Doll or Alive -人形の森編-

読了目安時間:6分

GWだし全部持ってくるかねー でも俺のGWは土曜から(´・ω・`)

橘朱音の秘密

「はいこれ」 「ファンタ…グレープフルーツかぁ。あれ?これ期間限定じゃなかったっけ?」 「そうだよ?あ、もしかしてグレープのが良かった?」 「何でこんな時だけ金持ってんだよお前……」 裕也の家との分帰路で俺たちは自販機で飲み物を買っていた。言われた通り俺の奢りで。 金がある理由?小遣いが出たばかりだったからだ。丁度いいので俺の分も含めて二本買ったのだが、裕也の分は当然ない。どうせ家まですぐそこだし問題にすらならない。 「グレープの方がいいなら俺の方あげるけど」 「うーん…いや、こっちでいいかな。ありがと」 「どういたしまして。あ、裕也の家はあっちなんだ。だからここでバイバイだな」 「さっさと追い出してしまいたいってのが見え見えなんだが?」 グイっと背中を押してさっさと帰るようにけしかける。 見え見えも何も……当たり前のことを何言ってるんだこいつは。お前がいなければ橘さんと二人きりだ。気兼ねなく話すことができるんだ。それにそもそもけしかけたのは裕也だろ。 「そりゃそうだろ。お前が俺に橘さん誘えって言ったんだから」 「……おい、健司。それ言っていいのか?」 「あ?……あ」 裕也と帰る時はいつもこんなノリだからついつい隠してたことが出てしまった、こんなノリにできてしまうくらいに慣れ切ってる人が、橘さんがいるのを忘れて。 「ふ~ん?何で健司君は私を誘おうとしたのかな?」 「あっ、えっと……それは……」 「じゃあな二人とも!また明日!」 「ちょおい待てコラぁ!」 雰囲気が崩れたらそそくさと逃げる裕也に怒号を上げる。ここで帰り道が別れているからやろうと思えばいつでもできたのだろう。 だからと言って爆弾爆発したから逃げるのは違うだろ!お前がそれっぽい流れ作って逃げるなら分かるけどな! にやにやと笑う橘さんが今は小悪魔のように見える。橘さんになら小悪魔的な誘いに乗せられても構わないけど。 「それで、健司君は私を誘おうとしたのは何でかな?」 「…もう少しだけ、歩いてからでいい?」 「ふふん?後ろから裕也君がやってくるかもとかかな?」 「心を読まないでくださいます!?」 にししとからかうような笑い方。けれど悪い気持ちはしない。気さくなことは知っているけれど、ノリが近いというのがよく分かるからだ。 きっと今の俺は笑顔を浮かべているだろう。ずっと憧れていた橘さんと二人きりで下校しているのだから。 昼に何を食べてたのかとかあの先生嫌いだとか些細なことを話ながら帰り道を行き、丸川の橋まで上がる。ここから丸川の堤防沿いに少し歩けば家に着く。それこそ5分とかからないだろう。 ふぅと一息つき、橘さんを帰り道に誘った理由を話す。の、前に話さないといけないことがあった。 「さっきの答えだけど」 「うん」 「その前に、一つだけ嘘ついてた」 「うん?」 これを言わないときっと伝わらない。今日俺が何をしてたのか、放課後にずっと君を見つめてたと言わないといけない。そうじゃないと、俺の想いは伝わらない気がした。 「今日は図書館なんて行ってない。ずっと、橘さんを見てた。だから、何となく気になった」 「……今日?」 「うん?そう。今日だよ」 今日ずっと橘さんを見ていたなんてストーカー行為もいいところなのに、そんなことを気にせず橘さんは眉をしかめた。まるで全く別のことに頭が向いているように。 今日というタイミングが何かあったのだろうか?いつも見ている俺も知らないようなことが。 「そっか。今日かぁ。健司君ならあんまり私のこと知らないし…相談してもいいかな?」 橘さんはそう話を切り出し、どこか物憂げな顔をして俺の顔を横目で見てきた。 相談。いつも笑っているような橘さんでも悩むようなことがあるのだと少し驚く。しかもその表情からして、笑って流せるようなことではないのだと理解できた。 ただ、女性の仕草なんて男は深読みしやすいものだ。これが思わせるだけのフリだとしたら……、馬鹿か俺は。 惚れてる女にそんなこと考える方が失礼というものだ。騙されたとしても後悔なんぞしないのが男だろう。 「相談って、何を?」 「今日さ、私のこと見てたんでしょ?どう思った?」 「可愛いなって」 素で答えてしまった。が、橘さんは目を細め、むぅと唇を立てるようにして怒っているのだと態度に示してきた。そんなことを聞きたいんじゃないのだと、もっと別のことなのだと、これ以上なく分かりやすく言っていた。 「部活の方だよ」 「部活の方?特に変わった様子はなかったようにも見えたけど」 「そう……だよね。変わってない、よね」 下を向いて唇を噛み締めるかのように暗い顔になっていく。青い顔にこそなっていないものの、明らかに元気のない姿がそこにあった。吐く白い息が、その頬を儚げに染めていく。 いつもと全く違う橘さんの姿。弱いところもあると見せるためではない姿だ。明らかに何かとんでもなく不安なことがあり、それが心に押しかかっているような形だ。 「橘さん?大丈夫?」 けれど今の俺には言えることなんてない。橘さんに何があったのかなんて知らないから。ずっと見てきたのに知らないなんて口が裂けても言いたくないけれど、事実だ。 できることはせいぜい大丈夫なのかと声をかけることくらい。でもその返事が絶対大丈夫なんかじゃないと信じられる。だから少しずつ励ましていくことくらいが今の俺にできることだ。 「私ね、短距離走をしてるの」 「知ってる。昼休憩の時にたまに聞こえてた」 「知ってたかー。それでね、最近タイムが全然伸びなくなったの」 短距離走でタイムが伸びない。陸上ならよく聞く話だ。フォームを見直すとか、体調が優れていないとか、一度リラックスできる状態に整えるとか、解決に至る道はあるはずだ。 野球やサッカーのプロ選手ですらスランプという上手くできなくなる病気のようなものがあるとも聞く。それじゃないのだろうか? 「そういう時期とかあるんじゃないの?スランプとか?」 「うん。きっとそういうのがあるんだよね。()()()()()()()()。その言葉にピシりと固まる。 それが意味するのは普通ではないということ。プロ選手やプロを目指すスポーツ選手達にも起きえることではなく、絶対に起きえないこと。つまり、特別な何かが起きているということ。 恐る恐る、言葉に出して橘さんへと話を聞く。聞くべきじゃないと理性は叫ぶけれど、本能は聞けと吠えている。ギリギリで本能が勝った形だった。 「普通、なら……?」 まだ冬には程遠い。秋ですらない時期なのに俺の歯はカチカチとなる。知りたくないことを知ろうとして体が冷たくなる感覚、すなわち恐怖という感情はこういうことなのだと初めて知った。 橘さんはどこか悲しげな表情を浮かべ、俺の顔へ視線を向けてその特別を語り始めた。 「私ね、原因不明の病気になったんだ」 冬の河から流れてくる冷たい風が、二人の顔を撫ぜた。

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