講評道場Ⅱ【休業中】

マエハラ様「プロレスリング・ショー ワン・ナイト・スタンド」(辛口)

 私はプロレスからは程遠い人間で、これに対しいかばかりかの興味を持つ程度「だった」。ところがどうだろう。本作は全くとんでもないもので、プロレス・ファンをここにひとり作り出してしまったのだ。が、それも束の間の出来事であった。  講評道場をしていると、ときに僥倖がある。それは本作のような作品に出逢えることだ。しかし、それは不運でもある。道場主としてこれを滅多打ちにしないわけにはいかないからだ。そうでなければ、看板を下ろす羽目になってしまう。  あえて言いたい。本作は、プロレス・ファンを増やすことはできても、プロレス好きを唸らせることができても、どれほど心動かす物語を綴ることができたとしても、仮象に過ぎないのだということを。言うなれば残照、ともすれば偶像でしかないのだ。  本作はプロレスという営為の影である。作中で言表されるように、プロレスは「ショー」であり虚構である。しかし本作は、この営為に即してその虚偽性が導出されたのではない。本作の本質とは、プロレスの名を冠して初めて得られたプロレス〈性〉でしかない。試みに、本作から「プロレス」を除去してみると良い。そこに何が残るだろうか。何も残らない。換言すれば、作品は何も語らない。語っていない。つまり、本作から〈価値〉を取り出すことができない。これこそ本作が影と呼ばれる所以である。プロレスなくして本作は成立しない。それは「プロレスの話だから成立しない」とかいう次元の話では、決してない。この作品を抽象化するのは不可能だと言っているのである。  価値の伴わない物語を、ひとは何と呼ぶだろうか。本作はひとを楽しませる力は十二分に持っている。文章も上手い。魅せる作品である。しかしその正体は偶像であった。だから、私は一瞬「信仰」してしまったのだ。そしてついには夢から醒めた。

https://novelup.plus/story/651963923

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