探偵とは名乗らない

探偵部シリーズ4話目です。

同じ日は来ない

1 毎日が猛暑日なんじゃないかと思うほどにテレビのニュースでは報道されている。熱中症の話とこの猛暑はについては毎年更新されていく一方なきがする。 夏休みに入り数日が経ったある日の午後、俺は夏休みの勉強と文化祭に出す文集の原稿を書いていた。 文集といっても俺たち探偵部が過去に解いた謎、天草の祖父の暗号とこの前起こった百人一首事件を探偵部なりに解説しただけの本だ。清水がついでに暗号を元に問題を出題するとも言ってたかな。俺が言いたいことは百人一首事件の記事を一人で書かされていることにとてつもない不満がある。1番ページ数が多い。清水曰くは「学校で売るんだから学校で起きたことが特集に決まってるでしょ」とのことだ。 俺はさっさと済ませて夏休みを少しでも有意義なものにしようと考えた。やろうと思えば案外こういうのはすんなりと終わるものなのだ。 その時、電話が鳴った。 電話の相手は天草だった。 「もしもし、梅原さん?」 「何か用か?」 「用というか、お願いがあって電話しました」 「お願い?」 「えぇ、梅原さん明日の夏祭りに行きませんか?」 俺は驚いた。お願いというから何かと思ったが夏祭りの誘いだった。いや、正確には違うな。誘われてはいない、行くか行かないか聞かれているだけだ。変に浮ついてどうする。 「いや、特に行く予定はないが、どうかしたのか?」 「その、私は毎年夏祭りの準備から運営をお手伝いしてまして、そこの管理人さんからもう1人呼んで欲しいと言われたんです。良かったら梅原さんに手伝って貰えないかと」 そこまで聞いたが正直なところ乗り気ではない。こんな暑い日が続く中祭りの準備とはかなり疲れそうだ。 「なんで俺なんだ?他にあてはあっただろう」 「男性でこんな事を頼めるのは梅原さんしか思いつかなくて…。無理にとは言いません」 男限定なんて説明は聞いてなかったが、まぁいい。 心良く承諾する理由も義理も存在しないが、明確に断る用事や理由もない、それに俺一人が行って天草や他の人が助かるなら行ってもいいかと思った。 「分かった、行くよ」 「ありがとうございます!時間などは追って連絡しますね」 そう言って電話は切られた。明日は宿題や原稿に手をつけられないとなると今日中に少し追い込んでおくか。そういえば夏祭りなんて行くのは中学の頃以来だな。 2 次の日の朝9時ごろに家を出た。雲ひとつない空と照りつけるような太陽の日差しに俺はとてつもなく家に帰りたい衝動に駆られた、暑すぎる。しかし俺はそんなことを諦めて俺は自転車に乗って夏祭りの会場に向かっていた。 「今日もかなり暑いな」 朝のニュースによると今日はスーパームーンとやらが出るらしい。横文字にすれば若者が気を引くと思っているのだろうか。要はでかく見える月のことだ。 夏祭りが行われる尾ノ山神社は俺たち地元民からすると1番でかくて有名だ。なんでも勝負運のご利益があるとか無いとかで多くの人が利用している。俺も高校受験の際には利用されてもらった記憶がある。 中学の頃を思い出すとあの祭りはかなり盛大で夏休みということもあり学生たちが山のようにいたのを覚えている。俺は人が多いところが好きではないためそこまで祭り自体を満喫したと思えたことはないと思う。 中学以来だが道は覚えている。川沿いを上流に向かって走り、少し山道に入ったところで大きな鳥居が見えた。俺は駐輪場に自転車を止めて鳥居をくぐり社務所を目指す。 目の前にある果てしなく続く階段を前に絶望しそうになったが引き返すわけにも行かず、上をあまり見ず足元だけを見て階段を上っていく。 階段の中腹に差し掛かったところで大きく開けた広場に出た。ここにりんご飴やくじ引きなどの屋台がいくつも並ぶ。階段の下にもいくつか屋台は出るだろうがここに店を構える方がよっぽど繁盛するだろう。 すでに何人かの作業員が屋台を組む準備に取り掛かっていた。 俺は広場を抜けてさらに階段を上る。社務所に着いた時に腕時計を見ると10時くらいになっていた。 扉をあけて中に入り、様子を伺っていると50代くらいの大人が話しかけてきた。 「君は?なにかようかね?」 まぁ無理もない。なにもできないであろう若造が目の前に立っていたらそうなるだろう。 