Doll or Alive -人形の森編-

読了目安時間:2分

人形の森

その瞳に映るものは既に人の形をしたものだけだった。 その背中に人は人形を背負う。ふらつきながらも一歩一歩確実に歩んでいく。文房具のハサミを片手に、目を覚まさない女性の人形をおぶさり男は進む。 男、健司の脳裏に浮かぶのはただただ人形―朱音との思い出。それは穢されることのない、至宝の軌跡。 だが健司には一つだけ忘れ物をしていた。軌跡を、穢される可能性を思い出していたからだ。だからこそ、その手に傷つける道具を持ってきていた。 かつて兄、健一からもたらされた情報には一つだけ、二人を穢すものがあった。 それは別種の奇跡。人形の首を切断し、内部をいじることで再起動する可能性がある、というもの。それには憤慨し、できるわけがないと叫んだ。健司も、その時は動いていた朱音もだ。 しかし今、動かない朱音を背負い一つの可能性を考えていた。 俺が、朱音を傷つける?そんなの許されない。だが、他の誰かが傷つけることがあるかもしれない。それだけはダメだ。動けない俺ではどうしようもない。 けれどその可能性は十分にある。父親なんて真っ先にやるだろう。 だから、これだけは許してほしい。離れないために行う、たった一つの傷つける行為。これを行わなければ、未来に離れる可能性はあるから。 ふらつき、何度も倒れながら家の裏にある森の中を歩く。一本の巨木を目指して、感覚が薄れゆく足を動かす。 頑張れと、背中から声が幻聴が聞こえる。あと少しだと、励ます声も。 それが幻聴であろうとなかろうと健司にはそれだけで十分だった。今や健司を動かすのは朱音の言葉だけ。例えそれが幻かもしれなくても、歩く力に変わっていく。 日が落ち、丑三つ時を超えた頃、再び健司は前のめりに倒れた。倒れた先は何度も同じ感触がした土ではなく―木。それも巨木といっていいものだった。 ようやく到達したのだ。本来なら十数分ほどかかる道だというのに、数時間という時間をかけていた。その足跡が示すのは、まるで人がへたくそな人形を動かしたような身体の動かし方であり、それだけの時間がかかるのも当然のことだった。 健司はスローモーションのような動きで朱音を気にもたれかかるように座らせる。ようやく着いたという安心が、身体の緊張を和らげる。 健司自身が認識する感覚はほぼ無くなっている。それでも動けていたのは、一重に朱音への想いがあったからだ。 せめて朱音の横に……。ああ、そうだ。朱音が傷つけられるくらいならやらないと―

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