァァァ! ウギャァァァァァァァァ」  汚れを落とすように服を叩き、大輝は冷めたように男を一瞥すると興味を失くしたようにその場を去った。  大輝が去った後、遅れてやってきた数名の教師と生徒会に周りの者は事情聴取されこう答える。 『彼が、黒金君に手伝うように促したら突然黒金君がキレて、彼をこのような状態にしたと――――』  それを傍目で見ていた火ノ国と星来は、胸糞悪いと言わんばかりにその場を去った。  後を追うように、大輝の向かったであろう場所へと足を運んだ。  人気が無くその場所は一面が花で覆われており、赤く暮れた夕日に花々が照らされている。  その花々の中心で、大輝は寝転がり空を見上げていた。  大輝を見つけると、星来は笑顔で話しかけに向かう。 「大輝君、お疲れ様! さっきは、災難だったね!」  いつも通り元気な星来へ、大輝もいつも通り言葉を返す。 「おう、お疲れ。別に、あれくらい可愛いもんだ」 「そうなの? だったら、大輝君が災難って思うの出来事ってどんなこと?」  星来はふと疑問に思い、率直に大輝へと尋ねた。  聞かれるとは思わなかったのか、大輝は何て答えようかと少しばかり悩んだ。 「そうだな・・・・・・例えば、好きな女が嫌いな奴と仲が良いからって人を使って闇討ちを仕掛けられるとか」  大輝の告げた、例えばなしに星来は思わずツッコんでしまう。 「凄くピンポイントだね!? そんなこと、滅多に起こらないと思うよ!?」 「そうかもな。もし体験出来たら、激レアかもな。やってみるか?」  笑いながら星来に、シレッと提案する大輝に星来は血相変えて首を横に振る。 「普通にやらないから!?」 「普通が嫌とかハードな奴・・・・・・」  大輝は星来の発言に引いたように、少し星来との距離を開けた。 「そういう意味じゃないから!! あからさまに、距離を空けるな!!」  星来は、頬を膨らませ大輝をムスッ―と睨みつけるが、大輝は全く気にも留めない。  その態度に、再び星来が爆発しそうになるが、見かねた火ノ国が二人の間に割って入る。 「まあまあ、夕凪もその辺にしておけって」  拗ねたような表情で頷き、大輝の傍でいそいそと横になり始めた。  大輝は、それを冷めた眼で見ながら星来が横になるのを止める。 「おい。何、さらっと寝ようとしてやがる」 「えっ? だって、大輝君ここで寝るんだよね?」  どうしたの? とでも言いそうな星来の表情に、大輝は僅かながらの苛立ちを覚えた。 「ああ」 「じゃあ、いいでしょ?」  大輝は星来の謎理論に、頭を悩ませる。  どれだけ考えようが理解できず、大輝は深く溜息をつく。 「待て。理由を明確に話せ」 「大輝君と一緒に寝たいの!」  星来の発言は第三者から聞けば完全に誤解を生みそうなものだった。  大輝は、堪らず火ノ国へと視線で助けてくれと合図を送る。  仕方ないとばかりに、火ノ国は口を開く。 「黒金、俺もここで寝ていいか?」 「ああ」 「ちょっ!? 何で火ノ国君が良くて、私はダメなの!?」  あまりの衝撃に星来は、納得いかないと不貞腐れる。  だが、大輝はそんな星来を気にした様子も見せず当然の如く言葉を返した。 「女なんだから、気安く男の俺達と寝ようとするな。折角なんだし、白夢と寝たらいいだろ」 「うっ、何か複雑な気分」  頬を紅く染めながらも、ウーッと唸るような声を出す星来を見て、大輝は勝利を確信する。  すると、星来の後ろから白銀の髪を揺らす天才少女が大輝に向かって微笑んだ。  この瞬間、大輝は全てを悟る――――自分は、最初から負けていたのだと。 「では、私も一緒に寝れば問題ないですよね?」 「いや、待て――――」 「それとも、お二人は・・・・・・私たちに何かしらの情事でも働くつもりなのでしょうか? もしも、そんな気持ちが一切無いのでしたら、断る理由も無いでしょうし。私も四人で寝る事には異論はありませんよ。何せ、お二人の事を信じていますから・・・・・・大輝、貴方はどう思いますか?」  微笑みながらも、笑っていない白夢に大輝は諦めたように頷いた。  火ノ国は、その光景を苦笑しながら黙って見守っている。 「はい、一緒に寝ても大丈夫です」  白夢は、大輝の言葉に満足した様子で微笑むと星来とハイタッチを交わす。 「やったー! 空ちゃん、流石!」 「ふふっ、ありがとうございます」  二人の楽しそうな表情を見て、大輝は自然と優しい笑みを零した。

第十四話を読んでいただきありがとうございます。 これからも、クロスウィル渇望のディエンドをよろしくお願いします。

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