マジョルカ・マジョリテ

読了目安時間:6分

エピソード:47 / 65

Ⅷ 桜舞う、再会

   近所の公園では、桜が咲いていた。  日曜日でもあって、桜の下にはビニールシートが敷き詰められ、すでに宴会で盛り上がっている集団や、場所取りのために、ひとりぽつんと缶ビールを飲んでいる者などさまざまだ。  新一郎とエミカは、場所を確保すると、朝から張り切って作ってきたお弁当をひろげた。唐揚げや海老マヨ。卵焼きやハンバーグ。好きなものだけ、好きなだけ詰め込んだ。  お弁当は、ふたりでは食べきれないほどあったが、宴会気分で盛り上がった。  新一郎に抱きかかえられたダージョは、蜂蜜漬けの梅干しをもらうと、ことさらハイテンションになった。 「旨いか」 「にゃー」  梅干しが苦手な新一郎は、変なものを喰う猫だな、とあらためてダージョを眺めている。 「満開ね」  エミカは、おにぎりを頬張りながら桜を見上げた。  晴天で、お花見にはもってこいの日だ。ただ、人手はかなりのもので、隣の集団は大学生のサークルか、新入生の歓迎会もかねて、飲み慣れないお酒を飲まされている者もいた。 「さすがに今日はひとが多いな」  何本目かの缶ビールをあけると、新一郎は、まわりの熱気に圧倒されていた。  後ろから、肉が焼ける香りがしてくると、 「来年は、バーベキューがしたいな」 「ふたりだけで? なんか寂しくない」 「友達でも呼ぶか」 「そうね」  そのとき隣の学生が、ふいにザワめきはじめる。 「見て、見て!」 「なに?」  女子たちが、ある一点を凝視していた。 「なんか、ステキなひとぉ」 「外人モデルかしら」 「芸能人?」 「知らない顔よね」 「あっ、こっちに来るわよ!」  彼女たちの視線が、ある者に集中している。  黄色い声が大きくなると、ふと、背後から誰かの気配がした。 「新一郎!」  両手をひろげ、変わらない笑顔で抱きついてきた。 「ルーク、なんでここに?」  そして新一郎たちのまえには、見知らぬ外国人の男が立っていた。  細身のジーンズに、皮のショートブーツ。上着の革ジャンを軽く羽織っただけで、インナーは派手なTシャツ。どこか遊び人風である。ただ、ネックレスやリングはブランドもので、そうとう値のはるものだった。 「ジョ、ジョ、ジョ──、ジョシュア?」  どもりながら、エミカは立ち上がった。  あまりにも唐突な登場に、持っていたおにぎりを落とすほどだ。 「久しぶりだな。――エミカ」  華やかな笑顔をふりまくと、ジョシュアは土足のままシートの上に座り込んだ。 「だれ?」  新一郎がたずねた。 「だれって……」  言いよどんでいると、すかさずルークがフォローする。 「ええっとね。ジョシュアはオレの従兄弟? って、やつで──。だから親戚っていうの?」  と、強引に話しをもっていく。 「エミカの親族?」  そうそう、とルークはうなずいた。  となれば、ここはすべて《御親戚、御一同様》の集まりということになる。  ルークは嬉しそうに、新一郎の横に座った。 「近くまで来たんで、逢いに来たんだよ。元気?」 「ああ。おまえ……、ちょっと見ないあいだに雰囲気かわったな」 「そうかな」 「前より、しっかりした感じに見えるけど」  出会った当初は見かけよりも中身は子供で、落ち着きもなにもなかったのだ。 「色々あったから。でも、あんまり変わらないよ」  照れたように、ルークは頭を掻いていた。 「それにしても俺たちがここにいるって、よくわかったな」  すると、黙っていたジョシュアが割って入ってきた。 「人間(ヒト)より勘がいいんでね。あんたが、エミカの旦那さんの新一郎?」 「えっ、ああ」 「俺はジョシュア。よろしく」 「あ、どうも」  新一郎はぶっきらぼうに挨拶した。ちょっと派手すぎる相手には気後れしてしまうのだ。  ジョシュアは、新一郎のそばにいる動物にも驚いたように顔を近づけた。 「へえ、こんな珍しい生き物がいるなんて」  絶滅したアスタラ族が、人間界にいるなんて考えてもいなかったのだろう。  からかうように手を出すと、新一郎の後ろに隠れてしまった。 「嫌われたか」 「ダージョ、元気か!」  するとルークが拾い上げ、きつく抱擁した。  ダージョはもがきながらも、ゴロゴロと喉を鳴らしている。 「会いたかったよ」 「にゃごぉ~」  ひさしぶりの再会は、ルークが一番楽しそうだった。  だが、エミカだけは一言も喋らなかった。  いや、喋らないというより喋れないのかもしれない。  硬直したまま突っ立っている。 「ええっと、そうだ」  いち早く察したのが新一郎で、彼らをもてなす飲み物がないのに気がついた。 「俺、ビール買ってくるよ。ルークはジュースでいいか」 「あっ、オレも行く!」  新一郎に続けとばかりに、ダージョを抱えたままルークも走りだした。  ふたりは、人混みのなかへと消えていった。  ビニールシートの上で、ジョシュアとエミカはしばらく沈黙していた。  ジョシュアが唐揚げをひとつ摘むと、口のなかに放りこむ。 「人間界は楽しいか」  エミカは大きくため息をついた。 「ルークの封印を解いたのは、あなただったのね」 「ずいぶん手の込んだ封印だったな。それほどまでに自分の存在を隠したかったのか」 「わたしは魔界を捨てたの。いまさら関わる気はないわ」 「へえ」  ジョシュアは、つぎに海老マヨを口にいれると、指さきに付いたマヨネーズをぺろっと舐めていた。 「ようするに、あの人間との生活を守りたいわけだ」 「その質問に答える必要はないわ」 「驚いたぜ。まさかこんな事になっているとはな」  桜の木々を眺めながら、皮肉まじりにせせら笑った。 「人間に組み敷かれたのか」 「……」 「魔女の誇りはどうした?」 「……」 「それとも。これが、おまえの望みか」 「なにが──言いたいの?」  両者は見つめ合い、エミカは表情を少しも和らげない。  しかし、ジョシュアが吹くように笑いだした。 「ぷっ、あいかわらず怖いな、西の魔女は」  エミカは知らないとばかりに、フンと横をむく。 「まあ、いい。おまえの生活なんて興味はない。俺が、わざわざこんなところまで来たのは、伝えたいことがあるからだ」  ジョシュアは、上空から舞い降りてくる桜の花びらをつかんだ。 「ラグラーンが蘇える」 「ラグラーン……」  エミカの顔がさらに険しくなった。  彼女にとって古い記憶の名前だ。 「今さらなぜ?」 「やつの手下に執念深い者がいたらしい。魔王復活に闘志を燃やし、《不死なる鍵》を盗んだ。しかも人間界で手にいれた共鳴する石(セントマリノア)を使って、魔王の魂を呼び寄せようとしている」 「共鳴する石……」  まさか、とエミカはつぶやく。 「覚えがあるだろ」  ルークが手に入れた石は、よりによってラグラーンの配下に渡ったというのか。 「やつが完全に復活すれば、魔界の半分は灼きつくされる」  かつて自分たちが目にしていた魔界のありように戻るだろう、と、ジョシュアは告げた。 「そして、つぎに狙うのは俺たちだ。どこに逃げようとも追いかけてくるだろう。積年の怨みも重なって、おまえや俺の存在を許しはしない」  エミカは、落ちてくる桜の花を見上げた。  太い樹木に、しなやかな枝が張っている。空が青くなるほどに、桜の樹木は黒い陰影を際立たせ、ピンクの花びらとのコントラストが鮮やかになる。  もう、二、三日もすれば花は散り、初夏になるころには新緑が映えるだろう。 「魔界だろうが、人間界だろうが関係ない。必ず、なんらかの報復をしてくる」  人混みのなかから、新一郎とルークの姿が見えた。  両手一杯に飲み物を抱え、ふたりは笑いながら楽しそうだ。  ああ、こんなにお天気がよくて、桜も満開で、とても晴れやかな日なのに──。 「エルモア」  ジョシュアが名前を呼んだ。 「帰ってこい」  

