両手一杯のカルミアを君に

難攻不落

 ある日の朝、ヴィオ宛に一通の手紙が届いた。  送り主の名は記されてはいないが、その中身に目を通すと、謎の送り主の正体は一目瞭然であった。  そして、そこに記された内容に息を呑む。 「……これは」  手紙には、バテルが調べ上げた情報が羅列されている。ミゲルの人間関係など、近しい人間に接触しなければ得られない情報の数々だ。  バテルがエルフの能力を駆使し、危険を犯して手に入れた情報。しかし、そこに書かれた事実が本当であれば、ミゲルを陥落させるなど夢のまた夢だと思わせられる。  中でも信じ難いのは、ミゲル自身についての一文であった。 『ミゲル・ライオットを〝殺す事〟は不可能である。奴は何らかの方法で、エルフにまつわる秘薬を手にし、それを飲んでいる。その秘薬は不死の薬。飲めばその瞬間より永遠の時を得られる』  そして、更に続く『エルフの中でも、既に生き残りが居ないと言われる【エンプレス・エルフ】。数百年に一人とされるエルフの女王、その命を使った秘薬は、生成方法すら広まっていないが、ミゲルはそれを手に入れ、飲んだと聞く。現にミゲルは刺殺させられかけた事があったらしいが、死を避けられない致命傷でも、その命を奪う事は叶わなかった』  にわかには信じ難いが、あのガイザックが強硬手段に踏み切れない理由がこれなのかもしれない。きっと彼も、独自に似たような話を聞いたのだろう。故に、差し違える事すら厭わない男は、二の足を踏まされている。  バテルの手紙はガイザックにも届けられていると書かれている。ならば、すぐにでもガイザックとコンタクトをとり、これからの策を練り直さなければいけない。  ヴィオ自身も、()()()方法を考えなかった訳では無い。 王都に所属する騎士団の団員に知人が居る。そこを頼れば、ミゲル自体は何とか出来ただろう。  しかし、ミゲルの不死の身体に加え、奴を取り囲む()()()()がそれを阻んだ。  豪胆さとは裏腹に奴は、誰にも手を出せないような鋼鉄の盾を張り巡らせているのだ。奴に牙を向ければ、たちまち牙ごと砕かれる。そう他人に思わせる程に、ミゲルの裏の繋がりは深い場所にある。 「自分だけの命を賭けるだけなら簡単だろう。しかしこれは、それだけでは済まされない」  バテルの手紙に書かれた、過去にミゲルに反旗を翻した者の末路。それは目を背けたくなるような悲惨な死だ。家族、そして知人に至るまで、危険の芽は全て摘み取る様な、周到な殺戮が待っている。  かつてのガイザックに絡む話を蹴っていれば、恐らく自分も同じ目に遭っていたと思うと背筋が凍りついた。あの男は、息をする様に人を消せる、まさに尸の上に胡座をかく暴君なのだ。  ヴィオは手紙を封筒にしまい机に蹲る。この腐り切った現実は、自分達では抗えないのか?  屋敷の離れにある執務室で、突きつけられたのは泥の様な絶望感だった。

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