魔童貞殺し

読了目安時間:8分

エピソード:12 / 34

決意

「サラ……」  ヴィックは思いついた事を切り出しにかかった。 「きみが『借りを返す』相手ってのは、<四人の魔道士>なんだろう?  あの<七賢者(しちけんじゃ)>殺しにして、何とかいう怪獣を召喚した……」    その質問を聞いたサラがうなずくのを確認すると、彼は待ってましたとばかりに続ける。 「……なあ、ポルベルテ修道院を乗っ取った連中の親玉は、()()()()()()なのかい。案外、偽物かもしれないぜ?  ほら。本物だったらむしろ、あんな森なんかじゃなくて、敵の手に落ちたフォルテザにいそうなものじゃないか?」  ヴィックの指摘はあながち間違いではない。と、いうのも、かの<四人の魔道士>たちの悪行が知れ渡り、恐れられるようになると、一部の悪党どもは自らを大きく見せるために、こぞって「魔道士」を自称するようになったからである。  例えば、とあるけちな盗人(ぬすっと)などは、自分の事を「疾風(しっぷう)の魔道士」と名乗っていた。  あるいは某都市で、成金の富豪に「魔法の物品」だとうそぶいて、がらくたを高額で売りつけた罪で捕まった詐欺師などは、「魔品(まひん)の目利き魔道士」と自称していたらしい。  はたまた、ロウンデイト南部は森沿いの街道にて、商隊と勘違いして傭兵団を襲い、見事に返り討ちにされた山賊団などは、「血まみれ髑髏旗(どくろばた)人喰(ひとく)い魔道士団」などという、何とも大げさな団体名を名乗っていたのだそうな。  そんなわけで、修道院を乗っ取った連中の親玉だという「魔道士」とやらも、強力かつ(あく)どい存在に間違いはないのだろうが、それが偽物である可能性も無いとは言えない。しかし、そんな彼の指摘をサラは否定する。 「いいや、あの修道院にいるのは()()()()()()……つまり、あたしの探してる相手に間違いないね」  彼女の言い分を聞いたヴィックは息を飲む。 「なぜ、そう言い切れるんだ?」 「あたしにゃ、それが分かるからさ……」  自信満々に答える彼女を見て、もう何をどう言い聞かせてたところで無駄であろう事をヴィックは悟った。 「どうやら、きみを止めるのは無理みたいだな?」 「悪いけど、そうだね……」  サラを止めることはできない、それならば……と、ヴィックは今しがた自分の心の中で決めた決意を打ち明けることにした。 「じゃあサラ、おれも一緒に連れて行ってくれないか?」 「えっ!?」  ヴィックの言葉を聞き、サラは目を丸くする。 「実際おれは、きみほど強くは無い……」  ヴィックは、サラの剣の腕をこの目で確かめたわけでは無い。しかし彼女が<二つ山兄弟>を軽くあしらう様を見るにつけ、その実力は相当なものだろうと判断したのであった。 「足手まといかもしれないし、迷惑だろうと思う。……けど、きみが危険な旅に出るのを黙って見送るだけなんて、おれにはできない」 「ヴィック。あたしの危険な旅について来たいだなんて、あんた……」  サラは驚愕の表情を浮かべたまま、ヴィックの顔をまじまじと見つめて言う。 「……まさか、あたしのおっぱいを揉み足りないってのかい?」  そう言いながら彼女は自分の乳房を、両腕で寄せ上げてみせた。 「それとも、吸い足りないのかねえ……?」 「な……きみは何を言って――」  ヴィックが慌てて反論しようとするも、それに先んじてサラが口を開く。 「あ、分かった!」  彼女は自分の腰に両腕を回すと、切なそうな表情を浮かべながら言った。 「さてはあんた、あたしを抱きたりないってんだね? そのためにわざわざ危険な目に()おうだなんて、なかなか肝の座ったすけべえさんじゃないか」  そう言い終えると彼女は、悩み深げに腕を組む。 「前途ある若者を色ぼけにしちまうだなんて。あたしって奴は、何て罪な女なんだろうねえ……」  自惚(うぬぼ)れた台詞を吐きつつ、ふう、と悩ましげにため息をつくサラを見て、ヴィックは少々苛立ちながら大声を上げた。 「だから、違うんだって!」 「えっ、違うのかい?」  ヴィックの否定の言葉を聞いて、サラは愕然とした表情を浮かべる。 「違うって事はもう、あたしなんざ抱き飽きたって事なんだね……」 「いや、誰もそんな事は――」 「ふん! そうかい、そうかい」  サラはヴィックの弁解の言葉を(さえぎ)ると、腹立たしげに不満を述べ始めた。 「男って奴は勝手な生き物なんだね! そういや昔、年上の(ひと)に愚痴を聞かされたよ。  殿方というのは皆、狙った女に対して、まるでどこぞの王女様に謁見(えっけん)した騎士よろしく、うやうやしくも情熱的な態度を取るもんだ、ってね――」  そう言いながら、彼女はじろりとヴィックを睨みつける。 「そのくせ、一晩()()()()()したが最後、すっきりしちまった途端、さっきまでの情熱はどこへやら、妙に冷静になるらしいじゃないか。