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白金のイヴは四大元素を従える

読了目安時間:6分

10 珍客

 野菜と鶏肉を煮込んだ辛いスープを飲み込み、ニーナはほっと息をついた。人とは不思議なものだ。空腹が満たされると、それだけで乱れていた感情が少なからず静まって来る。冷静さを取り戻せば、先ほどまでの自分の行動がどれほど無意味だったことか。  今は、他人に八つ当たりしている場合でも、悲嘆に暮れている場合でもない。自分にどこまでのことができるかはまだ分からないが、トロール達が傷付けられるのを黙って見ているわけにはいかなかった。 「どうしたらいいと思う?」  隣に座るシルキーに、ニーナは顔を向けた。無言からの唐突な問いかけだったが、物静かな風のジンは正しく意味を受け取った。 「そうですね……難しいところです」  少し唸りながら、ニーナはスープをすすった。 「ここで討伐軍にばかり構っていても、実質的な解決にはならないのよね。もっと根っこを叩かないと」 「その根を叩く道具を揃えたいところですね」 「そこなのよねえ」  頬杖を突いて、ニーナは考え込んだ。 「いっそのこと、ヘスカルア城に直接乗り込んじゃおうかしら」  自棄気味に言ってみれば、シルキーが少し笑った。 「ニーナ様がやると仰られるなら、わたくしは止めませんが、あまり平和的ではありませんね」 「この期に及んで平和的なんて言っていられないわ。こんなこと、絶対にやめさせるんだから」  勢いに任せて、ニーナは椀の中身をかき込んだ。 「ああ、いたいた。そこのお嬢さん方」  ちょうど食べ終わったところで呼ぶ者がおり、二人は揃って顔を向けた。ハルバラド人の若い兵卒が、こちらに駆け寄って来る。彼は浅黒い顔の中で子犬のように丸い目をくるりとさせて、人懐こく笑った。 「お嬢さん達にお客さんだよ」 「お客?」  心当たりがなくてニーナが聞き返すと、兵卒は頷いた。 「東方人の男が門のところに来ている。ダワだと言えば分かるって言っていたけど」 「ダワですって!」  東方人のダワといえば、ヘスカルアの街で出会った物売りだ。火薬武器の話を最初に教えてくれたのも彼だった。  椅子を倒さんばかりに立ち上がったニーナに、兵卒はびっくりした顔をした。 「都合が悪いなら帰って貰うけど」  ニーナの勢いにややひるんだ様子で兵卒が言い、ニーナはシルキーと顔を見合わせた。 「……とりあえず、行ってみますか?」 「……そうね」  ダワとて悪人ではなく、街では世話にもなったのだ。無下にするのも気が引けた。呼びに来てくれた兵卒に礼を言って、ニーナとシルキーは砦の門へと向かった。  ザウィヤの町側に向かって開かれた門には、見張りが詰める小屋がある。その小屋の前で番兵と雑談する東方人がいた。商品が詰まっていると思しき大きな荷物を、足元に置いている。黒褐色の髪を短い房に束ね、どこか力の抜けた立ち方は間違いなかった。 「ダワ」  彼はすぐに振り向いた。ニーナ達の姿を見た途端、顔を輝かせて駆け寄って来る。 「やっぱりここにいた! 追い付けてよかった」 「ダワ、どうしてここに……」  ニーナはダワを問い詰めようとしたが、すぐに言葉が続けられなくなった。両腕を広げて走って来た彼が、そのまま勢いよく抱き付いてきたのだ。 「会いたかったよ、ニーナ! 追い付けなかったら、どうしようかと。本当に焦ったよ」  ダワの過剰な喜び方に、ニーナは出鼻を挫かれてしどろもどろになった。 「ちょっと、ダワ。分かったから、そんなにくっ付かないで」  だがダワは腕に力を込めるばかりで、ちっとも放してくれなかった。彼の率直な感情表現は不快ではないが、さすがのニーナでも戸惑ってしまう。 「まさか君達に出し抜かれるなんて思わなかったよ。飛べるなんて卑怯じゃないか」 「ちょっと待って!」  ダワの言が聞き捨てならず、ニーナは精一杯の力で彼を押しのけた。 「今、なんて言った?」  ニーナは慎重に聞き返したが、ダワは持て余した両手を腰に当てて、あっさりと答えた。 「だから、飛べることを隠しているなんて卑怯だって。知っていれば、おれだってもう少しなにか考えたのに。お陰でこんなにも出遅れた」 「…………」  ダワの衝撃発言に、ニーナは絶句した。声も出ず、酸欠の魚のように口をぱくぱくさせるばかりだ。風に乗る時には周囲に目を配り、飛び立つ時も街から離れてからにしていたはずだが、一体いつ見られたのだろう。 「なぜわたくし達が飛べると?」  冷静なシルキーの声に振り向けば、彼女はいつもと変わらぬ微笑を口元に見せていた。だが、その目は笑っていない。  ダワはにこやかな表情のまま首を傾けた。 「なぜって、現に飛んでただろう? ヘスカルアから南に向かって。せっかく門で待っていたのに、がっかりしたのなんの」 「それは見間違いですね」  シルキーが断言し、ダワはきょとんとした。だがすぐに心得た様子で、彼は口の端を上げた。 「そうかもしれないね。おれとしては、君達に無事また会えたから、それでいいよ。どうせなら、ここまでも同行させて欲しかったけど」  ダワがこちらを窺うように目を細める。シルキーも笑みを絶やさなかったが、青紫の瞳は冷えた色を帯びており、いつもと違う彼女にニーナはすくみそうだった。 (シルキーが……怖い)  周辺の木々のざわめきが大きくなっている。一歩間違えれば、比喩でなく巨大な竜巻でも起こりそうな気配だ。戦々恐々とするニーナの横で、シルキーが軽く息を吐いた。 「分かりました――付きまとうのは、ほどほどにお願いいたします」  シルキーが引き下がったことに驚き、ニーナは彼女の袖をつかんで囁いた。 「いいの?」  シルキーは振り向くと、ニーナを安心させるようにそっと手に触れて囁き返した。 「ひとまずは様子見です。その後どうするかは、ダワ様の行動次第ですが」  ジンがイヴを守る存在である以上、イヴの害となるものを排除する権限も有している。ジンの行う排除がどんなものかはあまり考えたくはないが、シルキーが初めて見せた物騒な目の輝きに、ニーナは息をのんだ。  ダワは少女達のやり取りが聞こえたはずだが、気にした様子もなく陽気に言った。 「それじゃあ、シルキーのお墨付きも出たし、嫌われない程度、ほどほどに付きまとわせて貰うことにしようかな」  ダワが妙な宣言をし、怖いもの知らずな彼にニーナは呆れた。 「ダワって……なんかすごいわね」 「そう褒められると照れるじゃないか」  おどけてみせるダワに、ニーナは苦笑以外の表情を返せなかった。 「ニーナ」  後ろから呼ぶ者がいてニーナが振り向くと、エリヤがこちらに歩いて来ていた。大股に歩み寄って来た若者はちらとだけダワを見たが、彼には声をかけず、ニーナにだけ顔を向けた。 「よかった、まだ出かけていなくて。君に伝えなくてはいけないことがあるんだ」  ダワが口を閉じて会話の相手を譲ったので、ニーナはエリヤに向き直った。 「なにかあった?」 「あまり森をうろうろするなと隊長殿が言っていた。偵察にも影響が出てトロールの動きが把握しづらくなるそうだ。昨日、トロールに襲われかけていたというのは本当か?」  ニーナは口をへの字に曲げた。 「襲われてなんかないわ。トロールは危険じゃないもの」 「君がそう考えていたとしても、被害が出ているのは事実だ。トロールと遭遇する可能性がある以上、無闇に森に入るべきではない。君の暮らしていたディザーウッドとは違うんだ」  エリヤの説教じみた言い方にニーナはむくれたが、頭の中では先のことを考えた。 「その隊長って、今どこにいるの」  予想外の返しに、エリヤは少し面食らって瞬きした。 「おそらく、中央の天幕にいると思うが」  答えを聞くなり、ニーナはシルキーの袖を引いた。 「うろつくなって言うなら、隊長さんに直接話を聞かせて貰いましょう」  ちょっと困ったように笑ってから、シルキーは頷いた。 「そうですね。いずれその必要もあるとは思っておりましたし」  ニーナはすぐさま方角を定めて足を踏み出した。 「それじゃあダワ、またね」 「また顔を見に来るよ」  少女達は連れ立って駆け去り、ダワが笑顔でその背中に手を振った。

