サウンドドラマ原作キャラクター音楽プロジェクト「Live us」

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The beginning of our live ~episode of Souta~

The beginning of our live ~episode of Souta~ Vol.1

 深夜、サイレンを鳴らして駆け抜ける救急車を追いかけていく。  楓太は父が運転する車の助手席で、ただただひたすら祈り続けた。  これが夢でありますように、目が覚めたらいつもの心地の良いベッドの中で、幸せな夢の余韻に浸りながら一日の始まりを迎えられますように。  そう願いながら握り締めた手の指は、血が止まって白くなっていた。    救急車が病院の中に入って止まる。  父もすぐにその後を追って、救急外来の入口付近で車を駐めた。  楓太は慌てて転がり出る。  救急車の扉が開いて、ストレッチャーが丁寧に下ろされ――そこには五歳年下の弟の姿があった。  ああ、やっぱり現実なんだ――眩暈がした。  全身から力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになる。  それでも必死で耐えたのは、兄としての最後の意地だった。  弟が大変な目に遭っているときに、自分が心を折るわけにはいかない。  強くならなくてはいけない。たとえこれが現実だとしても『屈服しない』と意思表示をしなければいけない。  ただそれだけのために、楓太はその場に真っ直ぐに立った。  弟を乗せたストレッチャーが病院の中に吸い込まれていくのを、ただただじっと、見つめ続けた。 *** 「お兄ちゃん、二十歳の誕生日、おめでとう」  弟の航太が満面の笑みを浮かべている。  誕生日を迎えた楓太よりもずっと嬉しそうだ。  そんな表情に目を細めながらも、楓太は航太には触れなかった。  いや、触れることは出来なかった。  楓太と航太がいるのはカフェのようなスペースだ。  ただ、リアルな場ではない。  航太が入院している病院が設けたVRスペースでのオンライン面会に臨んでいるところだった。  初めて航太が発作を起こして、深夜の病院に運び込まれてから五年の月日が流れていた。  当時十歳だった弟は、今は十五歳になっている。  だが、必ずしも無事に生きているというわけではない。  発作を起こしたときに緊急手術を行い、その後も成長するに従って身体機能を補完するための手術を繰り返す必要があった。  今もそうだ。  航太は手術を終えた翌々日で、まだ集中治療室から出られずにいる。  それでもこうして直接話が出来るのはVRの強みだと楓太は思っていた。  と、航太は先ほどまでの笑みをしゅるしゅるとしぼめ、今度は寂しげにうなだれる。 「ごめんね、プレゼント、僕はなんにも用意できなくて」 「そんなの気にするなよ。手術の前に無理して倒れたりしたら大変だろ?」 「うーん、確かにそうなんだけどさ……」  実際に、入院直前にプレゼントを用意することは難しかった。  それは航太もわかっているが、それでも何かしたかったのだろう。  航太はいつもそうだった。  病気をする前もした後も、いつだって楓太を気遣ってくれる。  昔はそれが純粋に嬉しかった。  今だってもちろん嬉しいと思う。  ただ『嬉しい』というばかりではなくなってしまった。 「あ、そうだ!」  一瞬胸にモヤモヤと渦巻いた感情を振り払うように、楓太は笑顔で身を乗り出す。 「プレゼント代わりにさ、俺の歌聞いてくれない?」 「え、お兄ちゃんの歌?」 「そう。昨日完成した曲があるんだ。まだ誰にも聞かせてないやつ」 「それってもしかして、僕が入院する前に作り始めてたやつ?」 「それ! 約束しただろ、手術が終わるまでに完成させるって」 「うわぁ、本当に完成したんだ! 聞きたい、聞かせて」 「オッケー。んじゃ、いくよ――」  VR空間のメニュー画面を呼び出し、あらかじめインストールしておいた音楽データを呼び出す。  オフボーカルの楽曲が流れ始めると、航太は目を輝かせて身を乗り出した。  物心ついた頃から、航太は音楽を聴くといつでもこんな顔をするのだ。  今の時代は、AIが作る音楽が主流となっている。  音楽AIにプログラムを打ち込むと、その通りの楽曲を自動で生成してくれるのだ。  そうやって生み出された音楽は街のあちこちで聴くことが出来て、耳にするたびに航太は大はしゃぎしていた。  航太が家からほとんど出られなくなって、公園に行くことすらままならなくなると、音楽は数少ない楽しみになった。  それならもっといろんな形で聞かせてあげたい。  そんな想いで楓太は自ら歌をうたった。  そのときの航太の喜ぶ顔は、きっと一生忘れないだろう。  だから楓太は歌うようになった。  ORライブが広まるよりも、もっと早くから。  ORライブ――オリジナル・リアリティ・ライブと呼ばれるその音楽は、生身の人間が自ら楽器を奏で、歌をうたう、非常に原始的なライブの方法だ。  かつてはそれが主流だったが、二百年前に地球の異常な温暖化現象で地下に逃れ、生活がガラリと変わった頃から「エンターテインメントはAIが提供するもの」という常識が広まっていった。  せっかくのリラックスタイムのために、苦しんで何かを生み出すというのは本末転倒。  それが地下での生活の基本になった。  楓太が生まれた頃はまだ地下での暮らしが続いていた。  だから楓太も、エンターテインメントはAIが提供してくれるものだと思っていたのだ。  けれどなんとなく自分で歌ったら楽しかった。  なによりも航太が本当に喜んで笑ってくれた。  それが嬉しくて歌っているうちに、楽しくて、嬉しくて、仕方がなくなって――ついに自分で曲を作るまでになったのだ。  最初は楓太の病室でも歌っていた。  しかしORライブはだんだんと忌避されるようになっていき、人の目を気にしてビクビクしながら歌う羽目になってしまった。  だから結局はこうしてVRスペースで歌っているのだが――  最後まで歌いきった楓太に、航太は惜しみない拍手をくれる。 「すごい、カッコイイ曲だね!」 「だろ? 今回のは俺としてもかなりの自信作なんだ。特にサビの部分、あそこ、メロディがピタッとハマってさ、気持ちいいのなんのって!」 「わかる! サビを歌ってるお兄ちゃん、すっごい楽しそうだったし」  嬉しそうな航太に、いつものように音源のデータを送信する。すると彼は無邪気に笑った。 「この曲、看護師さんたちにも聴いてもらうね。前の曲も評判よかったよ」 「へー、マジ? なんか、俺の曲を航太以外に聴いてもらってるって、ちょっと照れくさいな」 「照れることないよ。むしろ僕は、もっとたくさんの人に聴いてもらいたいって思ってるし」 「あはは、ありがとな、航太」 「お兄ちゃん、別に僕、お世辞とかそういうので言ってるわけじゃないからね?」  航太は急に真面目な表情になった。  その瞳の真っ直ぐさに、楓太は思わず息を呑む。 「お兄ちゃんはさ……ずっと、僕のそばにいる気?」

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