魔童貞殺し

読了目安時間:9分

エピソード:9 / 34

<四つ葉亭>のなかなか寝付けない夜

「――それじゃあ、ごちそうになるよ?」   そう言うとサラは、木皿に盛られたほかほかと湯気を立てる骨付き鶏腿肉(とりももにく)のあぶり焼きを手に取ると、肉汁の(したた)るそれに豪快にかぶりついた。 「遠慮なく、じゃんじゃん食べてくれよ?」  そう答えるヴィックは、豚のかたまり肉とかぶの煮込み料理を食べていた。肉もかぶもとろとろと柔らかく煮込まれたそれは、味付けの塩加減も丁度よく、ついつい麦酒(エール)の杯に手が伸びる。気付けば二杯目の杯も空にしてしまった。  ふと見るとサラも杯を空にしていたため、すかさず給仕を呼んで二人分の麦酒(エール)のお代わりを注文する。  程なくして二人分の麦酒(エール)の杯と共に、注文していた他の料理――羊肉(ようにく)腸詰(ちょうづ)めの香草(こうそう)焼き、鶏肝(とりぎも)燻製(くんせい)、にしんの酢漬(すづ)け、そら豆と玉ねぎと薄切りベーコンのバター炒め、キャベツの漬物(クラウティ)、などなど――の数々が運ばれて来た。  二人は他愛もない話に花を咲かせながら料理をつまみ、酒を飲み、皿と酒杯を次々と空にして行く。やがてほとんどの皿が空になった頃には二人とも腹がくちくなり、酒を麦酒(エール)から林檎酒(りんごしゅ)へと切り替え、それをちびちびと舐めるように飲んでいた。 「もし何か欲しいものがあったら、遠慮なく言ってくれ」  ヴィックの気前の良い提唱(ていしょう)に、サラは苦笑しながら答える。 「いや、せっかくなんだけどさ。さすがにもう、お腹いっぱいで入らないよ」  本当にごちそうさま、と言って彼女は軽く頭を下げるも、何か思いついたように真っすぐにヴィックを見つめた。 「……けど、強いて言えばひとつ、欲しいものがあるねえ?」 「言ってみてくれよ、何が欲しいんだい?」  身を乗り出して問う彼に、彼女は微笑みながら言う。 「あんた!」 「……え?」  その答えを聞いたヴィックは、目を丸くして固まってしまう。サラはそんな様子の彼を見て、さもおかしげに笑い始めた。 「あっはっは……。なんて顔してんだい、ヴィック?」  よほどおかしかったのか、笑い涙を拭いながら彼女は続ける。 「あたしが、あんたをお酒のつまみにするとでも思ったのかい?  勘弁しとくれよ。あたしゃ、人喰い女鬼(オウガレス)じゃないんだからさ」  笑われて困惑しているヴィックを見やると、彼女は苦笑した。 「あたしが言いたいのは、そういう事じゃなくてさ。何というかその、お酒飲み終わった後の事と言うか……」  そう言いながら、彼女は顔をやや伏せて上目づかいでヴィックを見やる。その頬が赤いのは、どうやら酔いのせいだけではなさそうだった。 「もう! 何だい。女に言わせるつもりかい?」  ()ねたような顔を向けて彼女は、それともあんたは意外と初心(うぶ)なんだかねえ、と続ける。そんな彼女の態度にヴィックは動揺していた。遊び慣れていないとは言え、彼も二十歳の男であり、決して初心(うぶ)なわけではない。彼女が言わんとしている事の意味ぐらい、とうに理解している。  ただ、今日知り会ったばかりの女が本気で誘って来るなんて信じがたく、からかわれているのだと思い、どう返したものかと悩んでいたのだ。 「それとも……」  考え込んでいる彼を見て、サラは勘違いをしたのか、寂しげな表情を見せた。 「あたしとじゃあそんな気になれないってんなら、そう言っとくれよ?」  その言葉を聞いて、ヴィックはますます動揺する。彼女はからかってるわけではなく、本気で誘ってきたのではないか、と思ったからだ。  その途端、それまで思いもしなかった……いや、ずっと心の奥底に封じ込めていたはずの欲望がむき出しになり、それが急激に膨れ上がってゆくような感覚を覚えた。彼は、ごくりと生唾を飲み込むと慌てて訴える。 「い、いや。きみみたいな美人に対して、そんな気にならないわけないじゃないか!  けど、その、どうして、おれなんかと?」 「『なんか』なんて自分を卑下しちゃいけないよ、ヴィック」  優しく叱るような口調で、サラは言う。 「さっきも言っただろ、あんたは色男だって?」  うっとりとした目でヴィックを見つめると、彼女は続けた。 「……あ、だからって、外見だけであんたを所望したわけじゃないんだよ?  あんたが誠実だからってのが、一番の理由さ」 「誠実……って。おれがかい?」 「そうだよ」  林檎酒の杯をもてあそびつつ、彼女は答える。 