山の子

読了目安時間:5分

エピソード:1 / 3

 産まれた時から山にいた私は、本の中でしか見られない海に強く憧れていた。広く澄み渡る碧く綺麗なあの海を。  一度だけ小6の頃に海へ行ったことがある。何で行ったのか、何をしたかとかは何も覚えていないけど、アルバムに載ってた私と両親の家族写真を見て、行った事があるという事実はわかった。  今、そろそろ大学の受験勉強に取り掛からないといけない高二の夏、私は今日も学校で海ってどんなだろなぁと想像しながら授業を聞いていた。  うちは両親が遠い所へ赴任しているらしく、お婆ちゃんの家で暮らしている。お婆ちゃんはお金を沢山持っているから大学への進学も任せな!とよく言っていたのを覚えてる。一度、本当か?と思って通帳を見てみたが...何でこの人こんなもってんだ。と不思議に思ったのも覚えている。いや本当何であんなに現在進行形でも持ってるんだろう。やっぱり闇き...やめておこう。 「マジで眠い。午前3時なんかに寝るんじゃ無かった。死にそう」  顔はそこそこで性格が終わってる、友達の男の子がやってきた。この男の子、幼稚園から高校まで、ずーっと同じ学校だった縁もあって、一応小学生の頃からお友達だ。また、私の席に毎時限の休憩時間に話をしにやってくる厄介なやつでもある。 「次の授業中寝れば?次現文でしょ?あの先生注意してこないから寝てもバレないわよ。それに毎回私も寝てるし」 「それだから成績悪いんだよなぁお前さんは」  ね?性格終わってるでしょ?毎回こんなことばかり言う子なのこの人。なんでそんな奴に付き合っているのか、と言われれば、この男の親の仕事が絡んでくる。この男の子のお父さんの仕事は灯台職員。だからこの男と付き合っていれば、頼めば新鮮な海の写真を見せてくれるのだ。その為なら私は犠牲を(いと)わない 「今コンパス持ってるから、頭に刺してあげる。外れたネジはめるのに丁度いい大きさよ」 「コンパスでサせるのは方位だけだろう?あ!そっか、海に飽き飽きしてる僕はこう言う発想しか浮かばないんだった!いやすまない!」 「さっきまでの眠そうな声は何処へ行ったのやらね。キモっ」 「あはは、まあそう言うなよ。今度の修学旅行の行き先決まったの知ってるか?」 「...どこなの?」 「興味津々でえがたえがた(良かった良かった)。行き先は『[公開不可]県』だぜ」 「牛乳生産量一位の所くらい寒い場所じゃない。期待させないでよ」 「落ち込むのはまだ早いぜ」 「?」 「今回の班決めだが、自由班でしかも人数指定は一人以上ってだけだ。僕と一緒にどうだい?」  そう言って彼は制服の胸ポケットからスマホを取り出して見せて来た。 「この海でも」  スマホの画面には、硫酸銅 (II)水溶液を希釈した時のような青色で広がる海面、浮かぶボートに反射する光。奥に見える浮島。と『海』を代表するような景色が見える。 「班決め用紙はどこ?」 「食いつき怖。班決めの紙はまた今度配られら。それまでは、女子や男子共の『一緒に回ろうよ!』攻撃を回避しとくんだな。ちなみにこの場所、解散場所からちょいと離れてるもんで少し遊んで帰ったらもうタイムアップ!ってなる所」 「つまり、此処の海まで付き合ってくれる人はまず居ないって言うわけね。ほんといい性格してるわ」 「だろ?」 「それにしても、そっちは大丈夫だったの?お友達と行かなくて」 「折角の旅行、可愛いおなごと二人きりの方が萌えるだろう?」 「指一本触れでもしたら首折るからね。」 「じゃあ僕は君のために手を折るとしようかな」 「一度でも彼女作ってから言ってくださーい」 「あっはっは、うるせえ。じゃあな、お前さんの言う通り現文寝るよ」 「成績落ちろー」  私の席から離れて、自分の席に戻っていく彼の背中に向かって言ってやった。 ーーーーー 「何で私は12歳の時行った憧れの海の記憶がないんだろ」  下校中の帰り道、隣で歩く彼に向かって私は独り言かのように話す。 「よくそれについて話すよな。やっぱ案外海が汚かったとかじゃね」 「それでも記憶には残ると思うのよね」 「そんじゃあ、ただ単にお前さんの頭が悪かっただけだろ」 「12歳の頃の記憶も覚えて無いほどバカじゃ無いですー!」 「だけど現に?」 「覚えてないのよねー...」  本当に全く記憶がないのだ。何をしたか、何を食べたかも、仕事から帰ってこない両親の行動全ても。 「おい、着いたぞお前さん家」 「え?あ、もう着いたんだありがと」 「お前さん大丈夫か?あんま考え事に耽ってんじゃねえぞ。」 「余計なお世話よ、これで事故も事件も起こした事ないし」 「そりゃ結構なこって。ほなな」  そう言って彼は私の家に背を向けて彼の家へと帰ろうとする。すると、家の庭の方からお婆ちゃんが此方に顔を出してきた。 「帰ったのかい、おかえりぃ」  語尾を少し伸ばしてゆったりとお婆ちゃんが私に話しかける。それに対して私も語尾を伸ばし、冗談混じりに挨拶を返す。 「ただいまー」「こんにちは、お姉さん」 「あらら、景君もいたのかい。ありがとねぇ昔から此処まで一緒に来てくれてぇ」 「いえいえ、そんな。僕も彼女と長くいれて嬉しいので。」 「良い子ねぇ、茅ちゃん、景君にお礼しなさい。今の貴方の『幸せな生活』の為に一番頑張ってくれてる子なんだからぁ」 「えーあいつにお礼は...」 「いえいえ、結構ですよ。彼女からのお礼が欲しくて『やった』訳では無いので。」  いつもとは違った態度で弱々しく話す彼。いつもお婆ちゃんと話す時、彼は毎回こうなる。猫被りすぎでしょ。 「それでは僕はこの辺で。茅、またね。」 「え、ええ」  どこか本当に寂しげな表情をした彼は、今度は本当に帰って行ってしまった。ただ、私が海の写真を見る為だけに作った友達なのに、何故か彼の寂しげな顔を笑顔に変えたいと思ってしまう。  長く付き合いすぎて愛情でも生まれたかな。とすれば人間の心って軽いわね。 「茅ちゃん、中に入るよぉ寒かったでしょ」  私とは変わって相変らず呑気なお婆ちゃんの声が聞こえた。 「もう春だから大丈夫よ。」 「強い子ねぇ」  そんな軽い言葉を交わして私たちは家の中に入った。修学旅行はこの春の時期に行われる。一般的にみてかなり早い時期だが、学校側としては友達作りの一環として行われるとか。良い迷惑である。

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