ゆうほれ~勇者よ、惚れてしまうとは何事だ

第38話 好きな子に呼んでもらいました

 半ばヤケで朝のトレーニングを終え、朝食を済ませた俺達。  その後は、予定どおりに『勇者堂ギルド』を立ち上げる準備を行うため、各自分担して動くこととした。  まず、俺とパレンザは王都にある冒険者ギルドに赴き、ギルドマスターのヴォルドとルーシーさんと打ち合わせしながら、「瞬間移動(テレポーテーション)洞窟」の改造を行う事とした。  レノンとソフィとヒヨリは、以前この山小屋を建ててくれたドワーフ達に増設工事の交渉の為、彼らが住む村へ足を運ぶ事とした。  辿り着くまで、歩いて半日以上かかるため、現地で宿泊して次の日に戻る予定だ。  その間、マルリナとキーラはこの家で留守番してもらう事とした。  それには俺なりの意図があり、ラミさんの護衛目的で二人には頼んでいる。  勇者パーティの中で、マルとキーラが最もラミさんと仲が良く打ち解けており、お互いを愛称で呼び合おう程なので一番適任と考えての判断だ。  ちなみに、サイウスはまだ戻ってこない。  まぁ、猫は気まぐれだから、その内に戻ってくるしょ。  準備を整えた俺達に、ラミさんが玄関先で見送ってくれていた。 「じゃ、ラミさん行ってくるね。俺と先生は夕方までには戻るから」 「うむ。リョウガ、気をつけてな」 「うん。ありがとう、じゃ……」  俺はパレンザと玄関から出て歩き出した。  あれ? 待てよ……いま、確か……。  俺は猛ダッシュで家に戻った。  バン! と、勢いをつけて扉を開ける。 「ラミさん!」 「何だ、もう帰ってきたのか? 随分と早いな、リョウガ」 「あああああ……」 「なんなのだ? リョウガ、様子が可笑しいぞ?」  俺は身体を小刻みに震わせながら、その場で跪いた。 「リョウガ! 大丈夫か!?」 「ラミさんが……」 「ん? 我が」 「ラミさんが、俺を名前で呼んでくれてるぅぅぅ!!!」 「あ、ああ。昨日の夜から、そう呼んでみようと考えたのだ……迷惑だったか?」 「うわぁぁぁ~ん、嬉しいよぉ~っ!」  俺は恥も外聞もかなぐり捨て感涙し、その場で号泣をした。 「な、泣く奴があるかぁ!? いちいち、そんなことでぇ!?」 「だってぇ、ラミさんがぁ、俺を名前でぇぇ呼んでくれてぇぇ!」 「だから、泣くな! 勇者だろ!? 早く、行けぇ!」 「う、うん……ラミさん、俺、行くわ……行ってくるから……」 「ああ、気をつけるのだぞ!」 「うん……はぁい」  俺はやっとこ立ち上がり、鼻をぐすぐす鳴らしながら、とぼとぼとした足取りで玄関を後にした。 「……ふう。まったく、本当に可笑しな勇者だ」  ラミさんは、初めておつかいに我が子を送り出す母親のような眼差しで、俺の背中を見送ってくれているとは、この時の俺には気づく余裕がなかった。 「先生……ごめん。待った?」  俺は目と鼻を真っ赤にして、待ってくれているパレンザの所へ歩いた。 「いえ。良いものを拝見させて頂きました。大変、興味深いものでした、ハイ」  いやだなぁ、先生。  遠見の魔法で、俺の痴態を覗いていたのかよ~。  もう勘弁してくれよぉ。大体、俺の号泣のどこが興味深いんだよ。  とある政治家の号泣会見じゃねぇっての。 「貴方達二人とも、本当に微笑ましいですねぇ」  パレンザは目を細めながら、にっこりと微笑んだ。 「そ、そうかな?」  俺は急に恥ずかしくなり、顔中が赤くなるほど照れてしまった。 「ええ。不本意ながら、思わず応援したくなりますよ」  え? 不本意って何?  いま、サクって本音を漏らしたよね、こいつ。  普段は、ラミさんと親しげに話していたかと思うと、監視目的で水晶玉を作り出すし……。  一体、パレンザはどっち派なんだ?  ある意味、レノンやソフィ、ヒヨリなんかより一番タチが悪いよ、このマッド先生。  俺が不信の眼差しで黙って観ていると、パレンザは頭を軽く下げてきた。 「いやぁ、すみません。お二人の恋路を邪魔するつもりは毛頭ないので、どうかご安心ください。リーダーの幸せは応援していますよ」  へ~えと、俺は冷めた眼差しで疑念を抱いたが、同時にある重要なことを思い出した。 「あっ、そうだ先生! 先生のこと信じるから、ラミさんとの通信用に魔法で何か作ってよ!」 「ええ~っ、またソフィさんに怒られますよ……リーダーって、本当に懲りない勇者ですよねぇ。このハレンチ勇者、略して『はれゆう』ですねぇ、ハイ」  ハレンチ勇者って何!? はれゆうってなんなのさ! 妙なネーミングで省略しないでくれる! ラノベのタイトルか!?  色々とツッコミたい気持ちを俺はぐっと堪える。  なんだかんだいって、一番頼りになる魔道師(ウィザード)には違いない。 「ちげーよ! わかった、正直に目的を話すから信用してくれよ!」  俺はパレンザに、サイウスからの情報を全て話した。 「成る程……確かに興味深い。仮に元魔王さんがいなくなってしまったら、別な邪神が現われ兼ねない事態ですねぇ、ハイ」 「だろ!? だから必要なんだよ!」 「わかりました。通信だけの物を作りましょう。もう少しコンパクトになる筈ですし、ソフィさんや他のパーティの人達には私からそれとなく伝えておきますね」 「ありがとう、先生! 本当、助かるよ!」  俺は両手でパレンザの手を握り締めて感謝の意を示した。  パレンザの丸眼鏡が一瞬キラリと光だした。   「いえ、礼には及びません……しかし、本当にリーダーといると退屈しませんねぇ、ハイ」 「え?」 「いえ。こちらの事です……ただ」 「ただ?」 「リーダーと同じ、加護を受けた者達が増えているかもしれない件は聞き捨てなりません……下手をすると、この世界の均衡を崩し兼ねない事態へと発展し兼ねませんねぇ、ハイ」 「うん……そうだな」  パレンザの憶測に、俺も同調した。  俺が知る限り、神様って存在は「グランヴァロン世界の均衡を調和する」ことが役割だと思っている。  現に俺に加護(チート)をくれた光の女神ファティマ様とて、邪神の現出で世界の均衡が崩されそうになっていたからこそ、わざわざ人間界から俺を転生させ恩寵(ギフト)を与えたのだと理解している。    だが、他の神々はなんらかの意図があるにせよ、そんな規格外の力を下手な奴らに分け与えるってモノなら、それこそ邪神や魔王よりタチが悪いってもんだ。  パレンザは俺の考えを見越したか、ふっと笑みを零して金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の瞳を細める。 「リーダーもそのような者と遭遇した場合は、決して一人で戦わないほうが良いでしょう。ただ私達パーティの協力があれば、例え対立属性と反優位属性でも、リーダーなら勝てますよ」 「うん、まぁね……」    パレンザの言葉と爽やかな微笑みに、俺は気恥ずかしさで目線を反らした。  先生は男なんだけど、ぱっと見は金髪の美人さんだからなぁ。  俺、全然そっちの趣味はないんだけど、たまにパレンザに対して無性に照れてしまう時がある。  何故だろう?    まぁ、それは置いといて。  パレンザじゃないけど、一人じゃ無理でも信頼のおける仲間達(パーティ)のフォローがあれば、どんな敵でも怖くない。  そう、俺は一人じゃないんだ。  この最高の仲間達がいれば、どんな苦難だろうと乗り越えられるさ!  ……多分。