「あのでかぶつ共に捕らわれながらも、あんた、あたしの身を案じてくれたじゃないか?  それに奴らを倒した手柄だって、黙ってりゃあ自分のもんになるってのに、正直に話そうとしたし、賞金だって全額あたしに渡そうとしてくれた。  こんな誠実な(ひと)、なかなかお目にかかれるもんじゃないよ?」  再度うっとりとした目でヴィックを見つめながら、サラは林檎酒を一口飲む。ふう、と息をついた後、彼女は言った。 「だからこそ、あんたみたいな誠実で素敵な色男と寝たいと思ったんだけどねえ……」  そこまで言われて、ついに意を決したヴィックは杯をぐいを(あお)り、その中に残っていた林檎酒をすべて一気に飲み干した。 「おれは自分が誠実だなんて思ってもみなかったし、そんな事言ってもらえたのもはじめてだが――」  たん、と杯を卓の上に置き、彼はサラの瞳をじっと見つめる。 「おれで良ければ……ぜひとも!」  彼の答えを聞いたサラはにんまりと微笑むと、ヴィックにならって杯の林檎酒を一気に飲み干した。 「嬉しいねえ……」  そう言うと、彼女は林檎酒で濡れた唇をぺろりと舐めてみせる。その様がなんとも(みだ)らに見え、ヴィックは再度生唾を飲み込んだのであった。  夜更けの宿の薄暗い部屋のベッドの上にて、一糸まとわぬ裸体で抱き合う男女の姿があった。  情を交わし終え、余韻(よいん)(ひた)っている最中のヴィックとサラである。やがてヴィックはサラと唇を軽く重ねて彼女から身体を離し、その横にごろりと仰向けに寝転がる。  ずいぶん久しぶりに「婦人と(とこ)を共にした」彼であったが、それはとても満足の行くものであった。彼の隣ではサラが、仰向けのまま大きく伸びをする。 「うーん……。とっても気持ち良かったよ」  それを終えると彼女は寝返って横向きになり、ヴィックの胸板を撫ではじめた。 「あんた、上手だねえ……?」  うっとりとした表情で悩ましげなため息をひとつつくと、サラは問いかける。 「……今まで何人の女たちを、そうやって(よろこ)ばせてきたんだい?」  問われたヴィックは、目を丸くして彼女を見つめた。 「いや、そんなに経験は多くないんだが……」 「おや、そうなのかい?」  意外だねえ、と驚いて見せるサラに、ヴィックは答える。 「ああ。これまで恋人として付き合った(ひと)は一人だけなんだ」  一応、嘘はついてないぞ、とヴィックは内心で言い訳する。事実、その恋人と別れた後、何度か娼館に通った事はあるが、それは黙っておくことにしたのだった。 「じゃあきっと、あんたを()にした(ひと)の仕込みが良かったんだろうねえ」  くすくすと笑うと、彼女は続ける。 「……おかげで、気持ちのいい思いができたよ。  それに、おいしいお酒と料理もごちそうになったし、本当、今日は最高の一日だったねえ。  今夜はきっと、いい夢見ながらぐっすりと眠れそうだ……」  本当にありがとうね、と言い終えると彼女は身を起こし、ヴィックに覆いかぶさると唇を軽く重ね、顔を離した。  と、思いきや思い直したかのように再び唇を重ね、さらに舌を差し込んでヴィックのそれに絡めてくる。そのウナギのような舌の動きに、ヴィックは再び己の情欲が湧きあがりつつあるのを感じたが、それが高まる寸前に彼女は舌と唇を離してしまった。  そして名残惜し気に、ちゅっちゅと音を立てて軽い接吻を二回ほど繰り返すとゆっくりと身を離し、彼の隣にごろりと仰向けになる。 「じゃ、おやすみ……」  そう言うが早いが彼女は目をつぶり、寝息を立て始めた。その、あまりの寝入りの速さにヴィックが驚いていると、彼女は寝返りを打って彼に背を向けてしまう。  ヴィックは苦笑いを浮かべると、サラにならって左腕を下にした横寝になり、彼女に背中から抱き着く形で、右腕を伸ばして彼女のくびれた腰に手を回した。それにしても、このサラという同い歳くらいの女は一体何者なのだろう、とヴィックは考える。  性的魅力溢れる肢体を惜しげなく晒した美女で、巨漢の悪党二人に物怖じせず、しかもそれらを一瞬で無力化するような驚くべき技を持ち、博識もあり、金と名声に無頓着で、酒飲みで、割と健啖家(けんたんか)で、明るくて、自由奔放で、そして、淫らだ。それこそ、魔淫婦(スクブス)も裸足で逃げ出すのではないかというぐらいに(魔淫婦(スクブス)なる魔物(デーモニウム)が、はたして実在するのかどうかは不明なのだが)。  そして彼女は、色々と謎めいている。分かっているのは、彼女が何かわけありの旅人で、フェノスティーゼの信徒らしい事ぐらいだろうか。