マジョルカ・マジョリテ

読了目安時間:15分

エピソード:31 / 65

Ⅸ 地の龍/紅蓮の炎

   勇敢な山男が地面に倒れこんだ。  ピアリは飛び出し、絶命したオッジに抱きついている。 「あーあ。死んでしまったよ」  エクアスは、同情するように肩をすくめていた。 「たった一言、僕に詫びを入れれば野に放ってやったのに」 「貴様……」  腹から落ちる血がヴァインの体を赤く染めていた。  無理に動こうにも、杖が深くつらぬいている。 「今度は、その娘だ」 「やめろ!」  オッジのそばで泣き崩れているピアリを、配下の者が引きはなした。 「彼らは関係ない。殺したいのは私だろ!」 「いや」  エクアスは杖の先の黒曜石を撫でた。 「彼らはお前のために殺される。みずからの意思で僕の前にひれ伏さないかぎり、助かる道はない」  ぐいっと杖を動かすと、さらに深く突き刺した。 「僕の手をとり、(こうべ)を垂れて忠誠を誓え。僕の足に口づけをし、心の底から敬愛しろ。それまでは、お前の目の前で何度でも何百回でも誰かが死ぬ。どうだ、想像しただけでも楽しいだろう」 「エクアスっ…!」 「腹から血を流しながら、お前のせいで死んでいく者たちを見届けろ。決してお前を死なせることはしない。身も心も荒み、腐った体と腐った心でいつしか僕に命乞いをするだろう。その気位の高い魂は(けが)れおち、この世を恨むことになる。おや、呆れたかい? だって僕はとても執念深くて狡猾な者だからね。──さあ、娘を殺れ!」 「やめろ!」 「では忠誠を誓うか」 「……」  エクアスは高笑いをあげた。 「そんな役に立たないプライドなど捨ててしまえばいいのに。この状態から逃れられる手立てはあるのかい? 踏みにじられた者は、そうやって苦渋を舐めるしかないだろうに」 「っ……、貴様っ」 「なぜラーガも、お前のような奴を後継者にしたのだ。多くの者を導く素養もなく、呆れるほど凡庸だ。もっと僕を納得させてくれよ」  ヴァインは気色ばんだ。  こんな下劣な者に(あざけ)られ、心に怒りが渦巻いてゆく。 「許さない──」 「悔しいか」  歯を食いしばり、怒りで顔が火のように赤くなった。 「許さない。貴様の事は絶対に許さない!」  抵抗して動こうとするヴァインの腹から血が止まらず、エクアスの左手がその血に触れると、自分の口もとでペロリと舐めていた。 「やっと──そういう眼をしてくれたね」  ピアリの拘束を解き、配下の者を下がらせた。 「いい眼だよ──ヴァイン。憎しみに満ちたいい眼をしている。もっと怒れ、もっと僕を憎め。そして、自分の力のなさに悶え苦しむんだ!」  呪詛のような言葉が、ヴァインの心を呪縛しはじめた。 「その憎しみは、お前の身体に宿り、お前を変えるだろう。おそらく、いままで味わったことのない感情のはずだ。その怒りの炎で身体の隅々まで焦してしまえっ!」 「くっぉ……、離せ!」  深い憎しみの感情は、一度、火がつくと取り返しのつかない痣を生命(いのち)に刻む。  その痣はやがて膿となり、ヴァインの心を犯していくのだ。 「エクアス! 殺してやる!」 「そうだ。もっと怒れ、狂え!」  憎しみの炎が宿ると、黒い瘴気のようなものがヴァインを包みはじめた。  目は血走り、顔が歪み、どす黒い煙がまとわりつく。  そうなると、  澄んでいた瞳は濁り、もはやこの世を、真っ直ぐに見ることは出来ないだろう。 「ははは。いいぞ、もっと憎め!」 「エクアス──!」 「狂えぇ────!」  けしかけるように(あお)ると、それを壊す声が響いた。 「ヴァイン、やめろ!」  ルークが飛び出してきた。 「やつの言う事に耳をかたむけるな! あんたはラーガの後継者だ。そのことをオレが一番知っている!」  声が続くかぎり叫んだ。 「オレが何もできなくても馬鹿にはしなかった。オレの魔法がひどくても、何度も何度も教えてくれた。