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  • みりたりステラ

    中村尚裕

    ♡400pt 2020年2月23日 18時36分

    ニーナ、この行動力が魅力の一つと申しますか。 シルキーも振り回され気味とは言え、補佐が上手くなっているような。 そこへダワ。秘密を知らない参謀のような立ち位置で入ってまいりましたね。興味深いところです。 これからも頑張って下さい!

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    中村尚裕

    2020年2月23日 18時36分

    みりたりステラ
  • 燃え尽き先生(制服ver.)

    入鹿なつ

    2020年2月23日 22時18分

    シルキーは開き直ったといった方が適切かもですw 状況を引っ掻き回しつつも、冷静な第三者ポジションを維持し続けるのはダワの要領の良さが出てたりします☆コメントありがとうございました!

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    入鹿なつ

    2020年2月23日 22時18分

    燃え尽き先生(制服ver.)
  • 男盗賊

    あっきコタロウ

    ♡200pt 2021年6月23日 18時29分

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    キマシタワーッ

    あっきコタロウ

    2021年6月23日 18時29分

    男盗賊
  • 燃え尽き先生(制服ver.)

    入鹿なつ

    2021年6月25日 7時30分

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    「タワーーー!!」ほっぺげver.ノベラ

    入鹿なつ

    2021年6月25日 7時30分

    燃え尽き先生(制服ver.)
  • 男盗賊

    あっきコタロウ

    ♡100pt 2021年6月23日 18時30分

    ダワが、キマシタワー!(スタンプ)

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    あっきコタロウ

    2021年6月23日 18時30分

    男盗賊
  • 燃え尽き先生(制服ver.)

    入鹿なつ

    2021年6月25日 7時31分

    ダワが、キマシタヨー!!

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    入鹿なつ

    2021年6月25日 7時31分

    燃え尽き先生(制服ver.)
  • コウテイペンギンさん

    双子烏丸

    ♡50pt 2020年2月23日 11時46分

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    応援しています

    双子烏丸

    2020年2月23日 11時46分

    コウテイペンギンさん
  • 燃え尽き先生(制服ver.)

    入鹿なつ

    2020年2月23日 12時12分

    ※ 注意!この返信には
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    ありがたき幸せ

    入鹿なつ

    2020年2月23日 12時12分

    燃え尽き先生(制服ver.)

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