「天草るみに呼ばれて来ました。準備の手伝いに」 そう告げるとその人はなにか思い出したようにあぁと言って奥の部屋に入っていった。しばらくすると部屋から天草が出てきた。 「梅原さん、おはようございます、どうぞ中に入ってください」 俺はおはようと挨拶をして靴を脱ぎ、案内されるまま部屋に入った。そこは見るからに忙しそうな雰囲気だった。十数人の大人たちが慌ただしく動いている。さっきの人はいろんな人に次から次へと指示を出していた、あの人が管理人さんだろうか。 俺は邪魔をしないように隅っこの椅子に腰かけた。 「梅原さん、今日は来てくれてありがとうございます。祭が始まると茜さんや濱田さんも遊びに来るそうですよ」 「そうか、まぁたまには体を動かさないと夏休みで完全にぼけてしまいそうだからな」 「私は社務所内の掃除や境内の掃除をします。梅原さんはおそらく神輿の飾り付けかと思います。」 「神輿?神輿が出るのか?中学の時の記憶にはそんな大層なものはなかったぞ」 天草は少し微笑んで答えた。 「いえ、そんな大層なものではありませんよ。担ぐわけでもなくただ、広場に置いてライトアップすると言った感じです」 なるほど、確かにそんなものがあったかもしれないと思った。中学生の人間からするとそんなものに興味もくれず型抜きや射的に夢中だったのだろう。今の俺は幾分かその神輿に興味が湧いている。 そんな事を話しているとさっきの管理人の人に呼ばれた。 「梅原くんだったかな、こっちに来てくれ、仕事だ」 俺はそう言われて立ち上がり着いていくことにした。 できれば中で作業したかったが願い虚しく外に駆り出され、先ほどの広場に連れてこられた。 さっき通った時より随分と風景が変わっていた。 屋台がいくつも立ち並び、少しの窮屈感さえ感じる。 そして広場の一角に大きな神輿が置かれていた。 神輿と言うよりは木の骨組みと紙でできた大きな箱というイメージだ。今からこいつが派手に化粧されていくのだろう。 「にいちゃんはこのシールを貼ってくれ。これが去年の写真だ同じ感じで貼ってくれればいい」 そう言われて渡されたのは金の蝶のシールと銀の花のシール、そして何枚かの写真だった。 「脚立から落ちないようにだけ気をつけてくれ」 そう言って管理人は社務所に戻って行った。神輿はすでに1メートルほどの高さの支柱に置かれていて脚立なしでは到底届きそうになかった。周りには俺の他にも何人か作業をしている人がいた。それぞれ別の飾り付けを任されているのだろう。皆黙々と作業していた。なにもしていなくても汗が滲んでくる。 俺もやるかと思い、写真を見ながらシールを貼って行った。正直そこまで難しい事ではないが脚立の上り下りや移動が面倒くさい。俺は50枚ほどのシールを貼り終え作業終了と思い、一歩下がって正面の位置で神輿を見ると圧巻された。 高さ3.5メートルほどの神輿がかなり派手になって存在感が一層増した感じがした。無論俺の貼ったシールだけがそれを演出しているわけではない、他の装飾品も合わさって豪華さを感じさせていた。 最後に1人の作業者が長い梯子を立てて神輿の上の方まで登り、屋根の頂点に羽を左右に大きく広げた金色の鷹の装飾を施した。太陽を隠すように神輿が堂々と立っている。 すると周りでは拍手が起こった。俺も一応拍手しておこう。 「よしこれで終わりだ」 「あとは周りに柵を張るだけですね」 他の作業者たちがそう話しているのを聞いて、納得した。客がこれに近づくのは危ない、もし倒れたりしたら大事故になりかねない。 俺は柵の作業にはあたっていないと思い社務所に帰ろうとしたところで1人の男が気になった。作業しているときはいなかったと思うんだが、運営側の人間ではないのだろうか。 その男は一眼レフのカメラを構えて神輿の写真を撮っていた。新聞の取材班か何かだろうか。そう思っていると作業者の1人が話しかけた。 「ちょっと困るよ、達夫くん。写真なんか撮らないで少しは手伝ってくれよ」 「いやぁ、この時期に帰ってこれるのは実に3年ぶりですからね。写真家として収めておきたいんですよ。それに親父も俺に手伝えとは言わなかったじゃないですか」 管理人さんの息子だろうか。写真家をやっているのか。