RELACION 〜有力貴族の居候となった少年とその数奇な人生を〜

読了目安時間:9分

エピソード:95 / 108

いよいよ東陽三国での戦いが始まります。結構書きたかった部分なので、気合い込めたいと思います。うおー!!

林の戦場 ①

 枝葉が風に揺られる中。陽光射し込む樹冠の下で、複数の刀が鞘から解き放たれる。  抜き身の刃に囲まれながら、時津風(ときつかぜ)走薇(そうら)は弟子を庇うように前に一歩踏み出す。 「貴様ら。枇杷(びわ)か、黒桜(こくおう)かッ!?」 「返答如何によっては、ここで斬るッッ!!」 「登笈(とおい)。絶対に、私から離れないように」  そう告げる頼もしき師匠に対し、宮城(みやぎ)登笈(とおい)は頬を流れる冷や汗を無視してこくりと大きく頷いた。  ざわり。ざわり。と辺りの木々が声を上げる。近くの枝から丸い鳥が飛び去った。一、三、五。七人の侍、七本の刃が、血を吸える時を今か今かと待っている。緊迫の糸が張り詰められたその空間において、しかし物怖じを見せない侍が一人、いや二人。 「……」  一人は、複数の侍に囲まれながらも堂々と二本の刀を構え、機を伺う走薇(そうら)。背に憂いを預かりながらも、その相貌にはまだ余裕が感じられる。  そしてもう一人は。 「これはこれは、誰かと思えば七門臣(しちもんしん)様やないですかぁ。最高戦力ともあろうお方が、湖都(こと)を離れてこんなところで(なん)してるんです?」  二人を囲む集団の、その奥。林の陰から姿を現した戦袴(いくさばかま)の男。  相手が国の最高戦力であると理解していながら、彼は余裕の絶えぬ仕草でそんなことを口にした。  △▼△▼△▼△  時間は戻り、海上を行く旅客船にて。 「見えてきたね」  磯の臭いに、景色変わらぬ水平線。頭上の雲は何時間経っても同じものがどこ吹く風と浮かんでいる。時折やってくる吐き気のような何というかに耐えながら、波に揺られてどんぶらこどんぶらこと数時間。  太陽が真上にやってきて、そこから少し傾いた頃。相も変わらずうえっとかおえっとか喚いている登笈(とおい)の背中を摩っていた走薇(そうら)が、ようやくその言葉を口にした。 「あの港ですか?」  視線の先には、小さな木造の港があった。おそらくは管理人のものと思われる家屋と、それ以外に建物は無い。ただ船を乗り降りする場所としてのみ使われる港なのだと思われる。  船が速度を緩め始めるのが分かると、足元に置いていた荷物、その内の大きく縦に長い布袋からごそごそと、走薇(そうら)が一本の刀を取り出した。  それは雪が付着したように白い握り柄と鞘を持つ打刀(うちがたな)だった。(つば)は開花したばかりの華のよう———柄と鞘に合わせるなら、雪結晶のような形をしている。  手渡された刀を両手で受け取って登笈(とおい)は、伝わってくる重みと細さに感慨の息を漏らした。 「……見た目と違って、ずっしりしてるんですね」  聖王国(せいおうこく)でシーボルトから受け取った両刃の剣と比べると細くて頼りないのに、込められた重量はあれと同じかそれ以上。それだけ密度が高いということだろう。  この”刀”という武器も、東陽三国(とうようさんごく)でのみ製造されている特殊な文化の一つだ。この独特のしなやかさと、宝物のように不思議な魅力を感じさせる物。これを握り、これが似合う人物のことをその職業と合わせて侍と呼ぶのだ。 「刀の号は『凍晴(いてばれ)』。護身用に貸してあげる」 「……ありがとうございます。良いんですか、こんな綺麗なのを」 「うん、貰い物だからねそれ。七門臣(しちもんしん)ともなると、人から頂くことの方が多いのさ」 「そういうもんですか」  あまり刀に関心が無さそうにそう話す彼女に、登笈(とおい)はほーっと頷いていた。そして、貸し与えられた凍晴(いてばれ)を持ち、(しば)し。  その姿を見て、走薇(そうら)があーっと声を漏らす。 「そっか、帯刀の仕方……」  登笈(とおい)の今の格好は、動き易さ重視ではあるが完全に異国の服装で、刀を腰に差そうにも差す場所が無かった。それだけならば良いが、これでは枇杷(びわ)の国に降りても周りから浮いてしまう。  その今更すぎる事実にようやく気付いて、走薇(そうら)は溜息をついた。 「湖都(こと)に着いたらまず服装の調達からかなぁ。宿は私と同じところを利用すれば良いし、……うん。