超一流清掃用務員異世界転生譚。元暗殺者兼公爵令嬢側近従者転生後、前世記憶復活、清掃魂覚醒。周辺汚染物徹底清掃開始。異世界清掃黙示録。 ~咆哮、清掃魂~

読了目安時間:7分

ココラルお嬢様! やる時はやる!

お嬢様が本気を出されます。

「皆々様方! どうかわたくしの話に、耳を傾けてほしいのですわ!」  ココラルお嬢様は右手に持った扇子を広げたまま、両腕を大きく広げて話を始められた。 「わたくしは確かにここにおられる、ファブリさんをいじめていました!」  そんなお嬢様が始めたのは、自らの罪の公言。  お嬢様は左手で優しくファブリ様を抱えながら、さらに話を続けられる。 「ですが! わたくしは己の過ちに気付いたのですわ! その件について、わたくしはしっかりファブリさんに謝罪いたしました!」  透き通った響き渡る声で、お嬢様は自らの非を認め、その後の行動についても語る。 「ファブリさんをいじめていた件で、わたくしが責められるのは仕方のないこと……。<公爵令嬢>たるわたくしがこのような愚行を犯すなど、本来あってはならないこと……」  そこからお嬢様は一度扇子を閉じ、口元に当てながら悲しそうな語り口になる。  そんなお嬢様の一挙手一投足に、周囲の人間はただただ黙って聞き入るのみ。  それは私やファブリ様、シケアル殿下とて同じことだ。 「そんなわたくしを蔑むならば、どうぞ遠慮なくお蔑み下さい! 石を投げてもよろしいですわ!」  そう言いながら、お嬢様は再度扇子と両腕を広げ、大衆へと高らかに告げる。  そんなお嬢様の表情からは、強い決心が見ただけで分かる。  言葉に合わせられた動き。  全ての挙動から感じられる、圧倒的カリスマ性――  周囲の視線も耳も、全てがお嬢様に集中している。  ――そしてお嬢様が言われた通りに、石を投げる者などいない。 「わたくしは心を入れ替え、改めて誓いますわ! このココラル・ファインズ! もう二度と他者を虐げるような真似はしませんことよ! なぜならわたくしは――」  その透き通った高らかな声で、お嬢様は最後の宣言を始める―― 「ファインズ家の<公爵令嬢>! その誇りをもってして、ここに確かに宣言いたしますわ!!」  ――その言葉と共に、ココラルお嬢様のお話は終わった。 「こ……これがあの……ワガママだったファインズ様なのか……?」 「な、なんだか人が変わったみたい……」 「だけど……うまく言葉で説明できない程の"覚悟"を感じる……!」  お嬢様の話を聞いていた周囲の人々は、その話に心を動かされている。  先程までお嬢様を悪く言っていた生徒達も、お嬢様のお心が伝わっているのがよく分かる。  ――そうだった。ココラルお嬢様にも、スキルの力は備わっている。  これこそがお嬢様が本来よりお持ちしている、<公爵令嬢>の力。  その身分と気高い精神を声に乗せ、あらゆる人々の心さえも動かすスキル。  その名も、<公爵令嬢>スキル――<令嬢有頂天(カリスマックス)>。 「……成程。何があったか分からないけど、そこまで言うなら僕もその言葉を信じよう」 「殿下がわたくしの心を汲み取っていただいたこと、誠に感謝いたしますわ」  ココラルお嬢様の言葉を聞いたシケアル殿下も、その言葉を信用してくださった。  そのままシケアル殿下はこの場を立ち去り、どこかへと行かれてしまった。  ――なんと素晴らしい。  以前のココラルお嬢様はその<公爵令嬢>スキルで派閥を組み、自身にとっての邪魔者を排除しようとしてきた。  だが、本来の綺麗なお嬢様に戻った今、<令嬢有頂天(カリスマックス)>を巧みに使い、見事に大衆の心を掴みとられた。  その堂々たる振る舞いから感じられるのは、私の清掃魂(セイソウル)以上の気高き精神。  まさに――令嬢魂(レイジョウル)。 「ココラルお嬢様、大変お見事でございました。このクーリア・ジェニスター、誠に感極まっております」 「気にする必要はありませんことよ、クーリア。元々はわたくしの責任。わたくしがシケアル殿下と婚約したいなどとワガママを言い、周囲に迷惑をかけたせいですわ」  ココラルお嬢様はセンスを袖口になおしながら、頭を下げた私を気遣ってくださった。  お嬢様は私がシケアル殿下に手を出そうとしたのを感じ取り、先に動いてくださった。  このお方は私の身を案じ、自らのリスクを覚悟で動いてくださった。  ――ココラルお嬢様に仕える従者として、これほど嬉しい話はない。  クーリア・ジェニスターとしてこの世に転生し、このお方に仕えることができたのは、本当に幸福の限りだ。  このお方の傍で<清掃用務員>として、その清掃魂(セイソウル)を滾らせることができるなど、私にとって本望でしかない。 