魔法使いの日常

読了目安時間:8分

あなたがこんやもうなされるのが わかっているからこそとめる

 だだっ広い平原に陣取る、第一軍と第二軍の側面を突かれないようにと、抑えの支援軍として、第六軍は中軍に駐在していた。  その第六軍司令部は、大量の陣地を建設し幾重にも張り巡らせることで有機的な陣形を生み出し、全軍への側面攻撃を防ごうと企画する。そのうちの最初の陣地構築を任されたのが、第132、第133小隊の二小隊だった。  無論建設中に敵軍からの妨害があるだろう事は予想されており、彼らへの支援として、高機動を誇る騎馬隊、長射程の弩兵隊、そして貴重な魔法兵が幾人かも送られる。  その最初の支援魔法兵達の中に、土魔法使いの少女もいた。他の魔法兵たちと共に着陣当初からよく働き、負傷兵の回復に向かったり、後方への連絡手段を確立するために護衛を務めたり、度重なる襲撃防衛戦の前線で戦ったり。  そうしていつしか彼女達は、それぞれ適性のある陣地へ、領地へと徐々に活躍の場を移していく。  輸送と連絡手段の構築に功績を上げた雷の魔法使いは、中軍、後陣、最前線、本土へと所狭しと動き回り、全軍の兵站方面に活躍していき、何時の間にか前線で戦うことも、滞在することもなくなった。  木の魔法使いは、荒れ果てた古戦場を蘇らせるため、激しい戦いを経て手に入れた広大な後背地の領土を蘇らせる命を受け、数年単位で動くことになる。馬防柵を整備し、荒れた土地への植林を終え、膨大な加工用材木を置き土産にして、前線から引き上げた。  癒やし魔法の使い手も、徐々に土魔法使いの活躍で大きな働きがなくなっていくと、後進の教育にと簡単な癒やしの術を幾人かに教え込み、回復薬をこれでもかと造り上げた後、敢えて激戦地へ身を投じていった。  こうして、軒並み正規魔法使い達がいなくなったこの陣に、最後まで残ったのは、土の魔法使いだった。度重なる襲撃と、山脈近くに位置する地形の影響で、雪が積もり寒風が吹き晒す中でも尚、彼女はこの陣を支え続ける。  土を固め、土砂を利用し、岩を生み出し、石を削り、鉄を削ぎ、鋼を打ち出し、それらを溶かし、それらを積み上げ、壁にして道にして武具に変え農具に変え地上を整備し地下を造り、城壁は更に高く、堀は更に深く。  敵兵が寄せてきたら、兵と共に、またはふらりと一人で殲滅に。ある時は生き埋めに、ある時は溶岩で溶かし、ある時は壁で擂り潰し、ある時は全身を砂に変え、ある時は底なし沼に、深く静かに鎮めていく。  戦い方は、常に全滅を狙い、いつしか凄惨なものになっていった。戦う度にすり減っていきそうになる少女を、兵士たちも、住民たちもよく支えた。そして、護衛にと付けられた親衛隊兵達は、最も傍で共に戦い共に働き、共に生き抜き支え続けた存在だった。 「今日は煉瓦を増やしておきましょう。あと、瓦も、それと壁に使える粘土もです。土は私が生み出します」 「「「はい!」」」  先日千人を生き埋めにしても尚、尽きることのない魔力に意欲。木の魔法使いと癒やしの魔法使いが後のためにと大量に残した物資に習い、土の魔法使いもまた、自身が生み出せる物資を後のためにと沢山残そうとしていた。 「銅、青銅、鋼と、後は大量の岩も」 「岩、ですか?」 「ええ。きっと、いつか役に立ちます」  作業員と共に働く少女へ、お付きの親衛隊兵の一人が、色々な事を懸念して休息を勧めると、少女は少しだけ表情を崩し、しかし首を振る。 「私は弱いので……今休んだら、きっと暫く立ち上がれない」 「そうですか」 「ただ、全てが終わったら、立ち去る前の最後に、貴女の膝を借りたいなー」 「ふふっ、そんな事で宜しいのでしたら、最後などと言わずいつでも良いですのに」  今はお仕事中だからと言わんばかりに、少女は生産に余念を許さない。城壁も、迎撃兵器も作成した。