マジョルカ・マジョリテ

読了目安時間:16分

エピソード:17 / 86

旅がはじまた。🐧。

Ⅸ 嘆きのパーシェ

   東国の(きわ)みにあるというジョシュアの居城は、その所在を明確にしていない。  レイテ山脈を越え、さらにクレイズアームという山脈を越えて、未開の地へと行かなければならないらしい。    王都から平原を進むと、眼前には山脈が広がっていた。  ときより馬の脚では通れない道があると、迂回したり、どうにか通れる足場を探したりした。  ここまでの道のりは、ルークにとってそれほど苦ではなかった。  〝アフェリアルフェイセサス〟の村は深い渓谷にあり、王都がある中央地帯にくらべれば、自然の厳しさのなかに晒されている。居住環境も雨風がしのげる程度のもので、とても質素なものだった。  ただいくつも山を越え、野ざらしのまま暖をとり、少しも変わらない景色には辟易(へきえき)してきた。 「あっ、またあいつだ」  見上げると、木の枝にとまっている。  鋭いクチバシ、混じりけのない純白の羽。ただ胸の部分には百合に似たマテューラという花を象った、金色の毛がはえていた。  神殿でルークの頭にとまった、東の方からの使者である。  ルーベルランドに帰ったと思ったが、ルークたちの前にときたま姿を見せるのだ。 「オレらを見張っているのかな」 Ⅸ 嘆きのパーシェの挿絵1  足場のわるい山道を、馬の手綱を牽きながら歩いた。  前方には、ヴァイン・レイルが黙々と坂道を登っている。旅に出てから数日経ったが、必要なこと以外は話すこともなかった。  ルークは、ヴァインとの距離を推しはかりながら付いていくしかなかった。  山道を登りきると、頂上付近にやってきた。  ヴァインがひと息つこうと、木陰のある場所を見つけた。馬に水を与え、それからルークに食べ物を渡した。いつもの干肉とパンで、これにも飽きてきた。 「あと、何日くらいかかるんだよ」 「いくつもの山を超える。そして――、さまざまなものを越えなければならない」 「なんて言うかさ、もっと凄いことできないの」 「凄いこと?」  山間に目をやっていたヴァインは、不思議そうな顔をした。 「あんたはラーガの後継者で、それなりの力があるんだろ。大魔法使いとか大賢者とかじゃないの。だったら目的地まで、魔法でパッパッと行けないのかなと思ってさ」  ヴァインは苦笑した。 「出来ないこともないが、今は必要ない。さっ、行くぞ」 「えっー、もう行くの。もう少し休もうよ」 「だめだ。日が落ちてしまう」  ヴァインは馬の手綱を取って腹をなでていた。 「日没までには、アスルに入る」 「アスル?」 「小さいが集落がある。今夜はそこで宿を借りる」 「わおっ! マジで」  ルークのテンションが上ったのは言うまでもない。  風をさえぎる寝床と暖かい食べ物。  それだけ想像したら元気になってきた。  ──夕方。  予定よりも早く、アスルに着いた。  想像していたよりも大きな集落だ。すり鉢状の地形にいくつもの家屋が点在していた。  この村は、王都直属の支配下にある東方地域の最後の集落地であるらしい。ここを抜けると中央の管轄から離れ、ラーガの威光がおよばない地域となる。  ルークたちは馬から降りるとあたりをうかがった。  まだ日は落ちていないが、家屋からもれる灯火や湯気はなく、誰の気配さえもなかった。  ヴァインは異変を感じ、ルークと手分けしてあちらこちらの家を調べてみた。  食べかけの食材。燃えきった暖炉の捲き。水がめには充分すぎるほど水が残っており、まるで村の者が忽然と姿を消したのかと思われた。 「ほんの数日前までは、住んでいたという感じだな」  寝床の上に脱ぎ捨てられた衣服を手にとると、若き大総師は自問した。 「何かあったのか」  ルークは、水がめのなかを覗いていた。  喉が渇いていたので、柄杓(ひしゃく)ですくって口に運ぼうとした。 「待て」 「えっ?」 「念のため毒味をしろ」 「毒味?」  ヴァインは柄杓の水を嗅ぎ、少しだけ口に含ませ、舌先で確認してから足もとに吐き捨てた。 