RELACION 〜有力貴族の居候となった少年とその数奇な人生を〜

読了目安時間:5分

エピソード:97 / 108

林の戦場 ③

「名前聞いとったかな? 天羽(あもう)仙山(せんざん)や」 「登笈(とおい)だ!!」  互いに歯を食いしばっての(つば)迫り合い。が、立場は仕掛けた側と耐える側。後者の登笈(とおい)は重心を低く保ち、押し負けないことだけを優先していた。対して、仕掛けた側の仙山(せんざん)は決まった足の位置を徐々に動かし、相手の刀を下に打ち弾くべく力の向きを流していく。 「元気やなぁ。見た感じ真面目やし、気骨もある」 「ッ!?」  ガギン。と、振動と共に登笈(とおい)の視界がぶれる。凍晴(いてばれ)を、握る手ごと弾かれたのだ。何とか刀を手放さぬよう握力を強めて態勢を立て直———すより先に、仙山(せんざん)上段(じょうだん)二撃目(にげきめ)が迫る。 「けどまだ発展途上」 「……なんのっ!!」  迫るニ撃目(にげきめ)を、登笈(とおい)も勢いよく打ち上げた返し刀で弾き、互いに半歩退がったその数瞬の後に再び鮮烈な風切り音を立てて刃と刃が衝突した。  刃同士が拮抗して押し合う最中、視界の下では四つの足が独自のステップを踏み、次に繋げる打開の一手を探している。金属の削れる音と共に、上半身もぐるりと回転させ、足場の悪い林の中で(つば)迫り合いが連続していた。 「顔付きは子供やのに、よく動く……ッ!!」  予測よりも遥かに練度の高い登笈(とおい)の刀捌きに、それを特等席で見定めながら仙山(せんざん)は軽く唸りを見せる。が、その顔には未だ薄い笑みが張り付いていた。まだまだ余裕、というより序の口か。  様子見の段階とはいえ、七門臣(しちもんしん)の左腕を自称する男の剣戟に登笈(とおい)が拮抗出来ているのは、ただ単に一日百戦に渡る走薇(そうら)との修行を続けていたことに起因する。  元より学習院(がくしゅういん)の頃から基礎は組み立てられていたが、当時はディザイアや龍羅(りゅうら)と正面から対峙するにはまだ経験や予測が足りていなかった。それを彼女との稽古が補完する。とはいえまだまだひよっこであることは変わりないが、幸運にも仙山(せんざん)走薇(そうら)と似た動き方、考え方をする東陽三国(とうようさんごく)の剣士である。  そして。動きは彼女より、明らかに遅い。 「とったッッ!!」  何度と繰り広げた切り結びの間に生まれた余裕。ようやく真っ向から仙山(せんざん)の刀を強引に後ろに弾いたことで、両腕が自由になった。静電気を帯びたようにぴりりと痺れる上腕部の筋肉に達成感を覚えながら、登笈(とおい)は瞬時に斬りかかる。  くるん。と身体ごと右回転して即席の遠心力を纏い、勢い殺さぬまま———ドッッッ。と、最早聞き飽きたような鈍い衝撃音の後に、両者の動きが停止した。 「な……っ!?」 「あぶなぁ」  が、血が飛び散るでも、空を切るでもなく、登笈(とおい)の斬撃は阻まれた。ぐっ、と力を込めても押し切れないその感触に目を見開けば、そこには仙山(せんざん)が咄嗟に片手で握った鞘が存在していた。  刀は確かに後ろに弾かれていたが、腰の鞘を引き抜いて防御したのだ。 「びっくりはしたけど、流石にそう簡単に負けへんよ」 「———ちくしょうっ」  それは瞬間的な攻防だった。  仙山(せんざん)の鞘が蛇のようにするりと凍晴(いてばれ)を逸らし、もう片方の手に握られている刀が打ち下ろされる。すんでのところで登笈(とおい)はそれを止めることに成功したものの、息つく間もなく繰り出された蹴打を無防備な腹部に食らってしまった。 「ぐ、……ぁっ!!」  今度こそ凍晴(いてばれ)が手元から離れ、登笈(とおい)が仰向けに草葉の布団に倒れこむ。