陽介の気持ち

 会計を済ませてスーパーを出ると、家までの道を歩き出した。  俺は早く帰って晩ご飯の準備をしたかったのだが、陽介がゆっくりと歩いた。買い物袋が重いのかと思い、俺は陽介の歩くペースに合わせてトボトボ歩く。  信号を渡って、堤防を歩いていると、ずっと黙っていた陽介が口を開いた。 「清知は、週間ですっごい変わったよな」 「……俺もそう思う」  隣を歩く陽介の表情は、ちょうど逆光になっていて分からなかった。  また黙ってしまった陽介に、俺はかける言葉が見つからなかった。  もしかして、変だっただろうか。  そんな不安な気持ちが湧き上がってくる。 「今まで自分を隠してた清知が、自分を見せてくれるようになったこと、俺はすごく嬉しいよ。今までは俺たちといて、楽しくないのかと思うこともあったから」  やっぱりそんな風に思われていたんだ。  自分の感情を表に出さないのは、不利なことなのかもしれない。  俺は陽介の言葉に耳を傾ける。 「中学のころはさ、うっとしいと思われてるかもって思ってたけど、清知と仲良くなりたかったから、ずっと話しかけ続けてた」  初めて陽介と会ったのは中学の始業式のときだった。  クラスが同じで、隣の席だった陽介が、これからよろしく、と笑いかけてくれたんだ。  俺もよろしく、と笑ったけれど、作り笑いだったことは覚えている。  陽介はすぐにクラスに溶け込んで、周りにはいつも友達がいっぱいいた。  小学校からの持ち上がり組の人とも、すぐに仲良くなっていて、休み時間になると陽介の席の周りはすぐに人で埋まった。  隣の席だった俺は、休み時間になるといつも教室を出ていた。  煩かったとか、邪魔だったとかじゃない。  皆の中心で笑っている陽介が眩しかった。 「桜井! 待って!」  いつもは追いかけてなんて来なかったのに、その日だけ陽介は俺の後を追ってきた。 「何? どうかした?」  俺は作った笑顔を顔に張り付けて振り向いた。  陽介は俺を、その日のお昼ご飯に誘ってきたんだ。  バサラの時と同じだな。 「別にいいけど、俺でいいの?」 「桜井が良いんだって!」  他のクラスメイトもいっぱいいると思っていた。  けれど昼になって陽介に連れていかれた屋上に出ると、そこには誰もいなかった。 「ここ、全然人が来ないんだよ。別に立ち入り禁止でもないのに」  陽介は笑いながら弁当を広げる。 「いつも人で食ってんの?」 「いや? 皆と。桜井はいつも人でいるほうが多いから、人が苦手なのかと思って。誘うならここが良いかなって思ったんだ、けど」  いつも明るい笑顔が陰った。  こいつ、笑う以外の表情もするんだ、とか考えてたっけ。 「迷惑だったか?」 「いや、そうじゃないけど。他の皆と食べなくていいのか?」 「今日は桜井と食いたかったんだよ」  また笑顔に戻った陽介の隣に座り、俺は弁当を広げた。  断るという選択肢は俺にはなかったし、断るほどに嫌だという感情も湧いてこなかった。  ただ昼ご飯が食べられるなら、なんだってよかった。  その時から、陽介は俺を昼に誘うことが増えていった。  けれど、そういう時は毎回屋上で人で食べた。 「俺、小学生のころはこんなキャラじゃなかったんだ。ずっと隅っこでいるようなやつだったよ」  俺は陽介の言葉に、我に返った。 「中学で変わりたかった。だから知ってる人がいないこの学校に受験して、自分を変えた。でも、いきなり変わろうとするのは難しいから、時々息が詰まったときは屋上に行ってたんだ」  そんな話、知らなかった。  いや、何の意味もないと思っていた。気にしたことがなかった。 「その場所に連れてきても良いなって思ったのが清知でさ。こいつと仲良くなりたいって思ったんだよ。清知のちゃんと笑った顔が見たいなって」  俺は何それ、と苦笑する。  陽介も俺の方を向いて、同じように苦笑いをした。 「清知が変わって……たぶんすごく大変だったんだろうなって思う。今までずっと、自分を曝け出すことなんてなかっただろうしさ。でも、俺は自分を見せてくれるようになってくれたこと、すっげぇ嬉しいと思う。だから、ありがとな」  照れたように笑う陽介が、夕日よりも眩しく見えた。  こいつの笑顔はいっつも眩しい。 「俺は人といるのは楽しいよ。……でも、今まで人を知ろうとしてなかったから、分からないこともいっぱいある。だから、これからもよろしく」  俺は陽介に負けないような笑顔を返した。  なんか急に照れくさくなって、少し笑いあった後、俺たちは急いで家に帰った。 「ただいま! 遅くなった!」 「おかえりー。大荷物だ。俺も行けばよかった?」  俺たちが両手に持っているスーパーの袋を見たバサラは、読んでいた本を置いて手伝ってくれた。 「今日の晩ご飯、何作るつもり?」 「ミートドリア」 「美味しそー」  俺は急いでミートドリアを作る。陽介には片付けを任せるから、俺が作っている間は宿題をさせた。終わらなかったらお母さまからのゲンコツだし。絶対に嫌だし!  バサラは俺の本棚から取ってきたらしい小説を読んでいる。  バサラが気に入りそうな小説なんて、俺持ってたかな……?  俺は皿に入れたドリアをオーブンに入れて、完成するまでの間に片付けを済ませる。  テーブルを片付けて、食べる準備が整った。  まだ時間はあるし、俺は少し休もうとソファーに寝ころんだ。 「清知ー? おーい」  目を開けると陽介が見えた。 「んんー。なんだよー。あとじゅうじかんー」 「寝すぎだから! ドリアできてるぞ! 早く起きないと全部食うぞ?」  俺は急いで飛び起きると、ごめん、と言って席に着いた。  テーブルには、オーブンから出してくれていたドリアが待っていた。 「いただきます」  人で手を合わせる。  俺は人がドリアを食べるのをじっと見ていた。 「ん、美味しー!」 「あふい……はふはふ……。清知! 超美味い!」  初めて作ったミートドリアは上手くいったようだ。  俺も人に続いてドリアを食べた。 「あっつ……」  口の中を火傷してしまったけれど、確かに美味しかった。  でも熱い。俺は急いでお茶を飲む。 「片付けは俺がするからな!」 「俺も手伝う」  陽介とバサラに片付けを任せ、俺は風呂掃除をすることに決めた。  ご飯を食べ終え、片付けも終わり、寝る用意も済ませた俺たちは、俺の部屋にいた。  この前新しく買ってもらったテレビで、この前と同じカートゲームをしていた。 「あ、そうだ陽介」 「んお? なんだ?」 「今日はお前がベッドな」 「なんでだ!?」 「朝起きたらバサラが布団の外にいるから。陽介、寝相悪すぎ」  俺は陽介にカメを投げつけながら笑う。  マジか! と声をあげるのと同時に、俺が投げたカメが陽介のカートに命中した。  しばらくゲームをした後、俺たちは布団に入って眠りについた。

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