両手一杯のカルミアを君に

血の代償

「おいおい、これは一体どういう事だぁ?」  牢屋の前に来たミゲルは、開かれた鉄格子と、その中で倒れている部下の男に眉を顰めた。  倒れた男に外傷は無い。しかし、その男が死んでいる事に気が付くと、死体を仰向けにして死因を探した。 (なんだこれは? まるで心臓発作みたいじゃねぇか……)  隈なく確認しても何も分からない。ミゲルは男を捨て置くと、そこに居た筈のメイド二人を探す事に決めた。 「おい、お前ら!急いで連れてきたエルフ共を探せ! 舐めやがって、見つけたら半殺しにしておけよ」  集まった数人の男に指示を出し、ミゲルは部屋に向かった。ユノならば何か知っているかも知れない。男の死因が心臓発作の可能性は低い。外傷こそ無いが、あれは外部から与えられた死だ。  可能性があるとするなら、連れてきたエルフが〝得意な能力〟を持ち得るという事だ。それはつまり、ミゲルが喉から手が出るほどに欲しているエンプレスエルフそのものであると。 (こいつは好都合だ。あれ以外にも手に入るのなら、俺は文字通り、永劫の命を手に入れられる)  込み上げる笑いを噛みしめ、ミゲルは部屋のドアを勢いよく開いた。 「よぉヘルメス夫人! お前の所のエルフ、またレアなものを雇ってーーーーあ?」 「……ミゲル!」  ユノの前に立ちはだかっていたのは、手にナイフを携えたヴィオだった。その表情は憎悪に染まり、今にもミゲルに襲い掛かりそうな程、怒りに満ち溢れている。  ユノは気を失っているのかソファーに寝そべっている。その妻を守る盾とになったヴィオは、殺意という名の矛を携えていた。 「なんだよヴィオか。もう少し待ってれば、お前も始末しに行こうと思ってたんだがよ。来てくれたのなら手間が省けるぜ」 「お前は、お前みたいな人間は生きていてはいけない!!!」 「あん?」 「この世界を腐らせる癌だ! 誰かが、誰かが手に掛けなければ、世界は浄化されはしないッッッッ!!」 「かッ、世界の浄化ときたか。聖人君子様は言うことが違うぜ」  ナイフに臆する事なく、ミゲルは両手を広げてヴィオに近づいた。まるでそのナイフが玩具であるかの様に恐怖は無い。気を立てた小動物を宥める飼い主の如く、一歩一歩、確実に近づいてきた。 「私は覚悟を決めた! 修羅に落ちようと、貴様の様な悪を滅するのだと!」 「馬鹿かてめぇは、それはお前も同じだろうが。その辺も全部、そこのヘルメス夫人にも聞かせてやったがよ」  しかし、ヴィオはその言葉に反応を示さない。まるでその覚悟が、それを織り込み済みであるかの様に、鋭い刃先を向けたままだった。 「くく、なら試しに刺してみるか? そんな玩具じゃ俺は殺せないぜ?」 「…………」 「おらどうした? 修羅とか何とか、覚悟とやらは脅しか?」 「ーーーー家族を傷付けた、お前は許す訳にはいかない!」  その言葉と共にヴィオは駆け出す。両手でナイフを持ち、迷いなくミゲルの心臓を狙いーーーーそこに突き立てた。 「ッッッ⁉︎」 「これが私の覚悟だッ!」  白刃の刃が深々と沈む。  ヴィオが本当に刺してきた事に驚いた様子だが、その傷口から血が流れる事は無く、すぐに口角を上げてヴィオを突き飛ばした。抜け落ちたナイフは床に転がり、ミゲルは刺された箇所を乱暴に撫でながらヴィオを見下ろした。 「なッ⁉︎」 「ほらな? 諦めろ、俺は不死身だ」  落としたナイフを手に取ると、ミゲルはヴィオの胸倉を掴み、ナイフを喉元に突き立てた。先端が皮膚を裂き、白いシャツに赤い染みを作り出す。  刃先を五ミリほど沈ませたまま、苦痛に歪むヴィオの顔を強かに見下す。ミゲルは圧倒的な力の差を誇示した上で、反旗を翻した哀れな男を殺そうというのだ。 「お前が死んだらヘルメス家の貴族としての地位は貰ってやるよ。最近まで貴族とやらに興味は無かったけどよ、権力を握るっていうのも悪くねぇと思ってな」 「……き、貴様などに!」 「そろそろお別れだなヴィオ、じゃあな……」  ナイフを握る手に力が篭る。  だが、ミゲルは扉の前に現れた気配に手を止める。そこには一人のエルフが、険しい表情を暴君に向けている。 「カ、カルミア……⁉︎」 「離れて、ヴィオさまとユノさまから……離れて!」 「あん? もしかしてお前か、俺の手下を殺したのは」 「…………」  応えず、静かに歩みを進める。  恐れは無く、カルミアはミゲルの前に立つと、その眼前に手を翳した。 「ヴィオさまは、カルミアが守る」  カルミアは躊躇なくナイフを掴む。滴る血が腕を伝うが、その血をミゲルに浴びせた。 「なんだよテメェ! 汚ねぇじゃねぇかーーーー」  刹那、ガクリと膝を付くミゲル。そして顔に付着したカルミアの血が、みるみるとその皮膚の中へと沈んでいった。 「か、あ……は、あ?」 「これは……⁉︎」 「ぐぉおおあああ、がかッ、あ……か」  不老不死である筈のミゲルが苦痛に顔を歪める。まるで心臓を握り潰された様に身悶えるが、その光景にヴィオは驚きを隠せなかった。 「カルミア……お前は、一体」 「……カルミアの血に、触るとーーーー」  ナイフで切れた手を握りしめると、カルミアは死に絶えたミゲルを一瞥し、悲しそうな顔を見せた。 「みんな……みんな死んじゃうの」

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