まぁこの神輿を写真にしたい気持ちも分からんではないが、俺はもしかしてあなたの代役でいるのでは?とも思った。そう思うと少し睨むような目をしてしまう自分がいた。 腕時計を見るとすでに2時前だった。俺は社務所に戻り部屋で涼んでいたところに天草がやってきた。 「お疲れ様です梅原さん、無事終わったようですね」 「あぁ、そっちも終わったのか?」 「えぇなんとか」 その時管理人さんがタオルとおにぎりとお茶を持って部屋に入ってきた。 「いやぁ、天草さんも梅原くんも本当にありがとう、助かったよ」 俺はいえとだけ伝えお茶をのんで汗を拭った。他の作業者もひと段落ついたのか各々が休憩を取り出していた。 俺はおにぎりを食べながら天草と宿題や原稿の進捗について話していた。天草はもう何もかも終わるらしい。流石としか言いようがない。 その時、一人の男が慌てた様子で部屋に入ってきた。部屋にいた全員がその男の方に目を向ける。 「大変です!神輿が倒れました!」 全員が驚愕して時が止まったかのような空気が流れた。 3 全員が慌てて社務所を飛び出して行った。天草と二人取り残されるのもなんかあれだから俺たちも後を追ってついてくことにした。 神輿は先ほどまでの貫禄が失われたかのように傾いていた。 神輿を支えていた4本の支柱の一本が無くなっている。完全に転倒したわけではないのでなにも破損はないが、どうするのだろうという空気が周りに立ち込めていた。時間は3時過ぎ、あと2時間もしないうちに夏祭りは始まる。 天草が俺の方を見るが、さすがにこれはどうしようもない。俺の手には負えんぞ。俺はかぶりを振った。 しかし、その沈黙を破ったのは管理人さんだった。 「他の三本の支柱も取るしかあるまい。祭りの時間も迫っておる、できることをやるしかない」 神輿を完全に地面に着地させるのか。まぁ今さらこの神輿をあげるなんて無理な話だ。 他の作業者も諦めたのか何人かの作業員がその準備を始めた。ほんの数十分で柱は抜かれて神輿はそこに鎮座した。なんというか広場にある派手な個室?みたいな感じになった。さっきまで見上げていた高貴さが今は敷居の高い、もっと言えば近寄りたくない部屋となった。 周りの人は少しがっかりした様子で社務所に戻っていった。 社務所では管理人が屋台の人への説明や祭り後の動きを徹底していた。俺と天草には関係のないことだが他に行くあてもないのでその場で話を聞いていた。 一通り説明が終わると時刻は5時を回ろうとしていた。もう少ししたら地元の小学生や中学生がくるだろう時間だ。それぞれが持ち場に向かったところで天草が言った。 「私たちも行きましょうか。手伝いのお礼としてある程度は無料で楽しめるんですよ」 祭りを無料で楽しめるのはいいことだと思った。それに始まって間もない時なら人も少ないだろうから存分に楽しんでいられるだろう。気づけばあちこちに提灯もぶら下げられていた。どこからともなく美味しそうな匂いもしてきた。 俺と天草は広場に行き、食べたいものを貰い食べ歩きしていた。まだ小学生が数人といった感じで閑散としていた。そこにさっきのカメラマンがいた。 「あのカメラマンは管理人さんの息子か?」 俺は天草に聞いた。すると天草は誰のことを言っているのか察して 「えぇそうです。なんでもプロのカメラマンで各地を転々としているそうですよ。私もお会いしたのは久しぶりです」 やはりそうだったか、彼は神輿の写真を撮ったり広場全体の写真を撮っていた。 ずっとりんご飴を食べていた天草が食べ終えてこちらを見てきた。 「梅原さん次はなにしますか?」 なにしますかと言われてもね、俺は周りを見渡した。当たることはないと思うくじ引きなんて無駄だし、金魚やヨーヨーなんて取れたとしても荷物なだけだ。俺はふと、見渡していた目が止まった。 「あれかな」 俺が指差す先には射的があった。自信があるわけではないが、どうも男として燻られるなにかがあった。 「射的ですか、いいですね。いきましょう」 天草がそう言って小走りに向かっていった。俺も後を追う。 「お、にいちゃん。やってみるかい?」 お金がかからず射的ができるなら精神的にはプラス要素でしかない。棚にはゲーム機と書かれた札やぬいぐるみの札、プラモデルの箱なんてものが並んでいる。