山の子

読了目安時間:6分

エピソード:3 / 3

「え?」  彼女が素っ頓狂な声を出して此方を向く。僕は沖合を見たまま話を続ける。 「覚えてないか?まだこんな堤防がなくて、この堤防より先が岩だらけだった頃」 「前も言ったけど私その記憶無いのよ。何でなのかは」 「知らない筈だろうな。結構衝撃的だったしよ」 「...あの時私には何があったの?」  恐る恐るという感じで彼女が聞いてくる。 「僕とお前さんは幼稚園も小学校も同じだった。だから、僕とお前さんの両親が手組んで僕たちをここまで連れてきたんだよ。ここを選んだ理由は簡単。この近くに僕の親父が働いてる灯台があるからだ。」 「うん」 「だが...ここから先聞きたいか?」 「そこまで言ってお預けは無しでしょ?」 「後悔するかもだぞ」 「知って後悔は無いわよ、知らずに後悔はあってもね」 「勇気のある人だこって。」 「あの日、お前さんは僕と一緒に遊泳可能区域で一緒に浮輪をつけて泳いでた。だけど、僕が少しお手洗いに行った時、お前さんの両親がこの堤防近くの岩場で『死んでいるのを俺が発見した』」 「え...?でも私のお父さんもお母さんも遠いところで働いて」 「そんなん嘘だよ。本当は何年か前に死んでる。そして死んだ理由は、他殺だ。」 「誰に...」 「『俺』だよ。」 「冗談でしょ...?そんなこと、する意味がない」 「お前の母さんも父さんもあの時、入院一歩手前だったらしくてな。そこでお前の婆ちゃんが二人に色々垂れこまして一応死亡保険をバンバンにかけておいたんだ。お前さんアイツの通帳見たことあるか?年金にしちゃおかしい額が入ってたりすんだが...」 「でも...でもおかしい!景がそんな酷いことするわけ無い!」 「『今は』な。」 「昔の僕は、全てに興味津々だったからな。そこからお前さんの婆ちゃんに一役かわれて...僕がお前の両親を殺した。しかも二人は海中で殺した。泳いでた二人の頭を岩にぶつけてよ。あとは泣き叫びながら大人を呼ぶ。みんな僕を信じた。そして犯人は近くにいた知らん奴が選ばれて解決。お前さんはあの時のショックで記憶障害。」 「良いぜ、このままここに突き落としてくれても。文句は言わねえよ」 「...」 「...」  暫く無言の時間が流れた。なんとも言えないこの時間。正直気まずいし怖い。 「...殺した時何か思った?殺したあと私に出会った時何か思った...?」 「殺した時は正直気分がクソだったよ。その後お前さんの泣き腫れた目を見た後は特にな。」 「...帰りましょう。」  茅はスッと立って足早にここから戻ろうと歩き出した。 「待てよ。」  そんな彼女に僕はそう言って呼び止める。彼女は此方を向かず立ち止まった。 「こっちは向かないで良い。だが、今から渡す僕の携帯。それだけは見てくれ。」  僕はポケットから一つ携帯を取り出し、それを後ろ向きの彼女の手に近寄って握らせる。  彼女はそれをゆっくりと見て、音読してくれた。 『景ちゃん、ありがとう。またお金ならあげるからね。よろしくね。』 『大丈夫。期待しといて。』 『茅なら...殺すから』  茅が急に此方を振り返って来た。そしてこちらを睨みつけながら呟く。 「貴方...本当は殺す気ないわね?」 「どうしてそう言える?」 「本当に殺すならもっと前に此処から突き落としてるでしょ?」 「そうかもな。ああ、そうだ、なんで僕がお前さんを殺す事になったか簡略に話すわ。」 「お前のばあちゃん、幼女好きなんだよ。だから今まではずっとお前さんの事を可愛がってた。だが今は...って事だ。だから僕にまた頼み込んできたってわけ。」 「それにしては今も結構愛されてるって自負してるけれどね」 「そうかい。なら良かった。何もしないから其方へ行ってもいいか。伏せて行ってもいい。」 「...そんなのしなくても良いわよ。どうぞ?此方へ。」  