サウンドドラマ原作キャラクター音楽プロジェクト「Live us」

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The end of our live ~episode of Akira~

The end of our live ~episode of Akira~ Vol.1

 その男は、いつだって暴風のようだった。 「晶、楽器やろう!」  そう言われたときもやはり、晶には彼が何を言おうとしているのか、さっぱりわからなかったのだ。 ***  晶が岳に初めて会ったのは学生の頃だった。  生活の拠点は地下にあり、しかし地上が人間の住む環境に戻ってきたから地上への移転を検討してもいいかもしれないと議論が始まった時期のことだ。  とはいえ大人の議論というのはとかく時間がかかる。  荒れ果てた地上を人の住める街に戻す作業もある。  だから本当に地上に戻れるのは相当先のことになるなと思いながら、変わらぬ生活をぼんやりと送っていた。  その生活に、若干の物足りなさを覚えていた。  地下に移住するにあたって、人類は過去のあやまちから様々な工夫をしていた。  最初から丁寧な計算をした上で、生活に必要な環境を整えること。  そのために活用されたのがAIによる都市設計だった。  決して無駄なく、人にも環境にも配慮した街作り。  その結果作られた街は確かに過ごしやすかったが、安定しすぎて退屈でもあった。  恐らく地上に住むことが出来るようになったとしても、それは変わらないのだろう。  そんな生活の中に唐突に現れたのが、突風のような男――岳だった。 「なあ、お前っていつも退屈そうにしてるけど、なんか面白いことしないの?」  第一声がそれだった。  当然「なんなんだこいつは」と晶は岳を睨み付けた。  名乗りもせずにいきなり『退屈そう』などと。  失礼にも程がある。彼は有名人だから、晶は彼のことを知っていたが。  もちろん、有名なのは悪い意味で。いわゆる奇人と呼ばれるタイプで、好奇心の赴くままにあれこれ手を出してはトラブルを引き起こしている。  予測不可能な人物で、だからこそ関わらないほうがいいと晶は判断した。  だから出来るだけ彼の興味を引かないよう、そっけなく答える。 「俺はこの生活に満足してる。だから俺のことは気にしないでくれ」 「そんなこと言うなって! まだ若いのにそんな廃人みたいな生活してても面白くないだろ? 人生に必要なのは笑顔と刺激と興奮だよ!」  何を言ってるんだこいつは、という感想以外に浮かばなかった。  晶は直感で悟った。  この男の相手はするべきではない、と。  この人物と意思疎通を図るのは難しいと感じられる。  AIにより導き出され、発達した高度な科学技術により形成されたこの安定した世界を、破壊してしまうほどのエネルギーに満ちていることがわかった。  だから近づかないようにしようとこの瞬間に思ったのだ。  それなのに、この日からなぜか、晶は岳と行動を共にすることになってしまったのだ。 *** 「おーい、晶。そんなとこで何してんだよ」  全ての準備を終えて静かに会場を眺めていたときだった。  晶の名前を岳が呼ぶ。  晶もだが、岳も汗だくで、頬には汚れまでついている。  それも当然のことだった。  自分たちはついさっきまで明日からのフェスの――『The groovy top fes』の会場の設営を行っていたのだ。  つい三十分ほど前までは、ここにはたくさんのスタッフがいた。  ステージを組み立て、フードエリアや物販コーナーの準備を整え、明日の段取りを確認して――夜も遅い時間になってようやく全てが終わったから、スタッフは皆帰ったのだ。  その後で、静かになった会場を晶はひとり眺めていた。  明日は今座っているこのステージで、自分たちの呼びかけに答えてくれたアーティストがパフォーマンスを披露する。  晶たちのようにバンド形式のグループが多いが、中には歌だけだったり歌とダンスだったり、色々なジャンルの音楽が次から次へと披露されることになっていた。  もちろん、全て生音で。  岳は晶の隣に腰を下ろす。  まだ観客の入っていない会場をゆっくりと見回して、なるほど、と岳は笑った。 