「大丈夫のようだ」 「ど、毒って、どういうこと?」 「入ってないとは言い切れない。自分たちで調達していないなら注意したほうがいい」 「えええっ!」 「これから何が起こるかわからない。私は、毒の味や匂いなど口にすればわかるようにしている」 「そ、そうなんだ……」  まさか日常から命を狙われているのだろうか。  大総師ともなると、なかなか大変なのかもしれない。 「本来、そういう役目は、私自身がやることはないのだが」  ヴァインは腕を組むと、少しだけ嫌味っぽくつぶやいた。  旅の同伴者とはいえ、ルークはなにもしていない。  食料の用意も野宿の場所も、すべてヴァインが準備をしている。魔界の統治者にして大総師である彼にとって、普通であればありえないことだった。 「オレだって何か言ってくれれば手伝うさ」 「そうか。では、夕餉(ゆうげ)の仕度をたのもう。火をおこし、荷物から適当な食材をつかって準備しておいてくれ。この家の者には悪いが、今夜はここで寝るとしよう」 「わかったよ」  ルークはしぶしぶ従った。  ヴァインとともに荷物を運び、家屋の柵に馬を繋いでいると、ふと、かすかな声が聞こえてきた。 「あっ?」 「どうした」 「歌声が」  もう一度、ルークは耳を澄ました。  静寂(しじま)のなか、埋没するような、か細い声となにかの音色がある。 「なんだろ。琴のような音も聞こえる」  ヴァインも耳を澄ましたが、なにも聞こえなかった。 「こんな山奥で琴の音か?」 「気のせいかな」  もう一度、耳を澄ましたが、もうなにも聞こえなかった。  ヴァインが警戒するように四方に目をやった。  馬から降ろした荷物をルークに手渡すと、 「一度、このあたりを調べてこよう。その荷物を持って家に入っていろ」 「ひとりで大丈夫?」  ヴァインは小首をかしげた。 「ひとりの方が大丈夫だ」 「どういう意味だよ」  そういう意味だ、と軽く笑いながら、離れていった。  ヴァインは一ヶ所だけ調べたい所があった。 「ここには、目付け役のパーシェがいたはず」  村の中心に小さな塔があり、なかに聖堂があった。  王都から派遣されたパーシェが、村の状況を把握するために常任しているはずだ。聖堂に行けば、なんらかの手がかりがつかめるかもしれない。  塔に近づくと、ヴァインは小さく韻を唱えた。  聖堂に入るには彼らが決めた呪文が必要だった。内部はそれほど広くなく、誰もいないようだった。生活に必要な空間と祭壇だけがあった。  祭壇には、ラーガの御霊を顕したとされる三つの杖の紋章が奉られていた。パーシェたちはラーガを師と仰ぎ、もしくは神と崇めていた。  ヴァインはいつものごとく、祭壇に向かうと胸をあてて一礼した。さらに旅の無事を祈り、感謝をささげた。それから、この村のパーシェが使っていた居間に向かった。  居間に行くと、机のうえに何枚かの紙が散らばっていた。  書きかけの文字は乱れ、まるでもがき苦しんだ状態で筆を走らせたような感じだった。 「なにがあった?」  異様な文体に、ヴァインの表情はさらに険しくなった。 「いいだろう。この文字に宿る思念で調べてみることにしょう」  文字に手をかざすと、掌から青い光がともった。うねる文体から相手の思念を炙りだし、脳裏に引きよせる。ヴァインは目を閉じ、消えてしまったパーシェの姿を思い起こした。    初老の男が見えた。  真面目そうなパーシェで、ここでの任務をまっとうしている。  長年にこの村に住み、村の者にも親しまれているようだ。  彼は懸命になにかを綴っていた。指先が震え、文字が乱れている。何かを叫び、錯乱状態にいるようだ。文字を記そうとしたが、両手で耳をふさいだ。聞きたくない音でもあるのか、そんな仕草だ。  彼は机にうつ伏せになり、しばらく動かなくなったが、ふいに顔をあげると、机の上の紙をまぜっかえすように投げ捨てて、立ち上がった。  塔から出ると、なにかを叫びながら小高い山の方に走っていった。 「ここまでか」  思念を拾うのをやめ、窓から見える小高い山に目をやった。  