オレが歩けなくて嫌になっても、辛抱づよく待ってくれた。オレがここまで旅を続けてこれたのは、ヴァインがいてくれたからだよ!」  エクアスに向かって、挑むように言い放った。 「オレは知っている! どんなときでも、なによりもラーガの後継者として務めを果たそうとしている! だから……、だから、ヴァイン! こんなやつの言うことなんて聞くなっ!」  はっとヴァインは目を見開いた。 「ルーク……」 「絶対に自分を手放すな!」 「……」 「手放すな!」  ルークは何度も叫んでいた。 「私は……」  ヴァインは大きく息をついだ。  そうしていると、体を取り巻いていた黒い瘴気のようなものが収縮し、まるで憑き物が落ちたように怒りの炎も鎮火されていった。 (どうすればいい……)  自分の体を冷静に見つめた。  腹から流れている血液が、地面に滲んでいる。  ──この状態で出来ることとは。  渇いた地質は浸透しにくく、砂と埃で血液がにごる。  しかし、この命を使って、最大にできる事とはなんだ。  朦朧とする頭で、ヴァインは心を決めた。  そう──地の龍を呼びおこす。  地脈に生息する、マグマのような地龍を我が血で甦らせよう。  自分の命も、この場にいる者たちの命さえどうなるのかわからない。  だが、これに賭けるしかない。 「ピアリ」  そばで身を震わせている少女と猿に囁いた。  彼女らのまわりに何重もの防御術を重ね、窒息しないように風を送った。 「……私のそばを離れるな」  ヴァインは目を瞑り、口許で、小さく韻を唱えはじめた。 「いい加減にしろ!」  ルークを黙らそうと、ファンダレイが拳をあげた。 「ぐっ!」  腹を殴られ倒されると、背後からエクアスが近づいてきた。 「君はそんなに死にたいのか」 「殺りたきゃ、殺れよ!」 「この男のために死んでもいいのか」 「ああ、死んでやるよ!」  呆れたね、とエクアスは両手を広げた。 「ヴァインは君の何だ。命を賭けるほどの価値があるのか」 「価値なんて関係ないよ」  オッジは、無謀とわかっていても闘いに挑んだ。  ヴァインとて関わりたくないと言いながらも、こうやって助けに来てくれた。 「誰かのために、命を賭けるときだってある!」 「それで死んでしまうのか。これを馬鹿と言わずしてなんという」  渇いた笑い声が響いた。 「黙れ!」  ルークは、これほど心の捻じ曲がった者がいるのかと憤慨した。 「お前のために、命を賭けるやつなんているのか!」  エクアスの顔色が変わった。 「いないくせに! お前のために自ら命を投げ出すやつなんていない!」  身を起こしながら、エクアスを睨みつけた。 「ひとを見下し、無理やり従わせ、そうやって手にしたモノは何だ。お前にどれだけ力があるのか知らないが、オレから見たら、くだらない事に力を注いでいるポンコツ野郎だ!」 「なんだと……」 「オレは何もできない落ちこぼれだけど、お前は──、誰かを苦しめることしかできない出来損ないだっ!」  エクアスの瞳が、氷のように鋭くなった。  「無礼な──。君は不快だ。もう壊れてしまえ。いや、僕の人形にしてあげるよ」  エクアスは、ルークの頬を爪で引っかくように傷つけた。  傷は一本の筋となり、血液が流れた。 「さあ、ペプラの実を宿すといい」  小さな種を近づけると、血液のにおいに反応し根が伸びはじめた。 「これが体内に実をつけると、もはや意思はなくなる」 「くそっ、やめろっ……」  抵抗するも、ファンダレイに羽交い絞めにされ、頬の傷からぺプラの根が侵入しはじめた。血をもとめて伸びる根は、ルークの顔を覆いはじめる。 「これから僕の手足となり、僕のために命を賭けてもらうぞ」 「くうっうっ……」  ルークは顔を押さえて、地面に倒れた。 「二度と生意気なことは言わせない」  すると地底から、ドドドッという振動がしてきた。 「なんだ──」  異変に気づいたエクアスが、あたりを警戒しはじめた。  