「この景色が見たかったのか」 「見たかった、というか、確認しておきたかった、というところだな。今の時点でどれくらい広く見えるのか、確認したくて」 「誰もいない会場で? 何の意味があるんだよ」 「ついにここまできたんだな、って噛みしめてたんだが……そういう情緒はお前にはないもんな、岳」 「そんなことないって。単純に、今は明日のことしか考えられないだけだよ」 「そういうところがお前らしいと言えばお前らしいんだけどな」  晶は苦笑しながら隣に座る岳を見やる。  その目はまっすぐに会場を見据え、余所を見ている気配はなかった。  岳はいつでもそうだ。  真っ直ぐに、自分が向かう未来だけを見つめている。  オールスタンディングで数万人規模のフェスを開くのは、ORライブの普及を目指してきた自分たちRevivalでもさすがに初めてのことだった。  特に最近はORライブへの風当たりも強い。  生歌によって危険な異常気象が発生するのだと提唱されて以降、ORライブはどんどん下火になっている。  その中でこれだけの人を入れようとしているのだ、これがどういう未来を引き寄せるか、晶にとっては期待もあり、不安もあるような状態だった。  それでも岳は、自分たちの未来しか見えていないのだろう。  そしてその目に映る未来は、明るく輝いているに違いない。  と、背後から足音がふたつ、近づいてきた。 「晶、岳、ここにいたんだ」  明るい女性の声が響く。  同じバンドの律だ。  それから、和暉も。  岳が驚いたような声を上げる。 「なんだ、二人ともまだいたのか。どこにもいないから帰ったのかと思ってた」 「いたよー、勝手に帰るわけないでしょ。バックヤードの整理してたの。うちの子たちもこき使ってね。で、遅くなっちゃったし、先に帰らせたところ」 「ああ、unknown orderも残ってくれてたんだ。あいつら、手際がよかったな」 「設営の知識は色々仕込んだからね。うちのスタジオ使わせてあげてるんだし、これくらいやってもらわなきゃ」  そう言って笑う律は母親の顔をしていた。  彼女の隣に立つ和暉もまた、父親の顔を見せる。  unknown orderには和暉と律の息子がいる。  まだ若く、本格的な活動も始めたばかりの彼らは、今回はローディーとして参加してもらったが、あと一、二年でフェスのステージに立つ側に回るのだろう。  彼らの曲は何度か晶も聞いているが、なかなか筋がいい。  未来の彼らと同じステージで演奏するのが今から楽しみで仕方がなかった。  それは岳も同じらしい。  岳は無邪気に笑う。 「あいつらの演奏、上手くなった?」 「だいぶね。でも、上手くなってきたからこその壁にぶつかってるところみたい」  楽しげな律に、和暉も静かに頷いた。 「技術が身につけば、理想の表現が新たに生まれる。だが、その表現を実現するためには技術が追いつかない。技術だけに集中すれば、周囲の音は聞こえなくなる。バンドとして成り立たなくなる……今、ちょうどその壁に出会ってしまったんだろうな」 「へえ、でもそれ、乗り越えた瞬間にすごいバンドになるってことじゃん」  岳は身を乗り出して笑っている。  悩んでいる今のこの瞬間のことより、その壁を乗り越えた後のことだけを見据えている。  晶と同じように彼らの未来を夢見ているが、その中身が晶と岳とでは違っていた。  岳はいつでも、具体的な未来のビジョンを描いてそれを夢見ている。  ただの奔放な夢想家ではないのだと、今この瞬間も思い知らされた。 「懐かしいね。私たちはその壁を越えたの、どういうきっかけだったっけ?」  律の言葉に、晶は少し考えて、しかし答えを見つけられずに肩をすくめる。 「どうだったかな。バンドを初めて一年くらいの頃だったのは確かだと思うんだが、きっかけまでは」 「だとしたら……うわ、やだ。十年近く前?」 「あはは、かもね。そりゃ、律も老けるよなぁ」 「岳? 言っておくけど、あなただってほぼ同い年なんだからね? わかってる?」  満面の笑みに怒りを湛えて、律が岳に迫る。  さすがの岳もこれには怯えてサッと晶の後ろに隠れた。  頼むから人を巻き込まないでくれと苦笑いしつつも、昔から何も変わらないなと心地良い胸の痛みに晶は目を細めた。

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