両手一杯のカルミアを君に

バテル-1

 ◆  ヴィオは朝早くから【トルヴィオ】の街を目指していた。  ここに、ガイザックが会うべきだという人物が居るという。事前にガイザックが手紙で大まかな話をしているらしく、約束の時間に向けて馬車に揺られている。  ガイザックに近況を伺った所、彼が経営を任されたモーテルは明日より店を開けるという。不本意ながらも、ミゲルに怪しまれずに計画を遂行する為には、どうしても避けては通れない道だった。  ヴィオは経営資金としてガイザックに投資したが、それは奴隷として雇う人間に対し、充分な生活を約束するものだった。  売上金は全てミゲルに渡す手筈なので怪しまれる事は無い。ならば、苦渋の決断を強いられた奴隷達に、少しでも安定した生活を送らせてやりたいというヴィオの考えだ。そもそも、その考えすらも痴がましいのかも知れない。だが、出来る事こらやっていこうと、彼は前を向いているのだ。  馬車に乗ってから一時間ほど経った頃、一度休憩を挟む事にした。  アルメダの用意した木製の箱を開けると、中には軽食としてサンドイッチが入っていた。それを一切れ手に取ると、断面から色鮮やかなトマトが顔を覗かせていた。薄く塗られたマスタードの風味とトマトの酸味が口に広がる。  そう言えば、トマトはカルミアが切ったと言っていた。確かに少しだけ断面が歪な部分もあるが、ヴィオは小さなメイドの仕事に微笑むと、残りを平らげ残りの旅路を急いだ。  ◆  トルヴィオに到着すると、そこは思っていたよりも小さな街だった。街の入り口まで露店が立ち並んでいる。  その規模からは想像出来ないほど活気に満ちている。その熱量に少し気圧されそうになりつつ、ヴィオは人混みの中へと足を踏み入れた。 「おっと!」 「ごめんよ、おじさん」  人の流れに逆らい、一人の少年がぶつかる。ヴィオが大丈夫だと言う前に、少年は立ち去ろうとしていた。  しかし、誰かがその少年の腕を掴む。 「は、離せよ!」 「おい、離してやってくれ。私に怪我はないんだ」 「あんた、それ本気で言ってんの?」  少年の腕を掴んだ青年。薄汚れた茶色いバンダナを頭に巻き、色褪せたローブを身に纏っている。  青年は少年の手から何かを奪うと、黙ってヴィオに差し出した。 「これは……私の財布じゃないか」 「はっ、取られた事にも気付いてなかったのかよ」 「す、すまない。助かったよ」  ヴィオは青年に感謝すると、財布から数枚の紙幣を取り出す。 「これをあげるから、盗みはもうやめるんだ」 「…………」  ヴィオが少年に金を渡そうとした時、青年はそれを制した。そして、その瞬間に少年は逃げ出して雑踏に消える。 「おい、何をするんだ」 「あ?そりゃコッチの台詞だよ」  青年は三白眼の目をヴィオに向ける。若い見た目に反して、随分と重たい視線にヴィオは驚いた。 「施しなんてもんはな、あのガキにとっちゃ意味がねぇんだよ。それともあんたが、あのガキの世話を一生するってのか?」 「いや、私はそこまで……」 「なら安易に施しなんてするもんじゃねぇ。ここの孤児の連中はな、一日一日を死ぬ気で生きてるんだ。生温い事をしてくれんなよ、ヘルメス卿さん」  名前を呼ばれ、ヴィオは全てを理解した。 「じゃあ、君が?」 「ああ、ガイザックさんには話を聞いてるぜ。俺はバテルってんだ」  バテルと名乗った青年は表情を変えず、ヴィオを静かに見据えた。

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