へその辺りから腹部全体にヒビ割れのように広がっていく痛みに、耐えられず彼はげほっと肺の空気を胃液と共に吐き出した。 「っふぅ。うーん……様子見のつもりやったけど、こんだけやれるならもう斬っといた方が良さそうやなぁ」 「……ッくそ」 「———さいなら」  登笈(とおい)の腹を踏みつけて、逃げられないようにしてから仙山(せんざん)は悠々と刀を持ち上げた。そして。無慈悲にも、簡単にそれは振り下ろされる。淡々と、死刑囚の首を断つように静かに、正確に。  ———しかし。切っ先が登笈(とおい)に触れることはなかった。 「私の弟子に何をしている」 「…………し、ょう」  近くの大木の幹に、折られた刀の破片が突き刺さる。  干上がった口内をざらつく舌で舐めながら、生きている感触を確かめる中で登笈(とおい)は白黒の視界を持ち上げた。徐々に色の戻る世界の中、目の前に立っている彼女の———師匠の名前を彼は声無き声で叫んでみせる。  戦袴(いくさばかま)を纏う細身の身体。両手に握られた二振りの打刀。女性らしさのある滑らかな肩の線。生成色(きなりいろ)の短髪。その頼れる後ろ姿と、鈴の音のように周囲に鋭く通る声色は、間違いなく時津風(ときつかぜ)走薇(そうら)のものだ。  その襲来に、仰向け状態の登笈(とおい)と刃先の消えた刀を握る仙山(せんざん)は同時に先程まで彼女のいた場所に視線を向けた。  彼女と侍達が戦っていた地点には、二人の想像通りの光景が広がっている。切り傷一つなく叩き伏せられ、意識を失った大の男の姿が五つ。つまり———。 「時間切れってわけやな」  誰が言うより先に、仙山(せんざん)は刀を放り投げて敗北を宣言した。 「……自由になった私としては、君も縛り上げてこの先の湖都(こと)に連れて帰りたいんだけど」  言いながら、走薇(そうら)は起き上がろうとしている登笈(とおい)を見て、ふっと息を吐く。相手が武器を捨てたこと、敗北を認めたこと。それらを加味して、自分もまた二振りの刀を鞘に納めた。 「やめだ。君を捕まえるなら、私も無傷で終わらせられそうにない」  五人は無血で制圧したのだ。それを無駄にして血みどろの結果を生むのは弟子の教育に良くない、と彼女は全身の力を抜いた。とはいえ、仙山(せんざん)が一人斬っているには斬っているのだが。 「では七門臣(しちもんしん)様。また戦場で」 「出来れば現れないことを願いたいけれど」 「それは俺が(かすか)様の刃である以上、無理とちゃいますかねぇ」 「だろうね」  彼は走薇(そうら)に腰を深く折ってお辞儀をして、木々の隙間を縫うように姿を消した。 「……」  一気に静まり返ったことで、林の声が聞こえるようになっていく。風の流れに枝葉がそよめき、虫が鳴き、どこかから川の音が届いてくる。そんな当たり前の日常を取り戻すと、走薇(そうら)は立ち上がろうとする登笈(とおい)に手を貸した。 「随分と頑張ったね」  仙山(せんざん)をムキにさせるまでに奮闘したからか、走薇(そうら)は弟子の成長に柔らかな笑みを作る。彼女の想定では、手加減した仙山(せんざん)に対して防戦一方で耐え続ける、程度のものだったが、現実はそうはならなかった。  結果は惨敗だが、登笈(とおい)七門臣(しちもんしん)の手駒の全力を引き出しかけたのだ。 「ちょっと……声が出ません」 「出てるじゃん」

読んでいただき、ありがとうございます。 質問があれば是非ともお書きください。今後の展開のネタバレにならない程度に回答させていただきます。 長文でも一言でも何でも感想お待ちしています。筆者にエネルギーをください!!

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