両手一杯のカルミアを君に

家族

 ◆  目が覚めると、隣のベッドではユノとカルミアが眠っていた。  私が昨日買ってきたエルフの少女ーーーーカルミア。  一晩かけて警戒心を解いてくれたのか、ユノに寄り添い気持ち良さそうに寝息を立てている。私はその頬に触れつつ、小さな幸せを噛みしめた。  ーーーーコンコンコン。  いつも規則正しく響くノックの音。  私は寝癖を出来る限り手櫛で整え、音を立てない様にドアを開けた。 「やぁ、おはようアルメダ」 「おはようございます旦那様。朝食の準備が調っております」 「ああ、すぐ行くよ。まだユノとカルミアは眠ったままだけどね」 「あの子の……カルミアの教育はどう致しますか?」 「そうだな……」  昨夜はコミュニケーションらしいものは然程とれていなかった。そんな彼女に、いきなり仕事を教えるのも酷だろう。 「とりあえず屋敷に……それに君達と仲良くなる事が先だね。カルミアにも、ここが自分の家なんだと認識してもらってからだ。それからでも遅くないだろう」 「承知しました、ではお待ちしております」  アルメダは頭を下げると、ベッドを一瞥してから部屋を去って行った。 「……さて、二人を起こそうか」  気持ち良さそうな眠りを邪魔するのは気が引けたが、朝食を準備してくれた彼女達に申し訳ないので、私はベッドの傍で頬を突いて起こす事にした。  ◆ 「うん、今日も美味しいわ二人とも」 「ありがとうございます、奥様」  エッグベネディクトを頬張ったユノの感想に、アルメダはフォークを置いて嬉しそうな顔をした。 「へへ、当たり前じゃん。毎日腕によりをかけて作ってるんだから」 「……ニーナ、貴女はまだそんな口の利き方をーーーー」 「ちょっと、ストップ。いいのよアルメダ、逆に私は貴女にもその位、フレンドリーにして欲しいのだけれど?」 「いいえ奥様。家族と言えど、メイドとしての最低限の礼儀作法はーーーー」 「流石はユノ様だ。アタシはユノ様のそんな所が大好きだよ、ヴィオ様よりね」 「ニーナ、いい加減にしなさい」 「まぁまぁアルメダ。私も構わないよ、家族なのだからね」 「……しかし」  アルメダの隣に座る、ひときわ賑やかな少女。  彼女の名はニーナ。アルメダよりも少し後に屋敷に迎え入れたエルフの少女だ。  ハーフエルフであるアルメダとは違い、彼女はより色素の薄い白髪を持っている。そういえばカルミアもエルフだが、どうやら純血のエルフは髪が白いらしい。  対して肌は浅黒く、文献によれば彼女はエルフの中でも希少とされる【ダークエルフ】に近い風貌をしていた。ダークエルフがどの様な経緯で生まれるかは解明されていないが、エルフの中では〝忌子〟とされているとも聞く。肌の色が違うだけで差別されるなんて、なんて愚かな話だろうか。  奴隷として生きたニーナに関しても、忌子と言われずとも、辛い生活を強いられていた事実は変わらない筈だ。  ニーナを買った時、元の飼い主である貴族の男は言っていた。「夜の相手をさせても下手くそだったから、アンタも苦労するぞ」と。  激しい苛立ちを覚えたが、私は無理やりその感情を押し殺したのを鮮明に覚えている。  その当時、ニーナは全身に痣を作り、前の歯は無残にも抜かれていた。私は慌てて彼女を医者に診せ、抜かれた歯の代りに義歯も誂えた。そして半年程の療養を経て、ようやく彼女は元気な姿を取り戻したのだ。  ニーナは鏡を見て、大粒の涙を流して喜んでいた。醜いと罵られ続けた人生の中で、初めて前を向けたから。  生きていいのだと、此処に居てもいいのだと。  それからのニーナは特にユノに懐いていた。  実齢はエルフであるニーナとはかけ離れているが、見た目では近しい二人が打ち解けるまでにそう時間は掛からなかったらしい。  私が仕事で不在の時も、一番にユノの体調に気を配り、献身的に努めてくれている。  アルメダの言う所作についてはまだまだ発展途上だが、私はそれでも良いと思っている。しかし、厳しい教育係であるメイド長様は、それを許してはくれないらしい。 「ニーナ、後で私の部屋に来る様に。貴女には、メイドのなんたるかを再教育いたします」 「そ、そんなぁ! アルメダ、痛いのは勘弁してくれよぅ」 「貴女が転んだり、あと色々落としたりしなければ痛くはありませんよ。因みに食事に関しては、貴女は一切手伝っていないのをお忘れなく」 「ち、ちゃんと薪とか割ったよ⁉︎」 「まぁ、力仕事に関しては頼もしいですね」 「はは、今日も賑やかだ」 「そうね、カルミアも……楽しい?」 「…………うん」  口の周りをソースで汚しつつ、カルミアは小さく頷いた。  よし、この子も大丈夫そうだ。 「旦那様、今日のご予定ですがーーーー」 「ん? ああ、確か今日だったかな」 「なに、大事なお仕事?」 「……うん、まぁね」  コーヒーを啜りながら、約束をしてある男の姿を思い浮かべた。その男に対し、コーヒーに負けない苦味を覚えるが、それを悟られない様に私は立ち上がった。 「ユノ、君は安静にしているんだよ。アルメダとニーナも頼んだからね」 「うん、いってらっしゃいアナタ」 「行ってらっしゃいませ、旦那様」 「頑張ってねヴィオ様」 「ああ……ん? どうしたんだいカルミア」  私の服の袖を小さく引っ張る。私はその顔を覗き込み、紡がれようとした言葉を待った。 「…………い」 「ん?」 「いって、らっしゃい……ませ?」 「⁉︎ ーーーーーーああ、行ってきます」  私はカルミアを抱き寄せ、その小さな背中を撫でた。

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  • バビロン(デンドロ)

    あいか

    ♡1,000pt 2020年3月9日 10時24分

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    全俺が泣いた

    あいか

    2020年3月9日 10時24分

    バビロン(デンドロ)
  • 復讐乙女 ネメシス(デンドロ)

    名無し@無名

    2020年3月9日 10時42分

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    ありがたき幸せ

    名無し@無名

    2020年3月9日 10時42分

    復讐乙女 ネメシス(デンドロ)
  • ひよこランチャー

    紫雀

    ♡200pt 2020年3月4日 9時28分

    ニーナ、酷い目にあってたんだな。前歯を抜かれてるのは夜伽のためだよね。結構グロイ世界だ。っていうか。元の飼い主に天罰下れ!カルミアちゃん、なんとか馴染めそうだ。(*^。^*)旦那様良い人だ。

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    紫雀

    2020年3月4日 9時28分

    ひよこランチャー
  • 復讐乙女 ネメシス(デンドロ)

    名無し@無名

    2020年3月4日 9時37分

    暗い過去を消したい一心で明るくいたいという位置づけですね。近々、キャラのイラストも掲載していきたいので、それも含みで楽しみにしていて下さいませ(^-^)

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    名無し@無名

    2020年3月4日 9時37分

    復讐乙女 ネメシス(デンドロ)

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