探偵とは名乗らない

探偵部シリーズ3話目です。 感想や意見お待ちしてます。

過去に向けた歌

1 7月に入り、あと数週間で夏休みになろうというのに梅雨が明けることはなく連日雨が降り続けて気分までもが曇天になる。残りの数週間も変に意識してしまいいつも以上に学校に通うのが億劫になっていた。この時期は生徒だけでなく先生すらもやる気を感じない。教師の夏休みの過ごし方について昔気になったことがあるが、案外教師には夏休みと呼べるものが少なくほとんど毎日学校でしごとをしているときいたことがある。それが先生から聞いたのではなく姉貴からと言うのがどうにも信ぴょう性に欠ける話ではあるが幼かった俺はそれを信じていたんだと思う。今ではそれがあながち間違えではないことに気付かされた。もっとも今では教師陣の夏休みについてなど興味も持たなくなったのだけれど。 俺個人としても別に夏休みになったからといって特にやることがあるわけではないが、学生にとって夏休みは唯一の利点だと思う。山のような宿題を除いての話だが。 そんなことを思いながら俺は職員室に部室のカギを取りに来ていた。しかし、カギは無かった。すでに誰かが取りに来て部室に向かったのだろう。 無駄足だったと少し後悔して職員室を出たところにトロフィーや賞状などが飾られていることに目を向けた。普段なら全く気にもしないのだが、職員室まできたことを無駄足のままでは終わらせたくないという思いもあってか俺はそれらを見ていた。 部活動が活発な学校とだけあっていろいろと入賞しているものだなと感心した。もっとも運動部の活躍はかなり少ないが。 掲示板には写真なども飾られていた。その中心部に紙が貼られていた。 【昨年の成績を越えよう!】 美術部 全国コンクール 最優秀賞 白井夏帆 吹奏楽部 全国コンクール 優秀賞 競技かるた部 全国大会 団体戦 2位 個人戦 2位 岸野美波 男子バスケ部 地区大会出場 華道部 県コンクール 最優秀賞 弁論部 地区発表 最優秀賞 珠算電卓部 全国大会出場 これらの結果を超えなければならないとは教師陣も無茶を言っている。まぁ俺にはつも関係のないことなのだが。 俺は他の部活の栄光を知り精々頑張ってくださいとだけ思いながら探偵部の部室に向かい歩いていた。部室に入るとすでに天草がいて本を読んでいた。 「こんにちわ。梅原さん」 俺は手を上げて返事をする。俺も椅子に座り鞄から文庫本を取り出し読み始めた。 少ししてから天草が本を閉じて話しかけてきた。 「あの、梅原さん?」 俺は言葉は発さないが目線を天草の方に向けた。 「文化祭でなにかをするということが決まったまま内容をなにも決めてないと思うのですが」 確かに、以前天草と友也との話し合いで文化祭に探偵部として何かすると決めていた。 「そんなこと言ったって実際することなんかないだろう。」 「それはそうなんですが、私顧問の先生にも言ってしまってまして。することを決めて夏休み中には形にしておけと言われました」 俺はため息をついて、読んでいた文庫本を閉じた。 「確かに行動するなら早くした方がいいとは思うが、探偵部としてやることなんざなにも思いつかんぞ」 天草も同じなのか少し俯き小声でそうですねとだけ呟いた。 その時、部室に友也と清水が入ってきた。探偵部の4人が揃うのは最近少し増えてきている。この2人にもそれなりに文化祭への危機感があるのだろうと思う。 清水が天草の横に座り、友也はなぜか立ったままこちらを見ていた。 俺がなにか用かと聞こうとした時、先に天草が聞いた。 「濱田さん、どうしたんです?」 そう聞かれて友也は鼻を鳴らして喋り出した。 「実はね、茜にはさっき話したんだけど、歴史研究会で面白い話を聞いたんだ。」 「歴史のことならそこまで興味はないぞ。お前ほど知識があるわけでもないから面白いとも思わないかもしれん」 そういうと友也は少し蔑んだ目で見てきた。 「違うよ孝太、別に歴史の話じゃないんだ。話の出所が歴研なだけ」 「さいで。」 天草がワクワクした様子でなにがあったのか聞いた。 「歴研の先輩の倉木さんが言ってたんだけどさ、今日部室にきた時に部室のドアにこいつが挟まれていたんだってさ」 そう言って友也はポケットから何かを取り出し机に置いた。なにかと見てみると札に文字が書かれていた。 【ながらへば またこのごろや しのばれむ うしとみしよぞ いまはこひしき】 それを見た天草が言った。 