魔童貞殺し

読了目安時間:8分

エピソード:24 / 34

強欲なる首領

「今のこの団のざまときたら、そりゃもう、ひでえもんですよ――」  ドロテオは、不満げに<多彩(たさい)なる(けもの)団>の惨状を告げた。  グラッソは首領になってからというもの、悪どい貴族たちや悪徳商人らと手を結んで、媚薬の類や奴隷といった、これまで扱われなかった、法で禁じられているものを取引きするようになっただけではなく、「盗みの依頼」の規則をも変えてしまったのだと言う。  これまでは「盗みの依頼」は「ラドルヌスに害をなさんとする者に、罰や警告を与えるため」に行われるものであり、「対象が本当に罰するに値する」かどうか、入念に調べてから、依頼を受けるか否かが下されていた。  しかし今では「対象の善悪」は問題ではなく、「仕事内容に対する依頼料の額」のみが重要視されるため、罪なき者が理不尽な強盗被害を受けるようになった、と。 「ここに来る前に知り合った商人から、話は聞いていたが――」  ヴィックはため息交じりに言った。 「何とも、ひどい話だな……」 「それはそうと、(あに)ぃ」  ドロテオは不思議そうな表情で問う。 「どうしてまた、この街へお戻りになったんですかい? まさか、おれと昔話をするためじゃありますめえ」 「それなんだがな――」  問われたヴィックはドロテオに説明する。  彼はサラの旅に同行している事、彼女の目的は魔道士を倒す事、そして、連中のあじとへ潜入するため、賞金などを餌にグラッソに協力を仰ぎに来た事など、全てを。  それらを聞いたドロテオは腕を組み、難しい表情を浮かべてみせた。 「なるほど。あの魔道士野郎をねえ……」  彼はちらりとサラを見る。 「事情がおありのようだが、聞くべきじゃねえようですね?」  まあな、と答えてヴィックは問いかける。 「それはそうと、おれの計画についてだが、お前はどう思う?」 「悪かねえと思いやすよ? グラッソの野郎が連中と取引きしてるのは事実みてえですしね。それに、金に汚えあの野郎のこった。賞金を全部くれてやるなんて言ったら、よだれ垂らして協力するでしょうぜ」  ドロテオはにやりと微笑むと、言った。 「(あに)ぃがおれを尋ねた理由がようやく分かった。奴に面会するためなんですね?」 「ああ、そうだ。今のおれは『元団員』だからな。奴に会うには、現団員の立ち合いが必要になる」 「もちろん、引き受けやしょう、と言いてえところですが……」  そう言いかけて、ドロテオは厳しい表情を浮かべる。 「ただし、一つだけ条件がありやす」 「……どんな条件だ?」 「それは、魔道士野郎のあじとに潜入する際には、このあっしも連れてってもらうってことでさ。じゃなきゃあ、面会なんてさせやせんぜ?」 「分かった、わかった。お前にも協力してもらうよ」 「よっしゃ、決まりですね?」  ドロテオは嬉しげに、にやりと微笑む。 「そんじゃあ、さっそく豚小屋……じゃなかった、野郎の部屋へ行くとしやしょう」  そう言うと彼は、酒杯をぐいと煽って黒麦酒(エール)を飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。  <楽師鼠(がくしねずみ)舞踏(ぶとう)亭>の二階は、本来の宿屋なら、亭主の部屋に該当するであろう場所にて。  ドロテオの案内で、ヴィックとサラはここに通され(規則により、武器を預けなければならなかったが)、様々な書物や書類を納めた本棚がずらりと並ぶ書斎の中央、割と大きな机に着いた一人の男と謁見していた。  三十代くらいのでっぷりと太ったこの男は、(すそ)(くるぶし)くらいまで届く、ひだ(プリーツ)の入った黒の長胴着を着、剃り上げた頭には、巻きつけ頭巾(シャプロン)を被っている。その豪華な服装からして、ぱっと見には商人のように見えるも、彼こそが<多彩(たさい)なる(けもの)団>は現首領、<金色猪(ゴールドボア)>(<銅色猪>改め)ことグラッソその人である。  彼のすぐ近くには、護衛らしき者が三人ほど立っており、うち一人はがっしりした男だ。  もう一人の男は対照的に痩せており、頭髪のみならず眉毛までも剃り落としていた。彼の左手のあるべき箇所には、鉄篭手(てつごて)じみた義手が付いている。この痩躯の男は、ヴィックの兄貴分であるジャコモを殺した張本人、<黒サソリ>ことティベリオであった。  最後の一人は中性的な人物で、金色の髪を長く伸ばしている。この人物は、やたらとひだ飾り(フリル)の付いた、真っ赤な胴着を着、ぴったりとした白の股引(ももひき)を穿いている。この、ティベリオの横に、くっつくように寄り添っている彼――女性のようにも見えるが、男性である――の事を、ヴィックは覚えていた。  この若者はカルロという名で、ヴィックが団を抜ける少し前、次期首領決定集会が開催された頃に入団したのだった。盗賊としての技量も無ければ、これといった才能も無いが、ティベリオの部下としての彼の振舞いを見るにつけ、ヴィックはなぜ、このなよなよした男がここにいるのか、ようやく理解できたのである。