どうやら、思わぬ異変が起きたようだ。  塔から出ると、ゆっくりとそれでいて警戒しながら山にむかった。急な勾配のため足場さえおぼつかなかった。しばらく進み、丘を越えると、小川が流れていた。  川沿いを歩いていくと、木の影に何者かが立っているのが見えた。  まるで白い影のように、こちらを一心に見つめている。  近づくと、髭をたくわえた初老の男だった。  白い長衣を着ているが、彼は涙を流しながらある方向を指差していた。  水の匂いがした。  林をかきわけ、指された方向へ登っていくと、木々のあいだから、ぱっかり開いたような空が見渡せた。  眼下には湖があり、村の大事な水がめになっているのだろう。 「これは……!」  ヴァインは絶句した。  水面に、(おびただ)しい数の遺体が浮かんでいた。  白目を剥く男。  ぽかんと口をあけて、青ざめている女や子供。  湖面をゆらす小さな(さざなみ)に漂いながら、数えられないほどの死体がひしめきあっていた。 「もしや、貴方さまは……」  ヴァインの顔を覗きこむように、さきほどの初老の男が近づいてきた。 「大総師さまでは?」 「そうだ」  おおっ、と、初老の男は叫んだ。 「幼き日の貴方さまに会ったことがあります。大きくおなりだ」 「そなたの名は」 「ゼルラル。かつて、神殿に仕えていたこともございます」  王都から任地であるアスルへやって来たそうだ。忠義の心があつく実直そうな目をしている。  しかし今の彼は、白い影のようで何者ともいいがたかった。 「何があった」 「こんなことになるとは……」  涙を流しながら、天を仰いだ。 「わかりませぬ。村の者は正気を失い、この湖に身を投げました。わたしも気がふれ、森の中を彷徨っていたようです。なにか不思議な音に誘われ、身も心も抵抗できず……、村の者を殺してしまいました」  はらはらと涙があふれ、パーシェは告白する。 「ああっ──なんということでしょう。ラーガさまの教えに背き、パーシェである誇りも失い、狂ったわたしはなんと罪深いことをしてしまったのでしょう。懺悔の書を記そうとしても、わたしの中にある魔物がそうさせなかった」  ゼルラルは力なくうなだれた。 「もはや生きている価値もなし」  トボトボと歩きだすと、向かったさきに彼とおなじ姿をした者が倒れていた。  仰向けになった死体はゼルラルそのもので、みずから短剣を胸に刺し、事切れていた。  彼は、生霊となって彷徨っていたのだ。  ヴァインは、この哀れなる霊体を天昇させることにした。 「ゼルラルよ。そなたの意思で罪を犯したわけではない。そなたの罪、我が胸のなかで贖罪とする」 「大総師。許してくださるとおっしゃるのか」 「みずからの死を受け入れ、天昇せよ」  ヴァインは、弔いの印を指で描いた。  ゼルラルの霊体は青く輝くと、空中にかき消えていった。  湖には多くの遺体が浮かんでいる。  ヴァインはそれらを見下ろしながら、どうしたものかと思案していた。  ふと、なにかの気配を背後で感じた。  あたりを探索したが、動物はおろか小さな生き物さえ見つけられなかった。  ヴァインはしばらく動けず、日は落ちてゆき、深い闇に捕らわれそうな自分を律していた。             ***  一方、ルークは、夕餉のしたくに悪戦苦闘していた。  湯を沸かしたり暖をとるにしても、火をおこさなければならない。  火をおこす道具が見つからず、自分でおこすしか方法がなさそうだった。ラ・ジェールで習った呪文を唱えてみても、いまひとつ芳しくない。小さな火種さえつけばなんとかなるのだが、いっこうに点かない。 「こういう魔法は苦手だったんだよな」  嘆いていると、戸口からヴァインが顔をみせた。 「なにをやっている」 「見てのとおり、火種を点けようとしているんだ」  ヴァインが出かけてから、かなり時間が経っていた。  荷は放置されたままで、もちろん夕餉さえできていない。 「もう一度、やってみろ」 「えっと……」  たどたどしく呪文を唱える。  両手を広げて交差し、ラ・ジェールで習ったとおりやってみた。  