道も整備済みで監視塔は一番頑丈に造り上げた。水路も地下道も地下室も。インフラ整備が済んだら、自身が立ち去る時も近い、という事は、小隊所属ではない派遣された身として、最期に残った魔法使いとしてよく知っていた。それを考えれば、一日たりとも無駄には出来なかった。そして―― 「ですよー? なーんですかー? 水くせーじゃね―ですか?」 「わわっ!?」 「ですねぇ、そーら今日は私の膝で休んだ休んだー」 「とと……り、リーゼさんもコーデリアさんも……」  ……親しくしてくれる、護衛四人の存在。土魔法使いは、彼女らによく甘えてきた。挫けそうな時も、重傷を負った時も、心がやられそうな時も、常に身体を張って支えて護り続けてくれた、四つの盾、四本の剣。立ち去ろうとすればするほど、良くしてくれた兵たちに、特に親衛隊兵の彼女らには後ろ髪を引かれてしまう。このままでは立ち去る時に非常にまずいと距離を取ろうとしても、護衛なので物理的にも精神的にも、今もこうしてくっついてきて離れない。そして、彼女らにそこまで必要とされている現状は、土魔法使いにとって、とても心地良かった。心地が良すぎた。良すぎるために、今日も少女は彼女達のために土を砕き身を砕く。離れたくない。でも離れなくてはいけない。 「コーデリアちゃんナイス! ささーラーツェちゃーん、きょーのさぎょーはみんなに任せて帰った帰った~~!」 「よしっ! リーゼー離すなよー!? ラーツェちゃんはそろそろ強制的にでも休ませないと危ないですからねー?」 「うぐ~~~~……私の岩石造りぃ~……!!」  そして、その離れなくてはいけないはずの身は、親衛隊兵の一人、リーゼにぴったりくっつかれる。後ろから抱きついてきたコーデリアに押され、リーゼにぐいっともたれ掛かるように押しこまれキャッチされると、少女自身もようやくとろりとその身を預けるようになる。抱かれたまま背中を優しくするりと擦られると、物資作り余材作成命な気持ちもふにゃりととろけていく。背格好が一番近いリーゼなら、土魔法使いのラーツェも比較的素直に聞いてくれる事を、親衛隊兵である彼女達もよく知っていた。 【弱点は活用せよ】  味方にも、守護対象にも、いかなる時も。親衛である兵士四人は精兵でもあった。当然非情さも持ち合わせており、目的のためなら手段も選ばず遠慮もしなかった。 「はいはい、またこんどにしましょーね~飴ちゃん食べますか~?」 「ささー今日はリーゼとあんなことやそんなことしてもみんな許しますからね~」 「しっしないですぅーーー!!!」  そして、親衛隊兵たちとしては、首都並みの暮らしを最前線で送らせてくれた立役者でもある魔法使いの最後の一人、ラーツェを無碍に扱う気なんて起きるはずもなかった。序に、何処にも手放したくない欲にも駆られ始めてもいる。このままでは非常にまずいと思い、護衛に徹しようとしても、ふらりと死にそうな動きを度々起こす少女を止めるには、言葉だけではすでに足りなくなっている。今も、大量殺戮を行ったばかりだと言うのに、休もうとせず働こうとする始末。こんな時は暫く休ませるのが最も効果的というのは、彼女らは経験から学んでいた。その経験がない少女は、まだまだやはりひよっこなのである。心を埋めるために、動く、働く、自身にしか出来なことをし始める。 「えー? なんですかぁリーゼ一人だけじゃ足りないと……」 「そっそーゆーことでは……」  それらを妨害し護るためには、既に手段を選んでいられない段階でもあった。 「ふふっ、ならばー……いっそコーデリアも付けましょうか~?」 「えっ!! あたしもいいいのか!?」  手段は問わないとばかりに畳み掛ける親衛隊兵たち。次から次へと興味を引く言葉でしっかり縛り付けていく。 「よっよくないっ!!」 「え……いらない……」 「……あっえっとそっそうじゃなくって!!」  