Doll or Alive -人形の森編-

読了目安時間:4分

リミット近づく火曜日

火曜、兄貴から連絡がきた。予想通り健司たちに向けられていた人たちが見つかったらしい。朱音の家の周囲に明らかに挙動不審な人物を適当につけた監視カメラで見つけたとのこと。 家に何仕込んでんだこの兄貴は。そう怒ったのは仕方ないことだけれど、何をどうやってか朱音の両親の協力も得ていた。 曰く、別に部屋の中じゃないなら構わない、らしい。プライベート空間じゃなければ知ったことか、と。 朱音の両親には頭を何回下げても足りないな等と思い、そこまでやってくれた兄貴には殴らないでおこうと考えを改めることにする。 兄貴の連絡はそれだけじゃない。予想通り国内で発症者が出たこと、その発症者は経過観察できていなかったこともだった。 予想として間違ってはいなかったものの、経過観察が難しいという段階に入った。発症者が大量に出れば経過観察ができる人が増える可能性が高くなるはずだが、その初期段階というわけだ。 一つだけ予想が外れたのは、その予想以上の遅さだ。 公表後一週間でそれなりに進むと予想していたが、この調子だと一週間はまず不可能。そうなればここに隠れ住む時間が延びる。 幸い一か月近い食料はあり身体的には問題ないが、精神的に帰れないというのは辛いのだ。 そんな兄の連絡にありがとうと一言告げると、流石に俺の状況を教えろと突っ込んできた。連絡をとっている医者が経過を知りたいらしい。 それならと俺が人形化症候群にかかったと伝えてやった。何故か謝られたのは理解できなかったが。 そして感覚が薄れたりなくなったりが起きるとだけ連絡してやった。それだけあれば十分だろう。 だが一番大きな言葉はその後に待っていた。 「きっとこうなると思っていた。お前が覚悟を持っている男になったらそうなるんじゃないかと思っていた」 兄から飛んできたSNSの内容がこれだ。ハッと鼻で笑ってやり、携帯をスリーブにする。 兄貴がこうなると分かっていた?そんなことは百も承知だ。あれだけ協力しておいて、あんなレポートを作成しておいて、俺がこういう性格だと知っておいて、分からないわけがないだろう。 大方止めようとしなかったことを後悔でもしてんのかもしれないが、俺には朱音と共にいられることだけがあればいい。 何より人形化症候群が公表された後に朱音に告白なんかしてたらどうしようもなかった。朱音と居られる時間を最大化させてくれたって意味では感謝しかない。 「まったく……」 きちんと言わないと分からないか。こっ恥ずかしいこと言わないといけないとか、羞恥心からして言いたくないんだけどなぁ……。 「ねぇ、ケン?聞こえてないの?」 「え?」 「やっぱり聞こえてなかった?」 心ここに在らずといった状態ではあったものの、朱音の言葉を無視することなど健司からすればあり得ない。兄と喧嘩している時くらいのものであり、物理的に聞こえない状況くらいのものだ。 あるとするなら……聴覚がなくなったとでも言うのか? でも朱音の声は聞こえる。とすれば一時的なものであり、昨日の朱音みたいに少しずつ治っていくはずだ。 今日、目の前にいる朱音に比べれば遥かにマシだ。 「ごめん、ちょっと上の空で」 「もー……。……松葉杖くらい準備しておけばよかったかな」 「予想もつかないから無理だったかな」 布団に寝込みっぱなしの、動けないような姿に比べれば。 今日の朝、朱音の左足、そして左腕の感覚が完全に消え失せた。左半身ではなく腕と足だけだ。胴体を動かすことで筋肉の連動上動かせることは可能なのだが、自分の意志で動かせなくなっていた。 さらに食欲不振でも起きたのか、朝ご飯を吐き出すということも起きていた。 これらの現象には流石の健司も瞳から輝きが消えそうになった。何せ「動けず」、「食欲がない」というのはどう考えても人形化進行のほぼ最終ラインだろう。 かくいう健司も時々ふらついていた。それが何を意味するのか分かっていても、目の前に朱音がいるという事実が無理やりに身体を動かしていた。 にこりと健司の方を向いて笑う朱音。朱音の顔はまだ感覚が失われていない。にも関わらず、今日は会話が少なくなっており、何か言いたい合図となっていた。 「朱音、どうした?」 ただ聞くだけの軽い言葉。それに対して返ってきた言葉はポツリと零れるような重くのしかかる言葉だった。 「ケン。私、私たちの、好きなところで眠りたい」 眠りたい。それが意味するのはもはや考えるべくもない。朱音は動けない上、言葉に出すのも辛くなりつつあるのだ。 数日前までのように直球で話していたのが遠い昔のようにすら思える。だがそう想っても目の前の現実から逃げられるわけじゃない。 コクリと頷き、笑顔で右手を握る。少し強めに握って、ここにいるから大丈夫だと伝え続ける。 「あか…ね。大丈夫だ、分かってる。俺も好きなところだろう?」 「うん。お日様の下で、お願い」 「……お日様の気分次第だな」 「ふふ、そうだね」 朱音はまだ完全に言葉を話せなくなった訳ではない。辛くなっただけだ。それに悪いと罪悪感を感じながらも、朱音と少しでも多く言葉を交わす。 もう時間はないと、なんとなくで感じていたからこそ、一言でも多く。

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