魔童貞殺し

読了目安時間:6分

エピソード:11 / 34

<大侵攻>と<四人の魔道士>

 フォルテザは、アルンガット島の北部に在る都市だ。かの都市には、善と中立のすべての神々を(まつ)った万神殿があり、ロウンデイトの国々のみならず、北大陸の諸王国からも巡礼者たちが参拝に訪れていたほどであった。  また、この都市は難攻不落の要塞都市でもあり、事実、近衛兵隊のみならず、各宗派の修道(しゅうどう)騎士(きし)団や武装(ぶそう)司祭(しさい)団といった、信心深い(つわもの)たちが都の守りに就いており、さらに<七賢者(しちけんじゃ)>と呼ばれる首脳陣も存在していた。  彼らは賢人であるのみならず、魔術や神術(しんじゅつ)の優れた使い手でもあり、さらには個々の信仰する神から、不老長寿の加護までも授かっているという、強力な者たちだったのである。  しかして、そこまでにこの都が守りを固める理由とは。  それは島の最北部、<(よこしま)なる地>と呼ばれる土地の住民からの襲撃に対する備えなのであった。かの地には、部族単位でいくつかのまとまった集落を形成している野蛮な民たちが暮らしている。  彼らは大きくふたつの人種に分かれており、ひとつは昔、北大陸の最北部は凍てつくような極寒の大地から船で南下してきた、北方人(ノルデニオス)――異教徒たる蛮人――たちだ。  もうひとつは<灰色人(はいいろびと)>と呼ばれる民たちであり、彼らは邪悪な神々や、魔鬼(デーモン)――魔物(デーモニウム)どもの頂点にある存在――たちを崇拝している邪教徒で、その肌は、文字通りに灰色なのであった。  フォルテザは、かつては<灰色人>たちの都であり、邪教徒にとっての『聖地』でもあった。彼らはロウンデイト人に奪われし都を取り戻さんと、これまでに何度もフォルテザを襲撃するも、その度にこっぴどくやられて、すごすごと退散するはめになっていた。  <大侵攻(だいしんこう)>と呼ばれるその日が来るまでは。  三年前の、とある日の夜の事。<灰色人>ならびに蛮人の諸部族が手を組み、大軍勢となってフォルテザに進軍したのである。その規模はとても大きかったものの、これまで通り、連中は誰一人としてフォルテザに入ることができず、諦めて撤退する事になると思われていたのだが。  しかし、かの軍勢が高く分厚い城壁に手間取っている時、都市内に突如、空飛ぶ大怪獣(だいかいじゅう)――恐らく邪教徒による「闇のわざ」によって召喚されたと思われる――が現れたのであった。蛇の胴体に雄羊の頭、(からす)の翼と(かえる)の四肢というおぞましい姿をしたその巨大な怪獣は、羊の鳴き声とも赤子の泣き声ともつかない不気味な叫び声を上げながら都市を飛び回り、恐怖におののく兵たちを次々と貪り喰ったのである。  大勢の兵士たちを平らげた大怪獣は、大きなげっぷの音と共に消え去り、その後、守り手のほとんどいなくなった都市に<灰色人>と蛮人の連合軍がなだれ込んで来た。こうして、かの都市は敵の手に落ちたのである。  この出来事こそが<大侵攻>と呼ばれる、一大事変なのであった。  <大侵攻>をからくも生き残った者たちは、陥落した都から逃げる際、敵からの布告を受けた。  その内容は以下の通りである。 「我々は、かつての『聖地』を取り戻した。お前たち『邪教徒』が、再びこの『聖地』に手出しするというのであれば覚悟せよ。  その時は、こたび冥界(めいかい)より<(かつ)えし大蛇、プノスティテロ>を召喚せし<四人の魔道士(まどうし)>たちの裁きを受けることになるであろう!」  この布告及び、<大侵攻>の詳しい顛末は、生き残った者たちによって瞬く間にロウンデイトの国々に拡散され、大怪獣を召喚して敵に勝利をもたらした立役者たる<四人の魔道士>なる者たちの事も同時に広まり、恐れられたのであった。  人づてに聞いた<大侵攻>と<四人の魔道士>の話を思い出しながら、ヴィックはおずおずとサラに訊ねる。 「……なあサラ。きみは何だって、わざわざあんな森に行かなきゃならないんだ?  あそこでしか採れない薬草でもあるのか?」 「いいや、薬草摘みに行くわけじゃないよ?」  サラはかぶりを振った。 「あの森にある、ポルベルテ修道院が目的地なのさ」  彼女の答えを聞いて、ヴィックは問う。 「ポルベルテ修道院と言えば、あの豊穣(ほうじょう)を司る大地の女神、メイテラを信仰する修道士たちの僧院だろう?」  彼はかぶりを振ると、説得するように言った。   「麦酒(エール)を仕入れに行くつもりだったのなら、残念だが(あきら)めるしかない。あれを作ってた修道士たちは、野盗どもに皆殺しにされた。そのあげくに修道院も乗っ取られたって話だ」  旨かったんだけどなあ、あれは、と、ヴィックは件の麦酒(エール)の味をしみじみと思い出しつつ、二度とそれを味わえなくした元凶に対する怒りを募らせながら続けた。 「……その連中を仕切ってる奴は、何でも自らを『魔道士』と名乗ってるらしいぞ?」 「知ってるよ」  サラは感情を押し殺したような声で答える。 「あたしゃ、そいつに用があってねえ……」 「魔道士に用がある、だって!?」  ヴィックは、大声を上げた。 「正気か? その話が本当なら、相手はとんでもない奴だぞ!  <大侵攻>の立役者、つまり、フォルテザ陥落の元凶にして<七賢者>殺しの一人って事にもなるんだからな……」  強力な存在にして、フォルテザの守護者でもある<七賢者>たち。  しかしながら<大侵攻>の際、彼らはフォルテザが蹂躙されているにも関わらず、全く姿を見せなかったばかりか、現在行方知れずとなっており、そればかりか巷では、「<大侵攻>前に、すでに<四人の魔道士>たちに殺されたのでは?」と噂されている。  兵士たちを貪り喰らった、プノスティテロなるかの怪獣は、目撃者の話によれば<オルタークの塔>――<七賢者>の住居にして、大賢者オルタークが生前残した膨大な数の知識の書物が収められし塔――の内部から、塔そのものを破壊しながら魔道士たちと共に現れた、との事だ。  そんな暴挙が許されたという事は即ち、<四人の魔道士>は、<七賢者>たちを殺して――あるいは生贄にして――かの怪獣を召喚したのではないか、と結論付けられたのだった。  そして「強力な力を持った<七賢者>を殺したという事は、魔道士たちはそれ以上に強いのだろう」という事になり、それにより<四人の魔道士>の悪名は、ますます高まる事となったのである。  そんな噂の数々を思い起こしながら、ヴィックはサラをじっと見つめる。 「とんでもなかろうが、なんだろうが――」  相変わらず無感情な声で、サラは答える。 「あたしは、行かなきゃならないんだ」 「何故?」 「奴……いや、奴らにゃ、でっかい借りがあってねえ――」  サラは赤みがかった茶色の瞳を、じっとヴィックに向けて言う。 「そいつを、お返ししなきゃいけないのさ……」  そう言って凄みのある笑みを浮かべるサラを見て、こりゃ本気だ、とヴィックは思った。おれがいくら止めたところで、聞きはしないだろうな、と。  しかし、会ったばかりとは言え、一夜を共にして情もわいてきたこの女を黙って死地に送り出すつもりもさらさら無く、ヴィックはある事を切り出してみることにしたのであった。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • ワールド・スイーパー