でも点かない。 「ダメみたい」 「習っただろ」  火を灯す魔法は初歩的なものだ。 「あむらぁ、あびた、あぁ、べりーざ」 「もっと、はっきりと」 「アムァ、ラビタ、ア~、ベリーザ」 「……」  ルークは根をあげ、もうやりたくないと言い出した。  ヴァインは、やるせなさと鬱屈(うっくつ)した思いに陥りそうだった。 「ともかく、飯を食うぞ」  このときばかりは年相応のぶっきらぼうな物言になった。  王都内であればけっして使わない言葉だ。  暖炉に火を点けてやると、家屋内が明るくなった。 「飯の仕度はするよ」  そそくさと用意をはじめる。  ヴァインは、そばにあった長椅子に腰をおろすと疲労感が増してきた。 「なるほど、兄者が反対したはずだ」  メイファイアの厳しい眼差しを思い出した。  最後まで東国行きには反対していた。ルークの足では山越えが出来ず、途中で断念するのではないかと案じていた。できることなら、手練れの従者を数名連れていくべきだとも言っていた。  確かに、そうした方がいいのはわかっていたのだが──。 (見誤ったか……)  ルークの技量は未知数だったが、これほど未熟な者とは思いもしなかった。第三の塔から物質を呼び寄せる術で鍵を手に入れ、脱出したことは聞いていたので、もう少し使えるのかと思っていた。  でないなら──、これからの行く末を考えると不安がつのる。 「飯、出来た!」  大きな声で、ルークが叫んだ。  ヴァインが土間に向かうと、ふたつある片方の釜には野菜で作ったスープと、もう片方の釜には、見たこともない大きな肉の塊を焼いていた。 「その肉はどうした?」 「貯蔵庫にあったから、もらった」 「もらった……」  ヴァインは呆れた。  不在とはいえ、この家の食材を勝手に拝借したらしい。  まるで盗人のようだが、ルークは悪いと思ってないようだ。  「大丈夫だよ。ちょっと味見はしたし、毒は入ってなさそう」 「そういう意味じゃない」  と、ここまで言いかけてやめた。  しょせんこの家の者は帰ってこない。明日、報告を兼ねて、王都へ書を送らなければならないだろう。あの遺体をどうにか弔ってやらないといけない。 「ありがたく──頂ことにしよう」  ヴァインは食卓につき、暖かい食べ物をひさしぶりに口にした。 「ん、おいしい?」  ルークの味付けは悪くなかった。  もしかしたら王都の食事より美味いかもしれない。 「そお? 前は料理なんか出来なかったけど、作ってみたらなんとなく出来ちゃった。なんか、ずっと誰かと作っていたような気がするんだよな」  ルークは天井を見上げながら、不思議そうな顔をしている。  思い出せない過去の体験が、料理の腕をあげさせたのだろうか。 「知らないあいだに、料理が上手くなったのか」  ヴァインは、ルークについてさらに考えてみた。  いったい何処で、どんなふうにエルモアと逢ったのだろう。  けして魔力は高くなく、(きらめ)く才能のようなものも感じない。  エルモアの魔力は、大尊師ラーガでさえしのぐほど広大無辺だったと聞く。  ゆえに〝先の戦い〟では、あらゆる礼をつくして彼女を招いたらしい。  当初、エルモアの紋章を胸に刻むルークを、その後継者かと期待した。彼の安全を第一に考え、誰にも悟られないように秘密裏に事を進めてきた。  しかしすべては、見込み違いだったようだ。  パーシェの育成機関ともいえるラ・ジェールにいたとはいえ、この程度の魔力では、白い長衣を授与されることさえ難しいだろう。 「われながら美味いな、これ」  あっという間にたいらげ、至福の笑みを浮かべていた。  ルークにとって、ひさしぶりに訪れた楽しい食卓だったのだ。 「あー、食った。食った!」 「元気だな」 「考えてみればさ、ずっと監視されて、閉じ込められていたんだ。やっと解放されたような気がするよ」 「私を目の前にしてか」 「そっか。そういえば、あんたが一番偉いんだった。でも大変そうだね、大総師って。オレだったら一日で嫌になっちゃうよ」  と、ゲラゲラと笑う。  