魔童貞殺し

読了目安時間:6分

エピソード:25 / 34

前金

「ところで、ヴィクトリウスよ。そなたは、わしと和解するためだけに、ここに来たのでは無いのであろう?」  餌を前にした豚じみて期待の眼差しを向けるグラッソに対し、ヴィックはにやりと笑ってみせる。 「もちろん。あなたと取り引きをしに来た」 「取り引き、とな?」 「そうだ。おれたちは廃修道院の魔道士を倒しに来た。その協力を頼みたい」 「ほう。して、その協力の見返りは?」 「奴の首にかけられた賞金、全額だ」 「全額……」  その言葉を聞いたグラッソは、豚のように小さな目を輝かせる。さっそく餌に食いついて来たな、とヴィックは内心ほくそ笑みつつ、言った。 「そう、全額だ。おれたちの目的は奴を倒す事であり、賞金に興味はない」 「なるほど。それはまた、気前の良い話だな?」  グラッソは満足げに微笑みながら言う。 「しかして、そのためにわしは、どのように協力すれば良いのだ?」 「腕の立つ団員を三十人くらい貸して欲しい。彼らにはあじと周辺に隠れていてもらう。そしておれたちが門を開ける。後は全員で、手下もろとも奴を始末するという計画だ」 「それは、悪くはないな。もっとも、奴らのあじとの門を開ける事ができれば、の話だが」  グラッソは小馬鹿にしたように鼻で笑う。 「だいたい、そんな大それたことを簡単にできるのなら、奴はすでに他の者に殺されていてもおかしくなかろう?」  呆れたような表情の首領に、ヴィックは説明する。 「それなんだが、簡単に潜入できる方法がある。しかも、連中が自ら門を開けて、おれたちを中に招き入れてくれる方法がな?」 「ほう、それは興味深いな」  グラッソは、己の言葉通りの表情をする。 「――して、それはどんな方法なのだ?」 「簡単さ。女の団員に街娘のふりをさせる。その彼女を、団員のふりをしたおれたちが連中のあじとへ連れて行く。後は門を叩いて『お望みのものをお届けに来ました』とでも言えばいいだろうな。で、奴らが門を開けた瞬間、隠れていた団員たちに出てきてもらい、一緒に突入すればいい」  ヴィックの計画を聞いたグラッソの目が、すっと細まる。 「ほう。そなたの言い分だと、まるで我が団が、奴らに女を引き渡しているかのようではないか?」  彼の言葉は(とが)めているようにも聞こえるが、それを口にする本人の表情は、むしろ面白がっているように見えた。 「そう言えば、巷で噂になっているようだな。我らが街の女たちをさらって、金と引き換えに奴らに渡しているのだと。まさかそなた、その噂を信じておるのか?」 「ああ、信じている」  ヴィックは挑戦的に言い放つ。 「ただし、半分だけだがな?」 「半分、だと?」 「ああ、そうだ」  不思議そうな表情のグラッソに、ヴィックは説明――これもまた、心にもない大嘘だが――する。 「あなたがたが、女を奴らに渡しているのは本当だろう。ただし金が目的ではなく、何か、そうせざるを得ない事情があるんじゃないのか?」  ヴィックの言葉に、グラッソは一瞬呆気にとられたような表情をするも、やがてそれは瞬時に悲痛なものへと変化した。 「やむを得ない事情、か。いや、実はそなたの言う通りなのだ……」  彼は、物悲しげにため息をつく。それを見たヴィックは、こいつは悪徳商人になるべきだと思っていたが、案外、役者向きなのかもしれないな、などと心の中で感想を述べる。そんなヴィックの思いなど知るよしもなく、グラッソは白々しい事を語り始めた。 「ある時、かの魔道士の執事を名乗る男がやって来たのだ。  その執事とやらが――ネズミじみた小男だったが――言うには『謝礼をはずむから、若い娘を連れて来い』との事だった。もちろん、わしは断ったがな。  すると執事は脅しをかけたのだ。『断るのなら、我が(あるじ)が、お前の部下全員を呪い殺す』と。大事な部下たちを人質にされては、断るわけにもいかぬ。  結局、我らは奴の言いなりになるしか無くなったのだ……」  そう言って悲痛な表情でかぶりを振る首領を見て、ヴィックは内心で毒づいた。 (嘘つきめ。まあ、ネズミじみた執事とやらが来たのは本当かもしれんが、欲深い貴様の事だ。どうせ『謝礼』の二文字を聞いた時点で、二つ返事で引き受けたんだろうが)  そんな事を考えている彼に、欲深い首領はさらに続ける。 「しかも、奴めは色々注文をつけて行く。最初は貧民街の女で満足していたのが、そのうち平民の娘を要求するようになり、今では貴族や富豪の令嬢をよこせと言い出しおった。  いくら謝礼の額が増えたとはいえ、さすがに参っておったところだ」  そう言うと、グラッソは苦い顔をしてみせる。いくら強欲な彼とて、さすがに貴族や富豪に手出しするのは、危ない橋を渡る事だと踏んでいるのだろう。 「だが――」  そう言いかけると、彼はにやりと微笑んだ。 「そなたらが奴を倒してくれるというのなら、実に都合が良い。いや、実際、奴には困っておったのでな?」 「では、協力してくれるんだな?」 「そうしたい所なのだがな――」  そう言いかけると、彼はわざとらしい苦笑いを浮かべてみせた。 「確かに奴は厄介だ。しかも、その上に手強いらしい。現に、賞金目当てに奴に挑み、返り討ちにされた連中も少なくないと聞く。……して、そなたらがそういった連中と同じ目に遭ったとしたら?  そなたの言う通りに部下を貸せば、わしは彼らを失うだけでなく、そなたが約束した報酬さえも得られなくなるのだぞ。それだけではない、下手をすれば奴の恨みを買う事になる。  これは、あまりに危険すぎる賭けではないか?」  彼の言い分を聞いたヴィックは、軽くため息をつき、やはりそうきたか、などと考えつつ心の中で苦笑する。 「あなたの言い分はもっともだ。そこで、報酬以外に、ちょっとした『前金』を払いたいと思う」  革の胴着の胸元に手を突っ込むヴィックに、グラッソは訝しげな目を向けた。 「『前金』だと?」 「ああ、そうだ」  そう言いながら、ヴィックは胸元から手を抜く。そこには、ひも付きの卵大の大きさのもの――木彫りの丸い首飾りが下げられていた。 「何だ、それは。おまじないじみた装身具か?」  ヴィックの手にしたものを見て、グラッソは失望したように顔をしかめる。 「せっかくだが、わしはそのような品には興味が――」  そう言いかけて、首領は言葉を止める。目の前の相手の、奇妙な動作に目を奪われたのだろう。ヴィックは木の丸い装身具の両端を、両手の人差し指と親指でつまむように持ち、それをねじるように回す。すると装身具が二つに分かれ、その内部の空洞部分に隠してあったものを、彼は手の平に乗せる。  それは、うずらの卵を一回りほど大きくしたくらいの紫色の宝石で、それを見たグラッソは息を飲んだ。 「これがおれの言う『前金』――」  ヴィックは相手に見せつけるように、手にした宝石をぐいと前に突き出しながら言う。 「『王冠蛇(バジリスク)の瞳』だ」

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