別に欲しい商品なんてない俺は、適当にお菓子の箱を狙った。 3発撃ったがどれも倒すことは無かった。12発目は空を切り、3発目は当たったが倒れなかった。 「残念だったなぁ、嬢ちゃんもやるかい?」 そう言われて少し戸惑った天草だが、やりますと言って銃を構えた。なんとなくだが似合わない。天草は欲しいものがあるのか何かを狙っていた。銃口の先に目を向けたが、どれを狙っているかまでは分からなかった。 天草はかなり集中して呼吸を整えて引き金を引いた。 その1発で見事命中、なにかが棚から落ちた。ぬいぐるみと書かれた札だった。似合わないなんて失礼なことを言ったな。少なくとも俺より上手い。 「やるじゃねぇか、こんなかから一つ持っていっていいぞ」 そう言って店主は段ボール箱を取り出した。天草は中を見て色々迷ったあげく、クジラのぬいぐるみを貰っていた。 「嬉しそうだな、射的得意だったのか?」 そう天草に聞いてみた。 「いえ、射的をやるのは初めてでした」 俺は初めての人にこんな敗北感を味合わせらたのか。 この神社は勝負運のご利益があるはずなのだが。 「少し座りましょうか」 そう言って天草は休憩所としてパイプ椅子などが用意されているところを指差した。 「俺は飲み物を買ってくるから先に行ってくれ」 そう言って俺はジュースを売っている店に向かった。 嫌な予感がする。そろそろ天草から切り出される話題は一つしかない。 ジュース売り場で俺は、こんな時ばかり無駄にルーレットが当たり2本選べと言われた。 俺はオレンジジュースと炭酸水を貰ってぬいぐるみを抱き抱えている天草のところに向かった。おそらく求められる答えを考えて。 4 ジュースを両手に持った俺は天草の待つ休憩所へと向かい、オレンジジュースを天草に上げて俺も横に座った。 俺は炭酸水をグビっと飲み空を見た。スーパームーンとやらが上の方まで上がってきている。 天草もジュースを飲み一息ついてから聞いてきた。 「あの梅原さん、一つ聞いてもいいですか?」 やはりか、聞こうとしていることは大体想像がつく。 「神輿の件か?」 天草は少し驚いた表情をした後頷き静かな声で答えた。 「そうです。4本の支柱の一本が無くなり、神輿は倒れてあのような状態になりました」 そう言って少し前を見る。そこには柵に囲われて地面に置かれた神輿がライトアップされている。ライトアップしたおかげで少しは見応えのある感じだろうか。 「支柱の破損が原因ならわかるんですか、無くなったとはどういうことなのでしょうか」 吹っ飛んだ、なんて言っても納得しないだろうしそうだとも思っていない。 「誰かが故意に外して隠した」 俺は空を見ながらそう答えた。 「誰が一体なんのためにそんなことをしたのでしょうか」 思い当たる人は一人しかいない。だが、理由がいまいち分からないな。 「梅原さんはなにか気づいてるんじゃないかと思ったんですけど、どうですか?」 俺は大きく息を吐いてから天草の方を見る。 「やったのは多分、あの達夫とかいうカメラマンだ。俺たち作業員が社務所で休憩しているときに倒れたということは作業員以外の可能性が高い。」 「でも倒れたと報告に来た作業員という可能性はありませんか?」 その考えは無かった、それに面白い。だが、 「あの表情と慌てようだ。ないだろう。そこまでの演技をしてまで神輿を崩したいならもっと破壊してもいいはずだ。だが、やられたのは支柱一本」 天草は顎に手を添えて考える様子だった。 俺はジュースを飲んでから続けた。 「あの時間にそんなことが起きれば、取る手段は他の三本も外してあの状態にする他ないだろう。犯人は神輿が無くなるのは嫌だったんだ」 「では一体なんのために?」 天草がそう聞いてくるが、今の俺に即答はできない。 なんのためにしたんだ?ただの嫌がらせではないとして、支柱がなくなった、あの状態になった神輿を見たいのか?いやあれだけ立派だった神輿が地面に置かれているなんて魅力は半減だろう。写真に納めるため?地面に置かれた神輿はそれほどまでに希少価値でもあるのだろうか。周りからの批判を買ってまで写真を撮ろうとするなんて、、、 そこまで考えていたとき、横から声をかけられた。 「夏祭りという賑やかしい場所でなに硬い顔してるんだい?」 友也だった。横には清水もいた。 