「百人一首ですね。これが何か?」 「野本先輩はイタズラかなにかだろって言ってたんだけど、イタズラにしては意味がよく分からないし。かるた部の人に聞いたんだけどかるたの箱がつなくなってるらしいんだ」 天草が立ち上がって声を上げる。 「それって!つまり、誰かがかるた部からかるたを盗んでその札を他の部活にばら撒いている、ということですか?」 「その通り、まぁ他の部活にあるかは今から調べに行くんだけどね、でももし他の部活にも同じことがされていれば確定的だとおもうよ」 天草のテンションがさらに上がっていくのが分かる。ものすごく嫌な予感がする。 「いいですね。なんだか謎めいていて!」 「そうだろ?僕たちは仮にも探偵部だ、犯人を追求してみないかい?」 天草のワクワクが止まらない。が、 「断る。」 俺はきっぱりとそう答えた。 「なんでですか?梅原さん!」 「俺たちはそんなイタズラ犯を追ってる場合じゃないだろう、文化祭で何かしなきゃいけないって時に」 そういうと天草は落ち着いた。 少しの沈黙の後清水が口を開いた。 「その文化祭のことなんだけどさ、今回のこの事件が学校全体でもっと広まればいいネタになるんじゃないかな?」 天草が理解できずに聞いた。 「茜さんどういうことですか?」 「いやだから文集よ。るみちゃんの祖父の暗号のことと今回のこの事件のことを取り上げれば探偵部っぽい文集が作れる気がするの」 友也がぽんと手を叩いて頷く。天草も賛同している。 「さすが茜だね、それは名案だよ。孝太も文句はないだろう?」 確かに文集とかなら今からでもまだ間に合うとは思うが不安要素がいくつもある。 「だとしても、この事件が広まるとも限らないし、そもそも教師も合わせれば900人近い容疑者ってことになるんだぞ」 「まぁダメだったらまた考え直そうよ。」 友也がそう言って俺を落ち着かせようとしている。 「では早速少し考えてみましょう」 天草がそう言って俺たちは少し考えてみることにした。 俺はとりあえず思った疑問を聞いていくことにした。 「まず、なんで百人一首なんだ?」 友也が答える。 「んー、何か意味があるとは思うんだけど。この学校には100も部活動はないからなー、それに番号順って訳でもなさそうだし」 百人一首に番号が振られているとは知らなかった。 百人一首である理由はとりあえず置いておくか。 清水が誰にともなく質問をした。 「百人一首って言えば、平安時代よね。時代的なことも意味があるのかな?」 これにも友也が答える。 「正確には鎌倉時代だね、藤原定家が書かせたんだ」 「流石は歴史研究会だな」 友也が自身げに胸を張る。 「別に褒めてはいない」 「百人一首と言えば恋の歌ですよね。これも恋の歌なんでしょうか」 友也が少しがっかりした感じで答えた。 「おそらく違うね、まぁ僕も百人一首の内容についてまでは詳しく知らないんだ」 まぁ"適度に浅く、ものすごく広く"が友也の知識人たる所以だからな無理もないだろう。 「現状こいつだけではなにも分からん。もっともこの他に何かあるかわからんが」 「そうね、流石にこれだけで犯人特定は無理があるわね」 清水が机に突っ伏して言う。 「どうしましょう、少し様子を見るべきでしょうか。今日のところは帰りましょうか」 そうだなと言って俺たちは帰る準備をして部室を出た。 「部室の鍵は僕が返しておくよ。ついでに他の部活も調べたいからさ」 そう言って友也とはそこで解散した。 2 俺は家に帰り、部屋の本棚を見ていた。あるのは文庫本がほとんどであとは少しのマンガと辞書や図鑑などだ。その中の一冊を取って俺は机に座った。 小倉百人一首全集と書かれた本。昔姉貴に貰ったもので開いたことは無かったがなんとなく取っておいたのだ。 中身をパラパラと見たがいまいち興味を惹かれるものがなくすぐに閉じた。夏休みまで早く日を過ごしたいと思い寝ることにした。 次の日の朝、教室に向かう途中の廊下で清水と友也にあった。適当に挨拶して通り過ぎようとしたところで友也呼ばれた。 「孝太、みてよ」 そう言って見せてきたのは札だった。ただ昨日のものとは違う歌が書かれていた。 【はるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかぐやま】 これは?という顔を向けると友也は理解したのか答えた。 「囲碁部の部室に置いてあったらしいんだ」 「それにこれ」 清水が紙を見せてきた。 【あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき】 「誰が言いふらしたか分からないけど、私のクラスでは結構話題になってたわよ。ちなみにこれは天文部にあったらしい札の文字よ」 これで3枚か、それに話題にもなってきているとは面倒なことになってきたな。 「一応、僕は他にもないか聞いて回ってみるよ」 友也はいつになく張り切っている感じがした。いや、友也だけじゃない、他の周りの生徒もやや張り切っている感じがした。俺のように興味を持たない生徒もいるが、解いてやると言わんばかりの生徒たちが各々の考察をぶつけ合っているのが見える。 夏休み前の鬱憤を晴らすかのようにこのイベントに参加してるといったところだろうか。 「ここまでくると何かあるかもしれないな。俺も考えてみるよ」 そう言って俺は教室に入った。 席に着き文庫本を読みながら考えてみた。配る札と部活はランダムなのか?適当に仕掛けられる部室に適当な札をおいているのか、それとも両方に意味があるのか。現段階では判断することができない。だが、恐らくこの事件のことをないがしろにはできないと思った。文集にもからんでくることだいうこともあるが、なにしろ天草が黙っていないだろうから。 あくまで探偵部として少しは動く必要があるかもしれないというくらいには考えが及んでいた。 昼休み友也と昼飯を食べている時、教室の出入り口に見知った人がいた。白井夏帆だ。彼女は過去に探偵部を発足した人で、前に清水の一件で顔を知っている、というよりこの学校で知らない人はあまりいないかもしれない。彼女は美術の天才だからだ。 そんな白井が誰かを探してる様子だった。俺と目が合うとこっちにくるように手招きされた。俺はとりあえず彼女の方に向かい、聞いた。 「誰か探してるんですか?」 そう言うと白井は少し鼻で笑ってから 「君だよ、梅原くん」と言った。 俺に用?俺は彼女に何かしただろうか。いや心当たりと呼べるものはつとしてない。 「そう身構えるな。面白いことを耳に入れてやろうと思ってな。これだ」 そう言って白井はポケットから何かを取り出し見せてきた。例の札だった。 【たきのねは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ】 「今朝、美術準備室にこれが置いてあった。校内でも少し流行っているようだから君も知っているだろうと思ってな」 「まぁ知ってはいますがどうしてこれを俺に?」 白井が少し笑いながら言った。 「こういうのは君の分野だろう。誰かに託すなら君がいいと思ったんだ。」 ありがとうございますと言えばいいのか、変に期待されても困ると正直に言ったほうがいいのか、返答に困っていると白井が続けた。 「それともうつ」 そう言って白井は一歩下がった。すると斜め後ろからもう一人の女子生徒が前に出てきた。 「はじめまして、3年の岸野美波です。これを」 そう言って出されたのはまたもや札だった。 【かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを】 俺はそれを受け取る。これで5枚目。 後ろにいた白井が前に出てきた。 「ちなみに彼女は写真部だ。それじゃよろしく」 そう言って2人は歩いて行った。岸野美波って名前どっかで聞いたことがあるような、思い出せない。 それよりよろしくと言われても…俺はため息をついて席に戻り友也に今貰った2枚を見せた。友也はすぐにメモを取っていた。恐らくこの2枚の存在を知るのは俺たちだけなのだろう。 「これで5枚になったね、なにかわかりそうでわかんないなー」 確かに友也の言う通りだった。この5枚の共通点がいまいち掴めない。 「まぁ放課後にでも話し合えばいいさ」 俺はそう行って弁当を食べはじめた。 放課後になり、部室には探偵部が揃っていた。とりあえず俺は昼休みに貰った2枚のことを話し全員で状況を把握することにした。 話し始めようとした時天草が慌ててカバンから何かを探しはじめた。 「そういえば、実物はないんですけどクラスの子から聞いたんでした。今の梅原さんの2枚を含めた5枚以外の札があったらしいんです」 そう行って1枚の紙切れを出して机に置いた。そこには歌が書かれていた。 【あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ】 6枚目があったってことか。 