氷に隠れた怪物

読了目安時間:5分

エピソード:1 / 8

動物と会話できる女、白鳥真奈

「よし、オッケー。それじゃあ、今日の収録はこれでおしまい! みんな撤収作業に取り掛かろうか」  番組ディレクターの小林総悟は周囲に指示を出す。 「出演者の方は控室に戻っていてください。あ、白鳥さんも、お疲れ様です。」 「はい、ありがとうございます。」  小林に言われ、白鳥は控室に戻る。控室に入ると白鳥はすぐにイヤホンを自分の耳につけた。収録後は決まって、川のせせらぎや波の音のようなリラックスできる音楽を聴くのがお決まりになっていた。  撤収作業をしている小林にスタッフの一人が話しかける。 「小林さん、お疲れ様です。」 「おう、お疲れ。」 「それにしてもすごいですね。人の感情を読み取り、動物と会話できる超能力者、白鳥真奈さん。初めて生で見たんですけど、感動しちゃいましたよ。良く見つけましたね、あんな逸材。」 「すごいだろ、たまたま知り合いから聞いてさ。白鳥さん、普段はパソコンとか、事務作業している人なんだよ。」 「よく出演承諾してもらいましたね。」 「そりゃあ、苦労したよ。まぁ、いくつか条件を飲むことで、出演してもらえるようになったんだ。」  元々は視聴者の飼っているペットを紹介するだけの小さな番組だったが、小林が担当するようになって少しずつ人気が出てきた。そんな中、見つけたのが動物と会話が出来るという白鳥真奈だった。  初めは断っていた白鳥だったが、何度も出演依頼をする小林に根負けし、いくつかの条件の下でなら、と出演を承諾したのだった。その条件の一つが普段の仕事の休みの日などにスケジュールを合わせて収録することだ。  もう一つが、収録後に一人になれる時間を必ず作ることである。白鳥は幼いころから、周囲の感情やイメージを意識的に読み取ることできた。しかし、読み取りすぎると大きなストレスがかかってしまう。そのため事務作業ならば差し支えないが、大勢の人と接する収録では無意識のうちに感情を読み取り体に負荷をかけてしまうのだ。  小林が控室を訪れると、白鳥は帰り支度をしていた。 「お疲れ様です。あ、すみません。お帰りになる前にちょっとだけお時間よろしいですか。」 「ええ、良いですけど。何か私、ミスしちゃいましたか。」 「いやいや、全然そんなことじゃないんです。今日もとても良かったですよ。」  白鳥はほっとしたように胸をなでおろす。 「今度のロケについてお話ししようかと思って来たんですよ。実は、初の海外でのロケを行おうと考えているんです。」 「海外…ですか。」 「はい。白鳥さんによる動物たちとの対話は今けっこう話題になっていまして、そのおかげでこの番組も視聴率が上がっているんですよ。そこで、もっといろんな動物の声を聴いていこうって話になりましてね。」  小林は少し興奮気味に話す。自分が担当している番組が人気を集めているのだから、嬉しいのも当然である。 「でも、海外になると撮影も長引きますよね。そうなると会社をしばらく休むことになって、社長が何て言うか。」 「その件でしたら、大丈夫です。先日、社長さんと少し話させていただいた所、『白鳥君のおかげで、うちも知名度が上がって助かるよ。休み等の協力はいくらでもさせてもらうよ』とおっしゃっていましたから。」 「あ、そうなんですね」  この人は熱心だけどちょっと強引なところがあるな、と思いながら白鳥は話を聞いていた。その様子に気づいたのか、小林は少し落ち着いて再び口を開く。 「その、ロケの内容なんですが、いくつか候補をまとめたので、よろしかったらお時間がある時に読んで頂いて、白鳥さんの意見も伺いたいなと。」  家に着くと、白鳥はバックを投げるようにして机の上に置き、ソファに横になった。白鳥は全身の力を抜いてそのまま、目を閉じた。時計のカチコチという音以外何も聞こえない。壁は防音、外の賑わう声や鳥の鳴き声も部屋の中にいる白鳥には届かない。  さらにこの部屋には、テレビが無い。人々の感情を感じ取るもの全てを排除した部屋である。もちろんこれらは、誰かの感情を全く気にすることなく生活したいという白鳥の願望を、家の中という限定的でも叶えるためのものであった。  本当は周りの感情など、何も感じ取りたくないと考えているにも関わらず、今は動物の感情を読み取る仕事をしている。自分は何をしているのだろう、と白鳥は思った。ふっと笑みがこぼれる。 「確かに、感情を読み取るのは辛いこともあると思いますが、でも逆にそれで感謝されたり、誰かを笑顔にさせたりすることが出来る。普通の僕たちには出来ないことがあなたには出来るんです。」いつか出演依頼をし続けてきた小林に言われたことを白鳥は思い出していた。