サウンドドラマ原作キャラクター音楽プロジェクト「Live us」

この作者は、貢献ポイントプログラム未参加の為、ノベラポイントを付与する事はできません。

読了目安時間:5分

The beginning of our live ~episode of StrelitziA~

The beginning of our live ~episode of StrelitziA~ Vol.1

 バタン! と大きな音が響いたのは令凰がリビングで大学の研究論文を書いているときだった。  恐らく凪だろう。  令凰が端末から顔を上げると、同時にソファにゴロゴロと転がってVRサーフィンを楽しんでいたあくまもまた、ゴーグルを外して半身を起こし、リビングの扉に視線を向けた。  ダン、ダン、ダン、と不機嫌を主張するような激しい足音が近づいてきて、バンッ、と勢いよく扉が開いた。  やはり凪だ。  午後三時。  中学の授業を終えて帰ってきたところだった。  まるで野犬が牙を剥くような険しい顔で近づいてくると、鞄を乱暴に床に叩きつけ肩で浅い息を繰り返す。  その様子に、令凰はあくまと顔を見合わせ、肩をすくめた。  凪がこうして不機嫌な顔で帰って来るのは珍しいことではない。  迫害されることこそないが、何もしていなくても偏見の目で見られることは非常に多い。  自分たちに親がいないからだ。  元々三人は同じ施設にいた。  必ずしも穏やかな始まりではなかったが、それくらいのほうが自分たちの関係としては相応しかったのだろう。  そして、三人でいたからこそ、見つけられた未来もあった。  二年前、令凰が施設を出ることになったのをきっかけに、あくまと凪をひきとって一緒に暮らすことにしたのだ。  いわゆる問題児だった二人を連れて出て行くことに、誰も反対しなかった。  そうして始まった共同生活だったのだが―― 「凪、腹の立つことがあったからといって物に当たるな」  できるだけ冷静に言葉をかける。  しかし感情的になっている凪にはその言葉も歪んで届く。 「なんだよ令凰、お前も俺が暴力的なクズだって言うのかよ!?」  そんなことは一言も言っていないが、令凰は反論しなかった。  恐らく学校でそんなことを言われたのだろう。  同級生に言われたのか、それとも教師に言われたのか。  それは判然としないものの、どちらに言われていたとしても疑問はない。  親のいない子どもというだけで世の中は色眼鏡で見る。  特に凪は、生まれて数ヵ月で両親を亡くし、施設に預けられている。  親の顔を知らないし、どんな風に接してくれる人かもわからない。  親にいい思い出のない令凰からすればそれはそれで幸福なことだと思ってしまうが、十四歳の凪にとって周囲との環境が違うことで受ける理不尽な暴言は、腹の底に解消しきれない苛立ちを募らせるのだろう。  だとしても、暴力で解決するような人間にするわけにいかない。  令凰は改めて凪に向き直り、真っ直ぐに見つめた。 「お前がクズだと思ったことは一度もない。だが、暴力で解決するようになればそれはクズだ。この違いは理解出来るな?」 「…………」 「他人の考え方を変えるのは不可能だ。人間は誰もが自分の信じたいものだけを信じる。それは俺たちも同じだ。だから相容れないならばそれなりの距離感を見つけて――」 「あああああ、もう、うぜえ! うぜえんだよ令凰!」  令凰の言葉を遮って、凪はあくまが寝転がるソファを蹴り飛ばした。  目を丸くしたあくまが「わーお」と呟いた。  だが凪は気にもとめず、拳を硬く握り締め、怒りに顔を歪ませて令凰を睨む。 「グダグダグダグダと、わけわかんねー説教垂れ流しやがって、ふざけんじゃねえ! 俺が聞きたいのはそんなんじゃねえ! ただ、ただ俺は、俺は――」  そこまで言ったところで凪の言葉はピタリと止まった。  これ以上の語彙が浮かばないのだろう。  いつもそうだ。  自分の考えを整理することが苦手な凪は、自分のキャパシティが越えるとすぐに怒鳴り散らす。  そして。 「クソッ……!」  悔しそうに吐き捨てて、ドタドタとリビングを出て行った。  数十秒の間が空いて、今度は玄関が開閉する音が聞こえてくる。 「あーあ」  その様子を見守っていたあくまがぴょこんとソファから立ち上がった。  手に持っていたゴーグルを縮小し、ポケットにしまうとニヤニヤと笑いながら令凰のほうに近づいてきた。 「れおちゃん、すっごく頭いいのに、怒ったなーちゃんとお話するのは苦手だよねー」 「……反論出来ないのが腹立たしいな」  令凰は笑いながら肩をすくめる。  いつもこうだ。  どうしても理詰めで攻めようとする自分は、感情的な凪とはなかなか相容れない。  こればかりは相性だから、どうしようもないのだろうが。 「あっくん、おさんぽ行ってくるねー。端末、いつでも見られるように置いとくんだよー?」  ふふ、と笑いながらあくまはリビングを出て行った。  「おさんぽ」とは言っていたが、厳密に言えば凪を追いかけて行ったのだろう。  あくまは十八になっても無邪気な幼児のようだが、あれで意外と頭が切れる。  特にこうなってしまった凪には、あくまの存在が欠かせなかった。  互いに欠けた部分を埋め合っている。  それが自分たちの生き方なのだと思いながら、令凰は論文のデータを閉じた。  さすがに今は、論文を書いている余裕はない。 「俺もまだ、未熟ということだな」  自嘲するようにつぶやきながら、令凰は静かに立ち上がった。  とりあえず、コーヒーでも淹れよう。  そう考えてキッチンへと足を向けた。 ***  自分の考えを言葉にするということが、凪はどうしても苦手だった。  なぜそうなのかと言われても困る。  そもそも決して賢いとは言えない凪は、感情を丁寧に整理して言葉にすることが出来ないのだ。  そのことに苛立ちともどかしさを感じながらも、どうにもならない。  考えれば考えるほど腹の底がぐつぐつと煮えたぎるように熱が湧き上がる。  令凰が羨ましかった。  同じ施設に入っていた子どもの中では、最初に入所した段階での年齢も上だった。  だがそれ以上に彼の精神は大人だった。  他の子どもとはあまり関わらず、静かに小難しい本を読んでいるところを見ることが多かった。  その令凰に助けられたこともあり――そういうところが気に入らないこともあった。  どうやったら令凰のようになれるのか。  凪はその方法をどうにか知ろうと、令凰の後を追いかけるようになった。  それでも結局何も変わらないまま、令凰はどんどん大人になる。  それなのに自分は、七歳の頃からなにひとつ変わっていない。  このままでは―― 「なーちゃん、みーっけ!」 「おわっ!」