そして、アルに忠実だったはずのティベリオが裏切った理由と、彼がこれまで、周囲にひた隠しにしていたであろう彼自身の「秘密」についても。  などと、ヴィックが考えていた時である。  「久しぶりだな、と言いたい所だが――」  グラッソは、ヴィックに怪訝そうな視線を向けながら言った。 「何をしにここへ来た、ヴィクトリウス。まさか、かつてそなたが言及しておったように、わしやティベリオの首を狙っておるのではあるまいな?」  疑わしげに言われたヴィックは、やはり根に持っていやがったか、と内心舌打ちする。 (――まずは、敵意が無いという事を証明しないとな)  そう思ったヴィックは、一歩、進み出る。それを見たティベリオが、右手で腰の短剣の柄を握りつつ、グラッソを庇うように前に出るが、すぐさまヴィックは(ひざまず)き、(こうべ)を垂れてみせた。 「首領殿。まずは、あなたに詫びさせて頂きたい」  彼がそう述べると、グラッソが息を飲む音が聞こえた。頭を垂れていたためヴィックには見えなかったが、どうやら相手は驚いているらしい。しかし、相手に構わず彼は「本心ではない言葉」を吐き続ける。 「あの時……ジャコモの兄貴を失った時、おれは怒りで我を忘れていた。本当に責めるべきは、彼に決闘をやめるよう説得できなかった自分自身なのに――」 「もう良い、ヴィクトリウス。どうか頭を上げてくれ」  言われるままヴィックが頭を上げると、グラッソが申し訳なさそうな表情を浮かべていた。 「わしの方こそ、疑ってすまなかった。先ほどの非礼をどうか、許して欲しい」  本心はどうか分からないが、彼もまた頭を下げて謝罪の言葉を述べると、心情――恐らく、嘘であろうが――を語り始める。 「ジャコモ殿の事は、本当に残念に思っておったのだ。できる事ならば彼と共に、この団を盛り立てていきたかった……」  わざとらしくかぶりを振るグラッソを見て、ヴィックは内心つばを吐くも、彼もまた心にも無い事を言ってのける。 「――だが、古いしきたりがそれを許さなかった。『首領は一人のみ』という掟があるからな。あなたも随分と苦しんだのだろう?」 「分かってくれたのなら、それで良い。お互い、過去の事は水に流そう……」  遺恨が「両者和解」という結論で締めくくられようとした時。 「詭弁はよせ。この『青いイタチ野郎』め!」  異論の言葉が発せられ、ヴィックとグラッソがそちらに目を向けると、カルロがヴィックを憎悪のこもった目で睨みつけていた。首領はうんざりしたような目をこの中性的な若者に向け、問う。 「何か不満でもあるのか、カルロ?」 「ええ、大ありですよ」  彼はヴィックをぐいと指差す。 「こいつのせいで、ティベリオの兄貴は義手を着けるはめになったんですよ。だのに、謝って終わりだなんて、虫が良すぎると思いませんか?」  すっかり激昂している彼は、詫びの印に、こいつの左手も切り落とすべきだ、などと極端な事を口にする。 「よさんか、カルロ」  ティベリオが彼に言う。 「決闘だったとは言え、おれはジャコモ殿を殺してしまった……」  彼は、その義手を見せながら続ける。 「()()は言わば、その罰なのだと思っておる。それにヴィクトリウス殿は、この件には無関係だ。彼に罪は無い」  駄々をこねる子供をなだめる親じみて、噛み砕くように丁寧に言い聞かせるティベリオだったが、それでもカルロは食い下がらない。 「けど、こいつは、ジャコモを止める事だって出来たはずじゃ――」 「いい加減、しつこいぜ!」  うんざりしたような口調で、ドロテオが割って入る。 「そこの『片バサミの黒海老野郎』がいいって言ってんだから、外野のてめえが吠えたてんじゃねえ。すっこんでやがれ、この『けつ貸し屋』が!」  彼の下品な罵倒を耳にして、カルロはその白い顔を、自分の着ている服と同じくらいに真っ赤に染める。一方、「片バサミの黒海老野郎」という言葉が効いたのか、ティベリオもドロテオを睨みつけた。すると、この場に漂いはじめた不穏な空気を払うべく、首領はごほんと大きな咳ばらいをする。 「――客人の前だぞ?」  彼は、部下たちをじろりと一瞥しながら言う。 「不毛な争いは止めよ」  そう言うと、グラッソは蛆虫を見るような目を向けながら、カルロを(いさ)めにかかる。 「とにかく、客人であるヴィクトリウスとわしは和解した。そしてお前の兄貴分であるティベリオも、過去の事は水に流しておる。  ――にも関わらず、まだ不服があると言うのであれば、貴様を捨てねばならなくなるぞカルロよ。何せわしは、やかましく吠えたてるやくざ犬は好かんのでな」  そう言われたカルロは、先ほどまで赤くしていた顔をすっかり青くすると、申し訳ありませんでしたと恐縮して詫びた。それに対し、鼻で笑って返事をすると、グラッソは今度は興味深げな目をヴィックに向けたのである。

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