ヴァインが目を閉じ、なにかを一心に唱えている。  エクアスは危険を察して、あわてて走りだした──が、遅かった。  突如として地面が割れ、裂け目から溶岩が吹き出てきた。 『地の龍よ、地脈に潜みし力よ。  我が願いにこたえ、湧現せよ。  そして、我が血を奪いし彼の者に、灼熱の裁きを──』  足場が崩れ、灼熱の溶岩が溢れてきた。  岩の裂け目に飲み込まれ、すべての者が逃げる術を探しあぐねている。 「どうなった……」  ヴァインは横たわったまま、溶岩の噴火を見つめていた。気力をふりしぼって地の龍を呼びおこしたが、逃げ惑う者の悲鳴だけが遠くで聞えた。  腹に打たれた杭は、突き刺さったままだ。 「きゃあ──」  甲高い少女の声で意識がはっきりした。  ピアリという娘が岩の裂け目にはまり、谷底から溶岩がふつふつと溢れそうになっていた。かろうじて防御術の膜が体をつつみ、命をつないでいる。 「まずい……っ」  ヴァインは無理やり杖を引き抜いて、体を起こした。  さらに傷口が広がり、流血はとまらない。 「待ってくれ──」  岩肌を這うように進み、ピアリのそばまで近づいた。ヴァインが通った跡には、血の筋がついている。 「待ってくれ……、皆が繋いだ命、失くすわけにはいかない」  背中に白い縞のある猿が、ヴァインが近づくのを知ると騒ぎはじめた。 「こっちだ」  ピアリは、ヴァインの手を取ろうと片方の手を伸ばし、お互いに触れるか触れないかで指が交差する。  だが、一息たりない。  そうしていると、足場がグラリとゆれた。 「きゃっ!」  ピアリは小さく悲鳴をあげた。足場の岩がごっそりもげそうだ。ヴァインは大きく身を伸ばし、ピアリの腕をつかんで引き寄せると、そのまま後ろにひっくり返った。  傍らでは、興奮したキューンが飛び回っている。  谷底からは溶岩が吹きあがり、熱風があたりを取り巻いていた。  どうにか溶岩の流れから回避できたが、まわりは惨憺たるありさまだった。 「ルーク……、ルークはどうなった」 「オロ……アメ」  ピアリが、ヴァインの体に寄り添うように怯えはじめた。  近づいてくる影は、紛れもなく片目の少年である。  シルクハットはかぶっておらず、美しく仕立てられたスーツもところどころ溶けていた。足もとのブーツも変形し、顔は、あごから口もとが赤く爛れ、そして、左手が溶けてなくなっていた。  地の龍の地底から突きあがった溶岩を、もろに浴びてしまったらしい。 「そんな力が……残ってたのか」  少年の喉は焼けただれ、かすれていた。  ヴァインは身を起こすと、ピアリを庇うように立ちあがった。  エクアスの背後には刺青の男が立ち、その腕には、力なく抱えられたルークの姿があった。 「殺したのか!」 「どう……かな」  ルークを地面に投げ飛ばすと、両手で顔を押さえていた。  指のすきまから、ミミズ腫れのような青い筋が見える。 「うぅうっ……」  青い筋は顔から首まで伸び、体中を這うように増えていった。 「ルーク!」 「ペプラの実が……増殖中だ」 「なんだと!」  皮膚に浮き出ていた筋は、ペプラの実が体内に入りきったのか、きれいになくなった。  獣のような呻きが、ルークの口からもれはじめた。 「くっ…うおっ……」  爪をたて、頭を低く沈め、まるで威嚇するように背中を丸めると、口から唾液が滴り落ちた。 「彼は……僕のお人形さん(モノ)だよ」  エクアスの声だけに反応するのか、四つんばになりながら近寄っていった。  そしてファンダレイから剣を手渡されると、悪趣味な惨劇がふたたび始まろうとしていた。 「ルークの……相手をしてもらおうか」 「なんということだ」  慣れない手つきで剣をふりあげ、足もとがふらつき、なかなか狙いが定まらない。  ヴァインの顔を睨みつけると、歯を剥きだして走りこんできた。 「うおっーー」 「よせ!」  ヴァインはよろめき、ルークは剣の重さで体がふりまわされている。  