Doll or Alive -人形の森編-

読了目安時間:7分

祖父母の家へ

兄貴からの説明は続く。とはいえ俺と朱音の今後にも関わることが明白になった以上、口を挟まずにはいられない。 「爆発的に増えるってのがそれなら、時間稼ぎってのは?」 人形になる人が増えるまで時間稼ぐ。漠然とした感覚では分からないでもない。だが理路整然とされておらず、なんとなくでしか予想がつかない。そんな感覚という問いに対して時間を稼げという答えが出るわけもない。 「経過観察ができないから問題なんだろ。言い換えるとそれができる患者が少ないことが原因だ」 その言葉でハッと気づく。朱音が狙われる理由はあくまで人形化症候群の経過観察できた患者が少ない、もしくは0であることが理由だ。 「……患者が増えるから、か」 つまり、代理となる誰かが現れれば狙われる理由は無くなる。 「そうだ。そこまで時間が稼げれば後は人形化症候群の経過観察は橘朱音でなくてもいい。むしろ進行が早い分後回しにされる可能性もある」 そこまで行けば東京あたりは人形になるやついっぱいいるだろう。となれば後はそのための手段だ。その手段が祖父母の家に行けってことなんだろうけど、関係性が見えない。 「でもどうやって時間を稼ぐんだ?あの家に行ったって意味ないだろ」 言ってしまえばホテルとかと同じ結果になるはずと付け加える。 せいぜいが金がかからないくらいしか効果はないだろう。そんな理由であれば変わらない結果になるはずだ。 「それは何か聞かれた俺たち家族が行き先をそこだって言えばそうなるだけだな」 俺たち家族が。それが意味することは一つ。 目を見開いて兄貴の顔を見る俺を悪戯をするような顔をして兄貴は言葉を返した。 「まさか」 「一週間くらい九州かどこかに旅行にでも行ってますとでも言えばいいだけさ。自分たちで計画して行かせたが、どんな計画なのかは知らないと言えば少なくとも三日以上は気づかないだろう。何せ未成年だからな、保護者が言ったところに行くと勝手に考えるだろうさ」 朱音が心配そうな顔をするのを、今度は健司が手を握ることで安心させる。健一の額にピキリと筋が張ったのは今いない彼女とイチャイチャしたいからだろうか。 「でも、それがバレたらお兄さんたちは」 朱音の心配は確かにその通りだ。 ――だがまだ青い。健一はそこまで考えている。何せ今言った台詞に、何一つとして偽りはないのだから。 「さぁ?俺たちが知ってるのはお前たちが九州かどこかに旅行に行ったことだけだ。それ以上は知らないぞ」 嘘に真実を混ぜる。大きな枠組みに指定して詳細を言わない。どれも大人の誤魔化す、騙すやり方の一つだ。大人同士ですらそうそう気づかない、騙される方法だ。一度に十数人に質問されたら話は別だが、それ以下の人数ならそうそう気づかれない方法でもある。 「……ありがとうございます」 だがそんな健一の話術に朱音は気づかなかったらしい。身代わりになると受け取ったのか、重苦しい感謝の言葉を口にしていた。 「これくらい構わねぇよ。嘘偽りは言ってないしな」 くくくと悪役の笑い方をしながら椅子をくるりと回す健一。 よくよく考えてみると兄貴のやってることどう見ても社会をひっかきまわす側だな。そう考えると悪役ってのも間違いじゃない気がする。 どうせ時間稼ぎだって言って俺たちに話してないことやらかしそうだし。 「あとは……注意しなけりゃならんことか。携帯は家に置いていけ。代わりは俺が貸してやる。あと衛星写真から特定はそれなりに簡単だから気づかれるかもしれん。家からあまり出るな」 机の引き出しからスマホを二台取り出し、俺たちの方へとポイっと投げ渡す。 そこまで準備万端だと逆に怪しくもなるな。どこまでを予見していたのかが全く分からない。 「でも移動中でバレるんじゃ?」 「俺が明後日いつも通りに祖父母の家に車で行くってことにする。明日でいろいろ調達しておくぞ」 なんかここまでくると全部兄貴の手のひらの上な気がする。いっそのこと全部任せた方が楽だとすら思えてくる。 「橘朱音、君は君の両親の説得と今言った説明をしてきてくれ。うちの馬鹿親二人は一言言えば問題ないが、君のところは俺たちがいると逆効果になるだろう」 確かにうちの親二人はOK出すだろう。