バサラの気持ち

 おやつを食べて、今日の晩ご飯に頼むピザを選んで、それから図書館に向かった。  図書館の帰りにピザ屋に寄ってもよかったけれど、ここからだと少し遠いのだ。  返却カウンターで本を返すと、また気になる本を数冊選んで借りた。  陽介とバサラは何も借りていなかったけれど、面白そうな本は見つけたらしかった。 「お待たせ」  本を読んでいた人に声をかけ、図書館を出た。  家に返ってピザの注文を済ませると、干していた洗濯物を入れに階に上がる。  陽介はもう少し宿題を頑張るそうで、バサラが洗濯物を畳むのを手伝ってくれた。 「清知、随分と変わったねー」 「……そんなにか?」 「うん。今まで作り笑いばっかりだったでしょー? それに、陽介から自分の意見を言うことなんて、全然なかったもん」  バサラは、陽介のズボンを畳みながら優しく微笑んだ。  バサラから、俺はそんな風に見えていたのか、と驚く。  作り笑いをしていたこと、バレてたんだな。 「俺はね。前の清知のことも好きだったけど、今の方が、楽しそうに笑ってる清知の方が、いいなー」 「バサラ……」 「俺、最初のころは、清知に嫌われてるのかなーって思ってたんだ。中学の時は、陽介にちゃんとした笑顔見せてて、俺が一緒にいるようになってから作り笑いするようになったのかなって」 「そんなことねぇよ!」  バサラは俺の下着を畳んで、クスクスと笑った。  そんな風に思わせていたことに気付かなかった俺は、少し罪悪感を覚えた。  高校生になって、バサラと陽介が先に仲良くなった。  年で人とも同じクラスになったけれど、年の時は俺だけクラスが違った。  まだ高校生活が始まって週間ぐらいの昼休みに、いつも陽介と一緒にご飯を食べている屋上に行くと、知らない人が先にいた。 「君、もしかして桜井くん?」 「……えーっと?」 「俺ね、豊海っていうんだけど……」  第一印象からして優しそうなやつだな、と思った。  高校で受験してきたバサラは、その時はまだクラスに友達ができていなかった。  それを見つけた陽介が、バサラを昼ご飯に誘ったらしい。 「で、その陽介は?」 「あぁ、えっとね。職員室に寄ってから来るって言ってたよー」  屋上に行けばそのうち俺がくるから、と言われて先に屋上に上がってきたそうだ。  宿題の提出でも遅れたんだろうか。  しばらく待っていると、陽介が来て、人で一緒に昼飯を食べた。  それから毎回陽介はバサラを連れてきて、いつの間にか人で一緒にいることが多くなった。  バサラは第一印象どおりで、裏表がなかった。  誰かを悪く言ったりすることもないし、意外とさっぱりした性格だったから、付き合いやすかった。  あぁ、それでも俺は、確かに作り笑いしかしていなかったかもしれない。 「清知の作り笑いは陽介の前でも一緒だったから、嫌われてるわけでもないのかなぁとか、どっちも嫌われてるのかなぁとか、色々考えてた」 「……」 「でも、他の人といるときも変わらないように見えたから、それが清知なんだろうなぁって思ってたんだけどね」  服を全て畳み終わって、手持ち無沙汰になった。  それでもバサラは、優しい微笑みを絶やさずに、自分の気持ちを話してくれた。 「でも、昨日会ったらすごく変わってた。自然体でいるような気がしたんだよね。それ見てたらさ、俺たち嫌われてなかったのかなーって思って、安心しちゃった」  ヘヘッと照れたように笑うバサラ。  俺はバサラに、ごめん、と呟いた。 「俺はね、清知と陽介といるの、すっごく楽しいよ。でも、誰かが楽しくないのはあんまり好きじゃない。いつも歩下がったところから俺たちを見ていたような清知が、隣に並んでくれてるのはすごく嬉しいよ」  バサラそう言って満面の笑みを浮かべると、自分の分の服を持って、俺の部屋に行ってしまった。  俺は自分のと陽介の服を持ってバサラを追いかける。  部屋に入ってから、バサラ、と呼びかけた。 「んー?」  いつもの笑顔で振り向いたバサラに、俺は思わず目を逸らしてしまった。 「その、楽しくなかったわけじゃない。けど、俺は感情を表に出すのが下手だから。そんな風に思わせていたこと、悪かった。でも、変わりたいと思うから。今はまだ上手く感情を出せてないかもしれないけど」 「うん」 「俺は人といて、楽しいよ」  俺は逸らしていた目をバサラに戻し、満面の笑みを浮かべた。  目を丸くしたバサラも、すぐに笑顔を返してくれた。 「俺もだよ」  俺たちは少しの間一緒になって笑うと、持っていた服を片付けた。  陽介のはどうすればいいから分からないから、とりあえず鞄の上にでも置いておこう。  それからさっき畳んだタオルと取りに戻ってから階に下りた。  タオルを直していると、インターホンが鳴った。 「陽介ー! 変わりに金払っといてー」 「了解!」  リビングにいる陽介に会計を任せ、俺はちょっと崩してしまったタオルを元に戻してから、リビングに戻った。 「すっげーピザの匂い」 「ピザ頼んだからな!」  バサラがお茶や皿の準備をしてくれる。  ピザの切り分けは陽介に任せた。 「これって切れ目入ってるくせに、切れてないよな」 「確かに」  陽介が切れ目の上から包丁をいれていく。  ピザをカットするコロコロって回るやつ、なんていうのかわかんないけど、あれ欲しいよな。  なんか楽しそうだし。 「いただきます! んほっ美味い」  陽介に続いて俺とバサラもピザを食べる。  クリスピーのパリパリも好きだけど、今食べているのはふわふわのパン生地だ。  男人ならこの量もいける。それにこの人がいるしな。  枚頼んだピザのうちの枚は、耳のところにチーズが入っている。  もう枚はクリスピーだ。  お金はお母さんが旅行に行く前に置いて行ってくれたから、今回は自腹じゃあない。  大量に乗っているチーズが中々途切れない。  枚に種類の味があるピザを枚。もう枚は全部同じ味のものを頼んだ。  最初は種類の味があるピザを枚買うことにしようと思っていたのだが、人一致で食べたいものがその種の味の中になかったのだ。  ピザ以外のものは頼まなかったから、冷蔵庫の作り置きサラダを出しておいた。  今のところ皆ピザに夢中だ。 「ピザ食ったの半年ぶりだわ、うまっ!」 「俺、高校入ってから初めてかも」 「俺はねー、半月前に食べたなー」  バサラが意外と最近に食べていた。  兄弟の誕生日に食べたらしい。 「これ食べ終わったら宿題の続きでもするか」 「清知の鬼! 悪魔!」 「俺は正真正銘の人の子ですー」 「心が!」 「心は綺麗だよ」  真顔で答えた俺に、バサラが吹き出した。  つられて俺と陽介も笑ってしまった。  晩ご飯を食べた後はまた少し宿題を進めて、寝る用意をして布団に入った。

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