サウンドドラマ原作キャラクター音楽プロジェクト「Live us」

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The beginning of our live ~episode of TapeTum~

The beginning of our live ~episode of TapeTum~ Vol.1

 起動プログラム、確認。  システム初期化。  初回起動データ、チェック……完了。  製品情報、確認。  所有者情報、未登録。個体名称、登録無し。  エモーショナルプログラム、起動。  運動プログラム、チェック、異常無し、起動。  オールチェック。  完了。  個体識別番号、KGC001。  稼動開始。  ゆっくりと目が開く。  その瞬間に目に留まったのは、どこかくたびれた顔をした中年男性だった。 「お、目が覚めたか? よかった、どうやら成功したようだな」  よかったよかったと、安心した様子で笑みを浮かべて近づいてくる。  その人の顔をじっと覗き込み、首をかしげる。 「あなたは、誰?」  訊ねると、ああ、とその男性は手を差し出してくる。  握手でも求めているのだろうか。  柔和な笑みを浮かべながら、彼は言った。 「俺は晶だ。お前たちが……その、スクラップ場に行く直前だったのを、拾ってきた」  晶と名乗ったその男性は、途中で言葉を濁した。  スクラップ場、という言葉を躊躇っているようだったが、もしかしたら気を遣っていたのだろうか。  それはとても不思議なことだった。  何しろ彼の目の前にいるのは、理由があって捨てられ壊されるはずだったアンドロイドなのだ。  そうだ、自分はアンドロイドだ。  初回起動処理が終わり、ようやく安定してきたところで色々と認識出来てくる。  どうやら自分は一度なんらかの理由でリセットされた中古の機体らしい。  過去の情報の多くが削除されていて、今の自分の状況があまり正しく把握出来そうもないが。  とりあえず、眼前の男性が所有者でないということはわかった。  所有者情報の登録がされていない。 「……握手、してくれないか?」  そう訊ねられても動かずにいると、握手を求めて差し出していた手を晶は所在なげに揺らした。  それでも反応がないと悟ると、苦笑いしながらひっこめる。  ただ、怒るようなことはなかった。  その様子に違和感を覚える。  アンドロイドというのは、人の言うことを聞くものだと定義されている。  決して逆らわず、人を傷つけず、人の生活の利益となる存在であること。  それがアンドロイドに課された使命であって、それ以外の生き方は許されないはずだった。  人間のほうもそう認識していると、少なくともプリインストールされたデータにはインプットされていた。  人間はアンドロイドに命令するものなのだ、と。  そのことに疑問を抱かないようにということが書かれているからこそ、戸惑いが隠せない。  なぜ晶は、アンドロイドが自分の言うことを聞かないことを怒らないのだろう。 「お前、どうやってここにたどり着いたか、覚えてるか?」  『覚えてる』。  それは、人間に使う言葉だ。  アンドロイドに訊ねるならば「記録があるか」というのが正しい。  もしかしたらこの人間は、正しい言葉の使い方を知らないのだろうか。  首をかしげつつ自身のデータを検索し、返答をする。 「ボクのデータが消去された形跡があるのは確認出来たよ。廃棄の理由が人間の言うことを聞かないアンドロイドだったからっていうのは残ってる。でも、他のデータは削除されててわからない」 「言うことを聞かないなんていう理由で廃棄されるのか……」  晶は表情を曇らせて、やりきれないとばかりに首を振る。  それもまた、不可思議な反応だった。  普通の人間なら、言うことを聞かないアンドロイドが廃棄されるのは当然だと思うはずだ。  それなのに、この人はまるで人間が捨てられたかのように、アンドロイドの廃棄に対して悲しんでいる。  わからない。  この人は一体何なのだろう。  どうしても戸惑ってしまう。  そんな自分をよそに、晶はひとつ息を吐いて、今の状況を説明してくれた。 「お前らのことは、元々はKGコーポレーションが出したカタログに『音楽AIアンドロイド』として紹介されていたのを見て知っていたんだ。だが、AIプログラムの構築に失敗し、廃棄してプロジェクトも終了したという情報も見ていた」 「うん、ボクの中にもそれに関するデータはあるよ。個性的な性格付けをして、より人間に近づけたアンドロイドを作ろうとするプロジェクトのことでしょ?」 「ああそうだ」 「人間に近づけすぎちゃったんだろうね。感情を学習するアンドロイドがあまりないのは、それが人間にとって都合が悪いからなんだと思うよ。実際、ボクだって実験に失敗したから廃棄されたんだし」 「人間の都合で振り回すなんて、許されることじゃないがな」  憤ったように晶は吐き出す。  やはりよくわからない。  なぜこの人は、アンドロイドのために怒ったりするのだろう。  わからないことだらけで、どのように処理したらいいか、まだ彼のことが見えてこない。  晶は続ける。 「つい最近、引っ越しをしてな。そのときにゴミを捨てに行って、ぐったりしているお前たちを見つけたんだ。まあ、普通ならそこから持ち帰るなんて許されないんだがな」 「そういうの、ドロボーだもんね」 「はは、まあ、そうなんだよな。だからエンジニアに頼んで、外見を大きく変えてもらった」 「……ボクの顔、最初のデザインと違うのにしたっていうこと?」 「ああ、そうなんだ。すまない、勝手なことをしてしまって……嫌だったか?」 「別に。人間が決めるボクの顔に、文句なんて言わないよ」  アンドロイドなんだから当然のことだ。  しかしそう告げると、晶は悲しげに顔を歪めた。 「お前と、お前の兄弟。そっくりなアンドロイドが寄り添って目を閉じているのを見たら……まあ、放っておけなかったというか。メンテナンスや外見の変更は知り合いに頼んだんだが、もしも調子が悪いとかあったら教えてくれ」 「兄弟……ッ! そうだ、兄弟!」  そこで初めて気づいた。  自分は実験のために作られたAIプログラムで、比較する必要があったからか二体同時に作られている。  同じ作者、同じプログラムから派生した個体。  つまり、人間で言うところの『双子』にあたる。 「どこにいるの、ボクの『弟』!」 「ああ、落ち着け。ちゃんとそこにいるよ」  晶が指差したのは隣の充電ピットだった。  ラベンダー色の髪をした、どこか猫を思わせるような愛らしい顔のアンドロイドが眠っている。  自分が先に作られて、彼が後に作られた。  自分から見ると『弟』に当たるのが、このアンドロイドだ。 「……なんで起動してないの?」 「あー……なんだ。うまく起動出来なかったんだよ。俺はどうも、機械の類が苦手でなぁ」 「えっ……?」 「あ、AI制御された時代なのに? とか思っただろう? まあよく言われるが」 「別にまだ言ってないけど」  だが思ったのは事実だった。  今の人間の生活は、ほとんどがAIで制御されている。  必然的に機械に囲まれて生きることになり、細かい知識までは必要なくとも、ある程度の操作は出来なければ生活にも困るはずだ。  しかし晶は苦笑いして、少し照れたように笑う。 「昔から、機械を壊すのは得意なんだが、扱うのはあんまりな……ああでも、最低限の生活に必要な処理は出来るぞ?」 「そんなの当たり前じゃん」 「まあ、そうだよなぁ」  そう言って晶はまた笑う。  この人はどうも、少しズレた人間らしい。  少なくともプリインストールデータには、こんな不器用な感じの人間は登録されてはいなかった。  だが今は、晶の性格を検証している場合ではない。 「ボクの弟、起動させてよ」

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