リアリティ⇔レアリティ

炎拳と稲妻

 こちらはRのスタンガン。  対するはRの火炎放射器。  どちらもR同士だが、相手は召喚隷(スレイヴ)が一人だけ。  いくら同じRとはいえ、召喚主(マスター)が扱っている側のほうが上なはずだし、それに俺以外にも仲間がいる。  絶対に、負けるわけがない。 「……しょうがない。だったら、まずはあんたから始末させてもらうよ」  アデリナはニヤっと不敵に笑みを浮かべ――火炎放射器から炎を放つ。  自身の、右手に向けて。  瞬間、右手が焦げたりすることなく。  右拳を、紅蓮の炎を覆った。 「これはね、こうやって自分の肉体に炎の力を宿すこともできるんだよ」  今度は、左手にも火炎を纏わせる。  本人は微塵も熱そうになどしていないが、あの拳には絶対に触れないようにしなくてはいけない。 「グレイ、あたしたちも――」  と。エルが立ち上がって、そう叫ぼうとした途端に。  窓の外に、見覚えのある影が。  隣の屋根の上を駆けている、長身の男性。  少し遠い上に空も暗いため、顔を見ることまではできなかったが。  あの格好は、間違いない。  奴がここで姿を見せたのなら、きっとあいつも付近に――。  あいつには、色々と聞かなくてはいけない話が多い。  できることなら、ここで見失ってしまうのは避けたかった。  だから――。 「エル、ユー……それにプラムも。あいつを、追いかけてくれ」  この場にいるみんなに、そう頼むことにした。  今の俺はロコモを武器としており、エルやユーの双剣まで同時に扱うことはできない。その上、プラムの補助も俺が一人でアデリナと戦う分には問題ないだろう。  既に、この店の火事は消火してくれたわけだし。  それより、あいつのほうがよっぽど危険だと判断したのである。 「でも、グレイさんは……」 「大丈夫だ。こんなやつくらい、俺とロコモだけで充分だ」  心配そうに眉を垂れさせるユーに、俺はそう微笑みかける。  実際、Rの召喚隷(スレイヴ)一人を相手に、ここまでの戦力を割く必要などない。  それより、あいつのほうがよっぽど危険だと判断したのである。 「わ、私もぉ……? どうする、ダン?」 「……ここは、少年に任せてもよさそうだ。少し遠かったが、僕もあの者はどこかで見たことのあるような気がしてならない」  プラムの不安そうな問いに、ダンは笛の姿のままそう答えた。  そういえば、あのとき言っていたことを思い出す。  姿は知られている、と。  やはり、ダンも奴のことを知っているから、今は声しか分からないとはいえとても不審がっている様子だった。 「……うん、分かった。グレイくん、絶対に負けないでねぇ?」 「ああ、もちろんだ」  最後にそれだけの言葉を交わし、エルもユーもプラムも、窓から奴のあとを追いかけていった。  俺のほうはいい。あとは、みんなが無事でいてくれるのを祈るのみ。 「よかったのか? あのまま素直に行かせて。どうせ、お前の仲間なんだろ?」 「そうねー、行かせても問題ないって思ったからね。結果はもう、見えてるから。あんたの指示は、悪い結果に終わると思うよ」  挑発だ。乗ってはいけない。  でも。そう分かってはいても、やはりどうしても気になってしまう。  それほどまでに、厄介な相手だとでも言うのか。  いや、人数でも、レア度でも、こっちのほうが上のはず。大丈夫だ、みんなが負けるわけがない。  今の俺には、そう信じるしかなかった。 「それじゃ、始めるとしようか」  言い、アデリナは地を蹴る。  そして炎を纏った拳を振りかぶり――俺は咄嗟に、手に持ったスタンガンで防いだ。  しかし。その火炎のせいか、スタンガンの電気を全くものともしていない。  それどころか、こちらはスタンガンがひとつ。相手は炎の拳が両手で二つ。  片手の攻撃をスタンガンで防いでいる間、間髪入れず、もう片方の拳で殴りかかってきたのである。 「ちっ……!」  半ば無意識に、舌打ちを鳴らす。  炎の拳が頬に当たる寸前で顔を動かし、間一髪で躱すことには成功した。  だが、意識をそちらに向けすぎていたせいで。  アデリナの回し蹴りを、腹部に食らってしまった。 「く、ぁ……ッ!」  背中から壁に激突。  腹と背、両方の痛みにより顔を顰める。 「残念だったねぇ……こんな民宿なんてやってるけど、実はあたし、意外と格闘技もできるんだよ」  俺を見下ろし、口角を上げるアデリナ。  確かに、これは予想外だった。火炎放射器なんていう武器からも、正直ここまで体術には優れてなどいないと思っていたが。  でも、予想外なのはそれだけじゃなかった。  ゆっくりと立ち上がった瞬間、スタンガンの姿のロコモが言ってきたのである。 「……両手に炎を纏ってるなら、こっちも同じようなことすればいい」  いつも通りの、淡々とした抑揚のない口調で。  まるで何でもないことかのように、あっさりと。 「同じようなこと……?」 「……ん。私は、グレイに救われた。グレイと一緒に、普通の生活を送れてる。それだけで、充分だから。それだけで、私はグレイの愛情を、いっぱい……いっぱい貰ってるから」  スタンガンが、音を発する。  ビリビリビチビチと、電撃のような音を。  スタンガンが放つ。  持っている俺の手――いや、部屋中に届くくらいの、大きく範囲の広い稲妻を。  そうか。  表情や声色に出したりなどは、一切しないけど。  本来の召喚主(マスター)が、暴言や暴力ばかり繰り返すボルドーだったロコモのことだ。  俺たちとのごく普通の日常でさえ、幸せで、楽しくて、愛情を感じてしまうのも当然のことかもしれなかった。  だからこそ、だろう。  今こんなにも、絶大な力を放てているのは。 「……グレイ。もう、分かるはず。感じて、愛情の力を。本能の、赴くままに」  脳が理解している。  知らないことのはずなのに、このスタンガンの使い方を、体が覚えている。  そうか。一番レア度の低いRだからって、決して弱いわけではない。  愛情を与えることで強くなるし、できることは徐々に増えていく。  たとえば――こんな風に。  スタンガンを、勢いよく自身の胸に押し当てた。  痛みはない。電圧の衝撃もない。  ただ。  俺の全身を、肉眼で目視できるほどの濃い電撃が覆っていた。

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