というか既に出してるとすら言える。……あれ、朱音の両親にもあのレポートいってるんだから既に解決済みでは? 「お母さん達はケンを認めてくれてるから大丈夫だとは思うけど……」 「両親、特に親父さんは健司と朱音が二人っきりで一週間いるって認められるのか?」 「ごめんなさい。頑張って説得します」 朱音の親父さんの扱いが酷い。とはいえあの暴力装置みたいな親父さんを相手にしたくないのも事実。朱音から説得してくれた方が助かるし、説得力も大きいだろう。 あと気になるのは……これまでの日常はどうなるのやらってところか。 「学校は?」 「んなもん知るか。サボってる扱いでいいだろ」 こっちも扱いが酷かった。 土曜日、俺と兄貴は両親に説明すると二つ返事でOKが返ってきた。ということで二~三週分の食料を買いに行っていた。 昼過ぎには朱音も説得できたらしく、こちらに合流してそのまま必要なものを買い足していく。 朱音曰く、説得はほぼいらなかったらしい。健司についていくと言ったらお父さんがダメだと強硬し軟禁してでも行かせんと言い出した。が、お母さんが全力でボディーブローを決めて承諾し解決したとのこと。 それを聞いて健司と健一の頬が引きつったのは言うまでもない。いやお母さんどんだけ暴力的なの……いやお父さんも似たようなものだったか。 そして荷物を揃え、車庫にある車に乗せていく。結構な量があったので、明日に苦労するよりさっさと車に詰めておいた方がいいとは親父たちからの助言だ。 そして日曜日、1~2時間ほどかけて山奥にある祖父母の家にやってきた。兄と兄の彼女である香奈さん、それに俺と朱音の四人だ。 香奈さんがついてきたのはそうした方が後々楽になるからと悪い顔をしながら兄貴が言っていた。やらかすのは構わないけどあんまり香奈さんに苦労させるなよ、とは言っておいた。 家の中を確認していく。電気や水、ガスといったライフラインは問題ない。さらに兄が使っている携帯しているwifiも使えるから置いていくとのこと。これには頭が上がらない。 「いいか、ここまでの移動は全て上空からは写真レベルならバレない。懸念はあるが……まぁおいとく。この裏手の山の散歩くらいなら衛星写真レベルなら問題ないから外に出るならそれくらいだ」 「分かった。他に何か注意することは?」 「連絡を取るときはSNSか、俺の渡した携帯のメールからやれ。電話はダメだ」 「バレてはいけないからでしょ?それくらいは簡単ね」 俺、朱音、兄貴、香奈さんの4人で注意事項を一つずつ確認していく。こうしているとまるで秘密基地みたいな気分にもなりそうだ。 とはいえやることは避難とか隔離とか駆け落ちとかそんな軽いものじゃない。ちゃんとしないと。 「私からはこれ」 香奈さんから渡されたのは料理の本。これで自炊して過ごせということだろう。俺は料理できないし、朱音も少しだけって言ってたから必要なものだろう。 「健司、お前にはこれを渡しておく」 「なんだこれ?」 兄貴から渡されたのは小さな紙袋。中に何が入っているのか見当もつかない。 「一人の時に開け。それなりに重要なものだ。悔いは残さないように、な」 何か重要なことが書いてる手紙でも入っているのだろうか?重さはさほど感じないからおそらくそういうものだと思うが……。 ゴホンと兄貴が仕切りなおすように息を出す。 「俺たちが迎えに来るのは少なくとも二週間以上先。人形化症候群の被害が拡大してからになる。それまでは…生きてくれ」 頭を下げる兄貴の姿にどれだけの想いがあるのかと重く感じる。ここまで協力してくれて、祈ってくれて、これ以上頼まれるほど弟として落ちぶれちゃいない。 「馬鹿にするなよ兄貴。弟を信じろ」 「……はっ、言うようになったな」 手をひらひらと振り、兄貴と香奈さんはそのまま車で帰っていく。俺たちを残して。 残ったのは俺と朱音の二人だけ。それを自覚してしまうと、どうしても照れてしまう。 「と、とりあえず今日の晩御飯作ろっか」 「う、うん。そうだね。一緒に作ろっか」 どぎまぎしながらも二人だけの家で二人だけの時間を楽しむ。これがきっと兄貴たちからの最大の配慮ってやつなんだろうし。

