両手一杯のカルミアを君に

バテル-2

「バテル……君がガイザック殿の言っていた男なのか?」  ヴィオの言葉に、バテルと名乗った青年は「付いてきな」とだけ言うと、慣れた様子で人混みの中へと消えた。無闇に言葉は交わさない、訳有りの人間ならおかしな事では無い。 (……行くしかあるまいな)  多くを語らない協力者に、ヴィオは疑念を抱きつつもその後を追った。  ◆  人混みを抜けると、住宅街が立ち並ぶ場所へと出た。しかしバテルは足を止める事なく歩き続ける。  通りを抜け、街の外れの人気のない所まで来ると、ようやくその足を止めた。 「ここが俺の寝床兼、事務所ってやつだ」 「ここが? ……いや、流石にこれは」  驚くヴィオだが、目の前に広がるのは廃墟と化した屋敷跡地だった。とても人間が寝食を行える様な場所でも無い。雨が降ればたちまちずぶ濡れになるだろう。  しかし、バテルは手慣れた様子で近くの木に登り、太い枝に座るやヴィオを見下ろした。 「ま、貴族様から見たら考えられないよな。だが、この世界には、こんな暮らしをしている奴は少なくは無いぜ?」 「…………それは、私達……領主の働きが足りないからだ。申し訳ない」 「かっ、アンタそれ本気で言ってんのか?」  つまらなそうにバテルは木から飛び降りると、領主としての力不足を嘆くヴィオの前に立った。そして、その胸に拳を置く。 「確かにそんなケースもあるけどよ、結局は本人の気合いだろうが。さっきのガキみたいに、死ぬ気で生きてりゃ何とかなんだよ。悪いのは、誰かのせいにして諦めちまう腑抜けた野郎だっての」 「……誰かのせいに、か」 「ガイザックさんの紹介だ、無碍にはしねぇよ。アンタの話は聞いてやる。だが、内容によっちゃ断らせてもらうからな」 「ああ、それで充分だ」  ヴィオはミゲルを巡る経緯を話した。もちろん、自分の街で奴隷制度を黙認している事も含めて。そして、その全てを覆す為に暴君に抗おうとする意思も伝えた。  バテルはそれを静かに聞き届けると、手を枠縁の様に合わせてその中心にヴィオを捉える。そして、「とりあえず、アンタが底抜けにお人好しだってのは理解した」と呆れた様子で言い放った。 「なぁヴィオさんよ、アンタは俺が〝人の嘘を見抜ける〟って言えば信じるか?」 「人の嘘を見抜く?」  突然の言葉に、流石のヴィオも返事に困った。 「そのままの意味だよ。で、どうなんだ?」 「…………そう言うなら、信じるしかないだろうな」 「ぶはッ、何だよそれ」  バテルは吹き出す。そして、一頻り笑った後、「悪い、揶揄いすぎた」と謝罪して鞄の中に手を入れた。そこから出できたのは、古びた一冊の本だった。 「このお伽話しってるか?」 「いや、随分と古い本のようだが……」 「ああ、いつ書かれたのかも作者も分からねぇ。ただ、これが俺の〝詐欺師〟としてのルーツだと言っておく」 「詐欺師? 君が?」 「そうさ、こう見えて〝朧の狐火〟って通り名で有名なんだぜ?」 「⁉︎ ……風の噂で聞いた事はあるが、まさか君の様な若い男がーーーー」 「これでどうだい?」 「なッ、顔が……変わった? それに声も」  まるで手品の様に別人へと姿を変えた。青年だった筈が、瞬間的に年老いた男性へと変化している。しゃがれた声もそうだが、その現象に理解が追いつかない。 「いや、まいったな。今まで生きてきて、一番驚いたよ」 「そりゃ光栄な事で」  再び元の青年の姿に変化する。「俺は姿と声、そして相手の嘘を見抜く。相手を騙すプロって訳だ」  確かにこれなら、騙せない相手などいないだろう。非現実的な現象を目の当たりにしたヴィオだが、バテルは続け様にこう言った。 「なぁ、アンタは家族と奴隷を救いたいって言ってたな」 「……そうだ」 「そんな大層な事、本当に出来ると思ってるのか?」 「いや、違う」 「……ん?」 「出来る出来ないじゃない、やるしかないんだ。その為なら、この命すら賭けてもいい」 「はッ、なるほどね」  バテルは頭に巻いたバンダナに手をかける。そして、「悪い、もういっこ秘密があんだよ」と、スルリとそれを外した。  そこに露わとなったのは、人間より尖った耳だった。 「ま、まさか君は……⁉︎」 「ああーーーー俺はエルフだ」

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