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血の謎

 また一人、年端もいかない子供が逃げ遅れ、キャリアがその背後に迫る。アポロは小刀を投げて、足がすくみ動かなくなった子供を助ける。しかし、キャリアは町から次々と這い出してくる。  食人植物が人間の脳を乗っとるまでに一週間、生殖の準備に一週間かかる。そして、栄養を摂取しなくなり衰弱する人体から一週間の間に脱出できないと、食人植物の命はそこで絶えてしまう。  ただ、種を移す対象は感染していない肉体でなければならない。    町でパンデミックが起こり、感染が爆発的に拡大したとすると、健康な人間の供給不足に陥る。よって、食人植物たちは文字通り命がけで、極限状態で命を繋ごうとしている。  切羽詰まった相手は一人でも骨が折れる。まして、これほどに多数なら勝ち目はない。そして、感染してしまえばいずれかつての仲間を食らってしまうかもしれないのだ。  アポロは小刀を投げたことで、既に丸腰になっていた。誰かの代わりに噛まれることでしか、誰かを救う術はない。しかし、ただ何もしないままキャリアにさせられるのは勘弁だった。  全力で走って十秒はかかる距離に、キャリアに襲われている青年がいた。アポロはその命で彼を助けると決めた。 「はぁぁぁぁぁっ!」  加速をつけて、足の裏が地面を強く蹴る。地面の反発を身に受けて、アポロは大きく上体を傾ける。八秒後、まさに青年の首に噛みつこうとしていたキャリアを突き飛ばし、一発二発と殴りつけた。 「グズデバダバァ?」  キャリアは意味をなさない言葉を発した。いや、それは言葉ですらないのかもしれない。  仰向けで地面に押さえつけられ殴られているというのに、顔を避けることも目を瞑ることもせず、見定めるようにアポロを見る。青年だろうが女だろうが、健康体に種を植え付けられさえすれば食人植物にとっては本懐だ。  ——のはずだった。 「キケリハブァ……」  違う、お前ではないとでも言うようにキャリアはアポロから視線を外し、逃げていった青年を物欲しそうに見遣った。まるで、()()()()()()()()()()とでも言うように。 「何……?」  アポロは戸惑った。キャリアが、食人植物の感染していない人間を見て噛みつかないという話は聞いたことがない。一般人ならともかく、アポロはハンターである。食人植物の生態については誰よりも詳しいはずなのである。 「どういうことだ?」  食人植物と相対する生業である以上、それに感染する確率は他の職業の人たちよりは高い。だが、それならばとうの昔にアポロは死んでいるはずなのだ。食人植物に感染した人間の余命は長くて三週間なのだから。 「まさか、私には耐性があるとでも言うのか? あるいは、私の知らない生態の食人植物が存在しているとでも!?」 「ククク……そこまでだね」  突然の気配にアポロは射竦められる。手練れのアポロが、この至近距離の人の気配に気づかない訳はない。 「誰だ!」  振り返るとそこには奇妙な光景が広がっていた。さっきまで山ほど歩いていたはずのキャリアが、皆死に絶えている。  アポロの心を見透かしたように男は言った。 「ああ、これかい? こいつらは、もうお役御免だから消したのさ。いいデータが取れたからね」 「貴様……何者だ」  男は不敵に笑った。 「さぁ? 君が知ってどうする?」

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