両手一杯のカルミアを君に

絶望の淵より-2

 私は姿を薄汚い布で覆い、訳ありの人間を専門とする〝運び屋〟を雇った。  この手の人間は頼りになる。  こちらの素性に干渉せず、払った金の分だけ仕事をこなす。そうして私は漸く、あのロッドという男が示した街へと辿り着いた。  街へ到着すると、人目に付かない裏露地へと身体を滑り込ませた。添木で足を縛り、歪に癒着した足の骨で無理やり歩く。痛みなどとうに無い、有るのはこの世界への絶望と、微かに残された光だった。  人混みが無くなった道は、どこか懐かしさを思わせる雰囲気が有った。むせ返る様な人間の欲の匂いと虐げられる者。それらの放つ、言い様の無い匂いだ。  とある建物を小窓から覗けば、中には牢屋に入れられた奴隷のエルフが虚な目をしている。  しかしおかしい。奴隷制度がある街なら、なぜ店先に出しておかないのだろうか?人目を忍ぶ様なエルフの売り方に、私は些かの疑問を抱いた。  ◆  それから三十分ほど歩いた。  並の足を持っていれば十分も掛からない距離を、私は必死に足を引きずって歩いた。怪しまれない努力はしたが、〝見る人間〟によっては奴隷上がりのエルフだとバレていただろう。  しかし、この街の風潮なのか、私のような売り物にもならない小汚いエルフには誰も見向きもしなかった。  好都合だとばかりに歩いた先に、ようやく辿り着いたのは小さな診療所であった。  ーーーーコンコン。  警戒しつつもドアをノックする。  返事は無い。  諦めずにノックを続けると、やがて床の軋む音と共に、ゆっくりと扉が開かれた。 「……なに?」  現れたのは、淡いグレーのシャツに白衣を纏った若い女性だった。生の食パンを齧りつつ、ボサボサの茶髪は好き放題に跳ねている。 「あ……ゔぅ、あ!」  私は白衣を見て、この女性があの男の言った『ハティ』という医師だと理解した。布を取り去り、傷だらけの身体を露わにする。 「…………」  「ゔ……あ、うぁ!」 「……なるほど、入っていいよ」  そう言って再び食パンを齧ると、女性は髪を雑に束ねて踵を返した。私はその後を追い、ひっそりとした診療所の中へと足を踏み入れたのだ。

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