ヤオヨロズ・シティポップ

読了目安時間:7分

説明しやがれ、ちあきち

 季節は進み四月。  晴れて柳高校の一年生となった俺は、桜が舞う通学路で食パンを咥えた女子高生と衝突していた。驚くことに、本日すでに三度目である。  何度も頭を下げ、波風を立てずにやり過ごす。ここで言い争えば、教室で()()再会して「あー、あのときの変態!」と叫ばれるオチが待ち受けているのだろう。三重奏で。  おかしい。全てがおかしいのだ。  思い返せば、入試問題だっておかしかった。直前に勉強していた範囲が()()出題された。普通なら「ヤマが当たったゼ」と喜べるだろうが、得体の知れない幸運が二ヶ月も続けば話が変わる。   道を歩けば美少女とのイベントに発展するし、俺と陽向のお小遣いは理由もなく倍増した。雨予報でも一切濡れることなく帰れるし、赤信号にも引っ掛からない。茶柱は総立ちで、毎日健康だ。  朝の報道番組の占いに至っては、ずっと一位をキープしている。蟹座、蟹座、蟹座。怒涛の蟹ラッシュだ。留まることを知らない甲殻類への忖度は「ムジテレビの社長が蟹漁師に代わったのでは」とネットで噂されるほど話題になっている。  要するに、不自然すぎるほど幸運なのだ。  人生における幸福の総量は、誰しも決まっていると聞いたことがある。それが事実なら、俺の幸福は謎の力によって前借りされているのではないか。幸せのエナジードリンクをガブ飲みしている状態だとすれば、後に待ち受けるのは破滅だ。  運気のしっぺ返しを想像してしまい、暖かいのに寒気に襲われる。タイミング良く青に変わる信号に、もう許してくれと願いながら柳高校へと向かった。  入学式は滞りなく終了し、クラス分けが発表される。俺はC組に振り分けられた。教室に入ると、見知った顔が何人か居たのですぐに固まった。馬鹿が集まると、話題は可愛い女子へとシフトする。それぞれの目撃情報を持ち寄って、早くも推し生徒を熱く語っていた。 「千晃はもう可愛い子見つけた?」  同じ中学だった竹田が問うてくる。正直、血眼になって可愛い女子を探す余裕など無かったので「赤い髪の子が綺麗だったな」と適当に話を合わせていると、それが笠置さんの特徴と一致していることに気が付いた。 「ああ、ピアスがいっぱい付いてる子だよな。確かに綺麗だった」  竹田の発言に、思わず固まる。  回り始める運命の歯車を、なんとか止めたかった。 「そんな子が実在するわけないだろ」 「お前が言ったんじゃねえか」  訝しげな視線に、曖昧な笑みで対応する。  冷や汗が止まらない。ヘッドホンが当選した日から、どこかで再会する予感はあった。もしかすると、()()()に同い年で、()()()()()()()()()()()同じ高校を受験している可能性は考えていた。 「千晃のお気に入り、同じクラスじゃん」  竹田が教室の前方を指差す。そこには、赤い髪の女の子が立っていた。少し着崩した制服と、ピアスが見えるようにヘアアレンジされた赤い髪。そして、真っ白な肌と整った顔。  あまりにもご都合主義な展開に苦笑いしていると、笠置さんとばっちり目が合ってしまう。 「やっぱりいた」  目尻を下げ、つかつかとこちらに近寄る。 「ねえねえ、無事に見つかった?」  吐息がかかる距離。毛穴など存在しないのではないかと疑うほど、つるつるの肌。ぱっちりと大きいのに、どこか眠そうな目。笠置さんが放つ不思議な魅力に圧倒され、陽向についての問い掛けだと理解するまでに数秒の時を要した。 「ちゃんと見つかったよ。ありがとう」  俺は一歩後退し、お礼を述べる。 「そっか。よきよき」 「それより、やっぱりってどういうこと」 「節分祭の日に言ってたから。女の子が」 「陽向が?」 「うん。柳高校(ヤナコー)合格、間違い無しだねって。だから同じ高校なんだなって」  よく覚えていないが、合格祈願をしていたのは確かだ。笠置さんは俺達の後ろに並んでいたらしいので、会話が耳に入ったのだろう。 「……キミの名前、教えて」  そういえば、伝えてなかった気がする。 「久美浜千晃だよ」 「ちあきち」  笠置さんは満足そうに頷き、自分の席へ向かってしまった。ちあきちとは、俺のあだ名だろうか。なんというか、老夫婦に飼われる柴犬のような名前だ。 「お前、あの子と面識あったのかよ」 「なにあの距離感。