「ちょっと色々あってな、今来たのか?」 清水は天草となにか楽しげに話している。 「少し前だよ、焼きそば食べて型抜きして休憩しようとしたら孝太たちが見えたんだ」 そんなことを話していると清水がこっちを見て話す。 「祭りと梅原って釣り合わないよね、スーパームーンと梅原ってのも」 そう皮肉を言ってくる。悪かったな釣り合わなくて。 「自分は釣り合っているとでも言いたげだな」 そう言ってやると清水はムカつくと小声で言った。それを天草がなだめていた。 「確かにスーパームーンは珍しいよね。もう少しでてっぺんに差し掛かるんじゃないかな。それにしても孝太、なんだいあの低い神輿は?まさか孝太の仕業かい?」 友也がそう言いながら横に座る。 低い神輿?そうか、支柱がなくなって失ったのは見栄えや貫禄だけじゃない高さもか。そこまで考えたときに一つ思いつくことがあった、まさか。 「天草、ちょっと来てくれ。」 そう言って立ち上がると、天草もハイといって立ち上がった。俺が歩き出すと天草がついてくる。訳が分かっていないだろうが友也と清水も付いてきた。 俺は神輿の正面に立ち止まりしゃがんでこう言った。 「見てみろ、あのカメラマンがここまでして撮りたかった写真はこれだ」 そう言って神輿に指を差す。天草は分からぬまま真似をしてしゃがみその方を見た。そして、「これは」と言って目を大きく開いていた。 装飾品をつけてライトアップされた神輿の頂点に君臨している大きく羽を広げた鷹がまるで満月を持ち上げているかのような状態になっている。 「おそらくこれを撮りたかったんだろう。支柱のある高さではこの柵からは撮れない。かといって後方に下がれば他の客までも写真に写る。客の写り込まない柵ギリギリで撮影しようと思うと神輿を低くするしかないんだ。それに普通の満月では小さいからスーパームーンとこの祭りが重なる今日しか撮れない」 説明を聞いているかどうかは分からなかった。天草はただ一点にその光景を見つめていた。 気づくと友也や清水も見ていた。 「なんてことだ、こんなことがあるなんて」 友也は驚いてスマホで写真を撮りまくっていた。 「すごい綺麗」 それしかいうことがないのか清水もぼーっと見つめていた。 確かにこれまでの人生で見てきた中でも12位を争うほどに美しい光景だった。 後ろから一人の男が声をかけてきた。 「まさか、俺以外にこの光景を見れることに気づいた人がいたなんてね」 カメラを持った達夫の姿がそこにあった。 「数年ぶりに祭りのタイミングで帰ってきて、神輿の写真だけじゃ面白くないと思ってね。スーパームーンとの2ショットを撮れないかと思ったんだ」 プロのカメラマンとは写真のためにここまでのことをするのかと思った。 「君は確か昼間の…君はずっと分かっていたのかい?」 俺のことを言っていると思って答えた。 「やったのはあなただとすぐに思いましたが、理由はついさっき気づきました」 達夫は少し驚いたような表情をしたあのニコリと笑っていた。 「君たちの写真も撮らせてよ」 そう言って達夫はカメラを構えた。俺たちはなんとなく寄り合って神輿をバッグに写真を撮ってもらった。 「ありがとう、今度親父に送っておくから貰ってくれ」 そう言って彼は何処かに歩いて行った。 状況を把握できてない友也が聞いてきた。 「どういうこと?なにかあったのかい?」 俺は今日1日でかなり疲れた。一から話すのが億劫になり天草の方を見る。 「天草、頼む」 そういうと天草は嬉しそうに友也と清水に話し出した。 気づけば祭りはかなり盛大に盛り上がっていてあっという間に人があふれていた。 おそらく二度とこんな祭りはないだろう。自分が運営に関わることも、スーパームーンと被ることも、あの神輿が地面に置かれるなんてことも。 鷹が月を背負う姿を想像できたとしても俺は見ようとして行動できないだろう。 俺が背負うものは天草の謎への好奇心に対する責任感だけでいいじゃないか。俺はそう思いながら神輿の鷹をじっと見つめた。

読んでいただきありがとうございます。 夏祭りの描写はもっと細かく書きたかったんですけど…難しいですね。

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