恐らく、旅の目的もかの女神絡みの事なのだろうと思われるのだが、雰囲気から察するに、決して楽しい事ではなさそうだ。  それでも彼女は、その謎めいた旅を続けるのだろうし、彼女が旅立つという事は、ヴィックと別れる事を意味する。そこまで考えたとき、ヴィックは自分が何とも言えない喪失感を味わっている事に気付いた。同時に、そんな気分になっている事に驚く。  この感覚は何なのだろう、おれは彼女に惚れてしまったのだろうか、と自問自答しているうちに、彼は己の右手に柔らかい感触を覚える。サラの腰に回していたはずの手が、無意識のうちに、彼女のその大きな乳房をまさぐっていたらしい。  彼は自分自身に呆れつつも、この心地よい感触をもうしばらく味わいたいなどと、すけべ心をむらむらと催した。するとその時、サラの寝息がぴたりと止まる。 「……何だい。気持ちよく眠ってる相手に、『おいた』かい?」 「起きたのか?」 「そりゃあ、こんなに熱心に揉まれちゃあ、どんな寝坊助(ねぼすけ)でも目を覚ますさ?」  サラはくすくすと笑いながら、己の乳房を包むヴィックの手の上に、自分の手を重ねた。 「そういやあんた、さっきもあたしのおっぱいにご熱心だったじゃないか。ずいぶん長々と、揉んだり吸ったり――。  いやはや。あんたって、本当におっぱいが好きなんだねえ?」 「おれだけじゃないぞ? 男って奴は、みんなそうなのさ」  サラの問いに、ヴィックは妙な自信を持って言い返した。 「おっぱいが嫌いな男なんて、いるもんか」  そう言い放った時、己の()()が元気を取り戻し、その先端がサラの形の良い尻に当たっている事に気付いた。 (おいおい。立て続けに二回したってのに、まだ物足りないってのか?)  などと思っていた所に、サラが追い打ちをかける。 「……おやおや。あたしのお尻に、何か固い()()が当たってるじゃないか?」  ()()は一体何だろうねえ、などととぼけた事を言いながら、サラは後ろに手を回す。そしてヴィックの()()を優しく握りしめ、さらにそれをゆっくりと上下に動かし始めた。そうされて彼の『()()』は、ますます元気になってゆく。 「不思議だね、どんどん硬くてなってくねえ。おまけに先っぽが何だかぬらぬらして――」   そこまで言いかけると彼女はヴィックの()()から手を離し、くるりと寝返って彼と向き合う。 「ああ、もう! そんなに、いきり立てられちゃあ、何だか、むらむらして来ちまうじゃないか?  こんな悶々(もんもん)としたままじゃ、とても眠れそうにないねえ……」  サラは濡れた瞳をヴィックに向けた。 「ねえ、ヴィック。……もう一回、しないかい?」  誘われたヴィックは、電光石火の速さで彼女に唇を重ねる。 「喜んで!」  そう答えるや否や、ヴィックはサラを仰向けに寝かせ、その上に覆いかぶさるようにして、彼女の身体にむしゃぶりついた。結局、二人は「もう一回」ではなく、「もう二回」ほど()()後、ようやく眠りについたのである。

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  • 文豪猫

    夢華沙紅也

    ♡900pt 2021年8月12日 0時53分

    うーん、面白い!!やっぱりいかをさんのファンタジー物は最高です!!今回のムフフな展開も良かったですが、その前の食事の描写もとても良かったです😆いやはや、同じファンタジー好きの身としては、めっちゃ勉強になります☺️次回の更新も楽しみにしていますね💕

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    夢華沙紅也

    2021年8月12日 0時53分

    文豪猫
  • ドワーフ親父

    須留米(するめ) いかを

    2021年8月12日 17時31分

    勿体無きお言葉、大変ありがとうございます。 何となく、生活感とか性活感とか出したくて、色々ねちっこく書いてみました。少々、だらだらし過ぎかなとも思っておりましたが、そう仰って頂き、大変恐縮です! 何卒、宜しくお願いいたしますです。

    ※ 注意!この返信には
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    須留米(するめ) いかを

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