悪役転生〜主人公に全て奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

読了目安時間:7分

第2話 ミリアム

「レグス様、レグス様、起きてください」  少し怯えたような様子の声音がレグスの意識を深い眠りの中から引き揚げていく。だが、その瞼はとても重く、レグスはすぐに起きる気が起きなかった。  眠りは単なる肉体的な休息だけではなく、脳にとっても記憶を整理する為に非常に重要な時間なのだ。一人の男の人生を一瞬で追体験したレグスにとっても昨夜の眠りは非常に重要なものであったのだ。 「レグス様、レグス様、起きてください」  一向に起きる事のない、そんな彼に向ってかけられる声は少し大きくなっていく、怯えを含みながらも、意思を感じさせるそんな声。その声の主はレグスの体を揺さぶっていき、疲れていたレグスにはその振動が心地良かった。 「レグス様、レグス様ッ 起きてください 起きてください…。 あ、いやもうずっと寝ててもいいのかも…、その方がいいのかも…」  そんな呟きが漏れ始め、レグスの体を揺さぶっていた声の主は何かを考え始めた。だが、そんな様子は目を瞑ったままのレグスには知る由もない。  今もまだ彼の脳内では大量の情報が処理され続け、瞼が非常に重い。記憶がごちゃ混ぜだ。二人の人格が混ざり合ったのだそれも当然であろう。 「もういいかな。私頑張ったよね…? ああ、でも起こさなかったら後で怒られるのかな、うーんどうしよう…」  困惑する声の主は自分の目の前で眠る少年の顔を見る。 「はぁ…。もう…本当にずっと眠っていれば、いいのになぁ…」  声の主の少女は、思わずその顔に少し見惚れてしまう。そして、思わずその頬に手を伸ばしそうになる。  ―だが、そんな瞬間。  パチッ    深い眠りの中から、一人の少年は目を覚ました。  レグスが重い瞼を開けると、そこにいたのは、可愛らしいメイド服を着こんだ、未だ幼さを残す少女だった。少し怯えたような表情で、その深紅の双眸で自分を見つめていた。  名をミリアムといった。美しい白みがかった、銀髪に赤目といった、レグスの過去世では存在しなかったような容姿を持ち、年はレグスより1つ下の13歳。レグスは怯えたウサギのような、印象を受けてしまう。  その美しい銀髪は太陽の光を反射して、キラキラと輝いている、その姿は小動物的で男性のみならず、女性さえも魅了してしまいそうな、愛らしさを醸し出していた。  そして、その美しい少女の細腕は、自分の顔へと向かう途中で硬直している。  普通の人間ならこう考える。  なぜ、目の前の少女がそんな事をしているのか?  だが、レグスにはそんな疑問は一切浮かばなかった。目覚めたレグスにとって一番大事な事、  それは、 「お、おはようなのだ。みーたん。か、鏡だ。鏡を持ってくるのだ…」 「えッ? み、みーたん?」  少女は困惑した。今までそんな風に呼ばれた事がなかったからだ。今しがた自分がしようとしていた事に対する羞恥より、彼女の頭の中をただ困惑が支配した。 「そ、そうなのだ。鏡だ。鏡を持ってくるのだ。ミリアムよ」 「え? え? か、鏡ですか? あ、はい。ただいま」  ミリアムは慌てて駆け出した。混乱のさなかにありながらも、優秀なメイドである、彼女は主の要望を正確に捉えた。 「は、はい。どうぞレグス様」 「お、おう。すまないなみーたん」 「み、みーたん…」  重そう体を起こしながらレグスは困惑しているメイドの少女から手鏡を受け取る。 「うむ。やはりな。やはりそうだ…」 「はい?」 「少し待っていてくれ、ミリアムよ。俺は今、非常に非常に重要な事を確認しているのだ」 「はぁ…?」  困惑の色に不安を混ぜ合わせた表情を作るミリアムの前で、レグスは手鏡に映した自分の顔を様々な角度からくまなくチェックする。 「フフッ やはりな。そうではないか。一晩寝て変わっていたらどうしたものかと思ってしまったぞ。ハハハッ」  何やら、自分の前髪をくるくるといじり始めた、目の前の少年を前にミリアムは、何も声をかける事ができなかった。  気の利くメイドであればここで、(いかがなされましたでしょうか?)と主の機嫌を伺うべきなのだろうが…。おそらく目の前の少年にそんな常識を通用しない。  目の前の少年は気難しく非常に扱いづらい人間である事がメイド達の間でも有名だからだ。