ヴァインは、口に運びかけた、スープが入った(さじ)の手をとめた。  ラーガの時代から脈々とつづく、厳格なパーシェの中で育ってきたヴァインにとって、驚くほど奔放な精神をもっていた。パーシェの導師を師とも思わず、大総師を前にしても畏敬の念すらない。  これほど能天気な性格と接したことはない。  しかし──、このままでは駄目だと思った。  食事を終えたルークは後片付けをすませると、家屋の奥にある寝室にむかった。誰のものか知らないが、ここでたっぷりと休ませてもらおうと思ったのだ。  野宿つづきの旅では、最高の寝床ともいえる。床に入って、さあ寝ようとシーツを引き上げると、ヴァインが近づいてきた。 「起きろ」 「えっ、なんで。明日も早いんだろ」 「明日は出発しない」  ヴァインは、ボロの上着こそ脱いでいたが、腰にさした剣はずっと帯びたままだった。 「さあ、起きるんだ」  シーツを引っぺがすと、外に出ろとうながした。  ルークは、信じられないとばかりに騒ぎ出した。 「なにすんだよ!」  大きな広場に無理やり連れ出され、ヴァインはいかめしく足をひろげた。 「これから、おまえを指導する」 「は?」 「魔術というものが何かを叩き込む」  片手をあげると、手首のまわりに竜巻がおこった。  それをルークにむけて投げつけると、小さな痛みを感じた。 「いたっ!」 「《気》を張るんだ。自分のまわりを防護しろ」 「そんな術、出来るわけがないだろ! 習ってもいない!」  ヴァインは、また片手をあげた。 「ラ・ジェールの教えはすべて忘れろ。動作、形など、たんなる誇張にすぎない。これから本物の術を教える」 「本物──?」  ヴァインは、みずから告げた。 「借りものの魔法では役には立たない!」 「痛い!」 「《気》を張るんだ。呪文となる韻もただ諳んじるだけでは駄目だ。明確なる意思のもとで、発さなければならない」 「いででててっ、いて!」  小さな竜巻が、つぎからつぎへとルークに降りかかってきた。  殺傷能力は低いが、何度も当たるとダメージはある。 「どうした、逃げているだけではどうにもならないぞ」 「やめてくれよ、オレには無理だって」  ヴァインはさらに大きな竜巻をつくった。  竜巻がルークの頬をかすめると、切り口から血が流れてきた。 「渦の速度をあげた。今度当たると、おまえの体はバラバラになる」 「くっ」  ルークは必死で逃げまどった。  ヴァインは本気のようだ。 (このままでは、やられてしまう)  息があがり、体力が消耗してきた。 (《気》って、どうやって作るんだ……) 「そら!」 「うぎゃ!」  考えることすらできず、地面に足を取られて倒れた。 「体のすみずみに神経をはりめぐらせろ。強固な風圧をイメージし《サリアス》と唱えるんだ」 「サリアス……」  言われるままルークは挑んだ。  傷つきたくない一心で、体中の神経という神経をはりめぐらせた。  身体に厚い壁があるとイメージし、《サリアス》と唱えた。  竜巻は肩にむかって命中したが、ルークが作った風圧におされて軌道がずれた。 「これって……」  体を防御する《気》がルークの身を守っていた。  自分のまわりに、うすい膜をまとっているような感覚だ。 「《気》は、術者の能力によって向上し、体を護り、さらに岩さえ砕くこともできる。おまえの《気》は弱々しいが、鍛錬していけば強くなる」  ヴァインが近づくと、そっと頬の傷に手をかざした。  青い光りがあたると傷口がふさがった。 「ルーク。苦しいが耐え抜けよ」 「えっ!」  ヴァインはまた片手をあげた。  今度は指先からバリバリと音が鳴り響き、稲妻のような閃光があらわれた。 「うわっ!」 「さあ、耐えてみろ」  ラーガの後継者は、無常に片手をふりおろした。 「いまだけ──、私を師と仰ぎ、教えをもとめよ」  その表情は、神殿の大聖堂に掲げてあった大魔法使い(ラーガ)を思いおこさせるようだった。  両手をひろげ、すべての者を導き、  (したた)かなる手腕で魔界を平定した、かの異端者のように──。  