ブックマーク、感想あると嬉しいです

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • ヤオヨロズ・シティポップ

    幸福と不幸に振り回される青春コメディ

    243,169

    2,070


    2021年6月25日更新

    「さぁ、無味無臭のクソみてぇな日常をブッ壊しましょう」 受験生の久美浜 千晃は、志望校への合格とまだ見ぬ恋愛の成就を祈願して、吉田神社へ参拝した。その次の日から、千晃の身に次々と幸運が舞い込むようになる。しかし、ご都合主義なイベントの数々はどれも不自然で、疑心が募るものばかり。 手放しには喜べない日々の中、千晃の身にちょっとした不幸が訪れる。幸福の反動で「このまま死ぬのかもしれない」と怯えた千晃は、同級生の笠置みほろと共に再び吉田神社へと向かう。そこで待ち受けていたのは、『やおよろズ』と名乗る五人組の神様だった。 やおよろズの目的は、行方不明になってしまった福の神の捜索。報酬として提示されたのは、五つの御利益の付与。利害関係が一致し、やおよろズと行動を共にすることを決めた千晃だったが、神々の御利益は『病気になると効果が反転する』という欠点が隠されていた。 そして、神々はえらく病弱だった。 幸運と不運に振り回される日々に辟易しながらも、福の神を捜索する千晃。だが、捜索劇は京都に住む人々を脅かすほどの大厄災へと発展していく――――。 これは、苦労人のシスコンが非日常の中で何かを見つけ、かけがえのない青春を胸に刻んでいく御利益ラブコメディ。

    読了目安時間:5時間0分

    この作品を読む

  • 青春するから応援よろしくお願いします!!

    ちょっと未来の中学生日常系✨

    375,250

    4,384


    2021年6月25日更新

    中学生の主人公があるプログラムを通し、良い大人になっていく一年の成長過程を描いた物語。 某会議室にて、プロジェクトがいよいよ最終段階に突入しようとしていた。国家は、国の様々な問題を抜本的に解決すべく、今までにない形の新しい制度の導入に踏み切った。その名も「より良い生涯を送るため 基本的力育成推進計画」、通称「良い大人計画」である。一般家庭で育った現在14歳で中学生の主人公も、そのターゲットの一人となっていた。 ”人生のイベント”を体験し、”大人になること” を学んでいく。 14歳の滝夜くんが「人生のイベント」を学びながら、価値観や考え方の違いを知り、「大人になること」を学びます。 個性的な友だちと、お泊まりしたり恋バナしたり、修行したり、泣いたり笑ったり、忘れられない日々がぎゅっと詰まっています✨

    読了目安時間:10時間25分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 九尾の狐とおん返し

    ほわほわ店主がワケあり狐を拾いました

    3,200

    0


    2021年6月25日更新

    西洋のどこかの国のカフェの店主が九尾の狐を拾った。 陽美乃と名乗る喋る狐をものともしないどころか、変化して見せてもすごーいと拍手するルーチェ。 そんな彼のもとでもふもふ撫でられたり、カフェでウェイターをしたりと自由にすごす陽美乃。 ルーチェの眼病を治すために協力したことで二人の絆は深まっていく。 そんな彼らのもとに陽美乃が西洋まで逃げてきた理由が追ってくる。 不思議で平和だけどちょっと危険な二人の日々を覗いてみませんか? ※表紙は渡河いるかさんに描いていただいたものです。一切の転載を禁止します。 ※狐がひどく傷つけられるシーンがあります。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:47分

    この作品を読む

  • エレス冒険譚 ~竜騎士物語~

    転生ではない、王道系ファンタジーです

    184,800

    50


    2021年6月25日更新

    考古学者として旅していたカシムだが、誘拐された王女を偶然助けたことで、国王から「竜騎士」を目指すように命令される。 それは、この世界で最も恐ろしい十一柱の創世竜の元を巡らなければならない、「死刑宣告」と同義の命令だった。 この物語は、エレスという世界を舞台に繰り広げられる、カシムやその仲間たち、そして、さらに沢山の冒険者たちの物語である。 ※一応セルフレイティング入ってますが、それが主眼の話しではありません。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:26時間14分

    この作品を読む