月夜のハルジオン

読了目安時間:3分

ルビ(読み仮名)ですが、主人公たちの部分は外させてもらいます。

二章

桃色の花が舞うとき

「・・・美しい」 入学式当日。在校生達は休日だが、生徒会と風紀委員、放送局、吹奏楽部などの生徒達は変わらず登校していた。土端は右腕に「生徒会」の腕章をつけ、片手には入学式の流れと他の委員など人の動きをまとめた書類の束を抱えて廊下を歩いていた。すると、ピンクの紙で出来た花を胸元につけた一年生の青年が1人、土端を見てぽつりとつぶやいた。 「何が?」 「あっ、いえ。その、センパイが、美しくて、その・・・」 見た目は普通の青年だ。特にかっこいいわけでもなく悪いわけでもなく。土端は目の前のまだ少し幼さの残る青年をまっすぐ見た。青年は声をかけたにも関わらずカァッと頬を赤らめて視線を逸らしている。その様子に土端は柔らかく微笑みかけた。 「ありがとう」 「はっ!はい!・・・すみません」 「クラスはどこ?」 「あ、えと、3組です」 「それで、どうして一人でいるの?皆は教室に戻ったと思うけど」 「えと、トイレ行きたくて」 「あぁ、こっちよ」 土端は腕時計で時間を確認し、急ぎの用はないことを確認すると青年を連れてトイレに向かった。 「この学校、少し入り組んでてわかりづらいのよ。ここがあなたのクラスから1番近いとこ・・・っ」 青年の前を歩き、トイレの前に来ると足を止めた。説明しながら振り返るとすかさず青年は土端の片腕を掴んだ。見た目に反した強い力で土端の背中に腕をひき押さえつけるとトイレへ連れ込み、そのまま壁に押さえつけた。 「センパイ、本当に綺麗ですよね。今の時間て、皆教室にいるんでしたっけ。ねえ、俺と悪いことしません?」 青年は先程の雰囲気とは打って変わって、土端の耳元に顔を近づけ息を荒げながら低く囁いた。空いている手でポケットから折りたたみのナイフを取り出すとカチンと刃を出して土端の目の前でちらつかせて見せている。普通の女の子ならば押さえつけられ、ナイフが見えれば叫ぶかもしれない。いや、恐怖で声が出ないかもしれない。 だが相手は土端で、怯えることなく横目で青年を見据えている。 「やっぱ、変だと思ったのよね。なに?悪いことって」 「あれ?センパイもしかして何も分かってないんですか?ふふっ、じ、じゃあ、俺が教えてあげないといけないですかね」 「何してんだ」 二人しかいないはずのトイレに一人珍客がやってきた。土端はちらりとそちらに視線を向けた。休みのはずの風巻が驚くことも慌てることもなくきょとんと立っている。 青年は驚き、ナイフを土端の頬に当てた。 「くっ、来るな!来たらこの女の顔切るぞ!」 「行かねえけど」 「え?」 青年は拍子抜けした。風巻からは焦る様子もなく青年と土端をぼーっと見ているだけで何かをしようとするそぶりがないからだ。当の土端も抗うこともなくされるがままで、青年だけがアタフタし、ブルブル震えている。 「放しなさい」 これ以上青年が何もしないことがわかると土端はまっすぐ命じた。すると青年は今までの興奮や焦りがはたとなくなり、ナイフを床に落として風巻の横を通り過ぎて出ていった。 自由になった土端はナイフを拾うと折りたたんでしまいポケットに入れ、2人も何事もなかったように話し始めた。 「なんでここにいるの?」 「ん?昨日のクラス発表の時に忘れ物して取りに来たんだが、お前とあの男が歩いてるの見つけて、男が変な感じだったから」 「心配してくれたんだ?」 土端は風巻の気遣いに素直に礼を言うことはなく、ニヤリと笑いながら悪戯な返答をした。風巻はちらりと目を合わせると、ふと小さく笑った。 「心配だったって言ったら、どうする?」 思いもよらない試すような風巻の物言いに土端は苛立ちを覚えた。弄んでやろうと思ったところで反して遊ばれてしまったように感じたからだ。 土端はフンと鼻を鳴らし、風巻の横を通り抜けトイレから出て行った。

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