そんな風に話して腕を広げる彼女の方向へ僕は歩いていく。  僕は彼女の広げる手を無視して彼女の左腕にぶつかる。彼女の横は海。今彼女が落ちればひとたまりもない。 「あのクソババアから殺してくれって言われた時、僕どう言ったと思う」 「そんなの知らないわよ。」 「僕はあいつの抱えてる理由なんかどうでも良く、喜んでって言ったんだ。じゃあな親友。」  そう言った後、僕は彼女を堤防から海へ突き落とす。  カランッと彼女の持っていた空缶(あきかん)が堤防のコンクリートに落ちて音を鳴らす。寂しい音だった。 「茅、お前海で泳ぎたいからって必死に練習して泳げるようになってたよな。だけどそんなの沖近くの波には勝てない。頑張って流されろよ。」  僕はそう小さく呟く。下からは茅の手足がバタつく音、漏れる嗚咽が聞こえる。 「そうだ、嘘ついてたが、お前さんの親を殺した時は...最高に気分が上がったよ、お前さんと会った時は特にな。もっと人を殺したくなった。それほど気持ちよかった。そんじゃ僕に終始騙されて死んでくれ。」  そう言って僕はその場から離れた。 ーーーーー  裏切られてからどれぐらい流されただろうか。もう泳ぐ力もない。波に攫われてジタバタする事しかできない。  そんな事を思って、海から顔を出しながらボーッと死を待っていると、続く青い空から突如白いコンクリートの塔が見えた。  私は塔の根本にしがみつきに行こうと必死にもがく。でも力は入らないし...ああ、だめだ。死んだ。 「大丈夫かい!」  私がもう諦めて全てを放り出していると、一人のおじさんが私を簡易ボートから救ってくれた。 「......」 「何があったかは知らないが、一先ず灯台に連れて行かせてもらうよ!」  私は何か言う体力もなく。ただ、ぼーっとしていた。だんだん意識が薄れていく。ああ、思い出した。この感覚、6年生の時も—— ーーーーー 「失礼するぜ」  病室のドアをカラカラと開けて、景が入ってきた。 「これで四日連続ここに来たわね。そんなに私に会いたいの?」 「好きな子には一途でね。そんで調子はどうだ?」 「最高よ、貴方と海に行ってからが思い出せない以外は。何をしてたか、何があったかも思い出せないのは辛いわね。」  私はどうやら修学旅行中に海に落ちて沖近くに流されていたらしい。それを発見した景のお父さんが簡易救命ボートで助けてくれて、今は入院中。何があったのやらよね本当に。 「...そうか、どこまでなら覚えてるんだったけか?」 「貴方と海辺の車停に止まったバスから降りた時からよ」 「そうだったな。あーいやはや、だがまあお前さんが無事で良かったわ。あの日いきなり消えるから僕も中々驚いたわ」 「貴方が驚くなんて珍しいわね。よいしょ、売店行かない?もう歩けるのよ」 「へいへい、今金はねえが奢ってやるよ」 「それじゃあ有り難く奢ってもらうわね♪」 「手加減してくれよ?」 「んー、景は何か買うー?」  私は今売店で何を買おうか悩んでいる。お菓子買おうかなー...やっぱりやめとこ。太っちゃうわ。 「僕は特に何も買わないな。好きなだけ悩んでくれていいぜ、歩けるようになった祝いだ。全部奢ってやるよ」 「無駄に優しい所嫌いじゃないわよーっと。じゃあこれ買おうかしら。」  そう言って私は『びっくりサワー いちごレモン味』と書かれた缶ジュースを手に取った。  次の瞬間、私の頭に猛烈な痛みが走った。視界がグラっと揺れる。 「...」  景は黙りこくって私を見つめる。彼の顔にはどこか安堵したような笑みが見えた。  段々と私は眩暈も頭痛も治まって、いつもの状態に戻る。体制を立て直し、そして私は彼に向かって言った。 「...ねえ、犯罪者さん。これまでの『事件』について、これから官憲さん達に言い逃れする準備はできてる?」 と。

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