両手一杯のカルミアを君に

小さなメイド

「うん、とっても似合ってるね!」 「……あり、がと」  仕立て上げのメイド服に袖を通したカルミアは、姿鏡の前でクルリと回った。そして何故か自慢げなニーナに対し、「服を作ったのは私ですし、着せたのも私です」とアルメダがぴしゃりと言い放つ。 「えへ、へへへ」  ニーナは裁縫に関して、縫い合わせるどころか針に糸を通す事も出来ない。大量の洗濯物を運んだり薪割りといった、主に身体を使う仕事を専門としている。  それはそれで貴重な働き手でもあり、アルメダも言葉にしないが感謝はしている。ユノやカルミアに献身的に尽くす姿勢も、素直になりきれないアルメダにとっては羨ましい性格だった。  そう思いつつ、カルミアの髪を丁寧にブラシで解いた。膝下まである透き通る様な白髪は、連れてこられた時とは違い、艶やかな美しさを取り戻していた。  給仕をするには邪魔になる長さではあるが、カルミアは髪を切るのを嫌がる。理由は言わないが、何か思い入れでもあるのだろうか? 「今日もシニョンでいいかしら?」 「……うん」  アルメダは手慣れた様に三つ編みを二つ作ると、シニョンスタイルに纏め上げた。前髪はヘアピンで留め、眉毛を整えると小さなメイドの出来上がりである。 「そろそろカルミアにもお仕事教えないとね」 「カルミア、早くお仕事……覚えたい」  やる気に満ちたカルミアに、ニーナはドンと胸を張り「任せて」と自信満々に言った。 (……大丈夫でしょうか)  アルメダも朝は忙しく、ゆっくり教育をする時間は取れない。結果としてニーナに任せる事となったが、一抹の不安が頭を過った。  ◆ 「ええと、まずはねぇ」  アルメダと別れ、ニーナはカルミアを連れて屋敷の外に出る。誰かを待っているのか、庭から門の辺りを眺めていた。  すると、ちょうど誰かが小さな馬車に乗って現れる。荷台の大きな箱に野菜を入れており、それを屋敷まで運んできたらしい。 「やぁニーナ、今日もいい天気だな」 「うん、それより今日の野菜も美味しそうだね」 「……ニーナ、この人はだれ?」 「えっと、新入りさんかな?」 「あ、二人はは初めましてだよね。彼はスヴェンっていって、この街の商人なんだよ。私達はあまり外を出歩けないからね」  いくら貴族に仕えるメイドとはいえ、エルフが街を出歩くのは危険が付き纏う。エルフというだけで心無い言葉を投げかける者もいるのだ。  しかし、このスヴェンは違った。  ヘルメス家と関わりを持つ様になって以来、商品の引き渡しにはアルメダやニーナが立ち会っていた。彼は相手が誰であれ、分け隔てなく接する気の良い男であった。  今年で25歳になる彼は、父親から会社を任されるまでの修行期間として、こうして自らの足で客の元へと出向いている。人との繋がりを重んじる商売の根幹だと、父からの受け売りをニーナにも話していた。 「……はじ、めまして。カルミアです」 「カルミアちゃんね。俺はスヴェンだ、よろしく頼む」  差し伸べられた手に対し、カルミアはその人差し指を握った。 「なぁニーナ」 「ん? どしたの」 「カルミアちゃん、超可愛いのな」  子供が親の手を握る様な素振りに、スヴェンはデレデレとなった。スヴェンにも三歳になる娘がいるのだが、妻と別れて男一人で育てている。恐らく、その娘の仕草と重ねたのだろう。 「はいはい、だらしない顔しないの」  ニーナにデコを小突かれると、「悪い悪い」と野菜の入った箱を持ち上げた。そして促されるままキッチンへと運ぶ。それを運び終わると、スヴェンは思い出した様に馬車へと駆け戻った。  そして戻って来ると、小さな箱をニーナに手渡す。 「これは?」 「ほら、前に言ってたじゃないか」 「んん?」  ニーナは記憶を手繰り寄せる。そして、手をポンと叩いた。 「もしかして、例のブローチ⁉︎」 「ご名答!」 「……ブローチ?」  ニーナは箱を開けると、そこには猫をモチーフにした小さなブローチが入っていた。 「今度ウチで扱う商品なんだよ。んで、ニーナが猫好きだって言うからプレゼントしようと思ってな。カルミアちゃんは猫は好きか?」 「……普通」 「はは、そっか。アルメダちゃんもリアクションはあまりだったし、二人にはまた別のものをプレゼントするよ。とりあえずニーナ、受け取ってくれ」 「サンキューな、スヴェン!」 「お、おう! じゃあまた三日後な」  にぱっと笑うニーナに、スヴェンは照れ臭そうに手を振って帰って行った。 「さてと、次はーーーー」 「ねぇニーナ」 「ん?」 「スヴェンは、ニーナの事……好きなの?」 「……へ⁉︎ ないない、有り得ないから」 「どうして?」 「いや、だってアタシはダークエルフだし、元奴隷だから」  自らの手を見つめ、ニーナは困った様に笑う。 「誰かに好かれるなんて、この家以外じゃあり得ないから」  そう言ってニーナはブローチを引き出しにしまうと、頬を叩いて笑顔を作った。 「さ、残りの仕事に取り掛かろうか!」

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