機敏さのかけらもない交戦に、エクアスは、ぶざまな姿だと笑い声を上げた。 「やめるんだ、ルーク!」 「うがっ……!」 「ルーク!」  ヴァインは腹を押さえながら膝から崩れた。  チャンスとばかりにルークは斬りこもうとしたが、はたと、その手がとまった。  ファンダレイの剣が地面に落ち、よろよろと歩きだした。 「……どうした?」  エクアスは予想外な状態に、ただ驚いていた。 「ううっ……うう」  苦しそうに胸を押さえ、ペプラの根がふたたび体中に浮きあがってきた。  まるで時間を巻きもどすように、侵入していた根が頬の傷からにょろにょろと這い出てきた。  根は毛細血管のように細く、体内に巣食おうとしていた実も、まるで不純物とばかりにペッと押し出された。 「なぜ……だ?」  一度、ペプラの実に侵された者は、簡単に取り除くことはできない。  死してなお、肉体が機能しているかぎり生きつづける植物だった。 「うああっ──!」  ルークは胸を押さえ、身をそり返えした。  胸元から微かな光りがもれ、霞のようなぼやけた光りだったが、しだいに大きくなってくる。  あたりを包み込むと、その中心になんらかの形が浮き出てきた。    星が散らばるような図形。  紋章は赤く、不思議な対角線が伸びると、くるくると回りだしている。 「その、紋章は……?」  ルークの変化を目の当たりにしたエクアスは驚きのあまりのけぞった。  すると紋章から、赤い炎があがった。  炎は大きくなり、火焔(かえん)から光背をつくり、そのあと何者かの(かたち)を映し出そうとしていた。  まるで女性の曲線を強調するような、丸みのあるシルエット。髪であろう部分がうねうねと動き、流れるように大きくなる。そして炎で象られた腕がエクアスを探しあてると、しゃにむに襲い掛かってきた。 「ひっ…!」  炎の勢いは凄まじく、なにも抗じられないまま、エクアスは火達磨と化した。  髪も衣服も燃え、すべてを焼き尽くそうとしている。 「ぐわっーーー」  悲鳴を上げ、岩場の上をのたうちまわる。エクアスは逃げまどい、裂けて亀裂ができた谷底に落ちていった。ファンダレイは何が起こったのかわからず、その場から逃げていく。  炎は、焦熱しながら谷底まで執拗に追いかけ、そして四方に散らばると、天高く燃え尽きてしまった。 「ルーク──!」  ヴァインはよろけながら近寄った。  ルークは気を失っただけで、命の別状はなさそうだった。  胸から発された炎も紋章も消えていた。 「あれは──紅蓮の炎?」  荒れ果てた岩山に、赤い月が輝いていた。  妖しい月の輝きは、昇ってくる日の光りでぼやけていく。  もう夜明けさえ見ることはできないかと思ったが、どうにか生き延びることができたらしい。 「我われは、エルモアに助けられたのか」  ヴァインは、ふたたび朝を迎えたことに感謝しつつ、まだ見ぬ者へと思いを馳せていた。                 * *                 * * 「なんだか熱いねぇ」  窓ガラスが結露している。  冬だというのに室内の気温は真夏のような蒸し暑さだ。  暖房器具もつけていないので、異常としかいいようがない。  ダージョはベッドのうえからそろりと降りた。 「喉が渇くよ」  二階の寝室で惰眠していたが、たまらなくなって台所にむかった。  時刻は夜の七時をまわっており、一階に降りても真っ暗だった。 「エミカ」  リビングからテレビの音だけが聞こえた。  点けっぱなしのまま、出かけてしまったのだろうか。 「エミカ?」  ダージョはふたたび呼んでみた。  台所のシンクまで上がると、水道の蛇口に舌を差しいれた。  喉が渇いてしかたがないのだ。  自分用の皿には、夕飯はおろか水さえもない。  普段はこれほど渇かない喉も、部屋全体が蒸し暑いせいでどうにもならない。 「んーー、んっ?」  