「昨日、映画研究会の部室に置いてあったそうですよ」 「犯人は何枚ばら撒くつもりなのかなー」 清水がお手上げという感じで天井を見上げていた。 友也がルーズリーフを出してなにか書こうとしていた。 「とりあえず、オーソドックスに共通点から見つけていこうか」 清水が手を広げて指を折っていくようにして話し出した。 「まず、全部部室に置いてあったってことでしょ、あとは札が置かれたのが全部文化部。あと何かある?」 そう言って天草の方に目をやる。天草は顎に手を当て考えた。 「そうですね…歌の意味は季節のこととかが歌われているから部活とは連結しなさそうってことぐらいは思いました。」 確かに、歌の統一性がないのは気になるが犯人が置く札はランダムだとしたら考えるだけ無駄なのかもしれない。 「正直、札を見つけた時間を聞いてみる必要があるかもしれないな。歴研の、誰だったかに話をきけないか?」 「倉木さん、倉木 飛鳥だよ。一応生徒会長なんだから覚えておきなよ」 友也に呆れた顔でそう言われた。生徒会長だったのか。生徒会長は見たこともあるし顔もわかるが名前は知らなかった。それに生徒会長が歴史研究会とはなんとも意外だ。 「一応、僕の方で話は聞いたよ。札を見つけたのは放課後になってすぐだったらしいよ。」 「天文部も昨日の放課後だっていってたわよ」 「映画研究会は昨日は部活が無かったので見つけたのは今日の昼休みらしいです」 友也がそれらをメモしていた。ハッキリとした時間にはやってないか。 「これじゃ犯人が単数か複数かもわからんな」 「明日以降でもう少し共通点を絞れればいいんだけど」 友也がそう言ってペンを置いた。 共通点もそうだが、目的がよくわからない。何か目的がすでに明示されているのか?分からない。そもそもなんで札を使う、紙に書いて置くだけでもいいだろうに。分からない。 そんなことを考えていたが天草が口を開いた。 「まだ時間はありますからね。晴れているうちに今日は帰りませんか?」 「そうだね、帰ろう」 そう言って天草と清水が立ち上がった。 俺はじゃんけんで負けて部室のカギを返しにいくことになった。4人のじゃんけんで一回で勝敗がついた時の情けなさはなんとも言えない感じだった。 清水には日頃の行いだとかなんとか言われたが考えをまとめたいと思って1人になりたいとも思っていたのでよかった、さっきまで友也がメモしてた紙をみる。これまでの6つの歌や俺らの考察が書かれていた。俺はその紙をカバンに入れ部室のカギを返しにいった。 日が暮れ出すこの時間の学校は嫌いじゃない。妙な静けさと暗さが昼間とは違う校内を演出してくれる。職員室にカギを戻し、出ようとしたところで廊下に1人の生徒がいた。写真部の岸野美波だった。 3 職員室の前にいた岸野美波は俺に気付き「お疲れ」と言ってきた。俺は会釈をして返した。 彼女は職員室前の賞状や写真を眺めていた。 この時俺は思い出した。岸野美波という名前をどっかで聞いたんじゃない。いつか無駄足で職員室に来た時にそこの掲示板で見たんだ。 「先輩は競技かるた部じゃないんですか?」 話しかけられると思ってなかったのか彼女は少しびっくりしてから少し悲しそうな顔して答えた。 「かるた部は辞めたの、今は写真部よ。」 「でも先輩は個人戦で全国2位だったんですよね?それなのにどうして?」 そう聞くと彼女はクスッと笑って 「結構詮索好きなのね。探偵部だから?」と聞いてきた。 俺は少し申し訳ないと思った。人のことをあれこれ言うつもりで聞いたわけではなかったが結果的にはかなりプライベートなことを聞いていたのかもと思ったからだ。 岸野は少し考える表情をしてから答えてくれた。 「かるたは楽しいし今でも好きだよ。でもね、好きだからってだけでできることじゃないの。私は…もうできないかな」 その時窓から少し強い風が吹いてきて掲示板の紙や写真が飛ばされた。俺の足元に1枚の写真が落ちた。おそらく去年の競技かるた部の写真だろう、賞状を持った岸野美波のとなりに見知った人物がいた。 「先輩、この先輩のとなりに写っている人って」 彼女はこちらを見て俺の指差す人物を見る。 「あぁ、飛鳥くんね。彼も競技かるた部だったの」 やはり。まさか生徒会長が競技かるた部だったとは、まぁ歴研よりかはよっぽどお似合いだとは思う。 彼女はしゃがむことをせず腰を曲げるだけで床に落ちている写真を拾って掲示板に貼り付けていた。