そしてゆっくりと目を開けた。  いつものように軽くおかずを作り、夕食を済ませた後お風呂に入る。そしてそのままベッドに向かう途中、足がバックにぶつかってしまった。倒れたバックの中から書類がはみ出ている。その中に小林から渡された書類があった。それらを見て、小林に言われたことを思い出した白鳥は、次の取材のテーマ候補が書かれているその書類に目を通す。 「三年ぶりに飼い主と再会した犬」「絵を描く象」「動物園から野生に帰ったライオン」確かにどれも視聴者に人気が出そうなものを準備したな、と白鳥が思いながら眺めていた時、あるタイトルが目に留まった。それまで半分寝ているような白鳥の目がはっきりと覚めた。  そのタイトルは、ーー 人殺しホッキョクグマの心理とは ーー  今までいくつものも動物たちの気持ちを番組のために読みとってきたが、白鳥自身が知りたいと思ったのは初めての事だった。  小林は収録映像のチェックを済ませ、夜遅くに自宅に戻った。缶ビールを一缶取り出し、喉に流し込む。そして、パソコンで番組の評判を調べるのが日課となっていた。〈ペットたちの声が聴けて嬉しい〉〈白鳥さん綺麗〉〈私のペットの声も聴いてー〉 「んー、良い調子だねぇ。今度は海外だ、どんな反響になるかなぁ。」  鼻歌交じりにスマホを手に取ると、白鳥からメールが来ている。小林は目を疑った。小林は正直、白鳥がどれにも大した興味を示さないだろうと考えていた。しかしメールには、あるネタを選び、それについて調べたいという内容が書かれている。珍しく白鳥が自分からやる気を見せたことに驚きつつも小林は、そのネタの資料を集めた。いくつかの資料を読みながら小林は、なぜ白鳥がこのネタを選んだのか不思議に思った。 「いやぁ、この犬の話の方が面白そうだと思ったんだけどなぁ。それに、これは視聴者の皆さんは見たいと思うかなぁ。」  小林はそう一人でつぶやいた。だが、白鳥がやる気を出してくれたことを嬉しく思い、小林の資料集めは遅くまで続いた。机に置かれたビールはすっかり炭酸が抜けてしまっていた。

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  • グレイ

    月宮華宵

    ♡500pt 2021年1月5日 19時55分

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    これは興味深い

    月宮華宵

    2021年1月5日 19時55分

    グレイ
  • 男戦士

    Kanna

    2021年1月5日 23時38分

    スタンプ、ポイントありがとうございます! 励みになります!!

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    Kanna

    2021年1月5日 23時38分

    男戦士
  • クトゥルフ

    松脂松明

    ♡500pt 2020年12月27日 19時00分

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    応援しています

    松脂松明

    2020年12月27日 19時00分

    クトゥルフ
  • 男戦士

    Kanna

    2020年12月27日 19時30分

    松脂松明様 スタンプありがとうございます! 初めての投稿ですので、初読み、初スタンプです!(笑) とても嬉しいです!ありがとうございます!

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    Kanna

    2020年12月27日 19時30分

    男戦士
  • 応援団長

    朝元しぐろ

    ♡300pt 2021年1月24日 15時19分

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    これは興味深い

    朝元しぐろ

    2021年1月24日 15時19分

    応援団長
  • 男戦士

    Kanna

    2021年1月24日 22時37分

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    ありがたき幸せ

    Kanna

    2021年1月24日 22時37分

    男戦士

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