するとリビングから、エミカの声が聞こえてきた。  ソファの背もたれで見えなかったが、両腕をあげて伸びをしているようだ。 「エミカ?」 「あら、わたしったら、うたた寝?」  どうやら、テレビを見ているうちに眠り込んでしまったらしい。 「やだー、もうこんな時間!」  エミカは慌てて立ち上った。  部屋が暗いため、テーブルの足に蹴躓きながら照明のスイッチを探しているようだ。 「アタタッ、信じられない。なんで寝ちゃったんだろう。夕飯も出来てないのに、もうすぐ新ちゃん帰ってくる!」  エミカは叫びながら台所に入ってきた。 「ああっ、ダージョ。ごめんなさい。あなたのご飯もまだだったわね」 「構わないよ。それよりも、なんだか──」  蒸し暑くないか、と聞こうとした。  しかし台所の照明をつけたエミカの姿を見た瞬間、声がひっくり返った。 「ど、どうしたんだい。それ!」 「なあに?」  きょとんとした顔で彼女は立っていた。 「髪が、髪が──」  肩までしかなかった髪が、足のくるぶしまで異常に伸びている。 「やだー、なにこれっ!」  エミカ自身も驚いたようで、玄関にある姿見の鏡の前にいくと、はっきりと自分の姿を確認したようだ。 「やーん。なんで、こんなに?」  もうすぐ新一郎が帰ってくる。  美容院に行っている時間はない。 「どうしよ、どうしよ」  ダージョは、慌てふためくエミカのそばで冷静に告げるしかなかった。 「ハサミで適当に切って、後ろで縛って誤魔化せばいいよ」 「えー、自分で切ったら、ガタガタになっちゃう」 「しょうがないじゃないか」 「新ちゃん気づくかな」 「男なんて、多少長さが違っていても、わかんないもんさ」  今朝までセミロングだった妻が、びっくりするほど髪が伸びているよりはマシだろう。 「なんでそんなに伸びたかね」 「わかんないわ。急にウトウトして、いままで眠っていただけなのに」  エミカは泣きそうな顔で、文房具用のハサミで髪をジョリジョリ切りはじめた。 「おかしいねえ」  かつてこんなことがあっただろうか。ずっと一緒に暮らしていたが、こんな異変は初めてだ。  ダージョは鼻を、ひくひくさせた。  いや──違う。  いまでこそ髪は短いが、初めて会ったときのエミカはこんな風貌をしていた。  もっと髪が長くて色も違う。人間界(こちら)に来てから、その土地に馴染もうとしたのか、風貌も雰囲気も少しずつ変わってきたのかもしれない。  出会ったころは魔界でも大きな影響をおよぼす魔法使いとして、その身を包んでいたオーラも魔力も尋常ではなかった。  あの頃はもっと──。 「エミカ、それ!」 「えっ、なに?」 「いや、いい」  ダージョは何かを言いかけて口をつぐんだ。 「えっ、なに? なんか変、わたし」  自分で切り刻んだ髪を手鏡で眺めながら、エミカはしきりに聞いてくる。 「どこがおかしい? ねえ、言ってよ、ダージョ」 「前髪がぱっつんだ」 「えっーー! ヤダー!」  最悪っ、と叫びながら、慣れない手つきでハサミを入れる。  切れば切るほどおかしくなりそうで、明日、美容院に行けばいいよと助言した。  ダージョはエミカから離れるとソファに座った。  ガタガタになった前髪をいじりながら、エミカは頬を膨らませている。  どこから見ても、人間の女にしか見えない。  昔、ダージョを助けた魔女は、もっと怜悧で神秘性をたずさえていた。  今が駄目だとは言わないが、あれが本来の姿ではないのか。 「でもね──」  髪は、切ってしまえばどうにでもなる。  だが、一度、顕れはじめた魔性はなかなか隠せるものではない。 「なにかあったのかね」  エミカの瞳の色が変化している。  赤く、魔性に満ちた眼がそこにあった。  普段は薄い茶色だが、魔力が昂じると赤く染まるのだ。  ダージョは、昔を思い出した。  出会ったころの魔女の眼は、何も育たない沙漠のように渇いていた。    