身体が柔らかいのだろうか、俺にはとても真似できんことだ。 この学校の3年生には驚かされてばかりだ。 「先輩はかるたに詳しいんですよね。今回の事件の札になにか共通点とかありますか?」 俺はかるたに詳しくはない、だから何かヒントがあるけど見落としている可能性は十分にありえる。この際かるたに詳しい人に聞くのはかなりのヒントになると思った。 ただ、彼女からの答えは求めるものとは違った。 「んー、歌の種類も決まり字も全部バラバラかな。札に共通点は無いと思う。でもつ言えるとしたら」 彼女は外をみて少し間を開けてから言った。 「もう札が配られることはないと思う」 4 家に帰ってから俺は彼女の言葉をもう一度思い出す。 札に共通点はない、それに彼女はもう札が配られることはないと言っていた。彼女はこの件についてなにか知っているのだろうか。いや彼女も札を配られた被害者だ。 ここでふと疑問を抱く。被害者?ちがう、そんなものはいないんだ。被害や加害なんてない。犯人は誰かに何かを伝えようとしたんじゃないだろうか。誰が?誰に?なにを?脳内で目まぐるしくここ数日の言動と札に書かれた歌が駆け回る。 俺は百人一首全集と友也のメモを机に起き、なにかを探していた。なにかある、突き止めてやる。ここまできて引き下がれない。 次の日の放課後、部室には探偵部が集まった。 あの6枚以降、札がどこかの部活に置かれることは無かった。散々息巻いていた探偵志願の生徒たちも消沈し、いつもの学校生活にすぐに戻って行っていた。 俺は文庫本を読み、友也は宿題をしていた。 「今日は1枚も札が無かったらしいわよ、結局犯人分からず終いかー」 清水が机に突っ伏して唸っている。 「ものすごくワクワクしてたんですけど、今はわからないことにモヤモヤしています」 天草が言う。 「よーし、るみちゃんファミレス行こう。こう言う時は食べることに集中するべきだよ」 そんなもんかね。 「そうですね、茜さん行きましょう」 宿題に参っていた友也も顔を上げて 「いいね!僕もいくよ。孝太も行くだろ?」 「まぁ早く帰ったとしても特に用事もないからな」 「よーし、決まり!じゃあ行こう」 「それにしても今回ばかりは梅原も歯が立たないとはね、ほんと私たちの期待を裏切ってくれるわね」 清水に皮肉を言われるが別に期待しろとは言ってないし、それに少し違う。 天草が近づいてきて聞いてきた。 「梅原さんは今回のことどう思いますか?なにか梅原さんなりの考えを聞いてみたいです」 そう言われても困る。すると友也が少しにやけながら言った。 「そのことなら孝太は何か知っているみたいだよ」 おい、余計なことを… 「本当ですか!?ぜひ聞かせてください!」 天草が俺の腕を掴みながら寄ってくる。 「まぁまぁるみちゃん、梅原もファミレス来るんだしそこで聞いてあげようじゃないの、失望させないでよね」 ふん、そうだな。文集のネタになることだしいずれは話すことになるだろうからな。俺は頭の中で話を整理しておこうと思いながら歩いていた。 その日の昼休み俺はある人物の元に行っていた。 生徒会室。俺はノックして許可をもらい中に入る部屋の中には1人しかいなかった生徒会長 倉木 飛鳥。 回転椅子を回しこちらを見て言う。 「2年生だね、なにかようかな?」 「聞きたいことがあってきました。今週に入っていろんな部活に百人一首の札が置かれるという妙な事件が起きました。ご存知ですよね?」 「あぁ、聞いたよ。」 「では、それらを行なっていたのは先輩あなたですよね?」 倉木は少し驚いた表情をした。 「どうして俺なんだ?俺はかるた部はとっくに辞めたんだが」 「えぇ、知ってます。今回の事件はあなたが競技かるた部を辞めた岸野美波に向けたメッセージだったんじゃないですか?」 「というと?」 この時点で話してくれると助かるのだが、そうはいかないみたいだな。 「妙なことが多かったんですよ、そもそもかるたを使われたこと。そのかるたに共通点が見られないこと。そしていろんな部室に置いたこと」 「君は何かわかったってことかい?」 「まずいろんな部室に置いたことに関してはおそらくカモフラージュのつもりでしょう。本来は写真部だけがターゲットだったが写真部だけではストレートすぎておそらく誰も理解できないままになる。写真部に置かれた札に書かれている歌をご存知ですか?」 倉木は答えない。俺は続けた。 「かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを。この一枚だけが恋の歌なんですよ。ランダムに6枚札をとったとして43枚もある恋の歌が一枚だけなんてそうそうありません。そして内容を要約するとこの歌は相手に対する情熱です。これはあなたから岸野美波に向けた想いじゃないんですか?部活を辞めた岸野美波にもう一度かるたをしてほしいという意味合いの」 そこまで説明して、息をつく。倉木が口を開いた。 「なるほどね、でも彼女がかるたを辞めたことを悔やむ人は僕だけじゃない。顧問や他の生徒だって同じだよ。それでも僕だと思った理由はなんだい?あてずっぽうかい?」 昨日の夜俺もそこにたどり着くのに時間がかかったんだ。おそらくかるたをしていた岸野美波は割とすぐに解けたんじゃないだろうか。 「違いますよ。あなたはちゃんと誰からかと伝えていた。かるたの決まり字に沿ったアナグラムでね」 俺はそう言ってポケットから紙を取り出し見せた。 かくとだに→2字決まり→く たきのねは→2字決まり→き あきかぜに→3字決まり→か あさぼらけ→6字決まり→あ はるすぎて→3字決まり→す ながらへば→3字決まり→ら 「これらを並べ換えると"くらきあすか"。そうです、あなたの名前になります。偶然とは思えません。」 そこまで話して俺は少し目線を落とした。 すると、倉木が立ち上がり拍手しだした。 「まさか美波以外に解かれるとは思わなかった。君の言ったことは全部当たっている」 俺は少し安堵した。 「どうしてこんな回りくどいことを?」 「君ならわかるんじゃないか?」 俺は少し考えてから答えた。 「彼女との繋がりがかるただけだったから?」 「そうだね、それもあった。1番は''直接言えなかったから"かな。彼女がかるたをもう出来ないのは知っているんだ。」 「膝ですね?」 倉木は驚いていた。 「そこまでわかっていたのか」 やっぱりか。 「確証はありませんでした。普通に階段の上り下りや体育の授業は受けているようでしたから。ただ…」 俺は昨日のことを思い返す。掲示板から写真や紙が飛ばされた時、普通なら身体が柔らかいからといってもしゃがんで取るはずだ。おそらく彼女はそれが出来なかったんだ。 「美波は膝を完全に曲げることができなくなったんだ…つまり正座ができない」 しゃがむ姿勢と正座は似ている。彼女の症状は知りようもないし、その時の感情も計り知れない。大好きなものでその力も十分にあるのにそれらが奪われる気持ちなど俺には到底想像できない。 俺は倉木の方を見る。 「わかっていたのにどうしてですか?」 「それでも彼女にはかるたを続けて欲しかった。選手としてできなくても、なんらかの形でかるたに携わっていて欲しかったんだ。俺は去年からおそらくこれからもずっとそう思わずにはいられない」 俺はこの2人の関係を知らない。どれだけ深い溝が生まれたかも。 俺は咳払いをつしてからこう言った。 「さて先輩、俺は今回の事件のことを文化祭の文集に載せるつもりです。勿論、名前などは晒しませんしあくまで俺の推測として、です」 「なるほど、公表しない代わりに許可をくれってことか。うん、構わないよ」 俺はホッとした。 「ついでにかるた部から取ったかるた一式をください。適当な理由をつけて返します。配られた6枚は濱田友也にでも言って回収します」 「分かった、いいだろう。ところで君の名前は?」 俺は素直に答えた。 「2年B組 梅原孝太です」 俺はその後、友也に全てを話して協力してもらい、かるたの返却をした。 ファミレスに向かう途中で俺は考えていた。 あの2人がかるた部を辞めることになった時の心情など俺は1ミリも理解できないほどに辛いことに違いない。俺はこの高校生活で辛いと思う現実に出会うことがあるだろうか。多分人生で辛いと思うこと自体おれには少ないと思う。ある程度のこと仕方がないとかで片付けてしまう性格だから。その時一つの歌を思い出した。 【永らへば またこの頃や しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき】

読んでいただきありがとうございます。 個人的に百人一首が好きで物語にできればと思い考えました。現代にも当てはまる歌の数々は調べると面白いですよ

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