    さあ、大掃除を始めよう

    14,100

    110


    2022年11月28日更新

    見た目は少年、中身はジジイ。不老の英雄アイム・ユニティは千年前、大地を砕こうと宇宙より飛来した「赤い星」を逆に砕き、自分達の星を救った。ところが災厄の欠片は微細な粒子「怪塵」と化し、大量に取り込んだ獣を狂わせ、時には「怪物」を形作り人々に害を及ぼすようになった。 千年後、どうしても完全に滅することのできない「怪塵」との戦いを続けていたアイムは、人類の天敵であるはずのそれを自在に操る少女が現れたという噂を聞く。にわかには信じられなかったが、件の人物の足取りを追った彼は本当にその「怪塵使い」を発見した。 しかし、その少女はとんでもない臆病者。世間知らずで頭脳は幼児。鈍くさく、挙句に自分を嫌っている陽母教会に育てられた修道女。 彼女の能力に怪塵との戦いを終わらせる希望を見たアイム。果たして彼は、このポンコツシスターを無事「英雄」に育て上げることができるだろうか? 見た目はボーイ・ミーツ・ガール。中身はジジイ・ミーツ・ベイビー。何もかも正反対の二人による、星の大掃除が今、開始された。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:6時間29分

    この作品を読む

  • 【書籍発売中】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~

    優しいお姉さんは好きですか?

    7,904,792

    15,146


    2022年11月28日更新

    【HJノベルス様より、現在、書籍1巻2巻が発売中です♪】 【第1回ノベルアップ+小説大賞、入賞いたしました!】 優しいお姉さんは、好きですか? 事故で死んでしまった主人公は、異世界の森に、子供の姿で転生してしまいました。 そこで偶然、出会った美人冒険者イルティミナは、とても優しいお姉さんで、幼い主人公のことを心配して、守ってくれるようになります。 そして2人は、一緒に森を脱出することになります。 お姉さんの仲間と出会い、また多くの人たちと触れ合いながら、やがて、彼は広い世界を知ることになるでしょう。 そして、お姉さんたちと共に、その広い世界での冒険の日々が始まるのでした――。 ※この作品は『小説家になろう』様でも公開しています。 ※旧題『転生マールの冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~』 ※活動報告として『月ノ宮マクラの活動報告』を始めました。こちらでは書籍化情報などお知らせしていきます。(作者名をクリック、作品一覧の中からご覧になれますよ)

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:100時間39分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る