両手一杯のカルミアを君に

手掛かり

 ーーーー文学都市ジアス。  ここには数多くの学者が集い、世界の叡智が集うとされていた。古来よりの文献も多く残されており、ヴィオは本が欲しくなると、この街によく足を運んでいた。  このジアスの中枢に構える大図書館。ここには、珍しい本が数多く取り揃えられている。そしてジアスでも指折りの学者である【シル・レガート】という男が館長を務めているが、ヴィオはそのシルと古くから面識があった。  濃い紫の髪を後ろで結った風貌はどことなく中性的であり、普段から白衣を着ている為か、初見なら女性に間違われる事も少なくないと聞く。そんなシルは、久々に訪ねてきた友を快く迎え入れた。 「どうだヴィオ、探し物は見つかったかい?」 「まだ何とも言えないかな」 「はい、君の所みたいに良い豆じゃないけれど」 「ああ、ありがとう」  積み上げた本を読み耽る友に、コーヒーの入ったカップを渡す。ヴィオはそれを受け取ると、ひと口飲んで天井を仰いだ。シンプルな照明が淡く館内を照らし、現実世界から切り離されたような、独特な空間に居る気分になる。 「エルフについての文献、論文、それに……お伽話まで。随分と手広く読んでいるじゃないか。確か君の家のメイドは……確かハーフエルフとダークエルフだったかな」 「最近また小さなメイドが増えたよ。彼女はエルフだ」 「なるほど、じゃあこれは彼女らの為という訳だ。病気とかでも、人間とは少し勝手が違うからね。まったく君らしい理由だ」  シルは小さな丸渕の眼鏡を外すと、目の当たりを押さえるヴィオの隣に腰掛けた。そして読み終わった一冊を手に取り、パラパラとページをめくる。 「因みに何を探しているんだい? よかったら僕が手伝うけど」  本を置き、次の本を同じようにめくる。  シルは【速読】に長けており、中でもスキタリング(拾い読み)の技術は文学都市随一だ。彼にかかれば、その本から欲しい内容を瞬時に抜き取るなど朝飯前だった。  しかし、ヴィオは返事に困りつつ、話題を少し逸らすように質問を投げた。 「なぁシル、君は〝不老不死〟なんてものを信じるか?」 「不老不死? 随分と飛躍したワードが出てきたけど……」  シルはふと考える素振りを見せ、立ち上がると、聳え立つ本棚の森へと消えて行った。そして戻ってきた手には、一冊の古びた本が握られている。それをヴィオに手渡すと、再び椅子に腰を降し、柔らかい布で眼鏡を拭きながら続けた。 「その本もお伽話の一種でね、エルフが出てくる話なんだ。そしてそのお伽話のテーマが、【エルフの命より作られる秘薬】さ。でもこれは、存外、空想の話では無いみたいだけどね」  シルは眼鏡をかけると、切れ長の目を伏せる。 「その様子だと、君も知っているんだろう? エンプレスエルフ。その高貴なエルフを贄にした秘薬の存在を」 「……ああ、噂程度だが」 「今回の調べ物もそれ絡みかい?」 「…………」 「あんまり野暮な事は言いたくないけど、それには触れない事をお勧めするよ。なんたって、それに関わってる相手が悪い」 「⁉︎……シル、君は何か知っているのか!」 「ヴィオ、図書館では静かにしてくれ」 「す、すまない。私とした事が……」  シルは壁掛けの時計に目をやる。その短針は零時前を指していた。 「さて、もう閉館の時間だね」 「悪いな遅くまで、私はこれでーーーー」 「ここを閉めたら、話してあげるよ。君のその様子じゃあ、早合点で身を滅しかねないからね」 「⁉︎」  突然の言葉にヴィオは目を見開く。 「下手をすれば君の命にも関わる、そんな問題だ」  図書館の鍵を内側から閉めると、シルは静かに笑みを消した。

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