少女も働きたい一心で抵抗を試みるが、如何せん場数が違い過ぎて毎回の如く言葉に、身体に翻弄されていた。失言を重ねたり、焦ってスキを作ったりもしてしまう。 「きらいとかじゃなくってむしろコーデリアさんもリーゼさんも大好きですよ!!?」  そうして、生まれたスキを逃すような彼女達ではなかった。数と経験でかなり卑怯ではあるが、逆ギレさせて土魔法を使われたら全滅するのは親衛隊兵たちなのである。なので、護衛対象が相手のはずなのに手加減なんかしていられないのである。 「まじか!!」「やったぜ!!」  「マジです!! ……あれ? いやそうじゃなく!! 岩石!! 岩石を作らせろ!!」 「はーいだめでーすきょーはお休みの日でーす」 「がんせきが私を呼んでるのーっ!!」 「はーいおばあちゃん幻聴のお薬はこっちですよぉ」 「はいはいおばあちゃん岩石さんはあしたつくりましょうね~」 「おっおばーちゃんじゃなーいっ!!」 「それに岩石はさっき生んだでしょおばあちゃん」 「あっ、そ、そうでした! ・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ って!?  いっ、一個二個じゃ全然足りないですってばーっ!!」 「あははっ、さぁさぁラーツェさーん諦めて今日は休養しーなさい?」 「リーゼさん離してーーー!!」 「えへへ、だ~め♪」 「っ! ぅぅ……ふぐぐ……」  至近距離で、抱かれた相手にニッコリと微笑まれ、最後の抵抗力も溶かされる。殆ど変わらない背格好でも、鍛えられた親衛隊兵と魔法使いでは分が悪すぎた。諦めつつも、抱かれていて心地いいのは事実なので、今日はそのまま、リーゼに身を任せることにする。 「今日は親衛隊兵さんが勝っただべ」 「んだんだ、今日は負けだー」 「あ~オラの40ゴールドが~」 「あんたら賭けすんな!?」  彼女達のために働きたい魔法使いの少女と、少女のために守りたい親衛隊兵の彼女達。双方、共依存気味になりつつある現状。平穏になったからこそ見られる、謎のお決まりな体を張った言論攻防光景でもあった。お決まりなので、こんな風に作業員達には賭け対象になったりもしていた。 「ふふっではでは皆様、お騒がせしましたぁ~後は宜しくね~」 「ははは、今日の作業ば任せておくんなせぇ」 「私の岩石ぃ~~~~!!」  あらあらまぁまぁと、最も大柄な親衛隊兵がのんびりと締めて、諦めの悪い土魔法使いの声が響き渡り、今日も城塞陣地は前線で、平穏な時を過ごしていく。

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  • アマビエペンギンさん

    シンカー・ワン

    ♡100pt 2020年4月29日 22時22分

    土魔法使いと親衛隊のやり取り、微笑ましい光景なのに、背景を考えると物悲しい。

    ※ 注意!このコメントには
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    シンカー・ワン

    2020年4月29日 22時22分

    アマビエペンギンさん
  • キューコ(デンドロ)

    坂津眞矢子

    2020年4月30日 2時01分

    ありがとうございます!!! コメントすーごく燃料になります~~~!!! 一度離れたら、生きてる間次にまた任務が一緒になるか、いや、会えるかすらも判らない、という関係なので、双方全力なのですね~

    ※ 注意!この返信には
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    坂津眞矢子

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