魔法使いの日常

読了目安時間:5分

じぶんにできることがある?

 帰陣した少女は歓声で迎えられる。それに応えるように、出迎えてくれた兵士たちと手を叩きあったり、抱き合ったりくるくるそのまま踊ったり、お酒をぶっかけられたり返したりして喜んだ。多かれ少なかれ、灰にした連中は、ここの皆の仇の一部。それを一方的に葬り去ってくれた火の魔法使いの少女は、こちら側の軍にとっては誰にとっても好ましい英雄。  また、荒っぽさもある空間ながら、一介の魔法使いを高く買ってくれたこの世界を、少女も愛し好んでいた。だからこそ、楽しそうに共に騒ぐ。  ひとしきりわちゃくちゃにされた後、お付きの親衛隊兵四人に付き添われて、少女は自身の家へと歩を進める。  家。  唯の陣地に個人の家。それが、少女のものだけではない。所狭しと陣地内にはあちらこちらに建てられている。普通ならば、将兵たちの仮住まいなど布や革のテントや、半鋼鉄製の薄っぺらい装甲程度の建物が精々贅沢品で、悪ければ布団一枚地面に敷いて寒空を過ごす羽目にもなる。しかしここでは、滞陣している全将兵分の個人宅が建てられていた。そして避難民や志願兵達の簡易共同施設までも。仮住まいで、これである。これは、土の魔法使いの手柄だった。 「ちょっとした町みたい」 「ええ、魔法使いの方々の協力もあり、ここまでになりました」  お付きの親衛隊兵の一人に呟くと、そんな応えが返ってくる。なるほどお先人さんの……と頷く火の魔法使いの少女。残る三人も頷き微笑み、辺りを見渡しながら、歩を進める。あくまでゆっくりゆっくりじっくりと。見回りながらか、それとも自分たちの()を味わうためか。  町。魔法使いの少女が言う通り、ここは確かに町になっていた。人の出入りは最小限ながらも、約五百人が暮らしていた。少人数で、それらを造り上げた自負心は、彼らに誇りと自身を与え、建築最大の立役者である、土の魔法使い、水の魔法使い、風の魔法使いの彼女達が崇められる最大の理由でもあった。そして―― 「みんなの町なら、絶対に落とさせたり出来ないわね」 「……はい。貴女が守って下さいました」  護る理由にもなる。少女のその言葉に、目付きの鋭い親衛隊兵の一人が、柔らかに頷く。さもありなん、という様に、やっぱり他の三人も軽く頷き微笑んで。少女は頬をポリポリかきながらテレ苦笑い。決して自身だけの力じゃない、と言いたいけれど、きっとそんな事はありませんよと返されるに違いない。そして、鋭き親衛隊兵さんはそんな少女の内心を見逃したりもしてくれない。 「貴女が代わる代わるで防衛を引き受けて下さっているからこそ、我らもその分兵の育成に送り出しに、住民の保護に教育にと力を集中できましたから」 「……ですね、はい。わかりました」 「ふふふ。貴女さまにも期待しています」 「そうですね、ですので慌てずに」  土を、水を、風を自在に操り、硬度も熱も量も質も自由自在。それらを活かして、魔法使い達は到着直後から存分に活躍したらしい。今も踏みしめている簡易の道路も、遠くに見える城門も、陣には不必要なほどの頑強な城壁も、そこに取り付けられた無数の迎撃兵器も。そして、生活するのに十二分の畑や水田に上下水道。更に最適な耕作地も、河川も、淀んでいるはずの空気もきれいに循環されていた。この陣地のどこにいても、頑丈な道にきれいな水が溢れ浄化された空気に満ちていた。加えてイザという時の地下道、地下指揮室、避難室の空間までも完備されている。ここまで来ると、陣地というより、砦や小型城塞都市と名乗った方が余程相応しい。 「火の使い手のわたしは、この上で何か出来るかしら?」 「きっとございます」 「ですです。それに我らにとっては、居て下さるだけで大幅戦力アップですしね!」  前線兵の悩みの常なるインフラ整備に、最も活躍した魔法使い達が、将兵達から絶対的な信頼と尊敬をこんな風に集めるのは当然でもあった。先のように戦ったりなどしなくても、彼女達は最初から英雄だった。  しかし、火の魔法使いは、着陣して先人たちの活躍を目の当たりにし、頭を悩ませる。先のように戦いで活躍でもしない限り、出来ることなどあるのだろうかと。 (ううん……ここまで完備されててわたしが出来ることなんて)  あまりにも強大な功績を積み上げて去っていった先人たちを呪いつつ、焚き火祭りとか篝火炊きまくりだとかいっそ敵陣焼き払う序に野焼きパーティーでもやるべきか……などと、何時の間にか頭を抱え斜め上モードになっていると、そっと、前後左右を支えられていた。それは、常日頃から魔法使いの少女達をカバーしてきた親衛隊兵達だった。  彼女達もまた、単なる役目以上に少女が好きだった。 「……足りない物資や食料は、みんながちゃんと持ってきてくれた。守ってくれた。戦ってくれた。……だから、今、こうしてみんなが、私が、暮らせている……土の魔法使い殿と、水の魔法使い殿の言葉です」 「……」  土の魔法使いの少女は、気持ちを譲らなかった。自身がこの場で出来ることをやったまでだと。自身だけでやってみせたなどと決して言わないし思いも寄らず、次の陣地へと向かっていった。水の魔法使いも、風の魔法使いも。 「箱は作る事は出来るけど、此処から先は本当にみんなで造り上げていく。これも、彼女達の言葉です」 「……みんなで」 「はい」  親衛隊兵達もまた、尊敬と敬愛の情を譲らない。彼女達がいて、惜しげもなく支援してくれたからこそ、自身達が最前線でも安寧に、楽しく暮らせている事を。 「火の魔法使い殿は火の魔法使い殿らしくあれば、それで我らは満足ですので」 「ですです。風さんみたいに、好きなことをやりまくってるだけでよいのですよ?」 「……ふふっ、そう ですね」  先人たちの背中は大きい。火の魔法使いは嘆息しつつ、四人に深々お辞儀をし 「本日から、どうぞ宜しくおねがいします」 「どうぞ命のままに。我ら四名身命賭して、支えます」 「あー……堅苦しいので、もちょっと友人くらいの柔らかさ……で?」 「ふふっ、はい、最初の令承知致しました」  はにかみながら、支えられながら、皆で最初の一歩を踏み出した。

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