ミリアムはレグスの専属となってから日が浅い故に、彼の悪行をそれほど目にしてはいなかったが、  昨日の大荒れは酷かったものだ、”ある一人の女性”に目の前の少年は無残に敗れ、自室に帰ってきてからも、モノや自分に当たり散らし、大声で叫んでいては地団駄を踏み鳴らしていた。  幸いミリアムは上手くやり過ごし、手まで上げられる事は無かったのだが。また再び主が機嫌を損ねたら、自分の身も危ういのではなかと、戦々恐々としていた。  だが、今。目の前の少年のご機嫌は昨日の大荒れと打って変わって、非常に上機嫌の快晴のように見える。  一心不乱に自分の顔を見ては、ニマニマと笑う自分の主を見ていてミリアムは理解不能な状況を前に不気味さを覚える。  そして、 「ああ、そうだった。ミリアムよ」 「は、はい。何でしょうかレグス様」  レグスは顔を上げ、ミリアムの方を見る。 「今から非常に重要な事を、確認する。心して俺のこの問いに答えるのだッ! 嘘は決して許さんッ! 正直に答えるのだッ!」  レグスはビシッとミリアムを指さし、真剣な表情でそう告げた。  ゴクリッ  ミリアムはその、真剣な顔つきから思わず緊張から生唾を飲み込んだ。 「は、はい。わ、わわ分かりました。レグス様。何でしょうか?」  恐怖が彼女の心を支配していく。この質問に対する回答を誤れば恐らく自分はただでは済まないのだろうと。そんな思いがミリアムの心を支配していく。  そして、その問いを待つ。 「ミリアムよ。お、俺は…」 「俺は?」  思わず、レグスの言葉を繰り返すミリアム。 「俺は…。俺は…。俺って、俺って…」  再び鏡を見ながら少し恍惚とした表情を浮かべるレグスの次の言葉をミリアムは待つ。 「お、俺ってカッコいいだろ?」 「は?」  思わずミリアムはそんな素っ頓狂な声を上げてしまう? 「は? は? だと、今、は? と 言ったのか? ミリアムよ」 「い、いえ。いえ、少し息を吐いてしまっただけですよ、はははッ」  困惑するような表情のレグスを前に、ミリアムは笑って誤魔化そうとする。しかし、どうしたものか考える、目の前の少年からの問いかけは彼女の予想を遥かに上回る意味不明なものであったからだ。 「フフッそうであろうな。すまないな、ミリアムよ。俺も少し取り乱してしまったようだ。本当は確認などする必要など、ないのだが、一応な? 念の為…というやつだ、わかるだろう?」 「あ、そ、そうですよね。念のためですよね。あはは」  再び笑って誤魔化そうするミリアムだが、彼女の本心は 『どうしよう、意味が分からないッ!』  そんな、まっとうなものであった。だが、 「では、再び問おう、ミリアムよ。俺って、カッコいいだろ?」  前髪を掻き上げるような仕草で、キメ顔を作りレグスはミリアムをじっと見つめた。その顔は確かに様になっていたが、その頭には寝癖が少しついていてミリアムにはそれが気になった。 「え、えぇ…と」  再びの問いにミリアムは混乱してしまう。何と答えたら良いのか分からないからだ。そして、レグスの顔をジっと見る。  確かに、その顔は端正な顔立ちをしていると思う。目の前の少年は男性としての精悍さと、女性的な美貌を兼ね備えたようなまごうなき美男子であるのは間違いないのではある。  だが。しかし…。 ――その事を自分で言い出して、問いかけてくる事が間違いなくおかしいことだと、ミリアムは感じていた。 「ほら、早く答えるのだ。俺ってカッコいいだろ? そうであろう? なぁ、ミリアムよ…」  今度は顎に手を当て角度を変えてその顔を見せつけるレグス。様にはなっているが、ミリアムには、後頭部寝癖が非常に気になった。 『どうしよう、この人怖い…』  意味不明な質問を繰り返し、自分の顔を見つめてくるレグスに対してミリアムは恐怖心から、その身守るるように 抱えてしまう。 「ほら。ほら。答えるのだ。まぁ聞かずとも答えは分かっているのだがな、フフッ」  だが、自信たっぷりのレグスを見ていてミリアムは、自分が主に告げるべき返答を察した。そう、彼女は非常にできるメイドなのだ。 「は。はい。も、勿論ですよ。レグス様はとてもカッコいいですよ。あははは」 「そうであろう。そうであろうッ! アハハハハハハハハッツ! 自分でもそう思うのだッ!」  二人は笑いあう。自分の返答がレグスの意に沿ったものであることにミリアムは安心したが、(黙っていて何もしなければデスけどね)と付け加えたかった。だが、彼女はそんな事をしたら自分の身がいくつあっても足りないと知っていたのだった。

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