もう彼女じゃねえか」 「説明しやがれ、ちあきち」 「そうだぞ。ちあきち」  野郎共から抗議の声が飛ぶ。  お前らがちあきちって呼ぶな。  対応に四苦八苦していると、いつの間にか教壇に担任とおぼしき男性が到着していた。そそくさと自分の席につく。窓から吹き込む春風が、有り難いお言葉をかき消すように眠気を運んできた。 ◆ 「ちあきち」  終業のチャイムと共に、笠置さんが俺の席に寄ってくる。妙なあだ名はすっかり定着してしまい、早くも受け入れつつある自分が居た。 「なにか良いもの当たった?」  なんのことかと逡巡し、福豆の抽選に思い当たる。このタイミングを待ちわびていたかのように、件のヘッドホンが記憶の棚から落下した。  伝えるべきか悩んだが、謎の幸運が舞い込んでくる状況だ。隠したところで、運命が辻褄を合わせるのだろう。素直に白状することにした。 「笠置さんが欲しがってたやつ、当たったよ」 「みほろって呼んでほしいな」  少し不満気な表情に変わる。 「……みほろが欲しがってたヘッドホンが当選した」 「いいの? ありがとう」 「貰う前提で話をしてやがるな」  俺の指摘に「バレたか」と口角を上げる。冗談なのか本気なのかわからないが、どうせ手渡すつもりで保管していたので別に良かった。俺は音楽に疎いし、陽向はイヤホンで事足りますなあと言っていたので、使い道が無かったのだ。 「まあ、最初からあげるつもりだったけどな」 「え、そうなの」  しまったと後悔したが、もう遅かった。  再会できるかもわからない相手のために、ヘッドホンを保管していたなんて不自然すぎる。俺の最近の運勢や、数奇な巡り合わせをみほろは知らない。語ったところで、変な宗教に傾倒していると引かれるのがオチだろう。 「使い道が無くて保管してたんだ。みほろの顔を見たら思い出した。今、まさに今思い出した」  しどろもどろになりながら、必死に言い訳を述べる。 「そっか。じゃあ、なにかお礼しなきゃ」  弁明を気にする様子はない。もしかすると、細かいことを気にするタイプではないのかもしれないと推察した。 「何がいいかな、天ぷらでも揚げようか?」 「天ぷら」 「うん。揚げたことないけど」  適当すぎる。脊髄反射で会話してんのか。 「でも頑張るから、期待してて」  そもそも天ぷらを望んでないのだが、あまりにもやる気を見せるものだから、どうでもよくなってきた。  おそらく、この笠置みほろという人物は、俺の人生においてメインヒロインのポジションなのだろう。朝の食パン三重奏(トリオ)と異なり、みほろとは出会うべくして出会ったような気がするのだ。  ぼんやりと、整った顔を眺める。  みほろと付き合えば、誰もが羨む美男美女カップルが誕生するのは間違いない。仲睦まじく登校する姿は評判となり、周囲の評判はにょきにょきと上昇すること請け合いだ。陽向の友人も、俺への評価を改めるはずだ。 「どうかした?」 「いや、別に」  慌てて視線を逸らす。  このままだと、俺は間違いなく恋に落ちる。単純な好み云々ではなく、ここ二ヶ月の経験から推察した結論だ。運気の流れには逆らえないし、運命には抗えない。  だが、それは本当に恋と呼べるのだろうか。  得体の知れないレールに乗せられて付き合うのが、幸せに繋がるのだろうか。それに、二ヶ月間の幸運が不幸への布石で、レールの先が奈落の底に通じている可能性だって否めない。不安要素は山積みだ。  そもそも、なぜ俺の運命が回り始めたのか。発端が吉田神社なのは間違いないが、理由がわからない。あの日行ったのは、参拝と福豆を購入したくらいだ。それだけでハッピーになるなら、争いなど存在しない。  悶々とする俺の背に、野郎共が「また明日な、ちあきち」などと、妙な節回しに乗せて言葉を浴びせてくる。なんだか節分祭で見かけた老人の歌を彷彿させたので、思い切ってみほろに質問してみた。 「節分祭の日にさ、変な集団を見なかった?」  ぽかんと口を開けるみほろに、装束集団の特徴を伝える。あの場に一緒に居たのだから、間違いなく目にしているはずだった。しかし、俺の僅かな希望を打ち砕くように「見てないなあ」と首を傾げてしまう。  じゃあ、あれは俺の幻覚とでもいうのか。  考えても答えは出ず、脳味噌の回転数だけが上昇していく。禅問答のような自問自答に、胃袋がキリキリと悲鳴を上げた。