それまでは否が応でも目立つことになるかも」 「湖都(こと)って、王都みたいなものでしたっけ? 領主の城があるって久能(くのう)からは聞いたことあるんですけどよく知らなくて」  湖都(こと)。巨大な湖と隣り合う大都市で、枇杷(びわ)の国の首都に該当する街。元より一国を三分割して生まれた分派である枇杷(びわ)にとってはここだけが唯一街と呼べる規模のもので、他は農村や小規模の集落が広がるばかりであった。  登笈(とおい)がそれについて尋ねると、走薇(そうら)は目と鼻の先にまで迫った港を指さして、 「そうだよ。港から真っ直ぐ一時間ほど歩いたら、そのうち大きな湖が現れる。湖に沿って行けば、湖都(こと)に辿り着けるってわけ」 「じゃあ……大体、二時間くらいは歩くって感じですか?」 「いや、全速力で走れば一時間余りで着く」 「えっ?」  一瞬何を言っているのか意味が分からないと登笈(とおい)が顔を持ち上げると、彼女はあっけらかんとした表情で、 「こっちでも修行を続けるって言ったろ? 基礎体力はまだまだ足りてないんだ。時間は無駄にせずにいこう」  と、悪戯っぽい笑みを浮かべるのだった。  △▼△▼△▼△  小石と砂がじゃりじゃりと音を立てる。重たい笛を吹き鳴らしながら見る見るうちに遠くへ離れていく客船を背で見送って、登笈(とおい)は迷いない足で進んでいく師匠の後を追っていった。その手に握るのはトランクケースと、先ほど受け取った凍晴(いてばれ)。  鼻で空気を味わえば、当然だが船上とは異なる香りや湿度が身体の中に入っていく。登笈(とおい)にとってのそれは、どこか懐かしくて、けれど一切知らない何か。 「……」  異国となってしまった母国を感じる弟子の辿々しい様子に、走薇(そうら)は特に何も口を挟むことをしなかった。  けれど、左右の腰には二振りの刀が差されており、その片方には常に手が添えられている。現在位置は確かに枇杷(びわ)の国の中だが、黒桜(こくおう)の国の国境もすぐ近くにあり、一般人が侍から襲撃を受けたという報告も度々聞く危険な場所であるためだ。  加えて、最短距離だから仕方がないとはいえ、今から入るのは人目の付かない林の中。襲われない確証は殆ど無いも同じ。  という師匠の意図を、後を付き随う登笈(とおい)も充分に理解していた。内乱の最中である国であるということ、そして走薇(そうら)の隙の無い歩き姿からもそれは感じられる。  改めて、彼女が全速力で走ると告げた理由も浮かび上がってくる。そうすることが湖都(こと)までの道中を最も安全に過ごす手段の一つなのだと。実際、しかし彼女一人だったならどれだけの人数に囲まれても対処し得るのだろうが。 「……ふぅ」  ごくり。と登笈(とおい)が喉を鳴らす。清浄な酸素が出迎える緑一色の空間、足元の砂利が枯れた草葉や折れた枝へと変わった頃。周囲に広がる木々、木漏れ日の暖かさに見守られる林の中に二人は足を踏み入れていた。  とっ。とっ。と、早歩きから、徐々に速度を上げていき、肺や筋肉に今から走るぞと準備をさせつつ、走薇(そうら)言うところの全速力に備えていく。それを登笈(とおい)は、やはりトランクケースと刀を持ちながらついていった。  整備されていない林の地面は、岩やら枝やら障害物があって、足首をひねらないよう踏み込む場所を常に考えながら走らねばならなかった。加えて、水気があり柔らかくなった場所、窪み、罠のように張られた大木の根が邪魔をしてくる。  それらを避けながら、息も切らさぬ師匠にぜぇはぁ息を漏らす弟子が追いすがる。 「……ッ!!」  と。風を切って先行していた走薇(そうら)がステップを踏むようにして速度を殺し、歩幅一歩分後ろに退がりながら、後追いの登笈(とおい)にも止まるよう左手を水平に掲げた。 「師匠? どうし———」  今の今まで足元にばかり着目して、前方は走薇(そうら)の動き頼りで進んでいた登笈(とおい)が、急に足を止めた彼女に顔を向けようと正面を見ると———眼前には、紫紺色の戦袴(いくさばかま)を身に付けた侍の集団が、川の流れを塞きとめる岩石のように、林の真ん中に陣取っていた。 「……登笈(とおい)。絶対に、私から離れないように」  枝葉が風に揺られる。陽光射し込む樹冠の下で、複数の刀が鞘から抜き放たれた。それら一つ一つが鏡面のように光を反射し、こちらに向けられるそれが凶器であることを思い知らされる。  抜き身の刃に囲まれながら、走薇(そうら)は弟子の登笈(とおい)を庇うように立ち位置を調整した。 