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  • 大正むすめ

    寿甘(すあま)

    ♡300pt 〇100pt 2019年9月29日 21時14分

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    良き哉 良き哉

    寿甘(すあま)

    2019年9月29日 21時14分

    大正むすめ
  • ステラ

    沙坐麻騎

    2019年9月29日 23時28分

    寿甘様、応援ポイントとノベラポイントありがとうごじます!お褒めのスタンプも嬉しいです!いつもありがとうございます(≧▽≦)

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    沙坐麻騎

    2019年9月29日 23時28分

    ステラ
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    ありしうす

    〇50pt 2019年9月4日 7時16分

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    えんどろ~!セイラ

    ありしうす

    2019年9月4日 7時16分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • ステラ

    沙坐麻騎

    2019年9月4日 10時14分

    ありしうす様、ノベルポイントありがとうございます! 一部掲載ミスがあり、修正しております。大変申し訳ございませんでした<(_ _)>今後ともどうかよろしくお願いいたします(≧▽≦)

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    沙坐麻騎

    2019年9月4日 10時14分

    ステラ
  • ひよこ(重)

    八雲、

    ♡500pt 2019年9月29日 14時01分

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    グッジョブ!

    八雲、

    2019年9月29日 14時01分

    ひよこ(重)
  • ステラ

    沙坐麻騎

    2019年9月29日 16時34分

    八雲、様、沢山の応援ポイントありがとうございます!今後もどうかご期待下さいませ~(≧∇≦)

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    沙坐麻騎

    2019年9月29日 16時34分

    ステラ
  • 探偵

    ファル

    ♡100pt 2019年10月24日 12時24分

    呼び方を変える時って、色々緊張するんですよねー。個人的にはあまりリアクション大きくない方が助かりますが、リョウガ君だと仕方ないかな!

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    ファル

    2019年10月24日 12時24分

    探偵
  • ステラ

    沙坐麻騎

    2019年10月24日 14時20分

    ファル様、応援ポイントありがとうございます(^^)/嬉しさ極まった反応ですね(#^.^#)次回もお楽しみに~(≧∇≦)

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    沙坐麻騎

    2019年10月24日 14時20分

    ステラ
  • 土偶

    ヨシコ

    ♡100pt 2019年9月4日 10時17分

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    見事なお点前で

    ヨシコ

    2019年9月4日 10時17分

    土偶
  • ステラ

    沙坐麻騎

    2019年9月4日 12時21分

    ヨシコ様、応援ポイントありがとうございます!スタンプ嬉しいです~(≧▽≦)

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    沙坐麻騎

    2019年9月4日 12時21分

    ステラ