《つぶやき》宴は終了し、日は登る~。

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  • ミミズクさん

    羽山一明

    ♡1,000pt 〇100pt 2022年4月22日 1時48分

    ヴァインが恐れ、紅い月を従える魔族すら焼き尽くす炎の力。手放した紋章の力だけでこれなら、本人はいったいどれほどの力の持ち主なのでしょうか。強すぎる力が身を焦がし、転がり込むように世界を潜ったエルモアの過去を見た気がしました。

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    羽山一明

    2022年4月22日 1時48分

    ミミズクさん
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年4月23日 0時21分

    応援、コメント、貴重なポイントありがとうございます。(≧▽≦) 「かなりの力の持ち主」設定にはしてます(^^;)。エルモア自身はあんまり戦いたくないので、宝の持ち腐れですが。まれに激オコするので、そんときは怖いかもですw

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    ななせ

    2022年4月23日 0時21分

    女魔法使い
  • 野辺良神社の巫女

    花時雨

    ♡500pt 〇40pt 2022年2月14日 21時32分

    敵も味方もボロボロ…… 魔法の力の恐ろしさですね。オッジさんはお気の毒でしたが、相手がアレでは、どうしようもなかったのでしょう。ルークはヴァインが堕ちるのを良く防いだ。頑張った。だからこそ、紋章も力を貸したのだと思いたいです。

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    花時雨

    2022年2月14日 21時32分

    野辺良神社の巫女
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年2月15日 0時53分

    応援、コメント、貴重なポイントありがとうございます。(≧▽≦) オッジ、最後まで迷ったのですけど〜助けられなかった( ;∀;) 皆、ボロボロで、勝者もないです。紋章はエルモアの逆鱗に触れたため発動してしまいました〜。

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    ななせ

    2022年2月15日 0時53分

    女魔法使い
  • セリア(精霊幻想記)

    まろん

    ♡2,000pt 〇10pt 2022年3月16日 1時21分

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    応援してるよ!

    まろん

    2022年3月16日 1時21分

    セリア(精霊幻想記)
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年3月16日 7時27分

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    励みになります!

    ななせ

    2022年3月16日 7時27分

    女魔法使い
  • 文豪猫

    涼寺みすゞ

    ♡1,000pt 〇10pt 2022年7月7日 21時06分

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    この作品を推してます

    涼寺みすゞ

    2022年7月7日 21時06分

    文豪猫
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年7月11日 21時35分

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    ありがとうございます

    ななせ

    2022年7月11日 21時35分

    女魔法使い
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    ♡100pt 〇10pt 2022年5月26日 20時58分

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    神かな…?

    くにざゎゆぅ

    2022年5月26日 20時58分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年5月27日 7時51分

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    報われました…!

    ななせ

    2022年5月27日 7時51分

    女魔法使い

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