魔童貞殺し

読了目安時間:5分

エピソード:28 / 34

思わぬ追跡者

 ラドルヌスの南東部は、商会館などの建物が並ぶ「商業地区」に、その小洒落(こじゃれ)た感じの建物はあった。この建物の看板にはひなげしの花の紋様があり、その下には「雛罌粟(ひなげし)(かん)」と書かれている。  やがて、玄関から三人の若者たちが姿を現す。言うまでもなく、ヴィックたちであった。 「さて。おれたちは宿に戻るが、お前はどうする?」  ヴィックに問われたドロテオは、苦笑いを浮かべながら答える。 「もちろん、ついてくに決まってまさあ」  彼は両手に抱えた、横長の大きめな木箱を(かか)げながら続ける。 「こいつは、最後まで責任もって運びますぜ?」  彼が運んでいるのは、ひなげし(かん)女将(マダム)から借りた、ドレス一式であった。 「悪いな、ドロテオ」 「いえいえ、これくらい当然でさ。それに、バルトロの親爺(おやじ)さんにも久々に会いたいですしね」 「それにしてもさ……」  ドロテオの持つ木箱を見つめながら、サラは言う。 「意外にも、快く貸してくれたね?」 「ああ。確かに、意外だったな」  ぼんやりと答えながら、ヴィックはつい先ほどまでの事を思い出していた。  「ひなげし(かん)」に着いた時など、最初は用心棒が出てきて、追い返されかねない雰囲気だったが、「レープレ家」の使いの者である事を説明して、手紙と手間賃入りの袋を差し出すと相手の態度は一変し、女将(マダム)御自(おんみずか)ら彼らを館内に迎え入れた上、彼女の見立てた「サラの身体にぴったりであろう」ドレスを渡してくれたのである。 (それにしても、(つや)っぽい(ひと)だったな……)  ヴィックは、ぼんやりとかの娼館の女将(マダム)――三十代半ばくらいの肉付きの良い女性――の事を思い浮かべていた。  「レープレ家の当主」からの手紙に目を通した彼女はヴィックらの目的を知ったらしく(恐らく、手紙に書いてあったのだろうが)、ある事を話してきたのだ。何でも、ひと月くらい前に、この娼館の娼婦が一人、何者かにさらわれたらしい。恐らく、かの魔道士の餌食になったであろうその娘の(かたき)を、どうか討ってあげて下さいましと、女将(マダム)は深々と頭を下げたのであった。 「それにしても――」  ドロテオの言葉に、ヴィックは我にかえり、弟分に目をやる。すると彼は、でれでれと鼻の下を伸ばしながら言った。 「あの女将(マダム)ったら本当、すげえおっぱいしてやしたねえ?」  ヴィックは心の中で、確かに、あれはすごかった、などとつぶやく。事実、ドレスに包まれた女将(マダム)の胸元は、まるで、そこに南瓜(かぼちゃ)でも入れているのかと疑うくらいに大きかったのである。 「ところで、ドロテオ……」  ヴィックは苦笑を浮かべながら、にやついている弟分に言う。 「見惚(みと)れる気持ちは分からんでもないが、だからってお前、無遠慮にじろじろ眺めるのはどうかと思うぞ?」  その言葉を聞いたサラが、彼に歩み寄る。 「ねえ、ヴィック……」  そう言う彼女は笑顔を浮かべていた。だが、その目は笑っておらず、嫌な予感を覚えたヴィックは思わず後ずさる。しかし、サラは素早く彼を捕まえると、両の頬をぎゅっとつねった。 「()てっ!」  ぎゅうぎゅうとヴィックの頬をつねりながら彼女は言う。 「あんたに、ドロちゃんの事を責める資格があるのかい? あの女将(マダム)のおっぱいを、何度もちらちらと見てたくせにさ!」  サラに両の頬をつねられて、目に涙を浮かべて痛がる兄貴分を眺めながら、ドロテオは感心したような表情を浮かべた。 「なるほど。凝視しねえで、何度も素早く覗き見るなんて、さすが(あに)ぃだ!」 「()ててて……。変な事に感心してないで、助けてくれよ!?」 「あの(ひと)と違って、あたしゃ、おっぱいの小さい女で、悪うございましたねえ!」  目をつり上げながらヴィックの頬をつねり続けるサラを、ドロテオは慌ててなだめる。 「サラの(あね)さん、あの女将(マダム)を基準にしちゃいけねえ! そんな事したら、この世のほとんどの女のおっぱいが、小せえって事になっちまいやすぜ?」  彼がそう言った時だった。 「道のど真ん中で、何、騒いでんだか……」  呆れたような声が聞こえ、一同が声のした方に目をやると、そこにいたのはアレッサだった。 「まったく、何やってんのよ?」  彼女は腰に手を当てると、大きくため息をついてみせたのである。 「――何だって、あいつを連れて来たんだ?」  苦虫を噛み潰したような表情で、ヴィックとドロテオに水の入った杯を渡しながら、バルトロは彼らに同席する。  <(あか)(わし)亭>にドロテオのみならず、アレッサまで連れて戻ってきたヴィックたちを、亭主は、見るからに不機嫌な面持ちで出迎えたのだった。 「まあまあ、親爺(おやじ)さん、そんな事言わずに――」  自分をなだめようとするドロテオの言葉を、彼を睨みつける事で(さえぎ)ると、バルトロは言う。 「おれがあいつをどう思ってるか、知ってんだろうが? だのにお前は、あの女を(かば)いやがる」  そう言って舌打ちすると、彼は今度はヴィックに目を向ける。 「おめえも、どうかしてるぜヴィッキー。あんな仕打ちをした女なんざ、追い返しゃいいのによ」 「仕方が無かったんだよ――」  苦笑を浮かべながら、ヴィックは説明する。  アレッサがヴィックらの元へ来たのは、ドレスの着付けのためだった。ヴィックたちがあじとを後にした後、彼女は「あの妙な装束を着ているサラが、ドレスをきちんと着られるのか」が気になり、グラッソに相談したところ、行って着方を教えてやれ、という事になったらしい。そして彼らに追いついたアレッサが確認したところ、案の定、サラはドレスの着方など知らず、結局、ヴィックらと共に<赤き鷲亭>にやって来る事になったのだった。そして今、ヴィックらの客室にて、サラに着方を教えている最中というわけなのであった(一方のヴィックらはその間、こうして一階の酒場で待っているのだ)。 「なるほどな……」  納得はしたものの不満は解消されたわけではない、といった感じに、ぶすっとした表情でバルトロは言う。 「だが、それならおれに一言相談してくれりゃあいいだろう。そしたらドレスの着方を教えてくれる奴くれえ、探してやったってのによ」  お前ら、ちっとばかし水臭いんじゃねえか、と彼がぼやいた時だった。 「あ、皆さん――」  頭に三角巾を巻き、前掛けをした若い給仕娘が、一同に声をかける。 「お連れの方が呼んでます。着付けが終わったそうですよ?」  それを聞いた一同は一斉に腰を上げると、客室へと向かった。

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