「ココラル様ー! 本当にすごいです! ボクも感動しちゃいました!」  ココラルお嬢様の様子を見ていたファブリ様も、その振る舞いに感動の言葉を述べている。  お嬢様の本気の令嬢魂(レイジョウル)を前にして、心を動かされない者などいない。 「わたくしが原因でシケアル殿下に目をつけられてしまったのですわ。<公爵令嬢>として、当然の嗜みですわ」  そんなファブリ様の言葉にも、気品と謙遜に満ちた態度でココラルお嬢様はお応えしている。  まさに高貴。まさに<公爵令嬢>。まさに令嬢魂(レイジョウル)。  これは私も<収納下衣(タンスカート)>からティーセットとテラスセットを取り出し、お嬢様に労いのひと時を―― 「それにしても……どうしてココラル様は、シケアル殿下の婚約したがっていたのですか?」 「……そういえば、何故なのですの?」  ――私がティータイムの準備のため、<収納下衣(タンスカート)>に手を突っ込もうとすると、ファブリ様がそんな疑問を投げかけてきた。  確かに不思議な話ではある。  いくらココラルお嬢様が"汚れ"に心を蝕まれていた時の話とはいえ、恋心まで動くものだろうか?  お嬢様自身にも分からないといった雰囲気だ。 「ファブリさんは逆に、シケアル殿下に言い寄られているようでしたの。それはどうでしたの?」 「う、う~ん……。正直、あんまりいい気はしません。ボクみたいな平民が、シケアル殿下とだなんて……」  ココラルお嬢様に尋ねられたファブリ様は、言いづらそうに俯きながらお答えになった。  恥ずかしがっているというわけでもない。見た限り、本当に迷惑そうに感じる。  私も<清掃用務員>として、前世は様々なコミュニケーションを行ってきた身だ。  そんな私の経験が、ファブリ様がシケアル殿下を嫌がっていることを理解させる。  ファブリ様の反応も含めて、どうにも気になる―― 「あっ!? いけませんの! そうこうしているうちに、授業が始まってしまいますの!?」 「あー!? ほ、本当です! ど、どど、どうしましょう!? もう間に合いませんよ!?」  ――しかし、ここで重大な問題が発生。  元々ココラルお嬢様もファブリ様も、授業に遅れそうで急いでいたのだ。  これはいけない。私としたことが、優先順位を間違えてしまった。  ティータイムをする時間など、どこにもない。  私は<収納下衣(タンスカート)>をたくし上げたまま固まっていたが、急いで元に戻し――  ――ゴボォオオオ!! 「――ッ!? こ、この音!? トイレの底から水が逆流するような、身の毛もよだつこの音は――」  私が<収納下衣(タンスカート)>を元に戻した時、学園の方からおぞましい音が聞こえた。  私の清掃魂(セイソウル)が警鐘を鳴らしている。  この音の正体、それはファインズ公爵邸の時と同じ―― 「な……なんですかアレは……!? 学園から、不気味な黒いものが溢れて……!?」 「ま、まさか……!? あれはわたくしのお屋敷で見たものと同じ、"汚れ"ですの……!?」  ファブリ様にココラルお嬢様――いや、お二方だけではない。  周囲にいる生徒達全員が、目を丸くして驚いている。  その原因は校舎から溢れ出る、大量の黒い"汚れ"――  私のように清掃魂(セイソウル)を持たないものでも分かる、強大な"汚れ"―― 「……ココラルお嬢様にファブリ様。それにこの場にいる皆様も、どうかこの場でお待ちください」  このような事態が起こってしまった以上、最早授業どころではない。  ここは私が動く時。  再度<収納下衣(タンスカート)>に手を突っ込み、取り出したモップを体に添えて構える。 「ク、クーリア……。一人で大丈夫ですの……?」 「クーリアさん……。ボク達で何か力になれることは……?」  ココラルお嬢様もファブリ様も、私のことを心配してくださっている。  そのお気持ちだけで、私は十分ありがたい。  未来の<勇者>たるお二方の気持ちを背負うだけでも、私の清掃魂(セイソウル)は否応なく滾る。 「ご心配には及びません。相手が"汚れ"である以上、ここはこのクーリア・ジェニスターの出番でございます」  お二方は未来の<勇者>。  人々の夢と希望を背負い、未来を担う者。  私は<清掃用務員>。  今この場にて、お掃除を完遂するべき者。  私は全身に<清掃能力強化(クイックルハイパワー)>をかけ、静かに地面を踏みしめる―― 「これより、清掃業務(ミッション)を開始します……!」

ところでこの主人公。 途中からずっと、ロングスカートたくし上げっぱなしである。

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