そういうのを『賢人(けんじん)(てき)時間(じかん)』とか言うんだっけ? ま、いいや。   ――とにかく、それでもって態度がころっと一変して『場末でしつこく声かけて来る年増の娼婦』でもあしらうかのように冷淡になるって聞いたけど、本当にその通りなんだね。ひどいったら、ありゃしないよ!」 「だから、誰もそんな事言ってないだろう?  きみが勝手に、抱き足りないとか抱き飽きたとか言って、責めてるだけじゃないか!」 「あっはっは……」  ヴィックの言い分を聞き、サラはさもおかしげに笑い出した。 「ごめんよ。あんたがあんまりにも真面目な顔で切り出すもんだから、ちょっとからかいたくなっただけさ」 「この、性悪女め……」  渋面を浮かべて悪態をつくと、ヴィックは改めてサラに問いかける。 「……それで結局、同行させてくれるのかい。それとも、やっぱり迷惑だろうか?」 「迷惑だなんて、思いやしないさ」  どことなく寂しげな微笑を浮かべて、彼女は答える。 「だけど、旅の安全は保証できないよ。それでもいいのかい?」 「おいおい、賞金稼ぎにそんな事聞くなよ。危険は承知の上で聞いてるんだがな……?」 「そこまで言うなら、止めやしないさ」 「じゃあ、決まりだな?」  彼女から承諾の言葉を受け、ヴィックは白い歯を見せてにっと笑ってみせた。それを見たサラは降参したように小さくため息をつくと、疑うような目を彼に向ける。 「あんたを歓迎するよ、ヴィック。……それにしても、どんな理由でこんな旅の同行を買って出たんだい?」 「さっきも言ったじゃないか?」  サラに問われ、ヴィックは眉をしかめながら答えた。 「情を重ねた相手が危険に飛び込む様を、ただ黙って見送るなんて嫌なんだよ。それに、命を救ってくれた恩義をまだ返していない」  彼の言葉を聞いたサラは苦笑を浮かべる。 「お礼ならもう、十分してもらったつもりなんだけどねえ。本当に律儀だよ、あんた」  しかしヴィックはサラの言葉を無視して話を続けた。 「アズナボレッサの森の近くに、ラドルヌスという街があるだろう? おれは以前、そこに住んでいたんだ」 「そういえばさっき、修道院の麦酒(エール)の事を話してたねえ」 「……まあな、その頃よく飲んでたんだ。それはさておき、あの街の知り合いを頼って協力してもらうつもりだ」 「協力って?」 「敵のあじとに、潜入するための工作を手伝ってもらうのさ」 「そいつは、心強いねえ?」  サラはヴィックを感心したような目で眺める。 「あんたが同行してくれれば、何かと助かりそうだね。それに何より、孤独だったはずの旅も、おかげさまで退屈せずに済みそうだよ」  そう言うと彼女は、にんまりと好色げな笑みを浮かべてヴィックに流し目をくれながら続ける。 「しかも、その旅の道連れが床上手な色男ときた日にゃ、夜が楽しくなりそうだ……」  今にも舌なめずりでもしかねない様子の彼女を見たヴィックは、慌てて言った。 「……あ、そうだサラ! 一日だ、一日だけ出発を待ってくれないだろうか?」 「一日?」  オウム返しに言うと、サラは不思議そうな表情を浮かべて訊ねる。 「そのくらいだったら別に構やしないけど、どうしたんだい?」 「旅の準備をしたいんだよ。旅をしていたきみはともかく、おれはこの街に住んでたわけで、旅の支度が全く整ってないからな」 「そういや、そうだね。じゃあ、あんたの準備が整うまで、あたしゃゆっくり休みながら待たせてもらうよ」 「ありがたい。その間の宿代と食事代は、おれが持たせて――」  言いかけてヴィックは言葉を止めた。サラは革の長靴(ブーツ)を素早く脱ぐと、文字通りにベッドに飛び込み布団を(かぶ)る。そして、すぐに寝息を立て始めたのであった。そのあまりの速さにヴィックは感心するべきか、唖然とするべきか判断しかねたが、やがてかぶりを振って席を立つ。 「ゆっくりおやすみ、サラ……」  届きはしない事は分かってはいるが、サラにおやすみの挨拶をすると、ヴィックは旅の準備を整えるべく、彼女の部屋から出ようと扉へ向かう。すると彼がまさにその前に立ったと同時に、それは開いた。現れたのは先ほどの丸顔の給仕娘である。恐らく、空いた食器を下げに来たのだろう。 「や、やあ、パッツィー……」  ヴィックは一応、彼女に挨拶してから部屋を出ようとした。一方、給仕娘は彼に挨拶を返しつつ、持ってきた木の盆に空いた食器を乗せようとしたが、その時、ベッドで寝息を立てているサラの姿が目に入ったようだった。しばらくの間、その寝入る姿を彼女は目を丸くして見ていたが、やがてにやにやしながら、ヴィックの方に問いただすような視線を向ける。 「そりゃ、誤解だ……」  おれは種馬じゃないんだ、朝っぱらから()()もんかと心の中でつぶやきながら、彼はサラの部屋を後にするのであった。

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