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • ききょうくんとなずなさん

    友達以上恋人未満の明るく切ない青春物語

    812,478

    8,220


    2021年10月27日更新

    中学生の頃、僕はいじめを受けていた。そのトラウマから登校できなかった僕が高校生活を始めたのは、入学式から一週間程経ってからだった。 そんな僕が一番最初に話したのは、退屈そうな顔をした隣の席の女の子。無愛想に見える彼女が昼休みに向かったのは、立ち入り禁止の屋上。「そこ、立ち入り禁止じゃないの?」そう問いかけた僕を見下ろした瞳は、どこか影を帯びているように見えた。屋上に繋がる扉から見えたどこまでも自由な春空。そして、僕を見つめる空色の瞳。見えない何かに背中を押され、立ち入り禁止の先に踏み入れた時、僕と彼女の人生が交差する──。 表紙イラスト→八女茶様 本文内タイトルロゴ→紅蓮のたまり醤油様 ※HJ小説大賞2020最終選考

    読了目安時間:11時間14分

    この作品を読む

  • 女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

    車好きでない女子高生の凸凹カーライフ劇 

    63,500

    1,020


    2021年10月27日更新

    高校3年生になった舞華は、念願の免許を取って車通学の許可も取得するが、母から一言「車は、お兄ちゃんが置いていったやつ使いなさい」と言われて愕然とする。 納屋の奥で埃を被っていた、レッドパールのR32型スカイラインGTS-tタイプMと、クルマ知識まったくゼロの舞華が織りなすハートフル(?)なカーライフストーリー。 ・エアフロってどんなお風呂? ・本に書いてある方法じゃ、プラグ交換できないんですけどー。 ・このHICASってランプなに~? マジクソハンドル重いんですけどー。 など、R32あるあるによって、ずぶの素人が、悪い道へと染められるのであった。

    • 性的表現あり

    読了目安時間:23時間39分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る