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  • ひよこ剣士

    中山喬丞

    ♡100pt 〇10pt 2021年4月7日 18時30分

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    ファンタスティック!!!

    中山喬丞

    2021年4月7日 18時30分

    ひよこ剣士
  • ジト目ノベラ

    新田漣

    2021年4月7日 20時14分

    中山さん、こちらも応援してくださりありがとうございます!!励みになります!!🙆

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    新田漣

    2021年4月7日 20時14分

    ジト目ノベラ
  • 魔法剣士

    月原蒼

    ♡3,000pt 2021年4月1日 15時50分

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    次回も期待してるぜ!

    月原蒼

    2021年4月1日 15時50分

    魔法剣士
  • ジト目ノベラ

    新田漣

    2021年4月1日 19時57分

    月原さん、大量のポイントありがとうございます!励みになります(;_;)次話からどんどん話が転がっていくので、また読んで頂けると喜びます!

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    新田漣

    2021年4月1日 19時57分

    ジト目ノベラ
  • 野辺良神社の巫女

    九十九美櫛

    ♡2,000pt 2021年3月31日 21時47分

    流石のコメディ乱舞。読んで笑って読んでツボって、とても元気になれました。ありがとう🥳

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    九十九美櫛

    2021年3月31日 21時47分

    野辺良神社の巫女
  • ジト目ノベラ

    新田漣

    2021年3月31日 22時09分

    九十九さん、いつもありがとうございます!!🥳実は前作よりコメディ要素を減らしてるのですが、それでも笑って読んでくれて嬉しいです!!!!こちらこそありがとう!!!

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    新田漣

    2021年3月31日 22時09分

    ジト目ノベラ
  • かえるさん

    あまがみこ

    ♡1,000pt 2021年4月5日 8時17分

    みほろぉ〜!!!!(ちあきちと同様に恋におちそうな僕)

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    あまがみこ

    2021年4月5日 8時17分

    かえるさん
  • ジト目ノベラ

    新田漣

    2021年4月5日 17時54分

    あまがみこさん、応援ポイントありがとうございます!!みほろ良いキャラですよね……書いててめちゃくちゃ楽しいです。ちあきちとの関係性も期待しつつ、続きもお付き合い頂けると嬉しいです!!

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    新田漣

    2021年4月5日 17時54分

    ジト目ノベラ
  • ジト目ノベラ

    朱音あすか

    ♡1,000pt 2021年4月1日 18時14分

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    なんだこの胸の高鳴は・・・!

    朱音あすか

    2021年4月1日 18時14分

    ジト目ノベラ
  • ジト目ノベラ

    新田漣

    2021年4月1日 19時58分

    あすかさん、応援ポイントありがとうございます!!前作と違ってめちゃくちゃ変なヒロインですが、徐々にハマってくれるようなキャラになるはずです……多分!

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    新田漣

    2021年4月1日 19時58分

    ジト目ノベラ

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