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  • ミミズクさん

    羽山一明

    ♡1,000pt 〇100pt 2022年7月8日 10時13分

    半ば敵方のような脅し文句にも見えますが、ジョシュアもジョシュアなりに本気なのでしょう。ふらりとやってきたところを見るに、エミカのこの生活も永遠に終わりを告げるわけでもなく、しかし手にした幸せを手放したくなく……。と、渋々、合流に至るのでしょうね。

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    羽山一明

    2022年7月8日 10時13分

    ミミズクさん
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年7月9日 0時23分

    応援、コメント、貴重なptありがとうございます。ジョシュアとエルモアの仲は、悪くもなく、さりとて良くもない関係です。お互い干渉しないスタンス。エミカは魔界に行きますが、さっさとカタをつけて帰りたいと思ってます。ですが、そうウマくいかないでしょうね~(^^;)。

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    ななせ

    2022年7月9日 0時23分

    女魔法使い
  • 野辺良神社の巫女

    花時雨

    ♡500pt 〇20pt 2022年5月30日 21時14分

    大切な新一郎さんとの花見の日なのに、魔王復活の予告の報せとは、ジョシュアも無粋なことをしますね。つまみ食いしているんじゃねえ! 魔界の事は魔界で方を付けろと突き放したいところですが、そうもいかないかもしれません。エミカの幸福な日々は終わりを告げるのでしょうか……

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    花時雨

    2022年5月30日 21時14分

    野辺良神社の巫女
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年5月31日 0時25分

    応援、コメント、貴重なpt.ありがとうございます。 ジョシュアはKYな(空気読まない)やつで、かなり自己中(^^;)エミカの人間界での暮らしはそろそろ終わりそうですが、新一郎と別れたくないので、嫌々、魔界に行きます(ちょっと出張気分でw)いつもありがとうございます。感謝(≧▽≦)

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    ななせ

    2022年5月31日 0時25分

    女魔法使い
  • 男戦士

    気にしない人間

    ♡400pt 〇10pt 2022年7月20日 0時04分

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    グッジョブ!

    気にしない人間

    2022年7月20日 0時04分

    男戦士
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年7月22日 23時47分

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    うれしぬ

    ななせ

    2022年7月22日 23時47分

    女魔法使い
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    ♡100pt 〇10pt 2022年6月11日 22時15分

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    見事なお点前で

    くにざゎゆぅ

    2022年6月11日 22時15分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年6月12日 10時29分

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    ありがとうございます

    ななせ

    2022年6月12日 10時29分

    女魔法使い
  • サキュバステラ

    特攻君

    ♡50pt 〇10pt 2022年5月31日 14時00分

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    この時を待っておりました!

    特攻君

    2022年5月31日 14時00分

    サキュバステラ
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年6月3日 21時46分

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    ありがたき幸せ

    ななせ

    2022年6月3日 21時46分

    女魔法使い

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