特別な彼女

読了目安時間:2分

エピソード:3 / 3

3

 秋になり、大学が再び始まった。けれどフランケンこと矢敷優太は一切キャンパスに姿を見せなくなった。中野たちは「どうせ彼女と仲良くやってるんだろ」と半分拗ねたようなことを言っていたが、浩市は彼が彼女の為に色々と無理をしているのではないかと心配をしていた。  その矢敷と久しぶりに出会ったのは、十二月に入ってからのことだった。彼は酷く()せ、目の周囲が窪んで頬も()け、フランケンらしさに磨きが掛かっていた。 「なあ、そんなにバイトしなきゃいけないのか?」  あの地味な見た目で金が掛かる女なのだろうか。  矢敷は首を小さく横に振ると、絶え絶えな息遣いでこう、静かに答えた。  ――特別な彼女なんだ。  それ以上何も言えなくなった浩市は繁華街の人混みに姿を消した彼の背を、何ともいえない思いで見つめ続けていた。  十二月の最後の週。馬券で少し懐が潤った浩市は、矢敷と彼女の為に特上の肉を購入すると、ゲリラで彼のアパートを訪れた。噂では既に半同棲状態で、ドアを開けると裸の二人が出てくるかと思っていたが、流石にそんな訳はなく、 「彼女、後で来るって」  相変わらず顔の青い彼にそう言われ、それでも中に入れてもらえた。 「これ。うまい肉でも食ってもらって、少しは元気になってもらおうと思ってな」 「ありがとう」  彼のアパートを訪れたのは春以来だから半年ぶりになる。以前はきっちりと片付けられ、本も順番に並べられているイメージだったのに、今は足元にゴミが溢れていた。片付ける時間もない、ということだろうか。 「肉、ここでいいか?」  キッチンを覗くと巨大な冷凍庫がある。まるで業務用のそれだ。両開きの銀色のドアを開けると、そこにはびっしりと肉の塊が詰まっていた。 「何だよこれ。お前、肉屋でも始めたのか?」 「彼女、好きなんだ」 「肉が、か?」  以前目にした彼女の肉感的なシルエットを思い起こす。あの体はその肉好きから造られたものなのだろうか。 「それにしても多くないか?」  と、中に一つ、ゴミが付いていた。紐状のものだ。捩り合った二つのもので造られているそれは見覚えがあった。  浩市はその塊を取り出し、裏返してみる。紐の先にタグが付けられていた。 『N・K』――中野耕作。  それが千切れながらも、肉片に張り付いて凍っている。  けれど彼の物がここにあるはずがない。本当に中野の物だろうか。 「なあ、これ」  振り返ると、フランケンシュタインが何かを手にし、思い切り頭上に持ち上げていた。 「悪いな。彼女、肉が好きなんだ」  その後の言葉を、浩市は二度と耳にすることはできなかった。(了)

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

読者のおすすめ作品

もっと見る