「貴様ら。枇杷(びわ)か、黒桜(こくおう)かッ!?」 「返答如何によっては、ここで斬るッッ!!」 「……ッ!!」  集団のうち二人が、刃先を正面に向けたままそう叫ぶ。枇杷(びわ)か、黒桜(こくおう)か。この内乱において、どちらに与する者かと声を張り上げた。答えによっては———つまり、枇杷(びわ)の国の側だと答えれば、自分達の敵であると。  離れるなと、そう言ってくれる走薇(そうら)に従い、登笈(とおい)は額から頬を伝う冷や汗を無視して、こくりと大きく頷いた。トランクケースから手を離し、凍晴の鞘を握る力を強めながら。  ぴんと張られた糸。緊張感、緊迫感が高まり、心臓の音すら聴こえてくるような状況。二人を取り囲む侍達も、刃を向けた側といえど、これから行われるであろう剣戟の可能性に喉を乾かせていた。  が、そんな張り詰めた空気の中であっても、呼吸を乱さぬ剣士が二人。一人は、複数の侍に囲まれながらも堂々とした立ち振る舞いで機を伺う走薇(そうら)。背に憂いを預かりながらも、その相貌にはまだ余裕が感じられる。向けられた刀身に対して、彼女もまた静かに左右の打刀(うちがたな)二振りを抜いて構えた。  そしてもう一人は。 「これはこれは、誰かと思えば七門臣(しちもんしん)様やないですかぁ。最高戦力ともあろうお方が、湖都(こと)を離れてこんなところで(なん)してるんです?」  二人を囲む集団の、その奥。林の陰から姿を現した戦袴(いくさばかま)の男。相手が国の最高戦力であると理解していながら、彼は余裕の絶えぬ仕草で佇んでいた。 「君は、何度か顔を見たことがあるな。確か(かすか)様と一緒にいた……」  切りそろえられた黒の短髪に、少し訛りの入った言葉遣い。背丈は東陽三国(このあたり)の成人男性と同じかそれより少し高い程度。その腰には、やはり刀が差されている。とはいえ、まだそれを抜刀する様子は無かった。  それこそ、走薇(そうら)と同じく機を伺っていると表現するべきか。違うのは、向けた側と向けられた側であるという点のみ。  彼女に声を投げかけられると、佇む彼はご明察とばかりに微笑を浮かべる。 「あ、覚えてくれてたんや。その認識で合ってますよ。俺は天羽(あもう)仙山(せんざん)。あの方の左腕(さわん)で、武器で、(やじり)です」  ざり。と、彼———仙山(せんざん)が足元の落ち葉を踏んでくしゃりと音を鳴らす。直後に、彼の部下と思しき、先ほどから登笈(とおい)達を取り囲んでいた連中が肩を跳ね上げる。下される命令に、合図に最速で従うために。 「———刀を抜け、登笈(とおい)。今すぐだ」 「———やれ、お前ら。枇杷(びわ)の快刀の切れ味、ここで一つ確かめようやないか」  互いに言葉を飛ばし、互いに動く。  まず林中に響いたのは、侍達の雄々しき叫び。緊張や緊迫、固まりかける神経を無理矢理に奮い立たせ、持ち上がる大熱に身を預けるモノ。それとほぼ同時に、微かに涼やかな金属音が空を切る。 「……ッ」 「へぇ」 「それでいい」  登笈(とおい)が、柄を握って勢いよく凍晴(いてばれ)の刃を露出させる。波のような波紋と濡れた刃面が美しく場を飾った。かの七門臣(しちもんしん)が連れる青年の醸す雰囲気に、奥から眺めていた仙山(せんざん)は再び口角を持ち上げて、鞘から刃を引き抜く音を耳で聴いた走薇(そうら)も不敵に笑う。  ——————。  瞳が乾く。喉が乾涸(ひから)びる。足指に力が加えられる。全身の筋肉が鎮まる一瞬。永劫の刹那を超えて、我先にと猛る足音が波打った。  ある者は刀を頭上に振り上げ、ある者は横薙ぎに振りかぶり、ある者は歯を噛み締めて、ある者は突きの構えを取る。やがて、林の中に小さな戦場が生まれる。

新キャラ天羽仙山の使う関西弁っぽい口調ですが、大阪や京都、神戸の方からすると違和感バリバリなんじゃないかなぁなんて思いながら書いておりました。ただ、作者も関西弁を用いる県の出身ですので、そこにニワカ要素はありません(たぶん!!)。 読んでいただき、ありがとうございます。 質問があれば是非ともお書きください。今後の展開のネタバレにならない程度に回答させていただきます。 長文でも一言でも何でも感想お待ちしています。筆者にエネルギーをください!!

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