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  • ミミズクさん

    羽山一明

    ♡2,000pt 〇100pt 2022年1月28日 2時25分

    魔法の技量はてんでダメなようですが、記憶にない料理の腕前だけはちゃっかり上がっているのが少しだけ切ない。できないのではなく目覚めていないだけで、エルモアだけがその技量を見抜いていた…とかはちょっとルークに都合が良すぎますか。なんにせよ、彼はもう少し根気を身に着けねばなりませんね。

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    羽山一明

    2022年1月28日 2時25分

    ミミズクさん
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年1月29日 0時50分

    応援、コメント、貴重なポイントありがとうございます。 「ルーク覚醒」とかあればいいんですが、なかなか成長が遅い子です。元気ですが、空回りも多くて。(^^;)でも、地味ながら重要なスキルはあります。いつか、きっとお披露目を(遠い目)。誤字ありがとうございます(≧▽≦)感謝。

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    ななせ

    2022年1月29日 0時50分

    女魔法使い
  • 猫

    けーすけ@AI暴走中!

    ♡1,000pt 〇50pt 2021年11月23日 23時35分

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    楽しませていただきました

    けーすけ@AI暴走中!

    2021年11月23日 23時35分

    猫
  • 女魔法使い

    ななせ

    2021年11月24日 22時33分

    応援、貴重なポイントありがとうございます。励みになります☺️

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    ななせ

    2021年11月24日 22時33分

    女魔法使い
  • 野辺良神社の巫女

    花時雨

    ♡500pt 〇20pt 2021年11月15日 19時10分

    ルーク君は相当に図太いですね。ヴァインとの意識のずれはとてつもなく大きそうで珍道中っぽくなっていますが、彼の知らない所で起きていた事態を考えると、どんどん強くなってもらわないとヤバそうです。スパルタ教育必至ですね。頑張れ。

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    花時雨

    2021年11月15日 19時10分

    野辺良神社の巫女
  • 女魔法使い

    ななせ

    2021年11月15日 22時38分

    応援、貴重なポイントありがとうございます。そうですね。ルークはかなり気分屋で図太い。魔法の習得も、亀さん速度ですwちょっとだけ成長しますが。。。脱字を見つけてくださり、いつもありがとうございます。感謝いたします。(≧▽≦)

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    ななせ

    2021年11月15日 22時38分

    女魔法使い
  • 文豪猫

    涼寺みすゞ

    ♡1,000pt 〇10pt 2022年5月6日 6時40分

    ヴァイン……容赦ねぇΣ( ̄ロ ̄lll)

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    涼寺みすゞ

    2022年5月6日 6時40分

    文豪猫
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年5月9日 19時03分

    ビシバシ行きます😅 ルークは、ちょっとだけ成長するかもです。(中身はまったく変わりませんがw)

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    ななせ

    2022年5月9日 19時03分

    女魔法使い
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    ♡100pt 〇10pt 2022年5月12日 23時10分

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    君なら世界を救えるかもしれない

    くにざゎゆぅ

    2022年5月12日 23時10分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • 女魔法使い

    ななせ

    2022年5月13日 7時48分

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    うれしぬ

    ななせ

    2022年5月13日 7時48分

    女魔法使い

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